この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 滅び 】

世界の終わり 後編

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 手元にあるのは、夜の内に撮影された航空写真。
 黒い海と、キラキラと輝く魔導の明かりがハッキリとした境界線を作っている――それが、本来あるべき姿だ。
 なのに、今手元にある写真は少し違う。
 黒い闇と光の粒。その間にあるのは赤い光……そして黒い煙。

 ――ふんっ、情けない話だ。ざまあみろと言ってやりたい気もしますがね。

 赤い炎は、ゆっくりじっくりと内陸へと広がっている。
 それは街であったり、村であったり、人の住まう場所だった。
 浮遊城が墜落した――その報告が国を巡るよりも早く、それは海岸戦から現れた。

 ある町から見えたのは、全長1キロを超す芋虫ワームであったという。
 また別の地域からは、上半身が魚、下半身が人――魚人の群れが多数の海洋生物を引き連れて上陸。虐殺を開始した。
 そんな報告が、数万、数十万と寄せられる。海を失うとかの話ではない。海から魔族が攻めて来たのだ。何億、いや何十億。もしかしたら、百億を超えるかもしれない生物たち。
 多くは海岸線までだが、上陸できる魔族は更にそこから進撃中。今現在各地域の部隊が対応に当たっているが、実戦経験があるものなど、この国にはそうはいない。

 過去の魔族領遠征に参加したのは、皆貧しい者達だ。彼らは戻るなり、多くの者が希望塚へと消えた。傷病者は勿論の事、健常者もだ。彼らは元々生きて帰ってくる予定はなかった者。生還した所で、働く口も無い余剰の人間。それが、この国の在り方だったのだから。

「ドクターはなぜそんなに落ち着いていられるんでしょうか? ああ、ザビエヴ陛下が生きておいでなら、こんな事には……」

「死んだものは仕方が無いでしょう。騒いだら指示が来るのですか? 馬鹿々々しい」

 そしてトップがいない。これがまた大きな混乱を生んでいる。
 未曽有の危機だ。例え何処かの地域は見捨ててでも、確実な勝利を重ねて少しずつ安全な人知を確保する。それが戦略というものだ。
 しかし、それを決断する人間がいない。だから各個に戦うしかない。そして、たとえ局地で勝利しても、そこが飛び地であれば何の意味も無い。周囲から削られ、やがて消えるのみだ。

「とにかく、出払った重飛甲母艦馬鹿どもが戻ってこなければ、この街は何もできませんよ。出来れば揺り籠は墜とさず帰ってきて欲しい所ですがね」




     ◇     ◇     ◇




 白き苔の領域。その地表を、80メートルの怪物が走る。
 セミの幼虫の体にトンボのような背中、そこから延びる長い灰色のムカデの節と足。
 魔王相和義輝あいわよしきは、その背中に乗っていた。実際のトンボとは違い、翅を収納する穴と、カバーのような部位が付いている。そこは今ふわふわのクッションのようになっており、しかもカバーが風防のようになっている。おかげで、快適度が今までとは段違いだ。

 かたわらにはエヴィアとテラーネ。服は勿論テルティルト。顔は兜の状態で、苔の毒対策も完璧である。かつての様に、コロコロと気を失う事は無い。
 ユニカは毒対策が出来ないので、脇を飛んでいるファランティアの中。ウラーザムザザも飛んで付いて来ている。

「予定通り、海の方は始まったか?」

「当然、完璧ですわ! ちゃーんと指示のあった魔人様への伝令は、漏らさずしっかりと伝えてあります」

 ふわりと現れると、背を反り右手を胸に当ててドヤ顔ポーズ。いや、そんな生易しいものではないな。ドヤドヤドヤ顔位だろうか。実際かなりの箇所を回ってもらった。南方の大陸の海岸線は、一体どのくらいの長さがあるのやら。
 確か、ここ魔族領を覆っている壁は12000キロメートルだったと思う。長さは余裕でそれを超える。
 全部一人で回ったわけでは無いだろうが、代表者としてこれくらいのキメ顔は許されても良いだろう。

「なら今頃は大騒ぎだろうな……」

 間違いなく、大量殺戮が行われている。人も魔族も大勢死ぬ。もしかしたら、魔人にも犠牲者が出るかもしれない。
 海にいる魔人達。そして陸に上がれる生き物たち。それらを総動員して、南方の大国、ムーオス自由帝国を滅ぼす。これはもう、年が明ける前に決めていたことだった。
 揺り籠。人間を兵器として消費する爆弾。これだけは、もう使わせるわけにはいかない。そして、拡散させることもダメだ。
 だが話して止めるだろうか? もう使っちゃだめだよ、そう言って聞くだろうか?
 当然、無理だろう。それで止まるなら最初から戦い自体が起きてはいない。

 俺にもっと知恵があったら、あの爆弾の情報だけを処理できる手段があったのかもしれない。
 だけど、そんなものはない。そして迂闊に1つだけに標的を絞れば、逆に彼らはそれを知る。当然、技術を守るために……あるいは巻き込むために、世界中に拡散させるだろう。
 だから消すしかない。国ごと、人ごと、何もかもを巻き込んで全てを。

「俺は……悪人だろうか?」

「エヴィアの考える悪人とは、だいぶ違うかな」

「そうか……」

 エヴィアの小さな頭を撫でながら、俺はこれからの事を考えていた。
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