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【 滅び 】
未だ帝国は死せず 後編
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「はーーーーーーーーー」
長い長い、本当に長い溜息を吐くと――、
「それで、皇帝選挙はどうなっているのだ」
もう、ハイウェンの思考は次のステップに進む。ダメだったものを咎めても愚痴っても何一つ意味がない。ここは中央とは違うのだ。
「第一次選抜、その100人が集まりません。そこで止まっています」
もはや溜息すら出ない。国家は大混乱。海からは怒涛の勢いで魔族が襲来している。
海に近い地域にいた者が生きている可能性は低い。そして確認作業などしている最中にも次々死んでいるだろう。この状況で候補者を上から100名集めるという事がまず不可能だ。どこかで線引きをして、一刻も早く決着をつけるべきであろう。
しかし、もし順番を飛ばされた候補者が生きていたら?
本来なら皇帝選挙に出られたはずなのに、議会の不手際で参加できなかった。そうなったら大事だろう。選挙をやりなおす? そのたびに?
そんな事は不可能だと断言できる。事は国家千年の繁栄に関わる問題である。そんな右往左往がまかり通るわけがない。
結局誰も責任を取ろうとせず、念入りな確認作業だのなんのと理由をつけて失敗を先送りにしているのだろう。
「北の国であれば、どうしただろうな……」
「私も詳しくは知りません。ですが、その時点での最高責任者が命を賭して行うでしょう。向こうは厳しい世界ですから」
オンドが含んだ内容は、もう言われなくても分かっていた。
「ならば俺も、それに倣うとしよう。首都アザームドへ向かえ。議会を掌握する」
皇帝、宰相が不在の今、国家の政務を仕切るのは元老院による帝政議会だ。軍部は、あくまでその指示の下で動くのが筋である。
だがこれからする事は、クーデターにも等しい。この国家の混乱の中、それはあまりにもひどい愚行として映るだろう。
だがそれでもやらねばならない。これ以上の醜態は、国家の命運にかかわっているのだから。
◇ ◇ ◇
碧色の祝福に守られし栄光暦219年3月10日。
魔王相和義輝、火山帯へと移動していた。
目的の一つ目は、今目の前にある物。火山の壁面に掘られた空洞の壁に埋まっている、この領域の魔王魔力拡散機だ。
そこに手をかざし、魔力を送る。
「うむ、随分と羽振りよく送ってくれるな。これなら多くの者が成長できよう」
横で見ているシャルネーゼはご満悦だ。普段は魔力に関しては謙虚だが、やはり魔力はあればあるほど良いらしい。
前回の戦いで、意外と首無し騎士のも犠牲が出た。あの城……エスチネルだったか。あれが完全に壊れる前に四方八方に浄化の光を撃ちまくったからだ。
死なば諸共という事なのだろうが、実に迷惑な話だ。相当数の味方も巻き込んだだろうに。
まあそれと、前回お子様首無し騎士にきちんと魔力供給できなかったからな。その詫びも兼ねてだ。
そしてもう一つ目。もういちいち空に意識を向けなくても、自然とこの周辺地域が把握できる。接続が完全ではなくとも、結構把握して来たって事だろう。
それはさておき、相当数の灼熱の翼竜が戻ってきているな。
新たな領域に大量移住を行った彼等であったが、あそこには肝心の食べ物がいない。
魔族領には人間が持ち込み逃げ出した牛や豚が繁殖しているので今は何とかなっているが、今後増え始めたら収拾がつかなくなる。そこで危機感を感じた彼らは、自らこの地に戻って来たのだ。
――やはりな……。
最初から専門に作られた領域と違い、新天地は野放しだ。今現在の個体はきちんと管理された領域で生まれたが、これから新領域で新たに生まれた個体は無制限に繁殖する。
「早いところ手を打たないと、今度は灼熱の翼竜の飽和で世界が終わるな。ユニカはどう見る?」
丁度ファランティアと一緒にユニカが来たので聞いてみるが……。
「この間ざっと調べたけど、0よ0。あそこで灼熱の翼竜の繁殖可能数は0」
「そこまで酷かったのか」
「酷いというより、食料が無いのよ。鳥やなんかはちらほら見えるけど、定着しそうにないし」
対人類を考えすぎて、生物にはまったく配慮しない領域だ。言われてみればそうなのだろう。
「地下はどんな感じだ? あそこは通れるようにはしたんだが」
「水が全くないカラカラの迷路ね。虫はいたわよ。ちょっとだけだけど」
本当に、勢いだけで作った領域だと思い知らされる。
しかし一方で、ユニカがここまで生物に詳しいのは意外だった。元々は学者を目指していたというが、実際大したものだ。
無限図書館にあった資料と、ファランティアの『人と旅をする生き方』に必要な地域ガイド能力。この二つが組み合わさり、今では領域の生物管理はほぼ任せっきりとなっている。
まあ、実際にやるのは結局俺なんだけどね。それでも、作業の難しい部分を判断して貰えて実に助かる。
「それにしても、今なら歴代魔王なぜ生物の移動を禁止していたのかよくわかる。これ、精霊以外が無分別に動いたら収拾つかないだろ」
まあ精霊も種類によってはシャレにならないが、繁殖するわけではない。生物よりも影響は少ないだろう。
「でも結構な種類は自由に移動していたかな。前にゲルニッヒが言っていたけど、進化をした生き物もいるよ」
「昆虫なんかは対応力凄いからな。だけど哺乳類ほか大型生物は無理だったろ。複雑になると、それだけ大変なんだよ」
と言いながらも、実際かなりいい加減だった。一つ目巨人や一部の亜人なんかは自由だったしな。
アレは多分、設定し忘れだろう。大事にならなくて良かったものだ。
だが、それがどうしようもない所まで大事になってしまったのが人間だ。そしてそれは、人間自身も分かっていると思われる。
末端はともかく、トップが分からないほど愚かではないだろう。
そろそろ、向こうも動く頃だろうな……。
長い長い、本当に長い溜息を吐くと――、
「それで、皇帝選挙はどうなっているのだ」
もう、ハイウェンの思考は次のステップに進む。ダメだったものを咎めても愚痴っても何一つ意味がない。ここは中央とは違うのだ。
「第一次選抜、その100人が集まりません。そこで止まっています」
もはや溜息すら出ない。国家は大混乱。海からは怒涛の勢いで魔族が襲来している。
海に近い地域にいた者が生きている可能性は低い。そして確認作業などしている最中にも次々死んでいるだろう。この状況で候補者を上から100名集めるという事がまず不可能だ。どこかで線引きをして、一刻も早く決着をつけるべきであろう。
しかし、もし順番を飛ばされた候補者が生きていたら?
本来なら皇帝選挙に出られたはずなのに、議会の不手際で参加できなかった。そうなったら大事だろう。選挙をやりなおす? そのたびに?
そんな事は不可能だと断言できる。事は国家千年の繁栄に関わる問題である。そんな右往左往がまかり通るわけがない。
結局誰も責任を取ろうとせず、念入りな確認作業だのなんのと理由をつけて失敗を先送りにしているのだろう。
「北の国であれば、どうしただろうな……」
「私も詳しくは知りません。ですが、その時点での最高責任者が命を賭して行うでしょう。向こうは厳しい世界ですから」
オンドが含んだ内容は、もう言われなくても分かっていた。
「ならば俺も、それに倣うとしよう。首都アザームドへ向かえ。議会を掌握する」
皇帝、宰相が不在の今、国家の政務を仕切るのは元老院による帝政議会だ。軍部は、あくまでその指示の下で動くのが筋である。
だがこれからする事は、クーデターにも等しい。この国家の混乱の中、それはあまりにもひどい愚行として映るだろう。
だがそれでもやらねばならない。これ以上の醜態は、国家の命運にかかわっているのだから。
◇ ◇ ◇
碧色の祝福に守られし栄光暦219年3月10日。
魔王相和義輝、火山帯へと移動していた。
目的の一つ目は、今目の前にある物。火山の壁面に掘られた空洞の壁に埋まっている、この領域の魔王魔力拡散機だ。
そこに手をかざし、魔力を送る。
「うむ、随分と羽振りよく送ってくれるな。これなら多くの者が成長できよう」
横で見ているシャルネーゼはご満悦だ。普段は魔力に関しては謙虚だが、やはり魔力はあればあるほど良いらしい。
前回の戦いで、意外と首無し騎士のも犠牲が出た。あの城……エスチネルだったか。あれが完全に壊れる前に四方八方に浄化の光を撃ちまくったからだ。
死なば諸共という事なのだろうが、実に迷惑な話だ。相当数の味方も巻き込んだだろうに。
まあそれと、前回お子様首無し騎士にきちんと魔力供給できなかったからな。その詫びも兼ねてだ。
そしてもう一つ目。もういちいち空に意識を向けなくても、自然とこの周辺地域が把握できる。接続が完全ではなくとも、結構把握して来たって事だろう。
それはさておき、相当数の灼熱の翼竜が戻ってきているな。
新たな領域に大量移住を行った彼等であったが、あそこには肝心の食べ物がいない。
魔族領には人間が持ち込み逃げ出した牛や豚が繁殖しているので今は何とかなっているが、今後増え始めたら収拾がつかなくなる。そこで危機感を感じた彼らは、自らこの地に戻って来たのだ。
――やはりな……。
最初から専門に作られた領域と違い、新天地は野放しだ。今現在の個体はきちんと管理された領域で生まれたが、これから新領域で新たに生まれた個体は無制限に繁殖する。
「早いところ手を打たないと、今度は灼熱の翼竜の飽和で世界が終わるな。ユニカはどう見る?」
丁度ファランティアと一緒にユニカが来たので聞いてみるが……。
「この間ざっと調べたけど、0よ0。あそこで灼熱の翼竜の繁殖可能数は0」
「そこまで酷かったのか」
「酷いというより、食料が無いのよ。鳥やなんかはちらほら見えるけど、定着しそうにないし」
対人類を考えすぎて、生物にはまったく配慮しない領域だ。言われてみればそうなのだろう。
「地下はどんな感じだ? あそこは通れるようにはしたんだが」
「水が全くないカラカラの迷路ね。虫はいたわよ。ちょっとだけだけど」
本当に、勢いだけで作った領域だと思い知らされる。
しかし一方で、ユニカがここまで生物に詳しいのは意外だった。元々は学者を目指していたというが、実際大したものだ。
無限図書館にあった資料と、ファランティアの『人と旅をする生き方』に必要な地域ガイド能力。この二つが組み合わさり、今では領域の生物管理はほぼ任せっきりとなっている。
まあ、実際にやるのは結局俺なんだけどね。それでも、作業の難しい部分を判断して貰えて実に助かる。
「それにしても、今なら歴代魔王なぜ生物の移動を禁止していたのかよくわかる。これ、精霊以外が無分別に動いたら収拾つかないだろ」
まあ精霊も種類によってはシャレにならないが、繁殖するわけではない。生物よりも影響は少ないだろう。
「でも結構な種類は自由に移動していたかな。前にゲルニッヒが言っていたけど、進化をした生き物もいるよ」
「昆虫なんかは対応力凄いからな。だけど哺乳類ほか大型生物は無理だったろ。複雑になると、それだけ大変なんだよ」
と言いながらも、実際かなりいい加減だった。一つ目巨人や一部の亜人なんかは自由だったしな。
アレは多分、設定し忘れだろう。大事にならなくて良かったものだ。
だが、それがどうしようもない所まで大事になってしまったのが人間だ。そしてそれは、人間自身も分かっていると思われる。
末端はともかく、トップが分からないほど愚かではないだろう。
そろそろ、向こうも動く頃だろうな……。
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