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【 滅び 】
国境の封鎖 後編
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「それで、ムーオスはどの程度持ちこたえられそうだい?」
その言葉を聞いた時、テリアスもマリッカも少し驚いた。世界中どこも、ムーオス自由帝国の敗北など考えてはいない。いや、考えてはいけないし、あってはならない。
どんな手段を取ろうとも、先ずこの国が失われるという選択肢を排除しなければならないのだ。人類社会存続の為にも。
そう、理論でも感情でもそうなのだ。そうであって欲しいのだ。しかし――
「一切の増援が無い場合、2年ともたないだろう。それが商国の結論だ。そして、事実上援助は出来ない。あの帝国が存続する期間は、長くて2年だ」
そういってテリアスが新たに提示した資料。それは、別の地域の航空写真だ。
「これは……」
そこはムーオス自由帝国の北東部分の国境線。長い三角形をしたあの国は、北が魔族領、南の極地を中心として東西とも海に面しているが、北東の一角だけが北の大陸と繋がっている。
その国境に隣接する国は、アイオネアの門を守護するランオルド王国、干渉地域として中央の援助で成り立っている小国家群。そして、コンセシール商国だ。
その国境線が、燃えていた。
戦火は既に内陸にまで達し、自由を標榜する巨大国家を蝕んでいる。
「数と……現在までの商国への影響は?」
「現在の所、魔族による襲撃は受けていない。あの連中は商国とムーオスを明確に区別して行動している様だ。ランオルド王国にも被害は出ていないそうだしな。数に関しては……皆目見当もつかない。まあ、数千万だと思われるといった感じだ」
――ならばやはり、これは魔王の仕業か。
まあ、今更確認するような事ではないかもしれない。
しかしまだ可能性としては、魔王……あの時出会った相和義輝は既に死んでおり、現在は魔族が暴発しているといった場合もあり得る。
いや、過去形だ。これでその可能性は消滅した。正確には後半部分がだ。
相和義輝は実際に、マリクカンドルフに討たれているかもしれない。実際の所、魔王がどういった存在かなど誰も知らないのだ。
しかし間違いなく、魔族を率いる者は存在する。そうでなければ、これほどの集合と統率は見られないはずだ。
「商国に被害が出ていないのなら、こちらからは一切の手出しを禁止します。仮に仕掛けて来たとしても、当面は交戦禁止。土地を捨ててでも逃げるように」
「まあ、当首殿がそう指示するのであれば皆従うだろう。しかし良いのか? 臆病者のそしりを受けたら、今後の中央での立場に影響を及ぼすぞ」
「僕らは商人ですよ。逃げて当然。それが悪いというのであれば、潔く城主の座を降りましょう」
テリアスは少しだけ思案するようなそぶりを見せたが、
「いや、それならば構わないだろう。その時は、我等も今まで通り普通の商人に戻るだけだ。話を続けよう」
そう言って次に取り出した写真。それには、リッツェルネールも少し驚いた。
それは国境近くだろうか。赤茶けた大地にわずかの畑、それに遠くに見える山の形には見覚えがある。
それだけなら普通の風景写真だ。だがそこに映る巨大な生き物は、知ってはいながらも知らないものだった。
大きさは、優に30メートルは越えるだろうか。二本の鋏、二本のハンマー状の腕、それに極太の足。全体のフォルムは蟹そのものだ。
大きさを除けば、針葉樹の領域に出現した魔族と同じだと断言できる。報告によると、魔族でありながら浄化の光を使ったという。
「一匹ではなかったという事か……」
そうとしか言いようがない。かつてティランド連合王国が魔王に敗れた時、強大な個体を魔神と呼称した。あの時確か、人間より強いものをいちいち神などと呼んでいてはこの世は神だらけになってしまう……とか考えたような覚えがある。
まさにその通りであった。希少なのかもしれないが、これは明らかに生き物だ。
そして絶滅の淵に瀕しているのでもない限り、世界に単一個体などは有り得ない。
今現在どれだけの数が生息しているのかは知らないが、少なくとも神と呼ぶようなものではなかったわけだ。
「この写真は、たまたま地質調査をしていた研究者が撮影したものだ」
追加で出される何枚もの写真。そこには蟹以外にも、見たことの無い異形の群れが映っている。そしてその奥には、天を突くような一条の光もまた撮影されていた。
「位置的には蟹ではない様だが……これは浄化の光か」
「ああ、キスカも同じ結論だ。間違いは無いだろう。撃たれたのは重飛甲母艦らしい」
「見た所、あまり出力規模は大きく無いように見えるが……」
リッツェルネールのその言葉には、これで『墜とせたのか?』という質問を含んでいた。
当然それは、テリアスにもわかる。むしろ予想されていた問答であり、資料も用意済みだ。
その手際に感心しながらも、渡された資料に目を通す。それはキスカ・キスカが書いた計算式だ。
――浄化の光の推定サイズは6メートル級から8メートル級。但し、威力は20メートル級に相当する、か……。
しかもその資料には続きがあり――、
”尚、国境際には最低でも200体は浄化の光を使用できる魔族がいる公算が大きい。確認されている最大サイズは15メートルから20メートル級”
「正直、これが真実か? とは聞きたくはないね」
「では先に応えておきます、当首殿。これは間違いなく真実です」
その言葉を聞いた時、テリアスもマリッカも少し驚いた。世界中どこも、ムーオス自由帝国の敗北など考えてはいない。いや、考えてはいけないし、あってはならない。
どんな手段を取ろうとも、先ずこの国が失われるという選択肢を排除しなければならないのだ。人類社会存続の為にも。
そう、理論でも感情でもそうなのだ。そうであって欲しいのだ。しかし――
「一切の増援が無い場合、2年ともたないだろう。それが商国の結論だ。そして、事実上援助は出来ない。あの帝国が存続する期間は、長くて2年だ」
そういってテリアスが新たに提示した資料。それは、別の地域の航空写真だ。
「これは……」
そこはムーオス自由帝国の北東部分の国境線。長い三角形をしたあの国は、北が魔族領、南の極地を中心として東西とも海に面しているが、北東の一角だけが北の大陸と繋がっている。
その国境に隣接する国は、アイオネアの門を守護するランオルド王国、干渉地域として中央の援助で成り立っている小国家群。そして、コンセシール商国だ。
その国境線が、燃えていた。
戦火は既に内陸にまで達し、自由を標榜する巨大国家を蝕んでいる。
「数と……現在までの商国への影響は?」
「現在の所、魔族による襲撃は受けていない。あの連中は商国とムーオスを明確に区別して行動している様だ。ランオルド王国にも被害は出ていないそうだしな。数に関しては……皆目見当もつかない。まあ、数千万だと思われるといった感じだ」
――ならばやはり、これは魔王の仕業か。
まあ、今更確認するような事ではないかもしれない。
しかしまだ可能性としては、魔王……あの時出会った相和義輝は既に死んでおり、現在は魔族が暴発しているといった場合もあり得る。
いや、過去形だ。これでその可能性は消滅した。正確には後半部分がだ。
相和義輝は実際に、マリクカンドルフに討たれているかもしれない。実際の所、魔王がどういった存在かなど誰も知らないのだ。
しかし間違いなく、魔族を率いる者は存在する。そうでなければ、これほどの集合と統率は見られないはずだ。
「商国に被害が出ていないのなら、こちらからは一切の手出しを禁止します。仮に仕掛けて来たとしても、当面は交戦禁止。土地を捨ててでも逃げるように」
「まあ、当首殿がそう指示するのであれば皆従うだろう。しかし良いのか? 臆病者のそしりを受けたら、今後の中央での立場に影響を及ぼすぞ」
「僕らは商人ですよ。逃げて当然。それが悪いというのであれば、潔く城主の座を降りましょう」
テリアスは少しだけ思案するようなそぶりを見せたが、
「いや、それならば構わないだろう。その時は、我等も今まで通り普通の商人に戻るだけだ。話を続けよう」
そう言って次に取り出した写真。それには、リッツェルネールも少し驚いた。
それは国境近くだろうか。赤茶けた大地にわずかの畑、それに遠くに見える山の形には見覚えがある。
それだけなら普通の風景写真だ。だがそこに映る巨大な生き物は、知ってはいながらも知らないものだった。
大きさは、優に30メートルは越えるだろうか。二本の鋏、二本のハンマー状の腕、それに極太の足。全体のフォルムは蟹そのものだ。
大きさを除けば、針葉樹の領域に出現した魔族と同じだと断言できる。報告によると、魔族でありながら浄化の光を使ったという。
「一匹ではなかったという事か……」
そうとしか言いようがない。かつてティランド連合王国が魔王に敗れた時、強大な個体を魔神と呼称した。あの時確か、人間より強いものをいちいち神などと呼んでいてはこの世は神だらけになってしまう……とか考えたような覚えがある。
まさにその通りであった。希少なのかもしれないが、これは明らかに生き物だ。
そして絶滅の淵に瀕しているのでもない限り、世界に単一個体などは有り得ない。
今現在どれだけの数が生息しているのかは知らないが、少なくとも神と呼ぶようなものではなかったわけだ。
「この写真は、たまたま地質調査をしていた研究者が撮影したものだ」
追加で出される何枚もの写真。そこには蟹以外にも、見たことの無い異形の群れが映っている。そしてその奥には、天を突くような一条の光もまた撮影されていた。
「位置的には蟹ではない様だが……これは浄化の光か」
「ああ、キスカも同じ結論だ。間違いは無いだろう。撃たれたのは重飛甲母艦らしい」
「見た所、あまり出力規模は大きく無いように見えるが……」
リッツェルネールのその言葉には、これで『墜とせたのか?』という質問を含んでいた。
当然それは、テリアスにもわかる。むしろ予想されていた問答であり、資料も用意済みだ。
その手際に感心しながらも、渡された資料に目を通す。それはキスカ・キスカが書いた計算式だ。
――浄化の光の推定サイズは6メートル級から8メートル級。但し、威力は20メートル級に相当する、か……。
しかもその資料には続きがあり――、
”尚、国境際には最低でも200体は浄化の光を使用できる魔族がいる公算が大きい。確認されている最大サイズは15メートルから20メートル級”
「正直、これが真実か? とは聞きたくはないね」
「では先に応えておきます、当首殿。これは間違いなく真実です」
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