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【 魔族と人と 】
復活 前編
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碧色の祝福に守られし栄光暦218年10月19日。
真っ暗な闇の中で、クラキア・ゲルトカイムは目を覚ました。
――ここは……。
何も見えない暗闇の世界。地面は土だろうか? いや、もっと固い。岩石……覚えがある――というか、忘れるはずもない。ここは、炎と石獣の領域だ。
その上に大量の布が敷いてあり、そこに寝かされていたことに気づく。
感覚で分かる……鎧どころか服も身につけていない。下着もだ。
確か致命傷を負ったはずだったはずだ……そう考えて腹部を触ると、微かに塞がった傷口の様な感触がある。
本当に少しだけ。こんなに浅くはなかったはずだ。
――何かされたのかしら。でも、誰に?
だがそんな事よりも、ここが何処かの方が需要だ。それに戦況の方も気になる。
――明かりが欲しいけど、炎の魔法を使って良いものかしら?
いや、そんな訳は無いと考えを消す。ここが軍テントだったら大惨事だ。下手をすれば自殺になりかねない。
冷静に観察するが、空気の流れを感じない。坑道の中だろうか?
だがひんやりとした坑道と違い、ここは温かい。
右手を頭の上に伸ばしながら、ゆっくりと立ち上がる。
立ち上がっても天井に手は届かない。結構な高さがあるようだ。
匂いからは、生活臭を感じない。人の気配も感じない。やはり坑道の中で間違いないのだろうか?
声を発していいか悩みどころだ。少なくとも、自分は生かされている。
ではここは友軍の拠点かといえば、そんな訳が無いだろう。医療設備であれば、24時間体制だ。一寸先も見えない闇の中など有り得ない。
だが本当にそうか? 石獣により明かりが攻撃された跡なら? そして、ここにいた人間は全員死んでいるとしたら?
やはりのんびりはしていられない。万が一の時は理由を説明すればいい。
天井に向けて魔法を放つ――いや、放とうとした瞬間――
「目覚めたか」
暗闇の中から声が響く。いや、声というより音。石の中から響く様な、不気味な音が声のように感じられるといった方が良いだろう。
人ではない!? そう直感し、すぐさま魔法を使う。目標は天井ではなく、音のした方向だ。
一瞬広がって発生した炎の網が、声がした辺りにに収縮する。そしてその網が捕えたもの――それは、数日前に戦い、アルダシルを葬った蛸の様な魔族……いや、魔神だった。
壊したはずの八角柱は新品同様になっており、忙しなく動く触手の先端が見える。
照らされた世界は、まさしく坑道だ。円形に刳り貫かれたような地形。直径は5メートル程だろうか。大型武器であれば、多少戦闘に支障をきたす程か。
だがそもそも武器は無い。周りを見渡すと、服、下着にレオタード、それに鎧がきちんと整理されて置かれている。しかしやはり、武器は置いていない。
自分は思った通りの真っ裸。そして蛸の魔神は、煩わしそうに炎の網をいとも容易く剥がす。
どうしてこうして生かされたのかは分からない。だが絶対絶命だ。
「元気になったのなら……早く出て行って欲しいが……今は不可能だ」
「どういうつもりかしら……」
「この領域は……溶岩に…………包まれた。出口は……無い」
ゆっくりと言葉を選ぶように、意味ある音が伝わってくる。
溶岩? ……この領域を攻略するにあたって、その辺りの事は勉強済みだ。
前回の攻略戦では、魔王を倒した後に溶岩が噴出。領域への立ち入りは出来なくなったという。であるのなら……。
「魔王は死んだのかしら?」
その質問に、ラジエヴは熟考した。
元々言葉による会話を得意としているわけではない。魔王に連絡をする為に最低限覚えた程度だ。
それに魔王に関しては極秘事項が多い。魔王のシステムを維持するためには、人間に知られてはいけない事が多すぎるのだ。
1時間ほどが経過した頃、目の前の人間は座り込んでいた。まだ立ち上がって何かできるほど回復はしていない。当然だろう。
考えに考えた結果、完成した文面を読み上げる。
「魔王は死んだ。だが生きている」
その言葉を聞いて、クラキアは心の中でため息をついていた。
――意味が分からない……。
確実なのは、今は目の前の魔神が襲っては来ないと言う事だけだ。
だが神などは気まぐれなものだ。しかも魔族の神である。人間になど図りようがない。
早くも疲労がピークに達し、ごろりと横になる。
「先ほどの質問に答えていませんわね。私をどうするのです? 最初に断っておきますが、魔族を利することなど一切行いませんからね。不満があるのでしたら、どうぞご自由に」
「では栄養補給と排泄を済ませるとしよう」
「は? え? む、むぐぐううううう!」
口から触手を一本突っ込み、胃に直接栄養素を流し込む。
この領域に地底湖に住む小魚やエビ等を細かくペースト状にしたものだ。
そして尿道と直腸に別の触手を突っ込み、中の排せつ物を全て汲み取る。
既に経験済みの行為であり、ラジエヴは手慣れたものだ。
相和義輝はエヴィアが初めての相手だと思っていたが、そうでは無い。
最初のお相手は、ラジエヴの触手だったのである。
こうして魔人ラジエヴと、スパイセン王国国王クラキア・ゲルトカイムの奇妙な共同生活が始まった。
真っ暗な闇の中で、クラキア・ゲルトカイムは目を覚ました。
――ここは……。
何も見えない暗闇の世界。地面は土だろうか? いや、もっと固い。岩石……覚えがある――というか、忘れるはずもない。ここは、炎と石獣の領域だ。
その上に大量の布が敷いてあり、そこに寝かされていたことに気づく。
感覚で分かる……鎧どころか服も身につけていない。下着もだ。
確か致命傷を負ったはずだったはずだ……そう考えて腹部を触ると、微かに塞がった傷口の様な感触がある。
本当に少しだけ。こんなに浅くはなかったはずだ。
――何かされたのかしら。でも、誰に?
だがそんな事よりも、ここが何処かの方が需要だ。それに戦況の方も気になる。
――明かりが欲しいけど、炎の魔法を使って良いものかしら?
いや、そんな訳は無いと考えを消す。ここが軍テントだったら大惨事だ。下手をすれば自殺になりかねない。
冷静に観察するが、空気の流れを感じない。坑道の中だろうか?
だがひんやりとした坑道と違い、ここは温かい。
右手を頭の上に伸ばしながら、ゆっくりと立ち上がる。
立ち上がっても天井に手は届かない。結構な高さがあるようだ。
匂いからは、生活臭を感じない。人の気配も感じない。やはり坑道の中で間違いないのだろうか?
声を発していいか悩みどころだ。少なくとも、自分は生かされている。
ではここは友軍の拠点かといえば、そんな訳が無いだろう。医療設備であれば、24時間体制だ。一寸先も見えない闇の中など有り得ない。
だが本当にそうか? 石獣により明かりが攻撃された跡なら? そして、ここにいた人間は全員死んでいるとしたら?
やはりのんびりはしていられない。万が一の時は理由を説明すればいい。
天井に向けて魔法を放つ――いや、放とうとした瞬間――
「目覚めたか」
暗闇の中から声が響く。いや、声というより音。石の中から響く様な、不気味な音が声のように感じられるといった方が良いだろう。
人ではない!? そう直感し、すぐさま魔法を使う。目標は天井ではなく、音のした方向だ。
一瞬広がって発生した炎の網が、声がした辺りにに収縮する。そしてその網が捕えたもの――それは、数日前に戦い、アルダシルを葬った蛸の様な魔族……いや、魔神だった。
壊したはずの八角柱は新品同様になっており、忙しなく動く触手の先端が見える。
照らされた世界は、まさしく坑道だ。円形に刳り貫かれたような地形。直径は5メートル程だろうか。大型武器であれば、多少戦闘に支障をきたす程か。
だがそもそも武器は無い。周りを見渡すと、服、下着にレオタード、それに鎧がきちんと整理されて置かれている。しかしやはり、武器は置いていない。
自分は思った通りの真っ裸。そして蛸の魔神は、煩わしそうに炎の網をいとも容易く剥がす。
どうしてこうして生かされたのかは分からない。だが絶対絶命だ。
「元気になったのなら……早く出て行って欲しいが……今は不可能だ」
「どういうつもりかしら……」
「この領域は……溶岩に…………包まれた。出口は……無い」
ゆっくりと言葉を選ぶように、意味ある音が伝わってくる。
溶岩? ……この領域を攻略するにあたって、その辺りの事は勉強済みだ。
前回の攻略戦では、魔王を倒した後に溶岩が噴出。領域への立ち入りは出来なくなったという。であるのなら……。
「魔王は死んだのかしら?」
その質問に、ラジエヴは熟考した。
元々言葉による会話を得意としているわけではない。魔王に連絡をする為に最低限覚えた程度だ。
それに魔王に関しては極秘事項が多い。魔王のシステムを維持するためには、人間に知られてはいけない事が多すぎるのだ。
1時間ほどが経過した頃、目の前の人間は座り込んでいた。まだ立ち上がって何かできるほど回復はしていない。当然だろう。
考えに考えた結果、完成した文面を読み上げる。
「魔王は死んだ。だが生きている」
その言葉を聞いて、クラキアは心の中でため息をついていた。
――意味が分からない……。
確実なのは、今は目の前の魔神が襲っては来ないと言う事だけだ。
だが神などは気まぐれなものだ。しかも魔族の神である。人間になど図りようがない。
早くも疲労がピークに達し、ごろりと横になる。
「先ほどの質問に答えていませんわね。私をどうするのです? 最初に断っておきますが、魔族を利することなど一切行いませんからね。不満があるのでしたら、どうぞご自由に」
「では栄養補給と排泄を済ませるとしよう」
「は? え? む、むぐぐううううう!」
口から触手を一本突っ込み、胃に直接栄養素を流し込む。
この領域に地底湖に住む小魚やエビ等を細かくペースト状にしたものだ。
そして尿道と直腸に別の触手を突っ込み、中の排せつ物を全て汲み取る。
既に経験済みの行為であり、ラジエヴは手慣れたものだ。
相和義輝はエヴィアが初めての相手だと思っていたが、そうでは無い。
最初のお相手は、ラジエヴの触手だったのである。
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