この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 滅び 】

国境の封鎖 前編

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 碧色の祝福に守られし栄光暦219年2月34日深夜。
 浮遊城ジャルプ・ケラッツァにある自室で休憩中に、リッツェルネールは起こされた。
 ジリジリとやかましく鳴るベルは、艦橋からの通信だ。

「何か急用かい?」

 頭は既に冴えている。そして、要件も分かっていた。

「商国から緊急の連絡です。火急かつ緊急の案件という事で、テリアス・アーウィン議長が直接参られました」

「分かった。資料室にお通ししてくれ。僕もすぐに行くよ」

 そう伝え、ベッドから立ち上がる。
 そのまま顔を洗い、鏡をのぞく。そこに映るのは、間違いなく自分の顔……。

 ――悪人の顔をしているな……気を引き締めよう。

 そう思いつつも、少し顔が緩む。
 まだ確定ではないが、ムーオス自由帝国が大規模な襲撃を受けているらしい。それこそ、未曽有の状態だそうだ。
 らしい、だそうだ……実際の事はこれからの調査待ちだ。ではあったが、商国ナンバー5のテリアスが早速その資料を持って来た。
 その時点で、実態は最悪だと分かる。噂がただの誇張で、実際には数か所で魔族が見られただけでした――そうであるなら、彼女が直接来ることはあり得ない。

 ならば襲撃は事実だ。そしてムーオスが苦戦していることも。
 となれば、事態は変わる。魔王は……魔族はどのくらい強い? もしかしたら、人類は果て無き夢に身を焦がさずとも、もっと安定した安全な未来を掴めるかもしれない。

 ――さて、魔王の力を教えてもらおうじゃないか……。




    ◇     ◇     ◇




 部屋の外に出ると、既にマリッカ・アンドルスフが待機していた。
 その後ろには、数十名の大護衛団。エスチネル城が陥落してからというもの、いつもこの状態だ。
 もう浮遊城だからといって、悠長に構えてはいられないという事だろう。

「ムーオスの状況に関して、君は何か聞いているかい?」

「何も聞かされてはいません。コンセシール商国中央議会議長殿が到着していますので、そちらでお聞きになるのが良いでしょう」

 マリッカの真面目一辺倒の様子からは、何処まで本当かは分からない。
 だがまあ、焦る事も無いだろう。細かい事は、これからわかるのだから。




     ◇     ◇     ◇




 資料室は、浮遊城城郭部分の2階にある。正しくは戦略分析室だ。しかし実際には戦術は勿論、農工業から設営、はたまた料理の本など様々な資料が取り揃えられており、結果として資料室と呼ばれている。
 ここを真面目に戦略分析室などと呼ぶのは、マリッカ位な物だろう。

 部屋は幾つもの薄い金属製のパーテーションで区切られ、それぞれが独立した部屋となっている。出入口は一つの部屋に一か所だけだ。
 最初から分割した構造になっていないのは有事の際や利便性に配慮した結果だが、今はあまり関係ないだろう。

 通された部屋は、出入り口から最も遠い部屋。会議室を思わせる細長い部屋で、奥には最重要機密などを収納した巨大機械と、それを専門に読み取るための技師が常駐している。
 入り口近くの部屋には本棚や本などが置かれているが、ここにはそういった類のものは無い。床も壁も天井も、見えているところは金属製。実に殺風景だ。
 中央には長いテーブルと、周囲に用意されているのは革張りのパイプ椅子。こちらも豪華さの欠片もない。
 見るからに、実用だけを追い求めた部屋だ。

「これは当首殿。お久しぶりでございます」

 部屋の中には、既にテリアスが通されていた。というよりも、さっさと自分から来たのだ。
 鮮やかな商国ブルーのジャケットに男性と変わらぬ上下の軍服姿。
 平坦な胸と少し骨っぽい顔立ちの上、化粧もせず短く切りそろえた黒髪の上に軍帽を被っている。
 これでも普段は、商人としてドレスやスーツを纏い化粧もしている。しかし今の姿は、傍目にはまるで男性のようにも見えた。

 そして挨拶もそこそこに椅子に座ると、テキパキと資料を整える。
 商談の様な駆け引きは存在しない。実際、それどころではないし必要も無しだ。

「それで、ムーオス自由帝国はどうなっている?」

 尋ねながらテーブルに差し出された航空写真を見て、絶句する。
 明け方近くであろうか、海岸線を囲むように広がる炎の線。それはまるで、新たな国境線の様。その内側にはまだ人類の光が見えるが、外側は真っ暗だ。
 魔族の侵攻――これほどまでに大規模になるとは思ってもいなかった。




 心をしっかりしていないと、笑みが漏れてしまいそうだ。そう、リッツェルネールは気を引き締める。
 彼もまた普通に人間だ。社会状況を眺めながら、ぼんやりと人類の未来を考えることもあった。
 そしてそれは地位が上がるにつれ、手が伸びるにつれ、より真剣に考え始めるようになる。人類の未来――行く末を。

 オスピア帝に対し語った今後の人類社会の展望は、彼の持てる全てを尽くしてようやく達成できるものだった。
 しかしそれでも、増え続ける人類を減らす手段には苦心した。ところがどうだろうか、向こうからやってきたのだ。人類を効率よく減らすために算段が。
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