この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 魔族と人と 】

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 蔓草の生える地面を裂いて、巨大な金属塊が飛び出した。
 それは直系40センチほどだろうか。完全なる真球。表面は輝くような銀色で、まるで曲げた鏡の様に世界を映し出している。
 そこから延びるのは細い金属の棒。まるで木琴に使うマレットのような形状だ。

 そんな凶器に横から叩かれた飛甲騎兵が、真っ二つに千切れて墜落する。いや、叩き落とされたというべきか。
 その金属棒の下から、まるでよっこらしょと言いそうなほどにのんびりと、一体の異形が出現した。
 姿を見て名が分かる。魔人だ。それも初めて見る……だけど、ああ……面影がある。

「初めましてだな、魔王」

 初めまして――その言葉がチクリと胸を刺す。
 鉄のバケツを被ったような声には、確かに聞き覚えがある。忘れなどしない。
 だけど以前とは違う。音ではなく、声として聞こえてくる。今度は、発声器官があるのだな。

 土の中から出てきた姿。それは8メートルほどの体高で、幅も同じくらいだろうか。
 色はマレット状の器官とは違い、玉虫色の金属質。まるで、人間が作った壁のような質感だ。
 左右から延びる脚は、以前の細い足じゃない。がっしりとした陸の足。
 2つ重なっていたような頭は一つだけとなり、両手の鋏も一対だ。だがそれとは別に、背中側から2本のマレットが伸びている。
 海の蟹ではなく陸の蟹。それが、新たに選んだ生き方なのか。

「我が名はヨーツケールMk-IIマークツー8号改。魔王よ、お前に協力する」

 なんだかすごい名前になった気がするが、きっと理由はあるのだろう。
 しかし何だろうか……亡くなった親友の子供に出会ったような、そんなセンチメンタルな気分になる。

 まあそんな余裕は無いんだけどなと、飛来した投擲槍ジャベリンや飛甲騎兵を避け大木の根元へ逃げる。
 こういった部分には人間の兵士がいるが仕方ない。斬り合いの方がまだマシだ。
 だがどうしよう……ヨーツケールは、こんな時に使える魔法とか持っているのだろうか?
 スースィリアの様な範囲攻撃。出来れば飛甲騎兵を墜とせる奴が良いのだが……。

「ヨーツケール、何かないか? こうドカーン的な奴」

「ヨーツケールMk-IIマークツー8号改だ、魔王よ」

 ――え、短縮しちゃダメなの?
 いやまあ、確かにそうか。さっき思った感覚だと、子供を親の名前で呼ぶようなものだ。
 それに生き方が文字に見える……これは魔王の特性であると同時に、魔人がそうだったからそうなのだ。彼らにとって、それだけ名前は重要だといえる。

「分かった、ヨーツケールMk-IIマークツー8号改。さっきから攻撃して来る飛甲騎兵を何とかしてほしい。出来るか?」

 その問い掛けに対し、答えは無かった。
 だが、ヨーツケールMk-IIマークツー8号改の腹が開くと、そこから球体が現われる。
 マレットと同じような、鏡のように美しい真球だ。
 それが何なのか、魔王相和義輝あいわよしきは知らなかった。だが人間は知っている。
 その姿を目撃した兵士は叫び、また頭を抱え崩れ落ちた。

 それはかつてヨーツケールが身をもって受け、知り、そして考えた物。
 人類が長い時間を掛けて開発し、対魔族の切り札として用いている物。
 その名を――


 光の筋が、天を刺す。更に横薙ぎに空を断ち、軌道上にあった飛甲騎兵や針葉樹の巨木を切り倒す。
 真っ赤に焼けた飛甲騎兵は墜落し、焼き切られた大木の上部がメキメキと音を立てゆっくりと落ちる。
 木の断面は真っ黒い炭となり、中には赤い光が見えていた。


「あれは……浄化の光レイ!?」

 墜落した飛甲騎兵から助け出されたラウが見たもの。それは浮遊城に設置された、人類最強の兵器。
 いかなるものをも打ち倒す、人類の切り札だったのだ。

「つ、通信機、通信機は無いのかい!? なければ歩兵用の通信機を経由させでも良い。とにかく飛甲騎兵隊に連絡だ。あれじゃあ――」

 叫ぶラウの頭上を、再び光の筋が薙ぎ払った。




 散開し離れていく飛甲騎兵隊を見ながら、ヨーツケールMk-IIマークツー8号改は”これはつまらない”と思っていた。
 やはり金属は叩かねば面白くない。魔王を助けるために用意した力ではあったが、もう当分は使わなくていいだろう。そんな事を考えながら、腹の蓋を閉めたのだった。

「凄いな、ヨーツケールMk-IIマークツー8号改。あれは確か浄化の光レイとか言ったか。よく仕組みを知っていたな」

「ユニカに設計図を用意してもらった。作り方さえ判れば、大抵何でも作ることが出来る」

 いつの間にか無限図書館へ行っていたのか。
 そして同時に、ユニカの無事も確かめられた。もちろん今もという保証はないが、それは考えない事にしよう。多分大丈夫だ。
 それよりも――決着の時だ。

 再結集した兵士の軍団が、草を踏みしめ行軍する。
 不死者アンデッド首無し騎士デュラハン昆虫や動物たち、魔法の攻撃を浴びながら、それでもやってくる。
 彼等を殲滅して、ようやく一つの戦いを終わらせることが出来るのだ。躊躇ためらいは無い。

「テルティルト、ヨーツケールMk-IIマークツー8号改。それにルリア、シャルネーゼ。もう出し惜しみは無しだ。行くぞ!」

「あ、あー、はいはい。頑張りましょう」

 緊張感のかけらもなく、慌ててルリアが降りてくる。
 そう、さっきから死霊レイスはほとんど働いていない。天から降ってくる俺の魔力のおこぼれに預かるため、ずっと俺の上空にいたのだ。
 おかげで幼女だった死霊レイスは全員、元の女性っぽい姿に戻っている。お前ら何年分吸ったんだ!

「こういう時、死霊レイスは便利だな。魔王よ、今度我等デュラハンにも、その大量の魔力を供給して貰いたいものだ」

 姿を現したシャルネーゼにもねだられる。だが多分無理だ。これは今回これっきり。次は無いし、火山帯にある魔王魔力拡散機まで行くまで俺の体はもたないだろう。
 そういや……ゲルニッヒはいつごろ到着するんだろうか。早く来てくれー!




     ◇     ◇     ◇




 その頃、魔人エヴィアは山道を駆け降りていた。
 エヴィアは大した魔力を持たない。正確には、生き物に命令をしたり領域を修復する時以外は“人間”の形態を守っている。だから、魔力も見た目相応にしか放出しないのだ。
 更には小さく、またエヴィア自身も慎重だったため、上空からその姿を確認することは出来なかった。

 走りながら、エヴィアは考えていた。
 やはり、魔王から離れたのは失敗だったと。
 だがあの場では、他に選択肢は無かった。魔王の願いを叶える……それこそが、魔人の大義なのだから。
 だが同時に、自分たち魔人のいい加減さにも少々腹が立つ。

 魔人達は疲れ切っていた。それは同じ魔人としてよく分かる。
 地上はもう、破壊の限りを尽くす人間達によって多くの生物が失われてしまっている。
 だがその元凶である人間をどうするか? 融合と分裂を繰り返し、魔人達は繰り返し協議した。

 環境を考えれば滅ぼすべきだ。
 しかし彼らがどれほど暴虐な存在だとしても、それをこの世界に呼び出したのは魔人なのだ。
 しかも助言者アドバイザーである初代魔人に断りなく、勝手にやった結果である。
 それに、再び魔王の前で人を滅ぼすのか? そんなことが出来ようはずがない。もう、あんな想いはこりごりなのだ。

 こうして何も出来ないまま、時だけが過ぎていく。
 その間も、人間は魔王の友とはならなかった。すなわち、魔人の友でもない。
 魔人は思う。
 もういいのではないか? たった一種類の為に他全ての種を滅ぼすのか? 多くの命が、今この目の前で駆逐されている。それで良いのか?

 別の魔人が思う。
 いや、諦めてはいけない。今は厳しい状況でも、いつかはきっと上手くいく。かつての魔王の誰かが、そんな事を言っていたではないか。
 まだ全ての希望が失われたわけでは無い。再び魔王と人、そして魔人が結びつく日が来るかもしれないではない。

 そんな彼らが下した結論は、自然の成り行きに任せるという事だった。
 全てを魔王に任せる。何もかも……全てを。
 やがていつか、魔王はこの世界から消えるだろう。それは予言ではなく必然だ。どれ程優れたシステムも、無限に続くとは思わない。
 そしてその時、人がこの世界に生きる意味も消滅する。そうなった時、責任をもって人を滅ぼそう。この世界に生きる、他の生命たちの為に。

 その時まで、好きにさせれば良い。
 そう考えた魔人は皆、海へと消えていった。

 だが地上に残った魔人達は違う。まだ魔人と魔王、そして魔王と人間の関係を諦めてはいない。
 少なくとも、エヴィアの生き方に人間は必須だ。そう簡単に諦められてはたまったものではない。

 全力山を下るエヴィアの前方に、針葉樹の森が見る。
 そしてその中に蠢く無数の人間――その先に魔王を感じる。魔王はまだ、この世界を捨ててはいない。
 光彩が輝き、エヴィアの周囲を包む大気が歪み震える。爆発的に膨れあがった魔力を感知した重飛甲母艦が警告を送るが、もはや手遅れだ。
 小さな体から無数の目に見えない触手を伸ばし、一切の容赦もなく人類軍の中に飛び込んで行った。
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