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【 滅び 】
エスチネルの戦い その11
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重力と浮かぶ力。このバランスが崩れた時、いきなりドスンと落ちるわけでは無い。
ただゆっくりとはいえ、数百メートル級のデカブツだ。飛行機の緊急筋時着なんてものじゃない。地面に激突した瞬間、摩擦と質量で確実に潰れ崩壊する。
その衝撃は、人間がどうこうできるものではない。内部にいたら間違いなくアウト! たとえテルティルトを着ていてとしても、命は無いだろう。
「脱出経路を確認してもらってくれ。それと、プログワードはもういいから脱出……いや違う、脱出の用意をさせてくれ」
今先に出たら、間違いなく浄化の光の餌食になる。彼らは、たとえ死の瞬間にあっても最後まで持ち場を維持するだろう。
「かしこまりましたわ、魔王様。それでは伝えてまいります」
スカートの裾を持ち上げ軽く会釈すると、死霊のルリアはプログワードの元へと飛んでいった。
後はこちらだが……。
「このまま上へ行くと大型浄化の光の発射口がありまーすネ。そこから外に出られるよー」
「もう抵抗は終わっているかな。安心して良いよ」
「分かった。取り合えず急ぐとしよう」
確かに、既に城内の抵抗は沈黙していた。
俺が戦っている時すでに、エヴィアの触手は場内を伸び、テラーネの毒は蔓延していったのだ。
もはや、進む先にあるのは死体、死体、死体……下や外の様子は分からないが、少なくとも上はもう安全だろう。
「それで……これが浄化の光か」
緩やかな階段を上った先は、大掛かりな部屋だ。いや、部屋と読んで良いものかどうか……。
浮遊城全体で見れば、右側にある膨らんだ部分。外から見れば目玉の片方と言えるだろう。
目の前にあるのは、金属の球体とそこから延びる無数の柱。あの中には、液体のような質感の球体――浄化の光の本体が収められている。
今立っている一の形状を見る限り、ここはちょうど真ん中あたりのようだろうか。下には網目状の金属床があり、下の様子が透けて見える。上も同様だ。
確かこちら側のやつは、80メートル級だと聞いている。実際の姿は真下からの一瞬しか見ていないが、1つの球で前後を守るのではなく2つ繋がっている。
浮遊城エスチネルの本体幅は140メートル程だが、これを2つ並べれば160メートル。
その上、互いの間の隔壁も加わるから実際にはもっと長さが必要だ。当然だが収まりきらないわけで、余剰分の数十メートルは瞼の様に外に出っ張っているわけだ。
そして城の右側には60メートル級が前後に2つ。随分とアンバランスな形だが、まあ何かの意味があったのだろう。
とはいえ、それを知る意味はもうない。この城は堕ち、もう二度と新たに作られる事は無いのだから。
「魔王、中にいる人間はどうするのかな?」
それは、浄化の光の仕組みの話だった。
ここにある巨大な球体の中に本体が入っている。
そしてその中には、その魔力を供給する為の人間が入っている。
この国最高峰の魔力保有者。彼らは選ばれたら、以後は一生この中で過ごす。血族――そういったしがらみからも外され、永遠に武装の一部になる。
確かユニカは、特殊職でエリートなのだと言っていた。だけど俺は、そんな生き方を羨ましいとは思わない。
「ああ……」
「迷うのでしたーら、私が始末しておくねー」
放置しておけば、どちらにせよ城の落下によって死ぬだろう。
しかし今は生きている。撃てなくなるその瞬間まで、これは危険なものに間違いはない。
浄化の光の発射の中心は、球体の中心ではなく表面だ。
出っ張っている部分を考えたら、発射角度は180度を越える。これを残したまま離脱すれば、何処から出たってお陀仏だ。
逆にこれさえ壊せば、大きい分だけかなりの死角が出来る。絶対に、やらねばならない。
「いや、俺がやるよ……確か構造は――」
外殻に守られた内側に、流体金属で守られた本体がある。モノとしては無限図書館の床と同じような物か。
その中に特殊職と呼ばれる人間の居住スペースがあるわけだ。毒も触手も、そこには近づけないらしい。
食事などは、定期的に金属の箱に入った保存食が上から入れられる。
それは数日かけて居住スペースまで沈み、またそこから排泄物などを入れて、沈められて下に落ちる。そして中との会話は通信機を使う。外殻の開閉、照準、発射などの操作も、動力源も中だ。
これ自体が、完全に独立した一つの兵器。何処かを遮断すれば止まるというものではない。
命令があればもちろんだが、無くても最後は自己判断で撃つだろう。
中でもしもの事があったらどうするのか? 幾ら不老の世界でも、死を防ぐことは出来ない。病気や不慮の事故などの緊急事態は常に起こる。
そんな時は、人間が入る専用の箱を使う。大抵は空箱を投下し、その後中に入って出るわけだ。
これだと大体2時間ほどで下まで到達するらしいが、今はそんな悠長なものを使ってはいられない。
――こうして対面すると、結構大変な相手だな……。
城もそうだが、こちらもなかなかに難攻不落だ。もし無限図書館に行っていなかったら、絶対の攻略できなかっただろう。だが――、
指をパチンと鳴らすと、背後からポロポロポロポロと丸い物が現れる。
半透明の金属球。内側にはかすかな光が見える。普段は無限図書館で暮らしている、流体金属の精霊だ。
構造が分かっているのだから、準備してこない訳がない。というより、こいつらが居るから攻略法を思いついたのだ。
「じゃあ、移動用の金属箱を探そうか。多分、ここより上の方にあるはずだ。急ごう」
「どこへ行くというのだ?」
場所を変えよう――そう考えた時、突然声を掛けられる。
こんな所に知り合いはいない。言うまでもない……敵だ。
ただゆっくりとはいえ、数百メートル級のデカブツだ。飛行機の緊急筋時着なんてものじゃない。地面に激突した瞬間、摩擦と質量で確実に潰れ崩壊する。
その衝撃は、人間がどうこうできるものではない。内部にいたら間違いなくアウト! たとえテルティルトを着ていてとしても、命は無いだろう。
「脱出経路を確認してもらってくれ。それと、プログワードはもういいから脱出……いや違う、脱出の用意をさせてくれ」
今先に出たら、間違いなく浄化の光の餌食になる。彼らは、たとえ死の瞬間にあっても最後まで持ち場を維持するだろう。
「かしこまりましたわ、魔王様。それでは伝えてまいります」
スカートの裾を持ち上げ軽く会釈すると、死霊のルリアはプログワードの元へと飛んでいった。
後はこちらだが……。
「このまま上へ行くと大型浄化の光の発射口がありまーすネ。そこから外に出られるよー」
「もう抵抗は終わっているかな。安心して良いよ」
「分かった。取り合えず急ぐとしよう」
確かに、既に城内の抵抗は沈黙していた。
俺が戦っている時すでに、エヴィアの触手は場内を伸び、テラーネの毒は蔓延していったのだ。
もはや、進む先にあるのは死体、死体、死体……下や外の様子は分からないが、少なくとも上はもう安全だろう。
「それで……これが浄化の光か」
緩やかな階段を上った先は、大掛かりな部屋だ。いや、部屋と読んで良いものかどうか……。
浮遊城全体で見れば、右側にある膨らんだ部分。外から見れば目玉の片方と言えるだろう。
目の前にあるのは、金属の球体とそこから延びる無数の柱。あの中には、液体のような質感の球体――浄化の光の本体が収められている。
今立っている一の形状を見る限り、ここはちょうど真ん中あたりのようだろうか。下には網目状の金属床があり、下の様子が透けて見える。上も同様だ。
確かこちら側のやつは、80メートル級だと聞いている。実際の姿は真下からの一瞬しか見ていないが、1つの球で前後を守るのではなく2つ繋がっている。
浮遊城エスチネルの本体幅は140メートル程だが、これを2つ並べれば160メートル。
その上、互いの間の隔壁も加わるから実際にはもっと長さが必要だ。当然だが収まりきらないわけで、余剰分の数十メートルは瞼の様に外に出っ張っているわけだ。
そして城の右側には60メートル級が前後に2つ。随分とアンバランスな形だが、まあ何かの意味があったのだろう。
とはいえ、それを知る意味はもうない。この城は堕ち、もう二度と新たに作られる事は無いのだから。
「魔王、中にいる人間はどうするのかな?」
それは、浄化の光の仕組みの話だった。
ここにある巨大な球体の中に本体が入っている。
そしてその中には、その魔力を供給する為の人間が入っている。
この国最高峰の魔力保有者。彼らは選ばれたら、以後は一生この中で過ごす。血族――そういったしがらみからも外され、永遠に武装の一部になる。
確かユニカは、特殊職でエリートなのだと言っていた。だけど俺は、そんな生き方を羨ましいとは思わない。
「ああ……」
「迷うのでしたーら、私が始末しておくねー」
放置しておけば、どちらにせよ城の落下によって死ぬだろう。
しかし今は生きている。撃てなくなるその瞬間まで、これは危険なものに間違いはない。
浄化の光の発射の中心は、球体の中心ではなく表面だ。
出っ張っている部分を考えたら、発射角度は180度を越える。これを残したまま離脱すれば、何処から出たってお陀仏だ。
逆にこれさえ壊せば、大きい分だけかなりの死角が出来る。絶対に、やらねばならない。
「いや、俺がやるよ……確か構造は――」
外殻に守られた内側に、流体金属で守られた本体がある。モノとしては無限図書館の床と同じような物か。
その中に特殊職と呼ばれる人間の居住スペースがあるわけだ。毒も触手も、そこには近づけないらしい。
食事などは、定期的に金属の箱に入った保存食が上から入れられる。
それは数日かけて居住スペースまで沈み、またそこから排泄物などを入れて、沈められて下に落ちる。そして中との会話は通信機を使う。外殻の開閉、照準、発射などの操作も、動力源も中だ。
これ自体が、完全に独立した一つの兵器。何処かを遮断すれば止まるというものではない。
命令があればもちろんだが、無くても最後は自己判断で撃つだろう。
中でもしもの事があったらどうするのか? 幾ら不老の世界でも、死を防ぐことは出来ない。病気や不慮の事故などの緊急事態は常に起こる。
そんな時は、人間が入る専用の箱を使う。大抵は空箱を投下し、その後中に入って出るわけだ。
これだと大体2時間ほどで下まで到達するらしいが、今はそんな悠長なものを使ってはいられない。
――こうして対面すると、結構大変な相手だな……。
城もそうだが、こちらもなかなかに難攻不落だ。もし無限図書館に行っていなかったら、絶対の攻略できなかっただろう。だが――、
指をパチンと鳴らすと、背後からポロポロポロポロと丸い物が現れる。
半透明の金属球。内側にはかすかな光が見える。普段は無限図書館で暮らしている、流体金属の精霊だ。
構造が分かっているのだから、準備してこない訳がない。というより、こいつらが居るから攻略法を思いついたのだ。
「じゃあ、移動用の金属箱を探そうか。多分、ここより上の方にあるはずだ。急ごう」
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