この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 滅び 】

エスチネルの戦い その5

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 魔王達が浮遊城に乗り込んだ後、外の部隊はパニックに陥っていた。
 余りの事に、最初は誰も動くことが出来なかった。脳が理解を拒否したのだ。
 しかししっぽの先が浮遊城に完全に入ると共に、各自が状況を理解した。

 現在は階段付きの浮遊式輸送板が、外部のハッチへと続く外付け階段に接続中だ。
 元々、浮遊城は一度起動したら二度と降りる事は無い。質量が大きすぎるため、ほんのわずかな起伏でもフレームが歪み自己崩壊を起こすからだ。
 だから浮遊城への乗り込みは、こうした専用浮遊式輸送板が必要になる。
 今その階段には、重武装の兵士達が列を成して昇っていた。

 一方、魔王達が出てきた穴も兵士達の警戒対象だ。
 当然だろう、他にも何が出てくるか想像もつかない。
 浮遊城は速度を変えることなく進行しており、現在ぽつんと残されてその穴の周囲には、これまた重装備の兵士達が囲んでいる状態であった。

「状況は?」

「すでに調査隊が中に入りましたが、連絡は一切ありません。ただ戦闘の形跡もなく」

「毒か……」

 そういって穴を覗き込む。
 明かりランタンで照らされた穴は垂直で、下にずっと続いているように見える。
 厚さ10数メートルに渡るコンクリート層の下には、白いニンニク内部に掘ったかのような白い穴が続く。立ち込めるような臭いは無いが、この地に繁殖する白い苔が毒を撒き散らすのは周知の事実だ。

「急ぎ工兵隊に連絡。穴は至急塞げ! これ以上、あんなもんが出て来たらかなわん」

「かしこまりました!」

 敬礼をしてさて行く兵士を一瞥した後、指揮官は――いや、その場で手空きの兵は皆、悠然と進む浮遊城の姿を見ていた。
 人類最強の決戦兵器にして、南方国家最後の希望。あれが落ちる事になどなれば……そんな事は無いと思いつつも、ただただ兵士達は不安であった。




     ◇     ◇     ◇




「やはり降りては来なかったずみ」

 地下茎の中では、ウラーザムザザが待ち構えていた。とは言っても、降りてこない確証もあった。
 何かが潜んでいるとしても、出てくるまで待てばいいだけだ。わざわざ危険を冒して、魔族が飛び出してきた穴に入る必要は無い。
 まあよほど暇ならやるだろうが、今はそれどころではないだろう。

「来ても対処は出来ましたが、平穏無事が何よりです。それではユニカ様、お願いします」

「ええ、分かっているわ。任せて!」

 ユニカは地下茎内、ファランティアの中。
 鎧は付けず、服装は綿の粗末なシャツの上から、自分で編んだ厚手のセーターを着ている。
 下はシャツと同じく綿の膝丈下のスカートに、白のソックス。更に足元には、木製の靴を履いている。
 そこまではいつもの魔族領でのスタイルだが、今日はそれだけではない。
 左目には方眼鏡、右手には通信機を装備。そして内側が赤く、外側が黒いレザーのロングジャケットを羽織っている。これは今日の為に、ウラーザムザザやテルティルトが用意したものだった。

 ――いつでも準備は出来ているから……頑張って、魔王。

 左右上下ともに、外装と同じ金属の壁。幅も高さも5メートルはあるだろうか。かなりでかい造りだ。
 そして、この国の人間はどうやら巨人らしい。全員2メートルを余裕で超えている。
 皆肌が黒いのは、やはり南方という気候のせいなのか……。
 武器や鎧は今までの人類と変わりはないが、どうもあの身長のせいで縮尺がおかしく感じてしまう。

 だが重甲鎧ギガントアーマーとい斬り合った身からすれば、普通の人間など今更だ。
 ここに来るまでに30人は斬っただろうか。基本的に俺が最前線で、エヴィアとテラーネが付いて来ている形になっている。
 やれと命令すれば、二人とも先頭に立つだろう。だけどこれは、ある意味俺にとってのけじめみたいなものだった。

 ――手を汚さずに理想論だけ語っても、誰の心も動かせない……。

 そして平和な世界で生きて来た俺には、未だにこの世界の人間の様に、殺す覚悟も無ければ達観もしていない。
 彼らの心を動かす言葉を紡ぐには、俺自身が知らねばならない。人を殺す。命を奪う。これからの未来も、人生の可能性も全て失わせる、その意味を。

「わああああー!」

 叫びながら両手持ちの巨大な鋏のような武器を振り回してきた兵士の胴を、一刀で真っ二つに斬り裂く。
 上半身と下半身が綺麗に別れ、吐き出された大量の血は足元に大きな血がまりを作る。
 後ろには斬った者達の死体が転がり、床も壁も血まみれだ。
 しかし戦いは止まらない。それがどれだけ凄惨であっても、互いに譲れないものがあるからここに立っているのだから。


 結局100人は倒したのだろうか。後半は体力の限界が来たため、途中からはエヴィアとテラーネにやってもらった。
 息が上がり、立つことすら難しい。血だまりとなった床に、べしゃりと腰を落とす。
 とても人間には見せられないみっともない姿だが、俺の調べた限りではこの世界に監視カメラは無い。まあ大丈夫だろう。

 それにしても……。

 ――床に血が溜まったままか……排水溝の類は無いな。となると――、

「貴方の予想通りデース。毒が撒かれていマースね。まあ、テルティルトは防いでいますヨー」

「命のやり取りとはいえ、結構えげつないな」

 そうも思うが、お互い様でもある。それに、この作戦前に魔人たちに下した指示に比べれば、毒程度些細なものだろう……。

「まあそれよりも、それは何とかならないか?」

 目の前にあるのは、巨大な金庫のような分厚い金属扉。
 見たところロックされている。こちらから開けられそうにはない。

「ダメかな。やっぱりこちらからは開かないよ」

「厄介だな」

 この城の構造は分からないが、浮遊城はどれも似通ったものだろう。
 無限図書館で見た他の設計図から考えれば、下層の金属壁は最低でも厚さ5メートル程だ。こんな物、掘り進むわけにはいかない。

「テラーネ、ユニカに連絡を取ってくれ。どうも道に迷ったようだ」

「了解デースね」

 返事と同時に、テラーネは胸の谷間からにゅるっと一つの大きな通信機を取り出した。
 人間が使う文明の利器だ。
 そして腰の辺りから片眼鏡を取り出し装着する。どこから出しているかは、まあ考えるまでもないな。エヴィアのセーターやメモ帳と一緒で、体の中に収納しているのだろう。

 俺はまだ通信機を使えないが、テラーネが使えるようになったのは大きい。というより、俺の為に使えるようになってくれたのだ。
 だが使う姿を見るのは今回が初めてとなる。魔人は一体、通信機をどのように使うのだろうか?

 ――ったのだが、指をひょいひょいと通信機の上で動かすだけで終わってしまった。
 拍子抜けだと思ったこちらの考えを察したのだろう――。

「浮遊城は、それ自体が大きな中継所デース。特別な事は何も、必要ありまセーンね」

 とすると、ユニカも普通に使えているのだろうな。ちょっと悔しい。
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