313 / 425
【 魔族と人と 】
飛甲騎兵襲来 前編
しおりを挟む
「こちらラウ・ハウミールだ。今更の話だが、全員準備は良いね」
「全く、今更ですな」
「とうに命は預けています。まあ、隊長は生き残ってくれても良いんですよ」
魔王を囲むように、コンセシールの飛甲騎兵隊は編隊を組んでいた。
突撃斉射隊10騎の後ろに、体当たりによる特攻隊が10騎。その後ろに斉射隊10機。
30騎を1軍団とした、戦争時の隊列だ。
それを13個部隊、計390騎。これが現在投入できる、最大戦力だった。
これまでも散発的な攻撃は行っていたが、それはあくまで地上軍を主体とした援護のみ。
そもそもが、魔王の位置も正確には分からない状態での攻撃だったのだから無理もない。
だが今ははっきりと、魔王の位置が分かる。
「イベニア、負傷兵や損傷騎の撤収はアンタに任せるよ」
「かしこまりました。ご武運を」
スピーカーから、若い女性の声が響く。
戦闘部隊の他に、騎体の損傷や乗員の負傷により戦闘不能な騎体が283騎。
これらは、たった今返答したイベニア・マインハーゼンが撤収させる手はずになっている。
第一攻撃隊500騎、第二攻撃隊500騎、偵察や直掩部隊300騎、合計1300騎を投入した商国であったが、今では半数以上を失っていた。
――100年分くらいは戦った気がするねぇ……。
しみじみ思うが、この魔族領で落ち着いていられる余裕などは無い。
こうしている間にも、飛行可能な大型昆虫やマンティコア、更には死霊、魔法による攻撃が続いている。全く、息つく暇もない。
だがそれも、この攻撃で終わらせる。先ほど魔王を討伐したと報告が入った時、確かに攻撃は止まったのだ。
ならば、もう一度やればいい。今度こそ、完璧に。
「全騎突撃! 魔王を倒すのは、我等コンセシールの飛甲騎兵隊だよ!」
音もなく、一斉に飛甲騎兵隊が動き出した。
◇ ◇ ◇
音もなく全周囲から飛来したその金属を、魔王相和義輝は敏感に感じ取っていた。
――これは……投擲槍か!?
飛甲騎兵隊から発射された100を超す投擲槍。その全ての気配を、まるで世界が静止したかの様にクリアに感じ取る。
――このままだと、当たるコースにあるのは17本。他は牽制だ。だけど下手に避ければ、自分から当たりに行く事になるな。
最小限の動きで、躱す為に姿勢を変える。
そしてぎょっとする。その後ろから来るものに。
「考えてみれば当然だな! だが――テルティルト! 全部だ!」
テルティルト自身の判断だともたつくが、俺が指示すれば早く正確だ。
直撃コース上に突っ込んできた8騎の飛甲騎兵が、グシャリと捻り潰され鉄塊となって落下する。
だが気は抜けない。再び全周囲からの投擲槍が雨の様に飛来する。
森の中だというのに狙いは正確だ。当たり前か……今この身から吐き出されている極彩色の魔力。それは天へと昇り、空にある油絵の具の雲と繋がっている。
当然ながら、それは目立つ。もう近くにいれば、何処からでも見えるほどに。
だが一方で、そこからは使ったら使っただけの魔力が供給されている。無尽蔵だ。
これが無ければ、俺は今こうして立ってはいない。
同時に、これがある限り逃げられない。人間も、ちょっとやそっとでは逃げないだろう。
もうここが、決着の場所なのだ。相和義輝もまた、人類と同じ結論に達していた。
だが実際、だからどうしたと言うしかない。
先ほどとは角度を変えながら、再び100を超す投擲槍が飛来する。
「一体どのくらい集まってるんだ!」
頭上を飛甲騎兵――いやもう潰れた残骸が通り過ぎる。
その背後から果敢にもう一騎が突っ込んでくるが、運命は同じだ。テルティルトの魔法により潰れ、勢いよく地面に激突した。
「あとどのくらい戦えそうだ?」
「魔力は魔王から幾らでも補充できるけど……分かってる?」
「ああ……理解しているつもりだ」
圧倒的な魔力。それは生き物を溶かす猛毒だ。
同時に俺自身でもある。だから、俺にはそれほど大きな害はない。
そう、”それほど大きな”と付けなければならない。微小であっても毒は毒なのだ。
そしてそれ以上に問題なのが、先ほどから意識が強制的に空に持って行かれそうになる事だ。
これは俺が未熟な事もあるだろう。この体制に慣れていない……その通りだ。
けれど、そんな言い訳は通じない。このままでは遠からず、俺に意識は空へと消える。
後に残るのは、蓄積された意識により反射で動く人形。それも毒に犯され、いつまで動くか分からない代物だ。
一刻も早く、決着を付けなければいけない。
ただ分かっていても、手が足りない。
飛甲騎兵を避け、大樹の根元へと駆ける。だがそこに待っている者達――いや、ある意味彼らも避難しているのだ。
武器を構え、こちらを睨みつける兵士の一団。何人かは、慌てて矢を射ってくる。
だが効かない。怯んでやるつもりもない。そこへ行き、刀を振るう。
動きが見える。先を理解できる。人間も武器を振りあげ、また足元にタックルを仕掛け抵抗する。だが全部、やる前に分かる。これは魔王の特性か、それとも彼らの経験によるものか。
根元にいた十数人を斬り倒すが、休む間もなくそこに投擲槍が突き刺さる。
初めて人間と戦う事を決めた時も思ったが、単騎の強さなど、戦争では大した意味を持たない。一人倒すのにどのくらいかかる? 仮に1分で一人の人間を倒したとしても、1時間で60人しか倒せない。
この森にいる人間は全部で何人だ? 20万か、30万か……とてもじゃないが、倒しきるなど不可能だ。
最初のように歩兵主体で攻めてきたなら、案外何とかなったかもしれない。
この魔力のおかげで、人間は近づくだけでも大変だからだ。
だが今は飛甲騎兵が主体だ。これではバラバラにされないようにするだけで精一杯。到底、こちらから何かをする余裕が無い。
「全く、今更ですな」
「とうに命は預けています。まあ、隊長は生き残ってくれても良いんですよ」
魔王を囲むように、コンセシールの飛甲騎兵隊は編隊を組んでいた。
突撃斉射隊10騎の後ろに、体当たりによる特攻隊が10騎。その後ろに斉射隊10機。
30騎を1軍団とした、戦争時の隊列だ。
それを13個部隊、計390騎。これが現在投入できる、最大戦力だった。
これまでも散発的な攻撃は行っていたが、それはあくまで地上軍を主体とした援護のみ。
そもそもが、魔王の位置も正確には分からない状態での攻撃だったのだから無理もない。
だが今ははっきりと、魔王の位置が分かる。
「イベニア、負傷兵や損傷騎の撤収はアンタに任せるよ」
「かしこまりました。ご武運を」
スピーカーから、若い女性の声が響く。
戦闘部隊の他に、騎体の損傷や乗員の負傷により戦闘不能な騎体が283騎。
これらは、たった今返答したイベニア・マインハーゼンが撤収させる手はずになっている。
第一攻撃隊500騎、第二攻撃隊500騎、偵察や直掩部隊300騎、合計1300騎を投入した商国であったが、今では半数以上を失っていた。
――100年分くらいは戦った気がするねぇ……。
しみじみ思うが、この魔族領で落ち着いていられる余裕などは無い。
こうしている間にも、飛行可能な大型昆虫やマンティコア、更には死霊、魔法による攻撃が続いている。全く、息つく暇もない。
だがそれも、この攻撃で終わらせる。先ほど魔王を討伐したと報告が入った時、確かに攻撃は止まったのだ。
ならば、もう一度やればいい。今度こそ、完璧に。
「全騎突撃! 魔王を倒すのは、我等コンセシールの飛甲騎兵隊だよ!」
音もなく、一斉に飛甲騎兵隊が動き出した。
◇ ◇ ◇
音もなく全周囲から飛来したその金属を、魔王相和義輝は敏感に感じ取っていた。
――これは……投擲槍か!?
飛甲騎兵隊から発射された100を超す投擲槍。その全ての気配を、まるで世界が静止したかの様にクリアに感じ取る。
――このままだと、当たるコースにあるのは17本。他は牽制だ。だけど下手に避ければ、自分から当たりに行く事になるな。
最小限の動きで、躱す為に姿勢を変える。
そしてぎょっとする。その後ろから来るものに。
「考えてみれば当然だな! だが――テルティルト! 全部だ!」
テルティルト自身の判断だともたつくが、俺が指示すれば早く正確だ。
直撃コース上に突っ込んできた8騎の飛甲騎兵が、グシャリと捻り潰され鉄塊となって落下する。
だが気は抜けない。再び全周囲からの投擲槍が雨の様に飛来する。
森の中だというのに狙いは正確だ。当たり前か……今この身から吐き出されている極彩色の魔力。それは天へと昇り、空にある油絵の具の雲と繋がっている。
当然ながら、それは目立つ。もう近くにいれば、何処からでも見えるほどに。
だが一方で、そこからは使ったら使っただけの魔力が供給されている。無尽蔵だ。
これが無ければ、俺は今こうして立ってはいない。
同時に、これがある限り逃げられない。人間も、ちょっとやそっとでは逃げないだろう。
もうここが、決着の場所なのだ。相和義輝もまた、人類と同じ結論に達していた。
だが実際、だからどうしたと言うしかない。
先ほどとは角度を変えながら、再び100を超す投擲槍が飛来する。
「一体どのくらい集まってるんだ!」
頭上を飛甲騎兵――いやもう潰れた残骸が通り過ぎる。
その背後から果敢にもう一騎が突っ込んでくるが、運命は同じだ。テルティルトの魔法により潰れ、勢いよく地面に激突した。
「あとどのくらい戦えそうだ?」
「魔力は魔王から幾らでも補充できるけど……分かってる?」
「ああ……理解しているつもりだ」
圧倒的な魔力。それは生き物を溶かす猛毒だ。
同時に俺自身でもある。だから、俺にはそれほど大きな害はない。
そう、”それほど大きな”と付けなければならない。微小であっても毒は毒なのだ。
そしてそれ以上に問題なのが、先ほどから意識が強制的に空に持って行かれそうになる事だ。
これは俺が未熟な事もあるだろう。この体制に慣れていない……その通りだ。
けれど、そんな言い訳は通じない。このままでは遠からず、俺に意識は空へと消える。
後に残るのは、蓄積された意識により反射で動く人形。それも毒に犯され、いつまで動くか分からない代物だ。
一刻も早く、決着を付けなければいけない。
ただ分かっていても、手が足りない。
飛甲騎兵を避け、大樹の根元へと駆ける。だがそこに待っている者達――いや、ある意味彼らも避難しているのだ。
武器を構え、こちらを睨みつける兵士の一団。何人かは、慌てて矢を射ってくる。
だが効かない。怯んでやるつもりもない。そこへ行き、刀を振るう。
動きが見える。先を理解できる。人間も武器を振りあげ、また足元にタックルを仕掛け抵抗する。だが全部、やる前に分かる。これは魔王の特性か、それとも彼らの経験によるものか。
根元にいた十数人を斬り倒すが、休む間もなくそこに投擲槍が突き刺さる。
初めて人間と戦う事を決めた時も思ったが、単騎の強さなど、戦争では大した意味を持たない。一人倒すのにどのくらいかかる? 仮に1分で一人の人間を倒したとしても、1時間で60人しか倒せない。
この森にいる人間は全部で何人だ? 20万か、30万か……とてもじゃないが、倒しきるなど不可能だ。
最初のように歩兵主体で攻めてきたなら、案外何とかなったかもしれない。
この魔力のおかげで、人間は近づくだけでも大変だからだ。
だが今は飛甲騎兵が主体だ。これではバラバラにされないようにするだけで精一杯。到底、こちらから何かをする余裕が無い。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる