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【 滅び 】
年が明けて 中編
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碧色の祝福に守られし栄光暦219年1月1日。
夜が明ける僅か前、相和義輝は杖を突き、ユニカとエヴィアに支えられながら外に出ていた。
タイミングは今しかない――そう聞いていたからだ。
この年末年始の間でも、上空では忙しなくムーオス自由帝国の重飛甲母艦とやらが飛び回っている。
彼等は地図を作りながら、偵察をし、また探している。俺や強力な魔族――魔人達を。
しかしその数も無限という訳ではない。結構間隔は開いており、今がそのチャンスという訳だ。
海岸線に着いた時、そこには多くの者達がひしめいていた。
右も左も、そして奥も。水平線の彼方まで無数の生き物で埋まっている。
巨大なヒトデ。ヤドカリや魚、イカやタコ。そして空を飛んでいる者もいる。それらはドラゴンや翼竜、巨鳥のような姿から、エイやサメの姿も混じる。
全員、姿を見れば名前が分かる……数千万の魔人達。
「彼らが、海へ行った魔人たちか。沢山いるんだな」
「全員反省しているよ。怒らないであげて欲しいかな」
エヴィアは少し神妙ではあるが――
「怒るとか反省とか……そんな気持ちは無いし、要らないよ」
俺自身、彼等には何のわだかまりも無い。皆それぞれ、自分の考えを持って生きている。それは、人も魔人も同じだ。
後ろから、テラーネやファランティアが来ているのが判る。それにヨーヌやアン・ラ・サムも来ているな。
ラジエヴは来ていないようだが、久々に勢ぞろいだ。
そして海からは、2体の魔人がやってくる。
一体は、四つ足のワニを思わせる大きな白い体に巨大な一つ目。背中には全裸の丸々とした女性が乗っている。ウラーザムザザだ。
今は北極から帰ってくる季節。久しぶりの再会となる。
もう一体は、目の無い直立歩行のサンショウオとでも表現すればいいのだろうか。背は3メートル程か。全身は青く、異常なほどに手足が長い。口は大きく開き、その中には細かな人間の歯がびっしりと生えている。
今更だが名前が分かる。まあこの状態で、魔人じゃないのが来たら別の意味で驚くよ。
魔人ケルケ・オビ。それが、この山椒尾のような魔人の名だ。
「初めまして、魔王よ。ここに集まった魔人を代表して話をしよう。先ずは一つ謝るべきだな。我等は、最初から君を諦めていた。何一つ期待していなかった。先代魔王の最後の我が儘、その結果。ただそれだけの存在であると決めつけていた」
薄明りに照らされた海岸に、紳士的な張りのある声が響く。
「いいさ、そんな事は。それよりも、ここに集まっているって事は期待して良いんだな?」
「当然だ、魔王。むしろこちらが期待している。何を見せてくれる? 何をさせてくれる? ヨーツケールの遺志を、我等は聞いた。さあ、望む事を聞かせてくれ。如何なる願いでも、共に叶えよう」
性格はそれぞれなのだろうが、『叶えてやる』ではなく『共に叶えよう』と言ったケルケ・オビの言葉に、俺はとても強い好意を感じた。どうやら上手くやっていけそうだ。
「揺り籠という兵器を知っていると思う。色々考えたが、あれはダメだ。これ以上の放置は絶対に出来ない」
「ならばどう――ほほう? 良いのか?」
「俺の心にある通りだ。やる――だから、協力して欲しい」
「勿論、行おう。全ては魔王の意思のままに」
「感謝するよ。それとウラーザムザザ、戻ってすぐで悪いんだが……」
「気にする事は無いずむ。こちらも、そろそろ本腰を入れて協力させてもらうずら」
そう言うと、ウラーザムザザの体を覆っていた芋虫たちが見る間に剥がれ、海へと移動していく。
残されたのは、鳩のような翼を持つ巨大な一つ目。以前にも見たことがあるが、これが本来のウラーザムザザだ。
(本当に海洋生物だったのか……芋虫は)
「しばらく虫たちとはお別れだずな。これからは当分、魔王と行動を共にするずえ」
「それはありがたい。これからもよろしく頼む」
海へ帰っていった芋虫たちが他の魔人たちにモグモグ食べられているが、あれは良いんだろうか? まるで孵化したウミガメの様だ。
そんな事を考えながらも、これからやりたいことを考える。
心を落ち着かせ、意識を天空へと移す。我ながら、随分と慣れたものだ。
まだ当分、この周囲に人間の兵器は来ない。
白き苔の領域に出来つつある道は、もうじき完成するだろう……が、まだ少しかかりそうだ。
「ムーオスの方はまだ少し時間があるな。じゃあ、東側の壁の方を何とかしよう。それぞれ得意なやり方があるだろう? やることは決まっている。やれる魔人が、やれるようにやってくれ」
これから、世界の状況は大きく変わる。いや、変える。
いざという時、直ぐにオスピアと連絡を取れる体制が必要だ。
だがふと、マリッカの事を思い出す。
『いつかあなたは壁を破壊し、人間を滅ぼすでしょう』
確か、そんな感じの事を言っていた気がするな。
だけど大丈夫だ。俺がしっかりと人間との和平を考えている限り、決してそんな事にはならない。魔人達も曲解はしないだろう。だから問題は無いさ。
「まだ少し時間があるな……じゃあ、俺の世界の話をしよう。地球という星の話だ」
相和義輝のその言葉を合図とするように、一斉に魔人達が海から上がる。
皆、魔王に興味があったのだ。だが怖かったのだ、魔王に会う事が。魔王が自分たちを捨てることが。そしていつかは、この世界を滅ぼさねばならない事が。
だがこの魔王と共にあった魔人ヨーツケールは、ただ『楽しい』という事だけを伝えてきた。その先を知りたいのなら、自ら赴けという事だ。
そして魔王は死んだ。だがこの世界を捨てなかった。まだここに留まり、魔王というシステムを守ってくれるというのだ。
試すことは、もう十分だろう。これ以上疑う事は、失礼というものだ。
そう考えた魔人達が、世界中から集結する。今もこの近辺を目指し、多くの魔人たちが旅をしている最中であった。
夜が明ける僅か前、相和義輝は杖を突き、ユニカとエヴィアに支えられながら外に出ていた。
タイミングは今しかない――そう聞いていたからだ。
この年末年始の間でも、上空では忙しなくムーオス自由帝国の重飛甲母艦とやらが飛び回っている。
彼等は地図を作りながら、偵察をし、また探している。俺や強力な魔族――魔人達を。
しかしその数も無限という訳ではない。結構間隔は開いており、今がそのチャンスという訳だ。
海岸線に着いた時、そこには多くの者達がひしめいていた。
右も左も、そして奥も。水平線の彼方まで無数の生き物で埋まっている。
巨大なヒトデ。ヤドカリや魚、イカやタコ。そして空を飛んでいる者もいる。それらはドラゴンや翼竜、巨鳥のような姿から、エイやサメの姿も混じる。
全員、姿を見れば名前が分かる……数千万の魔人達。
「彼らが、海へ行った魔人たちか。沢山いるんだな」
「全員反省しているよ。怒らないであげて欲しいかな」
エヴィアは少し神妙ではあるが――
「怒るとか反省とか……そんな気持ちは無いし、要らないよ」
俺自身、彼等には何のわだかまりも無い。皆それぞれ、自分の考えを持って生きている。それは、人も魔人も同じだ。
後ろから、テラーネやファランティアが来ているのが判る。それにヨーヌやアン・ラ・サムも来ているな。
ラジエヴは来ていないようだが、久々に勢ぞろいだ。
そして海からは、2体の魔人がやってくる。
一体は、四つ足のワニを思わせる大きな白い体に巨大な一つ目。背中には全裸の丸々とした女性が乗っている。ウラーザムザザだ。
今は北極から帰ってくる季節。久しぶりの再会となる。
もう一体は、目の無い直立歩行のサンショウオとでも表現すればいいのだろうか。背は3メートル程か。全身は青く、異常なほどに手足が長い。口は大きく開き、その中には細かな人間の歯がびっしりと生えている。
今更だが名前が分かる。まあこの状態で、魔人じゃないのが来たら別の意味で驚くよ。
魔人ケルケ・オビ。それが、この山椒尾のような魔人の名だ。
「初めまして、魔王よ。ここに集まった魔人を代表して話をしよう。先ずは一つ謝るべきだな。我等は、最初から君を諦めていた。何一つ期待していなかった。先代魔王の最後の我が儘、その結果。ただそれだけの存在であると決めつけていた」
薄明りに照らされた海岸に、紳士的な張りのある声が響く。
「いいさ、そんな事は。それよりも、ここに集まっているって事は期待して良いんだな?」
「当然だ、魔王。むしろこちらが期待している。何を見せてくれる? 何をさせてくれる? ヨーツケールの遺志を、我等は聞いた。さあ、望む事を聞かせてくれ。如何なる願いでも、共に叶えよう」
性格はそれぞれなのだろうが、『叶えてやる』ではなく『共に叶えよう』と言ったケルケ・オビの言葉に、俺はとても強い好意を感じた。どうやら上手くやっていけそうだ。
「揺り籠という兵器を知っていると思う。色々考えたが、あれはダメだ。これ以上の放置は絶対に出来ない」
「ならばどう――ほほう? 良いのか?」
「俺の心にある通りだ。やる――だから、協力して欲しい」
「勿論、行おう。全ては魔王の意思のままに」
「感謝するよ。それとウラーザムザザ、戻ってすぐで悪いんだが……」
「気にする事は無いずむ。こちらも、そろそろ本腰を入れて協力させてもらうずら」
そう言うと、ウラーザムザザの体を覆っていた芋虫たちが見る間に剥がれ、海へと移動していく。
残されたのは、鳩のような翼を持つ巨大な一つ目。以前にも見たことがあるが、これが本来のウラーザムザザだ。
(本当に海洋生物だったのか……芋虫は)
「しばらく虫たちとはお別れだずな。これからは当分、魔王と行動を共にするずえ」
「それはありがたい。これからもよろしく頼む」
海へ帰っていった芋虫たちが他の魔人たちにモグモグ食べられているが、あれは良いんだろうか? まるで孵化したウミガメの様だ。
そんな事を考えながらも、これからやりたいことを考える。
心を落ち着かせ、意識を天空へと移す。我ながら、随分と慣れたものだ。
まだ当分、この周囲に人間の兵器は来ない。
白き苔の領域に出来つつある道は、もうじき完成するだろう……が、まだ少しかかりそうだ。
「ムーオスの方はまだ少し時間があるな。じゃあ、東側の壁の方を何とかしよう。それぞれ得意なやり方があるだろう? やることは決まっている。やれる魔人が、やれるようにやってくれ」
これから、世界の状況は大きく変わる。いや、変える。
いざという時、直ぐにオスピアと連絡を取れる体制が必要だ。
だがふと、マリッカの事を思い出す。
『いつかあなたは壁を破壊し、人間を滅ぼすでしょう』
確か、そんな感じの事を言っていた気がするな。
だけど大丈夫だ。俺がしっかりと人間との和平を考えている限り、決してそんな事にはならない。魔人達も曲解はしないだろう。だから問題は無いさ。
「まだ少し時間があるな……じゃあ、俺の世界の話をしよう。地球という星の話だ」
相和義輝のその言葉を合図とするように、一斉に魔人達が海から上がる。
皆、魔王に興味があったのだ。だが怖かったのだ、魔王に会う事が。魔王が自分たちを捨てることが。そしていつかは、この世界を滅ぼさねばならない事が。
だがこの魔王と共にあった魔人ヨーツケールは、ただ『楽しい』という事だけを伝えてきた。その先を知りたいのなら、自ら赴けという事だ。
そして魔王は死んだ。だがこの世界を捨てなかった。まだここに留まり、魔王というシステムを守ってくれるというのだ。
試すことは、もう十分だろう。これ以上疑う事は、失礼というものだ。
そう考えた魔人達が、世界中から集結する。今もこの近辺を目指し、多くの魔人たちが旅をしている最中であった。
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