この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 魔族と人と 】

一つの戦いの終わり 後編

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「……オヤオヤ、コレはまた、偶然とは面白いものデス」

 濁流となった溶岩に呑まれ焼かれながら、何とか針葉樹の森に入ったのは、もうすっかり暗くなった頃だった。
 相当に遅れてしまったが、急がなければならない。
 だがしかし、この体でどこまで修理が出来るのか? その点には疑問が残る。
 少しずるなら治せよう。だがその間、魔王の体はもつのだろうか。

 そんな事を考えながら移動していたゲルニッヒの前に、それは転がっていた。
 大きな生物の一部。スースィリアの右顎牙みぎがくしだ。そしてその中には、スースィリアの本体が入っていた。
 当然、魔王の死は知っている。これは全ての魔人が感じていた。それと同時に、魔王がこの世から消えていない事も分かる。
 一刻も早く魔王の元へ行きたい。だがこの状態では、動けるようになるだけでも1か月以上かかるだろう。
 スースィリアは、激しい焦りの中にあった。

 その姿を見て、ゲルニッヒはある一つの提案を持ち掛けた。

「ドウデショウ? 我らは再び、一つに戻りマセンカ?」

 スースィリアに応えることは出来ない。発声器官を失っていたのだから。
 だが魔人同士は、互いに言葉を必要としない。

「エエ、ソウデス。一刻も早く魔王の元へ行き、修復しなければなりマセン。デスガ、コノままでは難しいデショウ」

 …………。

「ソノ通りデス。貴方の言いたい事も分かりマス。大きい体であってこそ、魔王の役に立てることもあるデショウ。ダカラ我らは一つとなり、その後再ビ……」

 ゲルニッヒの根が、スースィリアの残骸へと入って行く。
 そして両者は白く崩れ、丸くなり、やがて完全に一つへと溶け合った。




 ◇     ◇     ◇




「……遅い。ゲルニッヒはまだか?」

 もう体が動かない。斬り落とされた右腕はエヴィアが保管しているが、右手だけあってもしょうがない。
 体の崩壊は目に見えて感じる。何と言うか感覚はないが、熱湯で煮続けている感じだ。
 末端は煮崩れしてふやけている……そんなイメージが浮かぶ。

 ――ガサ。

 そんな時、蔓草つるくさを踏み鳴らし誰かがやって来る。

「お待たせシマシータ、魔王」

「いや誰だよお前……」

 姿を見れば名前が分かる。魔人だ。魔人テラーネ。しかしまあ……。
 形は人間だ。それも女性。身長は160を少し超えたくらいだろうか。
 艶のある黒い髪。俺よりも少し色素の薄い肌。目が大きく、美人というより少し可愛い系だろう。年齢は16歳から17歳程に感じられる。パッと見、深層のご令嬢というイメージだろう。
 全体的には、俺と同じ人種。そして高校生くらいか。だが見た目のような若さを全く感じない。
 そして目のやり場に困るほどデカい胸に、細い腰、形のいいお尻。それらを包むのは、これまた扇情的な、布面積の少ない黒ビキニだ。
 一応腰に太い革性のベルトを巻いているが、おそらく兵隊の死体から拾ってきたのだろう。
 そう考えるとこのビキニもそうか? 誰が何のために持ち込んだのやら。

「というかお前、中身はゲルニッヒだろ?」

「中の人などイマセーンよ、魔王。しかし当たらずとも遠からずデス。よく分かりましターネ」

 昔の棒読みではない、しっかりとした抑揚のある言葉。だがイントネーションがおかしい。
 茶道でも嗜んでいそうな和風少女の中身がエセ外人でした……そんな違和感がある。

「まあいいや。間に合ったと言って良いのか? 大分壊れてしまった実感があるよ。まだ何とかなるのなら、修復を頼む」

 俺の言葉に合わせ、テルティルトがぺろりと剥がれる。
 改めて見ると、酷いものだ。
 右手は綺麗に切断され、心臓に穴も開いている。手足は凍傷の様に腫れあがり、ボロボロと崩れているのが分かる。これは相当にマズい。

「ご心配は分かりマース。デスガー、ご安心ください。必ずや日常生活に支障がないほどまでには、修復いたしまショー」

 そう言ってビキニのブラを外すと、その巨大な乳房の間に俺を挟み込む。
 一瞬うわわと思ったがあ、何の事は無い。そのままずぶずぶと体の中にめり込んでいく。うん、ゲルニッヒの時とこの辺りは分からんな。

 ただ傍目にはトップレスの美少女が全裸の俺といかがわしい事をやっているように見えなくもない。
 まあ見ているのはエヴィアとテルティルトくらいだし問題無いだろう。
 一方、そのテルティルトは俺から剥がれると、丸くなって動かなくなってしまった。

「かなり消耗しているかな。今は少し休ませてあげると良いよ」

 そうか……俺の事ばかり考えていたが、夜通し走り回っていたのはテルティルトも同じだ。むしろ負担は俺より大きかっただろう。

「よく頑張ってくれたな」

 残った左手で、ぷにぷにした体をそっと撫でる。
 僅かに反応した様な気がしたが、俺は直ぐに、それどころではばくなった。
 不意に目の前に、バッサバッサと翼の音を立てファランティアが飛来する。

「最後の時の可能性を鑑み、ユニカ様をお連れ致しました」

「お前らわざとやってるだろ!」

 ファランティアから降り立ったユニカのぷくーっとした顔を見ながら、俺は言い訳を一生懸命考えていたのだった。
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