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【 滅び 】
エスチネルの戦い その9
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床一面に貯まった血。壁も床も、机も椅子も、何もかもが血まみれだ。
この部屋の抵抗はかなりのものだった。流石は重要な位置といえる。
しかしそれも、魔人の前では無為だ。ここで無残にも屍を晒している人間達は、いったい何のために生きてきたのだろうか。
「空いたかな」
そう言って、巨大な扉を引き開ける。
本来なら一人で開けるような扉では無いし、全体のフレームも歪んでいる。相当な力が必要になるはずなのだろうが、平然と開ける姿は流石というしかない。
というか、こんな悠長に構えている場合ではない。扉の先には――
――ただ、死体だけが転がっていた。
「鍵を切った時に、ついでにやっておいたかな。だから魔王は休んでいてくれて良かったよ」
「助かる」
エヴィアの頭を撫でながら中に入る。
今まで浮遊式輸送板やら飛甲騎兵などは見ていたが、浮遊機関の内部構造を見るのはこれが初めてだ。
ソロバン玉のようなものが3つ縦に並び、中央には黒い棒。その上からは多数のコードのようなものが伸びて壁の奥へと消えている。まるで配線の様だ。
そんなものが、ずらりと大量に並んでいた。
「これが浮遊機関か。全部壊すのは大変そうだけど……このコードだけ切ればいいのかな?」
壁に消えたコードの先には、動力士と呼ばれる人間達の部屋がある。
まあ今回は関係ないだろう。城が墜ちれば、どのみち彼らは命運を共にするのだ。
「そのトーリですよ、魔王。ここと同じような部屋を3か所か4カ所破壊すれば予定通り、この城は墜ちまーす。ただー、どうやって脱出するかを決めていただかないと、私は賛成しませーんよ」
「それはエヴィアが触手を巻いておくかな。準備が終わったら外への道を探せばいいよ」
やはりそれが無難だな。突入する時に、大体その辺りは決めておいた通りだ。
プログワードが暴れている間に、こっちはこそこそと浮遊機関の破壊準備を進める。
ついでに余裕がありそうだったら、プログワードには直接壊してもらう。
実際にどのくらい壊したら限界かは、ウラーザムザザが計算中だ。
そして全ての準備が整ったら俺達は外へ。プログワードにも死霊の伝令を飛ばしてやはり外へ。
そして全員の支度が整ったら、最後にエヴィアが一斉に破壊。それでこの城もおしまいだ。
「外とプログワードの状況はどうなっている?」
「続々と人間達が乗り込んでいるようデース。ただ道は狭いですからねー、大渋滞の様子ですよー」
「プログワードは楽しんで暴れているかな。特に変わりはないって死霊が言ってたよ」
「なら問題は――」
そう言おうとした途端、急に壁の数ヶ所が開き、ガシャガシャとけたたましい音を立てて武装した兵士達が雪崩れ込んでくる。
全部で2カ所か。ここは袋小路だと思っていたから、少々驚いた。
「あー連絡が来ていましたーね。この部屋には緊急用の隠し扉があって、そこから別の動力室に繋がっているようですよー」
「そうか……利便性と機密性、それぞれを両立した構造って事か。しかしダメだな。それとも、よほどの自信か? 俺達がここにいる間は、空けるべきでは無かったろうに」
「いえいえ、最短距離で壁を壊しながらここに来ましたからねー。その辺りは向こうも分かっていると思いますよー」
そりゃそうか。こちらが不自然に正確に進んでいる以上、その辺りは気にしても仕方がないか。
まさか魔人が透視しているとは思わないだろうし、大方こちらが地図を持っていると思っているのだろう。
「貴様たちが入り込んだ魔族か。汚らわしい貴様らネズミに慈悲を与えよう。跪き、我が裁きを受けよ」
兵士達の集団から、ひときわ立派な鎧を纏った人間が進み出る。
身長は2メートルを超すくらい。デカいにはデカいが、この巨人たちの中では少し小さい方だろうか。
他のゴテゴテした鎧と違い、体にぴったりとフィットするような形状。色は輝く様な銀だが、よく見ると削り出しの様な反射を見せる。おそらく鏡のように、内側が銀で外は水晶のような構造なのだろう。
そう考えると鎧としてはどうなのかとも思うが、実際に着て使っている。それに透明な水晶のようなパーツは重甲鎧や飛甲騎兵にも使われていたな。十分な硬度があるのだろう。
手に持つ武器はやたらと刃渡りが長い手槍。刃は1メートルくらい。幅は30センチを超えていそうだ。それが中央に持つ柄の両側に付いている。
周囲の様子から見て、あれが大将なのだろう。それも、今までいたような戦闘隊長っぽいのではない。もっと上のような印象を受ける。
というかアレだな。魔族に対して敬意を持てとは言えない世界なのだろうが、また随分な言われようだ。
余裕がそこまであるわけではないが、少し失笑しそうになる。
「無礼だな、ニンゲン。殺す前に、名を聞いておこうか」
「掛かれ! 速やかに排除せよ!」
こちらの返答もなく、攻撃命令が下る。なんか話の通じないやつだ。
まあこちらだって、今更会話をする気もない。いや、出来はしないだろう。
「今どこくらいだ?」
「夜にはまだ少し早いかな」
……そうか。夜になれば――日が沈めば世界が変わる、それはもう止まらない。止める気もない。俺が指示したのだから。
だから今は、人間と会話する事は有り得ない……。
目の前に立ち塞がった兵士を、その手に持った大盾ごと切り裂く。
振り下ろされた大斧を避け、そのまま首を飛ばす。
今までよりも少し強い気がする。去年戦った兵士達と同じくらいだろうか。
それでも、負ける気はしない――が、
ドスっという鈍い音共に、両刃槍の片方が、エヴィアの脇腹に突き刺さる。先ほどの指揮官らしい男か!?
油断した。もう少し後ろにいるものとばかり思っていた。
だが当のエヴィア本人はけろりとしたもので、まるで何事もなかったかのようにすぽりと抜ける。
いや、それだけではない。抜けた穂先は、まるで千切りにされた野菜のようにばらばらと別れ、床に落ちた。
この部屋の抵抗はかなりのものだった。流石は重要な位置といえる。
しかしそれも、魔人の前では無為だ。ここで無残にも屍を晒している人間達は、いったい何のために生きてきたのだろうか。
「空いたかな」
そう言って、巨大な扉を引き開ける。
本来なら一人で開けるような扉では無いし、全体のフレームも歪んでいる。相当な力が必要になるはずなのだろうが、平然と開ける姿は流石というしかない。
というか、こんな悠長に構えている場合ではない。扉の先には――
――ただ、死体だけが転がっていた。
「鍵を切った時に、ついでにやっておいたかな。だから魔王は休んでいてくれて良かったよ」
「助かる」
エヴィアの頭を撫でながら中に入る。
今まで浮遊式輸送板やら飛甲騎兵などは見ていたが、浮遊機関の内部構造を見るのはこれが初めてだ。
ソロバン玉のようなものが3つ縦に並び、中央には黒い棒。その上からは多数のコードのようなものが伸びて壁の奥へと消えている。まるで配線の様だ。
そんなものが、ずらりと大量に並んでいた。
「これが浮遊機関か。全部壊すのは大変そうだけど……このコードだけ切ればいいのかな?」
壁に消えたコードの先には、動力士と呼ばれる人間達の部屋がある。
まあ今回は関係ないだろう。城が墜ちれば、どのみち彼らは命運を共にするのだ。
「そのトーリですよ、魔王。ここと同じような部屋を3か所か4カ所破壊すれば予定通り、この城は墜ちまーす。ただー、どうやって脱出するかを決めていただかないと、私は賛成しませーんよ」
「それはエヴィアが触手を巻いておくかな。準備が終わったら外への道を探せばいいよ」
やはりそれが無難だな。突入する時に、大体その辺りは決めておいた通りだ。
プログワードが暴れている間に、こっちはこそこそと浮遊機関の破壊準備を進める。
ついでに余裕がありそうだったら、プログワードには直接壊してもらう。
実際にどのくらい壊したら限界かは、ウラーザムザザが計算中だ。
そして全ての準備が整ったら俺達は外へ。プログワードにも死霊の伝令を飛ばしてやはり外へ。
そして全員の支度が整ったら、最後にエヴィアが一斉に破壊。それでこの城もおしまいだ。
「外とプログワードの状況はどうなっている?」
「続々と人間達が乗り込んでいるようデース。ただ道は狭いですからねー、大渋滞の様子ですよー」
「プログワードは楽しんで暴れているかな。特に変わりはないって死霊が言ってたよ」
「なら問題は――」
そう言おうとした途端、急に壁の数ヶ所が開き、ガシャガシャとけたたましい音を立てて武装した兵士達が雪崩れ込んでくる。
全部で2カ所か。ここは袋小路だと思っていたから、少々驚いた。
「あー連絡が来ていましたーね。この部屋には緊急用の隠し扉があって、そこから別の動力室に繋がっているようですよー」
「そうか……利便性と機密性、それぞれを両立した構造って事か。しかしダメだな。それとも、よほどの自信か? 俺達がここにいる間は、空けるべきでは無かったろうに」
「いえいえ、最短距離で壁を壊しながらここに来ましたからねー。その辺りは向こうも分かっていると思いますよー」
そりゃそうか。こちらが不自然に正確に進んでいる以上、その辺りは気にしても仕方がないか。
まさか魔人が透視しているとは思わないだろうし、大方こちらが地図を持っていると思っているのだろう。
「貴様たちが入り込んだ魔族か。汚らわしい貴様らネズミに慈悲を与えよう。跪き、我が裁きを受けよ」
兵士達の集団から、ひときわ立派な鎧を纏った人間が進み出る。
身長は2メートルを超すくらい。デカいにはデカいが、この巨人たちの中では少し小さい方だろうか。
他のゴテゴテした鎧と違い、体にぴったりとフィットするような形状。色は輝く様な銀だが、よく見ると削り出しの様な反射を見せる。おそらく鏡のように、内側が銀で外は水晶のような構造なのだろう。
そう考えると鎧としてはどうなのかとも思うが、実際に着て使っている。それに透明な水晶のようなパーツは重甲鎧や飛甲騎兵にも使われていたな。十分な硬度があるのだろう。
手に持つ武器はやたらと刃渡りが長い手槍。刃は1メートルくらい。幅は30センチを超えていそうだ。それが中央に持つ柄の両側に付いている。
周囲の様子から見て、あれが大将なのだろう。それも、今までいたような戦闘隊長っぽいのではない。もっと上のような印象を受ける。
というかアレだな。魔族に対して敬意を持てとは言えない世界なのだろうが、また随分な言われようだ。
余裕がそこまであるわけではないが、少し失笑しそうになる。
「無礼だな、ニンゲン。殺す前に、名を聞いておこうか」
「掛かれ! 速やかに排除せよ!」
こちらの返答もなく、攻撃命令が下る。なんか話の通じないやつだ。
まあこちらだって、今更会話をする気もない。いや、出来はしないだろう。
「今どこくらいだ?」
「夜にはまだ少し早いかな」
……そうか。夜になれば――日が沈めば世界が変わる、それはもう止まらない。止める気もない。俺が指示したのだから。
だから今は、人間と会話する事は有り得ない……。
目の前に立ち塞がった兵士を、その手に持った大盾ごと切り裂く。
振り下ろされた大斧を避け、そのまま首を飛ばす。
今までよりも少し強い気がする。去年戦った兵士達と同じくらいだろうか。
それでも、負ける気はしない――が、
ドスっという鈍い音共に、両刃槍の片方が、エヴィアの脇腹に突き刺さる。先ほどの指揮官らしい男か!?
油断した。もう少し後ろにいるものとばかり思っていた。
だが当のエヴィア本人はけろりとしたもので、まるで何事もなかったかのようにすぽりと抜ける。
いや、それだけではない。抜けた穂先は、まるで千切りにされた野菜のようにばらばらと別れ、床に落ちた。
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