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【 滅び 】
エスチネルの戦い その7
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「いたぞ、魔族だ!」
「放射開始!」
「了解、放射開始!」
配管の向こうから、真っ赤な炎が吹き付ける。
「火炎放射器か。あいつら何でもありだな」
入った配管は精々直系2メートル程度。人間の大型武器は振り回せないだろうと思いきや、世の中そんなに甘くない。
ナイフやナックル、槍に弓矢に火炎放射器と、次から次へと攻撃を仕掛けてくる。
「後ろから来る分は気にしなくても良いかな」
「それはありがたいね」
炎を切り裂いて突進し、撒き散らしていた人間を斬る。
大方予想していたとはいえ、とにかく多い。斬っても斬ってもきりがない。円形の配管内問う事もあり、ただでさえ足場が悪いのに流れてくる血で足元が滑る。
「これでも頑張ってるのよー」
よろける度にテルティルトが補助してくれるから何とかなっているが、そうでなければすっ転がって無様な姿をさらしているはずだ。
「感謝してるよ」
言いつつ目の前に繰り出された片手槍を避け、代わりに刀で斬り伏せる。
全く……少しは下がるって事を覚えて欲しいものだ。
「あー、魔王。さっきの所から5メートルほど戻り—、そこから右に20センチに別の配管デース。ソコ通ると近いネー」
「くそっ、何処だよ。とりあえず戻ろう」
疲れる! キツイ! あと何人か魔人を連れてくればよかったと後悔だ。
だけど無理な事も分かっている。なんだかんだで、向こうはこっちよりもきついことが予想されているのだ。今は頑張るしかない。
◇ ◇ ◇
そこはもう、凄惨な地獄であった。
かろうじて生き残った者は、未だ戦う者たちの姿を眺める事しか出来ない。
いや――あれを戦いと呼ぶのか?
金属壁に囲まれたこの部屋は、幅60メートル、奥行き45メートルと部屋と言うには相当に広い。
高さは24メートルで、およそ7階建ての建物に相当する。
この下には物資搬入口があり、上には飛甲騎兵の格納庫。ここは積み込んだ物資を一次収納スペースとして用いられる。
補給となれば、下に上にの大騒ぎ。次々と物資がエレベーターで運ばれ、ここから更に浮遊城各所へと運ばれる。
それはかなりの重労働だが、日々同じ訓練を繰り返している兵士達にとっては、良い息抜きであった。
今もまた、大騒ぎが行われている。しかしそれは、いつもとは違う。
金属の折れる音、金属が潰れる音、そして、人が死ぬ音が響く。
怒声、悲鳴……人間は、こんな声を発するのか。だがそんな感傷も一時。次の瞬間には、まるで暴風に弾かれた様に幾つもの重甲鎧が吹き飛ばされ、また幾つもが踏み潰される。
プログワードの力は圧倒的だった。最初から勝負になどなっていないと言って良い。
この部屋は確かに広いが、80メートルの巨体からすればあまりにも狭い。
隙間に降り立ったムーオスの兵士達は、ただ暴れるプログワードに巻き込まれただけで次々と打倒されていったのだった。
「この化け物がー!」
ハイウェンが吠え、専用の重甲鎧が突撃する。
狙いは高速で蠢く胴体部。だが早い、早すぎる。身をくねらせながら不規則に動く巨大ムカデの体になど、どうやって近づけばいいのか。
むやみに仕掛けた部下の重甲鎧は、足に引っ掛けられて真っ二つとなった。そのまま曳き潰され、今や床のシミとなっている。
とはいえ、このまま暴れさせるわけにはいかない。止めるために――倒すためにここに来たのだ。
――先ずは一撃だ……そして味方を鼓舞せねばならぬ。
細心の注意を払い、最大限の力を込め斧振るう。一撃で個の巨体が止まるとは思えないが、足の一本も切断できれば成功だ。僅かずつでも、積もり重なれば――
ビンッ――それは聞きなれない音だった。
何が起きたのかよく分からない。確かに斧は当たったはずなのに、衝撃も無い。
水晶の窓から外を覗く。そこに映った物……それは振るったはずの斧、それに持っていた右腕が無くなっている様子だった。
先程の奇妙な音、それは斧が当たった瞬間に腕が吹き飛んだ音だ。超高速で回転する工業機械に触れた様に、或いはチェーンソーを掴んだように、あっさりと千切れ何処かへ飛んでいった。
「ば、馬鹿な!?」
こんなはずはない。ムーオスの工業製品は、この世界トップクラスの品質だ。
それがこうも簡単に――有り得ない、あってはならない。
「このような事、許されざるはずが無いのだー!」
叫ぶハイウェンの背中に、プログワードの爪が突き刺さる。正しくは重甲鎧の背だ。
ハイウェンが狙っていた様に、プログワードも彼を狙っていた。
別に大将っぽいからという理由ではない。プログワードは、そんな事は気にしない。人間の編成にも興味はない。
単に大きかったからだ。そして手近だったからだ。
そして今、掴んだそれを全力で叩きつける。目的地は、彼が降りてきた昇降口。今は金属扉で塞がれている場所だ。
ガアーーン! ガアアァァーン!
上の階層に残っていた兵士達の目の前で、巨大な床扉が盛り上がってくる。
この扉は搬入口のペラペラな壁とは違う。床よりは薄いとはいえ、それでも厚さは4メートルを超える。
上には操縦席と動力部が備え付けてあり、開くときには浮遊式輸送板と同様に操作して開ける。
決して人力で動かせるようなものではない。だから、こちらから開けない限り開くはずが無いのだ。
だが今目の前で、その扉が変形する。下から突き上げるかのように、轟音と共に膨らんでくる。
しかしそれにも限界がある。これは金属だ、飴などではない。ある程度は変形させることが出来ても限界はある。床と接続されたレール。そこがある限り、この扉は万全だ。
――ガシャン。遠くで、金属が落ちたような音が響く。
それと同時に、接続部分に巨大な茶色い鎌が生えてくる。それがギリギリと金属を斬り裂きながらレールを破壊し始めると、兵士達は悲鳴を上げながら一斉に逃げ出した。
「放射開始!」
「了解、放射開始!」
配管の向こうから、真っ赤な炎が吹き付ける。
「火炎放射器か。あいつら何でもありだな」
入った配管は精々直系2メートル程度。人間の大型武器は振り回せないだろうと思いきや、世の中そんなに甘くない。
ナイフやナックル、槍に弓矢に火炎放射器と、次から次へと攻撃を仕掛けてくる。
「後ろから来る分は気にしなくても良いかな」
「それはありがたいね」
炎を切り裂いて突進し、撒き散らしていた人間を斬る。
大方予想していたとはいえ、とにかく多い。斬っても斬ってもきりがない。円形の配管内問う事もあり、ただでさえ足場が悪いのに流れてくる血で足元が滑る。
「これでも頑張ってるのよー」
よろける度にテルティルトが補助してくれるから何とかなっているが、そうでなければすっ転がって無様な姿をさらしているはずだ。
「感謝してるよ」
言いつつ目の前に繰り出された片手槍を避け、代わりに刀で斬り伏せる。
全く……少しは下がるって事を覚えて欲しいものだ。
「あー、魔王。さっきの所から5メートルほど戻り—、そこから右に20センチに別の配管デース。ソコ通ると近いネー」
「くそっ、何処だよ。とりあえず戻ろう」
疲れる! キツイ! あと何人か魔人を連れてくればよかったと後悔だ。
だけど無理な事も分かっている。なんだかんだで、向こうはこっちよりもきついことが予想されているのだ。今は頑張るしかない。
◇ ◇ ◇
そこはもう、凄惨な地獄であった。
かろうじて生き残った者は、未だ戦う者たちの姿を眺める事しか出来ない。
いや――あれを戦いと呼ぶのか?
金属壁に囲まれたこの部屋は、幅60メートル、奥行き45メートルと部屋と言うには相当に広い。
高さは24メートルで、およそ7階建ての建物に相当する。
この下には物資搬入口があり、上には飛甲騎兵の格納庫。ここは積み込んだ物資を一次収納スペースとして用いられる。
補給となれば、下に上にの大騒ぎ。次々と物資がエレベーターで運ばれ、ここから更に浮遊城各所へと運ばれる。
それはかなりの重労働だが、日々同じ訓練を繰り返している兵士達にとっては、良い息抜きであった。
今もまた、大騒ぎが行われている。しかしそれは、いつもとは違う。
金属の折れる音、金属が潰れる音、そして、人が死ぬ音が響く。
怒声、悲鳴……人間は、こんな声を発するのか。だがそんな感傷も一時。次の瞬間には、まるで暴風に弾かれた様に幾つもの重甲鎧が吹き飛ばされ、また幾つもが踏み潰される。
プログワードの力は圧倒的だった。最初から勝負になどなっていないと言って良い。
この部屋は確かに広いが、80メートルの巨体からすればあまりにも狭い。
隙間に降り立ったムーオスの兵士達は、ただ暴れるプログワードに巻き込まれただけで次々と打倒されていったのだった。
「この化け物がー!」
ハイウェンが吠え、専用の重甲鎧が突撃する。
狙いは高速で蠢く胴体部。だが早い、早すぎる。身をくねらせながら不規則に動く巨大ムカデの体になど、どうやって近づけばいいのか。
むやみに仕掛けた部下の重甲鎧は、足に引っ掛けられて真っ二つとなった。そのまま曳き潰され、今や床のシミとなっている。
とはいえ、このまま暴れさせるわけにはいかない。止めるために――倒すためにここに来たのだ。
――先ずは一撃だ……そして味方を鼓舞せねばならぬ。
細心の注意を払い、最大限の力を込め斧振るう。一撃で個の巨体が止まるとは思えないが、足の一本も切断できれば成功だ。僅かずつでも、積もり重なれば――
ビンッ――それは聞きなれない音だった。
何が起きたのかよく分からない。確かに斧は当たったはずなのに、衝撃も無い。
水晶の窓から外を覗く。そこに映った物……それは振るったはずの斧、それに持っていた右腕が無くなっている様子だった。
先程の奇妙な音、それは斧が当たった瞬間に腕が吹き飛んだ音だ。超高速で回転する工業機械に触れた様に、或いはチェーンソーを掴んだように、あっさりと千切れ何処かへ飛んでいった。
「ば、馬鹿な!?」
こんなはずはない。ムーオスの工業製品は、この世界トップクラスの品質だ。
それがこうも簡単に――有り得ない、あってはならない。
「このような事、許されざるはずが無いのだー!」
叫ぶハイウェンの背中に、プログワードの爪が突き刺さる。正しくは重甲鎧の背だ。
ハイウェンが狙っていた様に、プログワードも彼を狙っていた。
別に大将っぽいからという理由ではない。プログワードは、そんな事は気にしない。人間の編成にも興味はない。
単に大きかったからだ。そして手近だったからだ。
そして今、掴んだそれを全力で叩きつける。目的地は、彼が降りてきた昇降口。今は金属扉で塞がれている場所だ。
ガアーーン! ガアアァァーン!
上の階層に残っていた兵士達の目の前で、巨大な床扉が盛り上がってくる。
この扉は搬入口のペラペラな壁とは違う。床よりは薄いとはいえ、それでも厚さは4メートルを超える。
上には操縦席と動力部が備え付けてあり、開くときには浮遊式輸送板と同様に操作して開ける。
決して人力で動かせるようなものではない。だから、こちらから開けない限り開くはずが無いのだ。
だが今目の前で、その扉が変形する。下から突き上げるかのように、轟音と共に膨らんでくる。
しかしそれにも限界がある。これは金属だ、飴などではない。ある程度は変形させることが出来ても限界はある。床と接続されたレール。そこがある限り、この扉は万全だ。
――ガシャン。遠くで、金属が落ちたような音が響く。
それと同時に、接続部分に巨大な茶色い鎌が生えてくる。それがギリギリと金属を斬り裂きながらレールを破壊し始めると、兵士達は悲鳴を上げながら一斉に逃げ出した。
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