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【 滅び 】
苦悩 前編
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「いた、いたたたたたたたた……」
明らかな筋肉痛。しかも激痛だ。きつい、きつすぎる!
ここはホテル幸せの白い庭、俺の個室だ。この世界に来てから、すっと世話になってきた場所。生きてこうして戻って来られた事が心底嬉しい。
だがそれとこれとは完全に別だ。あの戦いの後から今日まで、ずっと激しい筋肉痛と戦っていた。
針葉樹の森での戦いも激戦だったが、あの時は一度死んでいる。そして修復後は間もなく気を失い、起きた時には全身鈍器で叩かれたような鈍い痛みと痺れに見舞われた。
激痛というより、なんだか現実離れしたような……遠い所が傷んでいるような感じだった。
しかし、今度の痛みは生を実感できる痛みだ。それだけにきつい。
「いてえー、トイレに行くのもいてえー!」
何とかふらふらと戻ってきて、エヴィアがゴロゴロしているベッドに倒れ込む。
自然な動きで素早く回避するのはさすがだが、優しく受け止めてくれても良かったんだぞ。
「その位の事で死にはしないかな。大丈夫だよ」
「そりゃ筋肉痛で死んだ人はいないだろうさ。だけど分かるだろ、この痛み」
魔人の痛みと人間の痛みには違いはあるだろうが、俺が本気で痛がっているのは理解しているはずだ。
「排泄のたびにいたいのは大変ですねー。私に出していただければ捨てて来ますよー」
そういって目を閉じ、口を開けるテラーネ。いや、そっちの趣味はねぇ!
「それよりもだ――レトゥーナ、オゼット。人間の様子はどうなっている?」
奥の方でルリアがぶーたれているが、これに関しては適材適所だから仕方が無い。
目の前にいるのは2人サキュバス。おなじみの蝙蝠柄のチューブトップブラにギリギリサイズの黒ビキニ。
レトゥーナは艶やかな黒髪に淡い褐色の肌。少しスレンダーで清楚な感じだ。
オゼットは少し童顔で背が低い。だが持ってる双丘はなかなかにたゆんたゆんである。
そういえば、レトゥーナの黒髪や清楚感、オゼットの何処かふてぶてしい表情は、どことなくテラーネにに似ている。
俺好みのパーツを集めて姿を作ったといっていたし、どこか参考にしたのだろう。
「酷いものですよー。世界の終わりという感じですわね」
「特に、ムーオス自由帝国からは大勢逃げ出しているよ」
「そりゃそうしたんだから、そうなって貰わないと困るさ。それでその逃げた連中はどうなっている?」
「全部国境の魔人様たちが処分していますわ」
「海に逃げ出す人間もいるけど、まあ無理ね」
そりゃそうだろう。海は元々魔族の地。そして彼らの多くが人間を敵だと知っている。素直に通す事は無いだろう。
「そういや、ヨーツケールMk-II8号改は国境の方に行ったんだよな。大きくなるために移動するって言ってたけど、そんな所まで大移動したとはね」
「ヨーツケールMk-II8号改にはヨーツケールMk-II8号改の生き方があるかな。でも安心していいよ。今は魔王の為を第一に考えているよ」
「ああ、その辺は心配していないし、ずっと感謝している。ちょっと心配になっただけだよ。それで、今はどんな感じなんだ?」
「すっごく楽しそうにしていますわ」
「毎日魔族を率いて戦っているよー」
そうか、楽しんでいるならそれが一番だ。
仲間が楽しんで人間を殺すことに、多少心が痛まない事は無い。しかし、悲壮感溢れて殺しあうよりはずっとましだ。
あの大国の人口は、確か10億を越えている。俺の知る限り、それほどの大量殺戮なんて聞いた事がない。
まさに魔王と呼ぶにふさわしい所業なんだろうな……。
◇ ◇ ◇
燃え尽き煙を上げる都市の残骸を、鋼の巨大戦艦が突き抜ける。
外装はべこべこに凹み、あちこちに裂け目が見える。それでも動くのは、たとえ無駄兵器だのトンデモ兵器だの言われても、そこに技術者の技術と魂が込められているからだろうか。
「左舷投射槍、何門残っている!? いや、いい。動かせるもの全て斉射!」
左に弧を描くように移動すると、その先にいる対象に一斉に投射槍が放たれる。
その様子は、遠くから見ればまるで銀色に光るシャワーだ。
飛甲騎兵に搭載されているものよりも大型で、長さは4メートルから12メートルまで。艦艇の横に空いた穴から射出される。投射槍といても、もちろん人力の投擲ではない。磁力を使ったレールガン。そういった方が正しいだろう。飛甲騎兵や装甲騎兵なら楽々と貫通する代物である。
その槍の雨を浴びながら、ヨーツケールMk-II8号改はうっとりとした気分を満喫していた。
体にカンカン当たる金属の響きが心地いい。
それに――、
「艦長、蟹が!」
「うるせえ、わかってんだよ。ハンマー、生きてっか?」
一瞬で跳躍したヨーツケールMk-II8号改の2本のマレットが、巨大戦艦を叩く。
轟音が響き渡り、叩かれた装甲が丸く凹む。その勢いで浮遊している巨体が地面を擦るが、この程度ではまだまだ沈みはしない。
背中から延びる二本のマレットの構造は、基本的に生物の腕と変わらない。生えているのは背中からだが、上腕は普通の蟹の腕であり、そこから細く長い前腕が伸びている。その先端に丸い金属が付いているわけだ。
ヨーツケールMk-II8号改がこの姿を選んだ時、多少の不安はあった。金属を叩くのも叩かれるのも好きだ。あの体全体に響く心地が忘れられない。
しかし魔王の為に、そしてより強くなるために大きくなってしまうと、もう体の芯に響くような衝撃を受けることは出来なくなってしまうのではないだろうか?
そう考えている時に、かつて衝撃を受けたヨーツケールの記憶が蘇る。
それはユニカと共に、幸せの白い庭にいた時の記憶。
木琴の調べを聞きながら、ヨーツケールはマレットの動きをじっと観察していた。
叩いた時、マレットに残る振動の余韻。これを体の構造に取り込むことで、更なるステップに到達できるのではないだろうか?
――ガアアーーン!
再び、マレットが戦艦を叩く。その振動は細い腕部に余韻として残り、その響きはヨーツケールMk-II8号改の快楽中枢を刺激する。
――コノカラダハ、サイコウダ。
そんな幸せ絶頂のヨーツケールMk-II8号改の側頭部を、10メートルを超える巨大鉄球が襲う。
戦艦後部に設置されたクレーンに取り付けられた城壁破砕用の鉄球だ。こんなものが付いているからダメ兵器の烙印を押されるのだが、今は貴重な戦力だ。
明らかな筋肉痛。しかも激痛だ。きつい、きつすぎる!
ここはホテル幸せの白い庭、俺の個室だ。この世界に来てから、すっと世話になってきた場所。生きてこうして戻って来られた事が心底嬉しい。
だがそれとこれとは完全に別だ。あの戦いの後から今日まで、ずっと激しい筋肉痛と戦っていた。
針葉樹の森での戦いも激戦だったが、あの時は一度死んでいる。そして修復後は間もなく気を失い、起きた時には全身鈍器で叩かれたような鈍い痛みと痺れに見舞われた。
激痛というより、なんだか現実離れしたような……遠い所が傷んでいるような感じだった。
しかし、今度の痛みは生を実感できる痛みだ。それだけにきつい。
「いてえー、トイレに行くのもいてえー!」
何とかふらふらと戻ってきて、エヴィアがゴロゴロしているベッドに倒れ込む。
自然な動きで素早く回避するのはさすがだが、優しく受け止めてくれても良かったんだぞ。
「その位の事で死にはしないかな。大丈夫だよ」
「そりゃ筋肉痛で死んだ人はいないだろうさ。だけど分かるだろ、この痛み」
魔人の痛みと人間の痛みには違いはあるだろうが、俺が本気で痛がっているのは理解しているはずだ。
「排泄のたびにいたいのは大変ですねー。私に出していただければ捨てて来ますよー」
そういって目を閉じ、口を開けるテラーネ。いや、そっちの趣味はねぇ!
「それよりもだ――レトゥーナ、オゼット。人間の様子はどうなっている?」
奥の方でルリアがぶーたれているが、これに関しては適材適所だから仕方が無い。
目の前にいるのは2人サキュバス。おなじみの蝙蝠柄のチューブトップブラにギリギリサイズの黒ビキニ。
レトゥーナは艶やかな黒髪に淡い褐色の肌。少しスレンダーで清楚な感じだ。
オゼットは少し童顔で背が低い。だが持ってる双丘はなかなかにたゆんたゆんである。
そういえば、レトゥーナの黒髪や清楚感、オゼットの何処かふてぶてしい表情は、どことなくテラーネにに似ている。
俺好みのパーツを集めて姿を作ったといっていたし、どこか参考にしたのだろう。
「酷いものですよー。世界の終わりという感じですわね」
「特に、ムーオス自由帝国からは大勢逃げ出しているよ」
「そりゃそうしたんだから、そうなって貰わないと困るさ。それでその逃げた連中はどうなっている?」
「全部国境の魔人様たちが処分していますわ」
「海に逃げ出す人間もいるけど、まあ無理ね」
そりゃそうだろう。海は元々魔族の地。そして彼らの多くが人間を敵だと知っている。素直に通す事は無いだろう。
「そういや、ヨーツケールMk-II8号改は国境の方に行ったんだよな。大きくなるために移動するって言ってたけど、そんな所まで大移動したとはね」
「ヨーツケールMk-II8号改にはヨーツケールMk-II8号改の生き方があるかな。でも安心していいよ。今は魔王の為を第一に考えているよ」
「ああ、その辺は心配していないし、ずっと感謝している。ちょっと心配になっただけだよ。それで、今はどんな感じなんだ?」
「すっごく楽しそうにしていますわ」
「毎日魔族を率いて戦っているよー」
そうか、楽しんでいるならそれが一番だ。
仲間が楽しんで人間を殺すことに、多少心が痛まない事は無い。しかし、悲壮感溢れて殺しあうよりはずっとましだ。
あの大国の人口は、確か10億を越えている。俺の知る限り、それほどの大量殺戮なんて聞いた事がない。
まさに魔王と呼ぶにふさわしい所業なんだろうな……。
◇ ◇ ◇
燃え尽き煙を上げる都市の残骸を、鋼の巨大戦艦が突き抜ける。
外装はべこべこに凹み、あちこちに裂け目が見える。それでも動くのは、たとえ無駄兵器だのトンデモ兵器だの言われても、そこに技術者の技術と魂が込められているからだろうか。
「左舷投射槍、何門残っている!? いや、いい。動かせるもの全て斉射!」
左に弧を描くように移動すると、その先にいる対象に一斉に投射槍が放たれる。
その様子は、遠くから見ればまるで銀色に光るシャワーだ。
飛甲騎兵に搭載されているものよりも大型で、長さは4メートルから12メートルまで。艦艇の横に空いた穴から射出される。投射槍といても、もちろん人力の投擲ではない。磁力を使ったレールガン。そういった方が正しいだろう。飛甲騎兵や装甲騎兵なら楽々と貫通する代物である。
その槍の雨を浴びながら、ヨーツケールMk-II8号改はうっとりとした気分を満喫していた。
体にカンカン当たる金属の響きが心地いい。
それに――、
「艦長、蟹が!」
「うるせえ、わかってんだよ。ハンマー、生きてっか?」
一瞬で跳躍したヨーツケールMk-II8号改の2本のマレットが、巨大戦艦を叩く。
轟音が響き渡り、叩かれた装甲が丸く凹む。その勢いで浮遊している巨体が地面を擦るが、この程度ではまだまだ沈みはしない。
背中から延びる二本のマレットの構造は、基本的に生物の腕と変わらない。生えているのは背中からだが、上腕は普通の蟹の腕であり、そこから細く長い前腕が伸びている。その先端に丸い金属が付いているわけだ。
ヨーツケールMk-II8号改がこの姿を選んだ時、多少の不安はあった。金属を叩くのも叩かれるのも好きだ。あの体全体に響く心地が忘れられない。
しかし魔王の為に、そしてより強くなるために大きくなってしまうと、もう体の芯に響くような衝撃を受けることは出来なくなってしまうのではないだろうか?
そう考えている時に、かつて衝撃を受けたヨーツケールの記憶が蘇る。
それはユニカと共に、幸せの白い庭にいた時の記憶。
木琴の調べを聞きながら、ヨーツケールはマレットの動きをじっと観察していた。
叩いた時、マレットに残る振動の余韻。これを体の構造に取り込むことで、更なるステップに到達できるのではないだろうか?
――ガアアーーン!
再び、マレットが戦艦を叩く。その振動は細い腕部に余韻として残り、その響きはヨーツケールMk-II8号改の快楽中枢を刺激する。
――コノカラダハ、サイコウダ。
そんな幸せ絶頂のヨーツケールMk-II8号改の側頭部を、10メートルを超える巨大鉄球が襲う。
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