この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

文字の大きさ
上 下
318 / 425
【 魔族と人と 】

決着 前編

しおりを挟む
 目の前に落ちてきた少女を見て、マリクカンドルフはそれが誰かを正確に思い出していた。
 忘れはしない、ケルベムレンの街で紹介された少女だ。
 あの時確か、アンドルスフ商家の者が一緒にいたはずだ。そしてもう一人、確か男がいた。

 本来ならば、短絡的に結び付ける問題ではない。
 だが様々な糸が絡まることなく、この少女とあの時の男、そして目の前の魔王を繋げてしまっていた。
 それはある意味、本能といえるものだろう。

「そうかね。なぜ名前を知られていたのか少し不思議だったが、一度会っていたのだったか」




 エヴィアの様子は変わらない。だが視線がツツーと泳いだのを、相和義輝あいわよしきは見逃さなかった。
 実際、外見こそは変わらないが、エヴィアは心の中では頭を抱えていた。

 魔人は賢い。普段は飄々として呑気なエヴィアだが、真面目に学ばせれば人間世界最高峰の学校に首席入学できるほどだ。その頭脳と臨機応変さは、初めて行った人間世界で一切ぼろを出さないほどである。
 そんなエヴィアにとって、かつて人間世界で――それも魔王やマリッカと一緒の所を見られた人間にここで出会う事はマイナスでしかないと言い切れた。
 もし相手がリッツェルネールなどであれば、この情報は直ちに通信機を介して浮遊城へ送られただろう。大失態だ!

 だが、マリクカンドルフは違った。
 ただ一つ――「そうか」と思っただけである。
 もしこの戦いが終わり帰還したら、この事を改めて考えればいい。
 今やるべき事は、目の前の相手魔王を倒すのみ。そしてたとえ敗れたとしても、その心にマリクカンドルフの名を刻みつける。それだけの戦いをする事こそが、今の急務!




 パワードスーツの左足が迫る。蹴り!? ――いや、踏みだ!
 眼前に迫った足を素早く避ける。常識的に考えれば次は左手の盾か右足だろう。
 だが飛んできたのは大剣の突きおろし。そして続けざまに繰り出された、右足による回し蹴りと剣による三連付きからの振り下ろし。
 全てかわすかテルティルトで受けているが、出来ているのが奇跡といえよう。
 歴代魔王の意識様々だ。しかし一方で、武器と鎧になっているテルティルトはボロボロだ。

 ――エヴィア、いつまで呆けてる。手伝え!

 最初の位置からピクリとも動かないエヴィアに意識だけで言葉を贈ると、やっているよと言わんばかりの視線が返ってくる。
 意識を集中させると、確かに見えないが、周囲に広がっているエヴィアの気配を感じる。
 なるほど、もうとっくに攻撃はしているのか。狙われていない以上、動かない方が効率が良いのだろう。

 確か、エヴィアの武器は糸の様な触手だ。普通の兵器や並の人間のパワードスーツなら切り裂いているが、そういえばサイアナさんのは切れなかった。目の前の男――マリクカンドルフもまた、それだけの強さを秘めているって事か。
 ならば――、


 マリクカンドルフの猛攻を避けながら、地道に反撃する。
 だが相手は無軌道に動くダンプカーのようなものだ。迂闊に刀で鍔迫り合いなんてしようものなら、パワーと質量差であっという間に跳ね飛ばされる。
 何とか直撃を避けながら刀を当てるが、本当に斬るというより当てるだけ。とてもじゃないが、切断とか無理としか言いようがない。

 だがやがて、効果が表れてくる。
 パワードスーツの関節部分は、俺が思っていたより遥かに強靭だった。
 そりゃそうだろう、わかりやすい弱点に見えるだけに、そこは相手も分かっている。
 関節部分は何重にも防御され、下手すりゃ他の部分よりも固い。
 しかしそれでも駆動系には違いはない。




 モーター音が、盛んに不調を訴える。

 ――何か噛み込んだかね……。

 一瞬そう思ったが、不調は全てのモーターだ。何かを噛み込んだなどという生易しいものではない。
 右肩部、上腕関節、左足首など、煙を上げている個所もある。

 ――大したものだ……方法は分からないが、こんな形で無力化されるとはな。

 もう重甲鎧ギガントアーマーは満足には動けない。
 しかし――もしこれで勝ったと思ったのなら、貴様の負けだな――魔王!




 パワードスーツの関節部から、悲鳴のような音と煙が上がる。
 ようやく効果が出たって事か。
 エヴィアの目に見えない程に細く頑丈な触手。それが関節部分にぐるぐると大量に巻きついていた。
 透明で見えなくても、水飴をくっつけたようにわずかに奥が歪んで見える。相当な量だ。

 ケーバッハと戦った時は、材料不足で大した量は使えなかった。しかしここは違う。
 転がっていた多数の死体。更にはここに来る途中に倒してきた兵士。それらを材料にしながら、既にかなりの成長を遂げていたのだった。

 普通ならかすり傷くらいしかつけられなくとも、巻きつき動きを封じる事で無力化は可能だ。
 関節部のモーターは悲鳴を上げ、周辺の外装はやすりを掛けたように削れて行く。
 向こうももう、限界に近い。

 あと少しか――そんな時、マリクカンドルフが再び盾を構えて突進してくる。
 だが勢いは弱々しい。もうほとんど動かないのだ。
 盾による体当たりをバックステップでかわす。もうそれで限界だったのか、ギギと軋む音を立て、その巨体が膝をつく。
 ようやく――勝ったか。そう考えた瞬間だった。こちらに向いた膝の左右から、短い槍が撃ち出される。

 ――嘘だろ!? この巨体でそういった細かなギミックはずりい。
 だがだ大丈夫だ。本数は2本、しかも直進だ。飛甲騎兵の投擲槍ジャベリンも避けてきたのだ。
 近すぎて避けられなくとも、こういった隠し武器の威力はお察しだろう。テルティルトの刀を軌道上に合わせる。これで受け止めるか、弾けば今度こそ勝ちだ! 終わる!




 しかし、槍を撃った時には既に、マリクカンドルフは動いていた。
 左手で、内部に設置された予備の剣を握る。そして同時にハッチを開け飛び出していた。
 その様子は、相和義輝《あいわよしき》の視界にはちらりと映った程度だ。巨大な盾と、自らの刀により視界が制限されていたのだから。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...