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【 滅び 】
エスチネルの戦い その6
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片眼鏡を装着していないと聞こえないが、耳元でピッピコピーと音が鳴る。
「魔王からだわ……ええと、道に迷ったって」
ユニカがテラーネからの通信文を読み上げる。
「うむ、視えているずぬ」
ウラーザムザザは、穴からじっと上を見つめていた。
視る――観察する――知る――それこそがウラーザムザザが持った興味だった。
巨大な目玉は、可視光線だけではない。振動や電磁波といった波長すら視ることが出来る。
魔王達の位置や状況も、まるで透過するように視えていた。
本来なら、観察するだけの魔人。いかなるものにも干渉はしない主義だ。
今までも、魔王に対して助言こそすれ、実際の護衛などはエヴィアやヨーツケールに任せっぱなしだった。
そんな自分に対し、魔王は感謝をし、博識だと敬意をもって接していた。
だが実はどうか……自分は魔王を放置していたのだ。生きるも死ぬも勝手だと、突き放していたのだ。
その事が、今は恥ずかしい。
「魔王に伝えるずん。今来た道を……」
◇ ◇ ◇
「返事がきまシータ。14.3メートル後退し、東側の壁に配管が通っているそうデスネー。壁は40センチほどなので、切断可能だそうデース」
「了解した。少し戻ろうか」
本当に、ウラーザムザザが協力してくれて助かる。
もしいなかったら、とてもじゃないが浮遊城の攻略なんて出来なかっただろう。
そういや、どっちが金属を食べて、どちらがオキアミを食べていたんだろう?
まあいいか。終わったら、欲しい方をなんとか融通できるか聞いてみよう。
◇ ◇ ◇
浮遊城エスチネル中央下層ブロック。その名の通り、城中央よりやや下に位置する巨大な四角い空間だ。
壁や床は外装や廊下などと同じ金属製。天井には多数のライトが取り付けられ、床には白と黒で描かれた何本もの線が走る。
ここは本来なら飛甲騎兵の格納庫だ。だが今は、重甲鎧に身を包んだ300人余りの兵士と、200人ほどの通常兵士が待機していた。
そんな彼らの前に、国防将軍ハイウェン・メルク・ラディーナと宰相コルキエント・イヴァ・ローボスの両名が立っていた。
両名共に、まだ鎧を着用していない。いつもと同じ、ローブの様なゆったりとした荘厳な軍服のままだ。
「それでコルキエント、そちらは任せて良いのだな?」
「うむ。こちらは人型魔族が3体だけだ。最悪でも、数で包んでから浄化の光を使えば足りよう。それよりも、問題は其方だ」
足元から、ズシンズシンと重低音の響きと、金属を叩く音が伝わってくる。
侵入して来た、巨大魔族が暴れている音だ。
このまま暴れさせたままにしておけば、やがて壁が破壊され何処かに移動するだろう。
倉庫辺りならまだよいが、動力室などの重要区画にでも入り込まれたらたまったものではない。
「なんとか浄化の光まで引っ張れれば良いのだろうが、位置が悪すぎる。あれほどの巨体が入り込むのは想定外であったからな。だが何とかしよう……それよりも陛下の事だが――」
「ハイウェンは心配し過ぎであろう。陛下はもう昔の子供ではない。何百年過保護にするつもりだ」
「そんなつもりは無い。実際、もう陛下の方が俺達よりも強い。だがな……」
ズンッ……。
部屋全体――いや、城全体が揺れ、天井から差し込むライトの光が生き物のように動く。
プログワードが与え続ける負荷に、城の動力が悲鳴を上げているのだ。
「……もう時間は無いな。コルキエント、万が一の時は陛下を頼む」
「安心しろ。だがここが我らの死に場所ではないぞ」
「分かっているさ。俺達の死に場所は、魔王を倒した先にある。ではな――各員、聞け!」
勢揃いした兵士達に出陣の指示をするハイウェン国防将軍を見ながら、コルキエントもまた自分の担当する場所へと向かったのだった。
◇ ◇ ◇
魔人プログワードは一つ上層にいた重甲鎧の集団と兵士達を殲滅すると、そのまま手近な壁を攻撃しまくっていた。
金庫の様な分厚い扉もあったが、体当たりした時に歪んで開かなくなってしまった。
ちょっと失敗したと思いつつも、その後はただひたすらに暴れていた。
自分が与えられた役割――それは暴れる事だ。
その巨体と破壊力を生かし、とにかく目立つ。魔王に敵兵を集中させないように。
そんなプログワードの上、天井が音を立てて開く。
――ヤハリウエカ。
何度か叩いてはみたものの、やはり正確な場所が分からないと上手くいかない。その点は反省だが、自分が暴れている限り人間は無視することが出来ない。遅かれ早かれ、大軍が通れる大きな通路が開いただろう。
開いたのは飛甲騎兵を下ろす為のハッチ。本来なら昇降用の浮遊式輸送板を使うが、今回は重甲鎧による直接強襲だ。
開いた箇所は5か所。そこから次々と降下する。この浮遊城に配備されていた、精鋭中の精鋭300人。
そしてプログワードの目の前には、更に巨大な重甲鎧が降下する。
全高4.2メートル幅4メートル。奥行き6メートル。それはもう、鎧とは言い難い。
上半身は鎧を着た人間を思わせるフォルムだが、下半身はスカートタイプ。脚部は無く、完全浮遊式だ。
巨大な肩当の左右には翅の様な装甲板が取り付けられ、両手それぞれに持つのは5メートルを超える両刃のハンドアックス。
塗装は他の重甲鎧の様にグレーを基調とし、頭の先から渦を書くような白い線が走る。だが他とは違い、本体塗装と白いラインの間には赤や青、緑の線が走る。
「さて、こいつが噂の魔神というやつか。人が直接倒したという話は聞かないが、だから出来ないという訳ではない。さて、俺が手本を見せてやろう」
コルキエント国防将軍の乗る重甲鎧は、けたたましいモーター音と共にプログワードに突進を開始した。
「魔王からだわ……ええと、道に迷ったって」
ユニカがテラーネからの通信文を読み上げる。
「うむ、視えているずぬ」
ウラーザムザザは、穴からじっと上を見つめていた。
視る――観察する――知る――それこそがウラーザムザザが持った興味だった。
巨大な目玉は、可視光線だけではない。振動や電磁波といった波長すら視ることが出来る。
魔王達の位置や状況も、まるで透過するように視えていた。
本来なら、観察するだけの魔人。いかなるものにも干渉はしない主義だ。
今までも、魔王に対して助言こそすれ、実際の護衛などはエヴィアやヨーツケールに任せっぱなしだった。
そんな自分に対し、魔王は感謝をし、博識だと敬意をもって接していた。
だが実はどうか……自分は魔王を放置していたのだ。生きるも死ぬも勝手だと、突き放していたのだ。
その事が、今は恥ずかしい。
「魔王に伝えるずん。今来た道を……」
◇ ◇ ◇
「返事がきまシータ。14.3メートル後退し、東側の壁に配管が通っているそうデスネー。壁は40センチほどなので、切断可能だそうデース」
「了解した。少し戻ろうか」
本当に、ウラーザムザザが協力してくれて助かる。
もしいなかったら、とてもじゃないが浮遊城の攻略なんて出来なかっただろう。
そういや、どっちが金属を食べて、どちらがオキアミを食べていたんだろう?
まあいいか。終わったら、欲しい方をなんとか融通できるか聞いてみよう。
◇ ◇ ◇
浮遊城エスチネル中央下層ブロック。その名の通り、城中央よりやや下に位置する巨大な四角い空間だ。
壁や床は外装や廊下などと同じ金属製。天井には多数のライトが取り付けられ、床には白と黒で描かれた何本もの線が走る。
ここは本来なら飛甲騎兵の格納庫だ。だが今は、重甲鎧に身を包んだ300人余りの兵士と、200人ほどの通常兵士が待機していた。
そんな彼らの前に、国防将軍ハイウェン・メルク・ラディーナと宰相コルキエント・イヴァ・ローボスの両名が立っていた。
両名共に、まだ鎧を着用していない。いつもと同じ、ローブの様なゆったりとした荘厳な軍服のままだ。
「それでコルキエント、そちらは任せて良いのだな?」
「うむ。こちらは人型魔族が3体だけだ。最悪でも、数で包んでから浄化の光を使えば足りよう。それよりも、問題は其方だ」
足元から、ズシンズシンと重低音の響きと、金属を叩く音が伝わってくる。
侵入して来た、巨大魔族が暴れている音だ。
このまま暴れさせたままにしておけば、やがて壁が破壊され何処かに移動するだろう。
倉庫辺りならまだよいが、動力室などの重要区画にでも入り込まれたらたまったものではない。
「なんとか浄化の光まで引っ張れれば良いのだろうが、位置が悪すぎる。あれほどの巨体が入り込むのは想定外であったからな。だが何とかしよう……それよりも陛下の事だが――」
「ハイウェンは心配し過ぎであろう。陛下はもう昔の子供ではない。何百年過保護にするつもりだ」
「そんなつもりは無い。実際、もう陛下の方が俺達よりも強い。だがな……」
ズンッ……。
部屋全体――いや、城全体が揺れ、天井から差し込むライトの光が生き物のように動く。
プログワードが与え続ける負荷に、城の動力が悲鳴を上げているのだ。
「……もう時間は無いな。コルキエント、万が一の時は陛下を頼む」
「安心しろ。だがここが我らの死に場所ではないぞ」
「分かっているさ。俺達の死に場所は、魔王を倒した先にある。ではな――各員、聞け!」
勢揃いした兵士達に出陣の指示をするハイウェン国防将軍を見ながら、コルキエントもまた自分の担当する場所へと向かったのだった。
◇ ◇ ◇
魔人プログワードは一つ上層にいた重甲鎧の集団と兵士達を殲滅すると、そのまま手近な壁を攻撃しまくっていた。
金庫の様な分厚い扉もあったが、体当たりした時に歪んで開かなくなってしまった。
ちょっと失敗したと思いつつも、その後はただひたすらに暴れていた。
自分が与えられた役割――それは暴れる事だ。
その巨体と破壊力を生かし、とにかく目立つ。魔王に敵兵を集中させないように。
そんなプログワードの上、天井が音を立てて開く。
――ヤハリウエカ。
何度か叩いてはみたものの、やはり正確な場所が分からないと上手くいかない。その点は反省だが、自分が暴れている限り人間は無視することが出来ない。遅かれ早かれ、大軍が通れる大きな通路が開いただろう。
開いたのは飛甲騎兵を下ろす為のハッチ。本来なら昇降用の浮遊式輸送板を使うが、今回は重甲鎧による直接強襲だ。
開いた箇所は5か所。そこから次々と降下する。この浮遊城に配備されていた、精鋭中の精鋭300人。
そしてプログワードの目の前には、更に巨大な重甲鎧が降下する。
全高4.2メートル幅4メートル。奥行き6メートル。それはもう、鎧とは言い難い。
上半身は鎧を着た人間を思わせるフォルムだが、下半身はスカートタイプ。脚部は無く、完全浮遊式だ。
巨大な肩当の左右には翅の様な装甲板が取り付けられ、両手それぞれに持つのは5メートルを超える両刃のハンドアックス。
塗装は他の重甲鎧の様にグレーを基調とし、頭の先から渦を書くような白い線が走る。だが他とは違い、本体塗装と白いラインの間には赤や青、緑の線が走る。
「さて、こいつが噂の魔神というやつか。人が直接倒したという話は聞かないが、だから出来ないという訳ではない。さて、俺が手本を見せてやろう」
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