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【 滅び 】
エスチネルの戦い その12
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全身を覆う濃い紫色の全身鎧。いや本当に鎧か? 全高は3メートル近い。まるでパワードスーツだ。
それ程の厚みと太さを感じるが、同時に生命の形も分かる。これは鎧。人間が着ているものに間違いは無い。この国の人間は巨人ばかりだが、またひときわでかい。
それに鎧を覆うぶかぶかのマントやローブ。まるで金属生物が服を着ている様だ。
頭は埴輪を思わせる独特の形状だが、その上には水牛のような左右に伸びる角をつけたシルクハットをかぶっている。
この国のセンスにツッコミを入れるつもりは無いが、何とも表現しがたい感覚だ。
右手に持つのは大型の片手用。片手とはいえ、刃渡り90センチ、厚みは8センチ。通常、片手で使うようなものではない。
一方で、左手には大きな円形の盾を装備。その裏側には、手に持っている物と同じ斧が4つ取り付けられている。
相和義輝は知らないが、この斧は重甲鎧と同じ兵装だ。
武器も盾も鎧も立派な装飾が施され、それなりに高い身分なのだと予測できる。
それに、命の形をはっきりと感じる。激しく回る、アルマジロの甲殻を思わせる車輪。どこまでも突き進む激しい命……そんなイメージだ。
かなり強い――本能でそう感じとる。
しかし同時に不自然さも感じる。なぜここに、たった一人でいるんだ?
「これはこれは、皇帝陛下ともあろうものが、なぜ一人で此処にいるのデース?」
俺の疑問をテラーネが言葉に変えてくれる。というか皇帝陛下? あいつがか?
「事前に写真は見せたでしょ?」
「機械仕掛けの埴輪にしか見えないよ」
「埴輪って何かな?」
「後で解説する」
「あまりゾロゾロ連れてきても、君らには意味がなかろう――」
そう言うと盾を前に、武器を後ろに構える。
どうやら、ヒソヒソとしたこちらのやり取りは聞こえていないようだ。
「――故に余が自ら来たのだ」
言うが早いか、一瞬で踏み込んできた。
速い――そんな事を考える間もなく、最初に標的にされたテラーネの右肩から左脇まで、一直線に断ち切られる。
「――な!?」
次の瞬間には、エヴィアの首が宙を舞う。そして同時に、その小さな体を蹴り上げた。
「エヴィア!」
空中を飛び、金属壁に叩きつけられる。しかし同に、不自然な形で首も一緒に飛んでいった。
斬り飛ばされた様に見えて――いや実際そうだったのかもしれないが、今は触手でくっついているって事だろう。
それよりもテラーネだ――が、
一瞬にして、目の前が陰る。なぜかは考えるまでもない。
あまりにも一瞬すぎて、何の対処も出来なかった。だが一瞬散った火花と響く金属同士の残響。テルティルトが操作した俺の体が、奴の――皇帝の斧を弾いたのだ。
「これは驚いたな、ニンゲンよ。大したものじゃないか」
圧倒的な速度と破壊力。それに何より正確だ。今のも、テルティルトが防御しなかったら確実に首が飛んでいた。
マリクカンドルフとは、また違った強さだ。
「其方こそな。余の初太刀を防いだ者など、何百年ぶりか。流石は魔王と言ったところだな」
いや、待って。俺が今回、一度も魔王を名乗っていない。
……と一瞬だけ思ったが、考えてみれば無意味な事だ。
去年無様に死んだ時、撮影されまくったと聞いている。考えるまでも無く、それはこちらの国にも流れているのだろう。
しかしそれも妙な話だ。人間だって、同じ様に見えるそっくりさんは幾らでもいるのだ。
ましてやこの姿。似た奴がいたとしても、まったくおかしくは無い。
「ほお、今更隠してなんとする。堂々とここまで来たのだ。堂々と死ぬが良い」
大体察した。
テルティルト……後でお話があります。
ムーオス自由帝国の皇帝ザビエブは、これまでの通信と被害の状況などから侵入者たちの動向を正確に把握していた。
そしてあえて、ここまで来させたのだ。倒すために。
しかしそれは容易い事ではない。予想よりもずっと……いや遥かに、侵入者達は強かった。
報告によれば、既にハイウェンとコルキエントは戦死。長く苦楽を共にしてきた腹心の死が皇帝の心を震わせる。
その代償を支払わせるためにも、残る将兵を搔き集めて最大限の手を打った。
結果として、魔王達をここに誘い込む事には成功した。但し、その代償としてザビエブは一人で此処に来るしかなかったのだ。
もちろん10人や20人程度なら集めることは出来た。しかし、個人戦となれば指示を出す間も惜しい。それに同等の技量が無ければ、ただの足手まといだろう。
そしていざ来てみると、半裸の少女が二人と昆虫の様な外骨格の男が一人。
過去に報告のあった魔王の姿に酷似している。それどころか、左胸には『魔王』のネームプレート付きだ。実際にこれが何であっても、とりあえず魔王と仮称しておけばいいだろう。
それもそう長い間の話ではない――はずだったのだが、目の前の魔族は思ったよりも強かった。
女の姿をした二体は倒したが、残る一体は意外と強い。ネームプレートはなぜか掻き消すように消えたが、これはもしかしたら本物かもしれない。
ならば――鎧の内側で、ザビエブが笑う。これこそが天祐。例え浮遊城が落ちようとも、ここで魔王さえ倒せば勝利なのだと。
それ程の厚みと太さを感じるが、同時に生命の形も分かる。これは鎧。人間が着ているものに間違いは無い。この国の人間は巨人ばかりだが、またひときわでかい。
それに鎧を覆うぶかぶかのマントやローブ。まるで金属生物が服を着ている様だ。
頭は埴輪を思わせる独特の形状だが、その上には水牛のような左右に伸びる角をつけたシルクハットをかぶっている。
この国のセンスにツッコミを入れるつもりは無いが、何とも表現しがたい感覚だ。
右手に持つのは大型の片手用。片手とはいえ、刃渡り90センチ、厚みは8センチ。通常、片手で使うようなものではない。
一方で、左手には大きな円形の盾を装備。その裏側には、手に持っている物と同じ斧が4つ取り付けられている。
相和義輝は知らないが、この斧は重甲鎧と同じ兵装だ。
武器も盾も鎧も立派な装飾が施され、それなりに高い身分なのだと予測できる。
それに、命の形をはっきりと感じる。激しく回る、アルマジロの甲殻を思わせる車輪。どこまでも突き進む激しい命……そんなイメージだ。
かなり強い――本能でそう感じとる。
しかし同時に不自然さも感じる。なぜここに、たった一人でいるんだ?
「これはこれは、皇帝陛下ともあろうものが、なぜ一人で此処にいるのデース?」
俺の疑問をテラーネが言葉に変えてくれる。というか皇帝陛下? あいつがか?
「事前に写真は見せたでしょ?」
「機械仕掛けの埴輪にしか見えないよ」
「埴輪って何かな?」
「後で解説する」
「あまりゾロゾロ連れてきても、君らには意味がなかろう――」
そう言うと盾を前に、武器を後ろに構える。
どうやら、ヒソヒソとしたこちらのやり取りは聞こえていないようだ。
「――故に余が自ら来たのだ」
言うが早いか、一瞬で踏み込んできた。
速い――そんな事を考える間もなく、最初に標的にされたテラーネの右肩から左脇まで、一直線に断ち切られる。
「――な!?」
次の瞬間には、エヴィアの首が宙を舞う。そして同時に、その小さな体を蹴り上げた。
「エヴィア!」
空中を飛び、金属壁に叩きつけられる。しかし同に、不自然な形で首も一緒に飛んでいった。
斬り飛ばされた様に見えて――いや実際そうだったのかもしれないが、今は触手でくっついているって事だろう。
それよりもテラーネだ――が、
一瞬にして、目の前が陰る。なぜかは考えるまでもない。
あまりにも一瞬すぎて、何の対処も出来なかった。だが一瞬散った火花と響く金属同士の残響。テルティルトが操作した俺の体が、奴の――皇帝の斧を弾いたのだ。
「これは驚いたな、ニンゲンよ。大したものじゃないか」
圧倒的な速度と破壊力。それに何より正確だ。今のも、テルティルトが防御しなかったら確実に首が飛んでいた。
マリクカンドルフとは、また違った強さだ。
「其方こそな。余の初太刀を防いだ者など、何百年ぶりか。流石は魔王と言ったところだな」
いや、待って。俺が今回、一度も魔王を名乗っていない。
……と一瞬だけ思ったが、考えてみれば無意味な事だ。
去年無様に死んだ時、撮影されまくったと聞いている。考えるまでも無く、それはこちらの国にも流れているのだろう。
しかしそれも妙な話だ。人間だって、同じ様に見えるそっくりさんは幾らでもいるのだ。
ましてやこの姿。似た奴がいたとしても、まったくおかしくは無い。
「ほお、今更隠してなんとする。堂々とここまで来たのだ。堂々と死ぬが良い」
大体察した。
テルティルト……後でお話があります。
ムーオス自由帝国の皇帝ザビエブは、これまでの通信と被害の状況などから侵入者たちの動向を正確に把握していた。
そしてあえて、ここまで来させたのだ。倒すために。
しかしそれは容易い事ではない。予想よりもずっと……いや遥かに、侵入者達は強かった。
報告によれば、既にハイウェンとコルキエントは戦死。長く苦楽を共にしてきた腹心の死が皇帝の心を震わせる。
その代償を支払わせるためにも、残る将兵を搔き集めて最大限の手を打った。
結果として、魔王達をここに誘い込む事には成功した。但し、その代償としてザビエブは一人で此処に来るしかなかったのだ。
もちろん10人や20人程度なら集めることは出来た。しかし、個人戦となれば指示を出す間も惜しい。それに同等の技量が無ければ、ただの足手まといだろう。
そしていざ来てみると、半裸の少女が二人と昆虫の様な外骨格の男が一人。
過去に報告のあった魔王の姿に酷似している。それどころか、左胸には『魔王』のネームプレート付きだ。実際にこれが何であっても、とりあえず魔王と仮称しておけばいいだろう。
それもそう長い間の話ではない――はずだったのだが、目の前の魔族は思ったよりも強かった。
女の姿をした二体は倒したが、残る一体は意外と強い。ネームプレートはなぜか掻き消すように消えたが、これはもしかしたら本物かもしれない。
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