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【 魔族と人と 】
激突 前編
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「もはや完全な再編成は諦めるしかあるまい。直属部隊で魔王に挑む。他の部隊は臨機応変にな」
マリクカンドルフとしては、これ以上時間を掛けるわけにはいかなかった。
ここでは時間は敵だ。過ぎるほどに味方の数は減って行く。
そして商国騎兵隊が散開した以上、一刻も早く始めるしかない。
――しかし……蟹か……。
部下の報告では、天を裂いた白い光。それは明らかに浄化の光であったという。
そしてそれを放った魔族――いや、魔神であろう。その姿は蟹に酷似していたという。
リアンヌの丘に出現した”蟹”はリッツェルネールが倒したと聞いたが、今またこうして別の”蟹”が現れる。これも何かの因縁であろうか……。
「浮遊城からは何か言ってきたか?」
「一刻も早く撤退することを推奨する。殿は飛甲騎兵隊が行うので、仮設駐屯地へと移動するようにと。既にムーオス自由帝国の飛甲母艦が待機中とのことです
。それと……もしも一戦交えるのであれば、武運を祈るとの事です」
「そうか――なら浮遊城へ連絡だ。祝杯の支度をして待っていろと伝えよ」
「了解いたしました!」
そう言って去って行く兵士を見ることなく、マリクカンドルフの重甲鎧が起動を開始する。
右手には3メートルを超す三角形の大剣を持ち、左手には今までと同じ4メートルの巨大盾。
目標は、今更語るまでもないだろう。
獅子の様な顔立ちをしながらも静かな男。だが今やその顔は、紛れもない獅子そのものであった。
◇ ◇ ◇
「来たか……」
相和義輝も理解している。ここが最終戦だ。
勿論、これからも戦いは続く。しかし、炎と石獣の領域から始まった一連の戦いはここで終わりだ。
どんな結果になったとしても、互いに少しの時間が必要となるだろう。
遠くから――とはいえ、ここは針葉樹の巨木や起伏のせいで視界が悪い。実際には100メートルも離れていないだろう。
そこから迫ってくるパワードスーツの群れ。その中に、マリクカンドルフの姿も混ざっている。
――こちらは補足されっぱなしか。まあ、この魔力の柱が立っている間は仕方が無い。
だが、戦力的にはこちらだって劣ってなどいない。
大量の魔力を吸って元気いっぱいの死霊達が戦力にならないのは残念だが、その分蠢く死体や死肉喰らいは超強化されている。そして首無し騎士も健在だ。
十分に戦える――だけどそれとは別に……。
「ルリア。不死者たちには、普通のパワードスーツを主に相手させてくれ。首無し騎士は歩兵を重点的に。それと浮遊式浮遊板が来たら、それを最優先だ。ヨーツケールMk-II8号改は普通のパワードスーツと浮遊式浮遊板、それと装甲騎兵だったか、大型の兵器類全般を任せたい。俺に近づけないでくれ」
「構わないのか? 魔王」
「魔王、いいの?」
二人は少し心配そうだ。そりゃそうだろう。俺だって自信があるわけではないし、いざとなったら全力で逃げるつもりだ。
だけどこれは、俺がやらなければなければならない。俺に力があるうちに。
「マリクカンドルフの相手は、俺がやる」
ここで逃げた処で、結局意味は無いのだ。なら今現在、最大の戦力を当てて倒さなければならないだろう。それが、俺というだけの話だ。
こちらの考えを受け、テルティルトの刀が少しだけ伸びる。
およそ180センチ。俺の素人剣術で扱えるギリギリの長さだ。
◇ ◇ ◇
――また少し、雰囲気が変わったかね……。
眼前からゆっくりと迫り来る魔王の姿を見ながら、マリクカンドルフはそんな事を考えていた。
最初に見つけた時、彼は弱々しい人間であった。精一杯の虚勢を張りながら、必死に逃げていた。
だが最後は果敢なる反撃を見せ、そして死んだ。
そう、確かに殺した。それは確実だ。もう生命の脈動も、僅かの魔力も感じられなかった。
その後、リッツェルネールらに確認させるため、また不測の事態に備えて厳重な金属箱を用意させた。
しかし補給部隊と大きく離れていため時間を取った。それが失敗といえば失敗だったのだろう。
とはいえ、それは仕方なかったといえる。確かに死体をミンチにでもすればこの状況にはならなかったかもしれないが、同時に大きな謎を残してしまう。魔王とは何だったのかという謎だ。
そして2度目に会った時、彼はもう人ではなかった。
魔王――それは魔力だけではない。明らかに、人とは違う雰囲気を纏っていた。
そして何より、人間に対する底知れぬ殺意と憎悪を撒き散らしていた。
いま眼前にいる魔王は3回目となる。3体目ではなく3回目。すべて同一人物であると確信している。
だがそれは1回目とも2回目とも違う。強大な魔力を纏っている点などは2回目と同じだ。
だが感じる雰囲気は人間。しかし、それでいて最初とは違う。
確かな覚悟と強い意志……あの魔力に後押しされているのだろうか?
「やあ……君とはよく会うものだ」
その魔王が突然話しかけてきた。実に奇妙なものだ。
こちらはもう声紋を取っている。一応は確認させるが、意味などあるまい。
「確かに殺したと思ったのだね。そういえば、質問の答えを聞いていなかったな。君が魔王で正しいのかね?」
その答えもまた、意味などあるまい。やる事に変わりはないのだから。
だが帰ってきた答えは、想定内でありながらも予想を大きく超えるものだった。
「そうだな……君は確かに魔王を殺した。おめでとう。見事だった。だが……いや、質問に答えよう。我は魔王。君の認識は間違ってはいない」
「そうかね……」
言葉を交わしながら、武器を構え機会を伺う。
出来れば一撃。それで倒したい。狙いはやはり首だろうか……。
何にせよ、一度は殺しているのだ。もう一回やればいい。
問題は、左手に持っている細い剣だ。切れ味は相当なもので、折れても元に戻る。しかも伸びるのだから厄介だ。
マリクカンドルフとしては、これ以上時間を掛けるわけにはいかなかった。
ここでは時間は敵だ。過ぎるほどに味方の数は減って行く。
そして商国騎兵隊が散開した以上、一刻も早く始めるしかない。
――しかし……蟹か……。
部下の報告では、天を裂いた白い光。それは明らかに浄化の光であったという。
そしてそれを放った魔族――いや、魔神であろう。その姿は蟹に酷似していたという。
リアンヌの丘に出現した”蟹”はリッツェルネールが倒したと聞いたが、今またこうして別の”蟹”が現れる。これも何かの因縁であろうか……。
「浮遊城からは何か言ってきたか?」
「一刻も早く撤退することを推奨する。殿は飛甲騎兵隊が行うので、仮設駐屯地へと移動するようにと。既にムーオス自由帝国の飛甲母艦が待機中とのことです
。それと……もしも一戦交えるのであれば、武運を祈るとの事です」
「そうか――なら浮遊城へ連絡だ。祝杯の支度をして待っていろと伝えよ」
「了解いたしました!」
そう言って去って行く兵士を見ることなく、マリクカンドルフの重甲鎧が起動を開始する。
右手には3メートルを超す三角形の大剣を持ち、左手には今までと同じ4メートルの巨大盾。
目標は、今更語るまでもないだろう。
獅子の様な顔立ちをしながらも静かな男。だが今やその顔は、紛れもない獅子そのものであった。
◇ ◇ ◇
「来たか……」
相和義輝も理解している。ここが最終戦だ。
勿論、これからも戦いは続く。しかし、炎と石獣の領域から始まった一連の戦いはここで終わりだ。
どんな結果になったとしても、互いに少しの時間が必要となるだろう。
遠くから――とはいえ、ここは針葉樹の巨木や起伏のせいで視界が悪い。実際には100メートルも離れていないだろう。
そこから迫ってくるパワードスーツの群れ。その中に、マリクカンドルフの姿も混ざっている。
――こちらは補足されっぱなしか。まあ、この魔力の柱が立っている間は仕方が無い。
だが、戦力的にはこちらだって劣ってなどいない。
大量の魔力を吸って元気いっぱいの死霊達が戦力にならないのは残念だが、その分蠢く死体や死肉喰らいは超強化されている。そして首無し騎士も健在だ。
十分に戦える――だけどそれとは別に……。
「ルリア。不死者たちには、普通のパワードスーツを主に相手させてくれ。首無し騎士は歩兵を重点的に。それと浮遊式浮遊板が来たら、それを最優先だ。ヨーツケールMk-II8号改は普通のパワードスーツと浮遊式浮遊板、それと装甲騎兵だったか、大型の兵器類全般を任せたい。俺に近づけないでくれ」
「構わないのか? 魔王」
「魔王、いいの?」
二人は少し心配そうだ。そりゃそうだろう。俺だって自信があるわけではないし、いざとなったら全力で逃げるつもりだ。
だけどこれは、俺がやらなければなければならない。俺に力があるうちに。
「マリクカンドルフの相手は、俺がやる」
ここで逃げた処で、結局意味は無いのだ。なら今現在、最大の戦力を当てて倒さなければならないだろう。それが、俺というだけの話だ。
こちらの考えを受け、テルティルトの刀が少しだけ伸びる。
およそ180センチ。俺の素人剣術で扱えるギリギリの長さだ。
◇ ◇ ◇
――また少し、雰囲気が変わったかね……。
眼前からゆっくりと迫り来る魔王の姿を見ながら、マリクカンドルフはそんな事を考えていた。
最初に見つけた時、彼は弱々しい人間であった。精一杯の虚勢を張りながら、必死に逃げていた。
だが最後は果敢なる反撃を見せ、そして死んだ。
そう、確かに殺した。それは確実だ。もう生命の脈動も、僅かの魔力も感じられなかった。
その後、リッツェルネールらに確認させるため、また不測の事態に備えて厳重な金属箱を用意させた。
しかし補給部隊と大きく離れていため時間を取った。それが失敗といえば失敗だったのだろう。
とはいえ、それは仕方なかったといえる。確かに死体をミンチにでもすればこの状況にはならなかったかもしれないが、同時に大きな謎を残してしまう。魔王とは何だったのかという謎だ。
そして2度目に会った時、彼はもう人ではなかった。
魔王――それは魔力だけではない。明らかに、人とは違う雰囲気を纏っていた。
そして何より、人間に対する底知れぬ殺意と憎悪を撒き散らしていた。
いま眼前にいる魔王は3回目となる。3体目ではなく3回目。すべて同一人物であると確信している。
だがそれは1回目とも2回目とも違う。強大な魔力を纏っている点などは2回目と同じだ。
だが感じる雰囲気は人間。しかし、それでいて最初とは違う。
確かな覚悟と強い意志……あの魔力に後押しされているのだろうか?
「やあ……君とはよく会うものだ」
その魔王が突然話しかけてきた。実に奇妙なものだ。
こちらはもう声紋を取っている。一応は確認させるが、意味などあるまい。
「確かに殺したと思ったのだね。そういえば、質問の答えを聞いていなかったな。君が魔王で正しいのかね?」
その答えもまた、意味などあるまい。やる事に変わりはないのだから。
だが帰ってきた答えは、想定内でありながらも予想を大きく超えるものだった。
「そうだな……君は確かに魔王を殺した。おめでとう。見事だった。だが……いや、質問に答えよう。我は魔王。君の認識は間違ってはいない」
「そうかね……」
言葉を交わしながら、武器を構え機会を伺う。
出来れば一撃。それで倒したい。狙いはやはり首だろうか……。
何にせよ、一度は殺しているのだ。もう一回やればいい。
問題は、左手に持っている細い剣だ。切れ味は相当なもので、折れても元に戻る。しかも伸びるのだから厄介だ。
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