この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

文字の大きさ
上 下
330 / 425
【 滅び 】

年が明けて 中編

しおりを挟む
 碧色の祝福に守られし栄光暦219年1月1日。
 夜が明けるわずか前、相和義輝あいわよしきは杖を突き、ユニカとエヴィアに支えられながら外に出ていた。
 タイミングは今しかない――そう聞いていたからだ。

 この年末年始の間でも、上空では忙しなくムーオス自由帝国の重飛甲母艦とやらが飛び回っている。
 彼等は地図を作りながら、偵察をし、また探している。俺や強力な魔族――魔人達を。
 しかしその数も無限という訳ではない。結構間隔は開いており、今がそのチャンスという訳だ。

 海岸線に着いた時、そこには多くの者達がひしめいていた。
 右も左も、そして奥も。水平線の彼方まで無数の生き物で埋まっている。
 巨大なヒトデ。ヤドカリや魚、イカやタコ。そして空を飛んでいる者もいる。それらはドラゴンや翼竜、巨鳥のような姿から、エイやサメの姿も混じる。
 全員、姿を見れば名前が分かる……数千万の魔人達。

「彼らが、海へ行った魔人たちか。沢山いるんだな」

「全員反省しているよ。怒らないであげて欲しいかな」

 エヴィアは少し神妙ではあるが――

「怒るとか反省とか……そんな気持ちは無いし、要らないよ」

 俺自身、彼等には何のわだかまりも無い。皆それぞれ、自分の考えを持って生きている。それは、人も魔人も同じだ。
 後ろから、テラーネやファランティアが来ているのが判る。それにヨーヌやアン・ラ・サムも来ているな。
 ラジエヴは来ていないようだが、久々に勢ぞろいだ。
 そして海からは、2体の魔人がやってくる。

 一体は、四つ足のワニを思わせる大きな白い体に巨大な一つ目。背中には全裸の丸々とした女性が乗っている。ウラーザムザザだ。
 今は北極から帰ってくる季節。久しぶりの再会となる。

 もう一体は、目の無い直立歩行のサンショウオとでも表現すればいいのだろうか。背は3メートル程か。全身は青く、異常なほどに手足が長い。口は大きく開き、その中には細かな人間の歯がびっしりと生えている。
 今更だが名前が分かる。まあこの状態で、魔人じゃないのが来たら別の意味で驚くよ。
 魔人ケルケ・オビ。それが、この山椒尾サンショウオのような魔人の名だ。

「初めまして、魔王よ。ここに集まった魔人を代表して話をしよう。先ずは一つ謝るべきだな。我等は、最初から君を諦めていた。何一つ期待していなかった。先代魔王の最後の我が儘、その結果。ただそれだけの存在であると決めつけていた」

 薄明りに照らされた海岸に、紳士的な張りのある声が響く。

「いいさ、そんな事は。それよりも、ここに集まっているって事は期待して良いんだな?」

「当然だ、魔王。むしろこちらが期待している。何を見せてくれる? 何をさせてくれる? ヨーツケールの遺志を、我等は聞いた。さあ、望む事を聞かせてくれ。如何なる願いでも、共に叶えよう」

 性格はそれぞれなのだろうが、『叶えてやる』ではなく『共に叶えよう』と言ったケルケ・オビの言葉に、俺はとても強い好意を感じた。どうやら上手くやっていけそうだ。

「揺り籠という兵器を知っていると思う。色々考えたが、あれはダメだ。これ以上の放置は絶対に出来ない」

「ならばどう――ほほう? 良いのか?」

「俺の心にある通りだ。やる――だから、協力して欲しい」

「勿論、行おう。全ては魔王の意思のままに」

「感謝するよ。それとウラーザムザザ、戻ってすぐで悪いんだが……」

「気にする事は無いずむ。こちらも、そろそろ本腰を入れて協力させてもらうずら」

 そう言うと、ウラーザムザザの体を覆っていた芋虫たちが見る間に剥がれ、海へと移動していく。
 残されたのは、鳩のような翼を持つ巨大な一つ目。以前にも見たことがあるが、これが本来のウラーザムザザだ。

(本当に海洋生物だったのか……芋虫アレは)

「しばらく虫たちとはお別れだずな。これからは当分、魔王と行動を共にするずえ」

「それはありがたい。これからもよろしく頼む」

 海へ帰っていった芋虫たちが他の魔人たちにモグモグ食べられているが、あれは良いんだろうか? まるで孵化したウミガメの様だ。
 そんな事を考えながらも、これからやりたいことを考える。
 心を落ち着かせ、意識を天空へと移す。我ながら、随分と慣れたものだ。

 まだ当分、この周囲に人間の兵器は来ない。
 白き苔の領域に出来つつある道は、もうじき完成するだろう……が、まだ少しかかりそうだ。

「ムーオスの方はまだ少し時間があるな。じゃあ、東側の壁の方を何とかしよう。それぞれ得意なやり方があるだろう? やることは決まっている。やれる魔人が、やれるようにやってくれ」

 これから、世界の状況は大きく変わる。いや、変える。
 いざという時、直ぐにオスピアと連絡を取れる体制が必要だ。
 だがふと、マリッカの事を思い出す。

 『いつかあなたは壁を破壊し、人間を滅ぼすでしょう』

 確か、そんな感じの事を言っていた気がするな。
 だけど大丈夫だ。俺がしっかりと人間との和平を考えている限り、決してそんな事にはならない。魔人達も曲解はしないだろう。だから問題は無いさ。

「まだ少し時間があるな……じゃあ、俺の世界の話をしよう。地球という星の話だ」


 相和義輝あいわよしきのその言葉を合図とするように、一斉に魔人達が海から上がる。
 皆、魔王に興味があったのだ。だが怖かったのだ、魔王に会う事が。魔王が自分たちを捨てることが。そしていつかは、この世界を滅ぼさねばならない事が。

 だがこの魔王と共にあった魔人ヨーツケールは、ただ『楽しい』という事だけを伝えてきた。その先を知りたいのなら、自ら赴けという事だ。
 そして魔王は死んだ。だがこの世界を捨てなかった。まだここに留まり、魔王というシステムを守ってくれるというのだ。
 試すことは、もう十分だろう。これ以上疑う事は、失礼というものだ。
 そう考えた魔人達が、世界中から集結する。今もこの近辺を目指し、多くの魔人たちが旅をしている最中であった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...