この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 滅び 】

エスチネルの戦い その10

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「ぬうん!」

 反対側だけになった槍も少女の様な魔族に投げつけるが、それは空中で切り裂かれ届かない。

「武器をよこせ!」

「はっ!」

 すぐさま、脇に控えていた兵士が同じ武器を渡す。寸分たがわぬ同じ武器。同一規格、大量生産で作られた品だ。
 通常、量産品といえば質が落ちるようなイメージがある。しかしそれは間違いだ。単なる手作り信仰に過ぎない。
 この武器は、ティランド連合王国やハルタール帝国が使っている武器に比べ、何ら劣っているところはない。研鑽と研究を重ね、最高級品を量産する。それが工業国家の強みなのだから。
 そしてこの男、宰相コルキエントもまた、決して弱くは無い。それどころか、ムーオスもまたティランドと並んで軍事大国とも呼ばれる国だ。宰相たるもの、並の将軍程度では務まらない。
 皇帝がそうであるように、武人がそうであるように、内政をつかさどる者も、当然の様に個人の力量が求められるのだ。

「でりゃあああ!」

 目にも止まらぬ突きの連打。牽制は無い、全てが一撃必殺の威力を込めた本物の突き。
 過去幾共の試合を、この技で勝ち抜いて来た。
 だが突き出した槍の穂先を、黒い髪の女形の魔族が噛んで止める。

「き、きさ――」

 槍が噛み砕かれると同時に、ロー、ミドルと蹴りが襲う。左足と左腰の骨、それそれが一撃で砕け散った事を、痛みよりも先にコルキエントは感じ取っていた。

「ぐああ」

 倒れそうになるが、それは矜持が許さない。ガクガクする足を腕で抑え上を向いた時、その眼前に女魔族のにやけた表情と、打ち下ろしの右拳が見えた。


 ムーオスの兵士は確かに強くは無い。しかしそれはあくまで、軍隊として見た時だ。個人としての力量は、体が大きな分それだけ強い。
 そして宰相コルキエントもまた、十分すぎるほどに強い。いや、強かった。
 変わったのは、エヴィアとテラーネの戦闘力だ。

 魔人は集まるほどに知識がしっかりとしてくる。それは昔、魔王相和義輝あいわよしきが言われた事だ。
 浅く広く、薄く持っている様々な記憶。普段は生き方と関係ない知識として思い出せもしないが、集まるほどに、より正確に認識する。
 その中にあったのだ、戦う術が。

 魔人と魔族、そして人との数万年に渡る戦いの歴史。
 今までの生き方には必要が無かった知識。長い年月の間に捨て去った技術。しかしそれは、これから魔王を守るために必須ともいえる大事な記憶。
 多くの魔人達から少しづつ受け取り、今はもう、まるで昨日の事のようにハッキリと思い出せる。

「準備は終わったかな。これでいつでも壊せるよ」
「こちらもなんとか終わりましたねー。ただー、また次がぞろぞろとやってきマース」

「よし、それじゃ次の場所へ移動しよう」

 今の二人……テルティルトも入れれば三人を相手に勝てる人間など、この場にはいなかったのだった。




 ◇     ◇     ◇




 カン……カン…………金属と金属がぶつかる音が、部屋の中に響く。
 周りにあるのは無数の友軍兵士の死体。その中を歩くのは、鎧を纏った大柄な人間だ。
 兜まで含めれば、その身長は250センチを超える。
 全身無骨な金属の全身鎧フルプレートに、完全密閉式フルフェイスの兜。手に持つのは長大な大型剣。
 金銀などの煌びやかな飾りは無いが、どちらにも見事なレリーフが彫られている。
 だが今はあちこちが潰れ、また傷だらけだ。

「コルキエント……」

 その男の足元には、兜ごと顔面を叩き潰された男の死体が転がっていた。
 他にも無数に転がる死体。この部屋に、生きている者はいない。
 浮遊城が、ぐらりと揺れる。魔導炉が幾つか破壊され、動力士も殺されている。安定を失いつつある上に、未だ巨大な魔族が内部で暴れている。
 この城は、もう長くは持たないだろう。

「……陛下」

 意を決したように、死体の中を歩き進む。
 ハイウェン国防将軍は、まだ戦いを諦めてはいなかった。





 魔王相和義輝あいわよしきの足元が大きく揺れる。
 右へ左へとぐらぐら傾き、その度に床に貯まった血が流れてゆく。

 ――だいぶ揺れが大きくなってき気がする……。

 もしかしたら、もう墜落ラインを越えたのだろうか?
 だとしたらやばいぞ? まだ脱出経路も確保していない。

「ルリア、ちょっとプログワードの様子を教えてくれ」

「はいはーい、お任せください魔王様。文明の利器などには負けませんよー」

 ふわりと現れふわりと消える幽霊メイド。つか通信機と張り合ってたのか。
 まあ確かに通信機も便利だが、実際使ってみると死霊レイスの伝令の方が便利だ。
 これは俺自身が直接通信機を使えない事もあるのだろうが、やはり慣れというものが大きいのだろうと思う。

「確認終わりましたー」

 そんな事を考え始めたとたん、もう戻って来る。本当に早い。

「それでどうだった?」

「左側の大きな動力室、3つほど全部壊してありましたー。いま4つ目に向かっていますよー」

 にこやか―に報告してくるが……ありましたーじゃねーよ!

「テラーネ! ウラーザムザザに連絡! このまま落ちたりしないだろうな!?」

「あー、左右のバランスが大きく壊れて揺れてーるネー。まだ落ちないけど、今まで通ってきた分、全部壊したら確実に落ちるよー。プログワードがこれ以上壊しても似たようなものネー」

「それはダメすぎる」
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