この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 魔族と人と 】

意識の集合体

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 ――考えろ、考えろ、考えろ。
 考えることを止めてはいけない。
 思考を止めた時点で、俺の存在は消滅する。

 ――考えろ、考えろ、考えろ。
 寿命の設定は、それ以前に誕生していた者には影響が無いという。
 ならなぜ最初の魔王は、何万年もこの世界に在り続けたのだ?
 惑星環境設計士テラフォーマー……それは不老不死の存在だったのだろうか? いや、それは違うだろう。

『人間が憎い!』
『どうして! 同じ人間なのに!』
『殺してくれ……殺してくれ……』

 何処かで声が聞こえてくる気がする。
 遠いようで、近いようで……誰かがいる? 違うな、これはただの意識だ。
 ここは深い闇のような、それでいて様々な色が混ざり合う。ああ、これが何処なのか、俺には分かる。

『帰りたい。家族の元へ』
『他にやりたいことがあるんだ。夢があるんだよ!』
『子供は? 産まれるはずだった、私の子供は何処!?』

 この世界に生きた魔王達、その意識。

『――痛い!』
『――辛い!』
『――苦しい!』
『もう嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!』

 死んで……いや、死ぬ瞬間に閉じ込められた記憶。死ぬ間際、その刹那の心。

『殺してやる! 殺してやる! 絶対、絶対にだ!』

 ――考えろ、考えろ、考えろ。
 集中し、意識をしっかりと持て。油断をすれば飲み込まれる。
 やり方は、もう見て知っている。

 ケーバッハ……かつての魔王の息子。死んでも尚、俺を殺す為に立ち上がった男。
 アイツを立ち上がらせたのは何だったのか。執念? そんなもので死した肉体は動かない。

 オスピア……初代魔王の娘。命を失った今でも、人類最大国家の一つを治めている少女。
 どうやって、今もこの世界に在り続けているのか。

 ――考え、そして集中だ。

『すまないね。だが、仕方なかったんだよ』

 ――この声……檻で出会った男。先代魔王?

『任せてしまってすまないと思う。だけど、僕はもう戦いたくなかったんだ。子供の頃から戦い続け、殺し続け、ようやく死ねたと思ったらまた殺せという。もうウンザリなんだ……』

 ああ、これもただの意識だ。本人は、もうとっくにこの世はいない。
 声のように感じたのは、まだ意識が強く、独立しているからか。
 時間が経てばこの意識も、他の意識と溶け合い混ざり合っていくのだろう。

『その代わり、僕に残せるものは全て残すよ。君の為にね……いいや、世界の為か?』

 そのつもりなら、魔王の居城かホテルにでも、これからの人生プランを残しておいてほしかったね。何も無くて大変だったんだぞ。

『好きに生きるといい。人間として生きてもいいし、人間と戦ってもいい。戦いに飽きたら……そうだね、代わりに戦ってくれる人間を作ればいい。何だって出来る』

 その為のマリッカという訳か。だが本人の意思はどうなんだろうな。
 彼女は、あんたが決めた生き方しか知らない。いや、興味すら無いように見えたぞ。

『ああ……すまない。だけど託すよ。この世界の全てを』

 聞いちゃいないな……まあ仕方ないが。
 先代魔王、あんたがこの世界に残したのは未練か? それだけなのか?
 もう声は無い。ここにあるのは、ただ無数の意識。無念と後悔と怒りが混ざり合った、魔王という存在そのもののカタチ。
 本来なら、こんなものではなかったはずだ。純粋な、魔力というエネルギー。ただそれだけだと魔人は言った。
 なら、これは不具合か。

 精霊たちは俺の魔力の影響を顕著けんちょに受ける。
 それは彼等だけではない。人間も、動物も、この世界の生き物は魔力の影響を受けて生きている。
 ならこんなものに覆われていたら、少なからず影響を受けているのではないだろうか。

 ……やっぱり、消さなきゃいけないな。
 これは――魔王は、人類の歴史と共に作られた悪意の結晶だ。この点に関しては名前通りという訳だ。
 いや、逆か。この魔力の源――管理者を人が魔王としてしまったから、こうなったのだな。

 人間の欲が止まらなかったから。
 魔王も魔人も、それを抑えられなかったから。
 歴代の魔王が、その負の感情を蓄積させていったから。
 そして何より、自分自身であるこれを消す勇気が無かったからだ。

 帰ろう……ここに留まる理由は無い。俺はまだ、消えてはいない。
 しかしなんだろうな、君は死なない選択が出来る……だったか。
 何とも意地の悪い事だ。この事、おそらく魔人達も知っていたな。その上で、委ねたのだろう。
 肉体が死した後、それでも俺がこの世界にあり続けるのかを。

 ならば答えは決まっている。俺は消えない。少なくとも、今この場で死ぬ事はあってはならない。
 何も成せず、皆の期待を果たせず、最後は人間に殺される。この結果だけはだめだ。
 これは必ずや彼らを――魔人を傷つける。

 力を貸せ、歴代魔王の意識。
 お前たちは人間を恨み、世界を憎んだ。だが、滅ぼすことを選んだ魔王はいなかった。そうだな?
 ならば俺に従え。今だけで良い。この世界を守る為に。

 意識を大地に向ける。
 世界を感じる。星に生きる全ての命。その中に……ああ、いるな。

「来い、ゲルニッヒ。お前の力が必要だ!」

『コレハコレハ、マダ留まっていたトハ、少々意外デス』

「それはまたご挨拶だな。だが、まだ死ぬ気はないぞ。俺の体を急いで治して欲しい」

『勿論、望むのであれば行いましょう。デスガ、本当に良いのデスカ? 貴方は死ねたのデスヨ? ソシテこの世界は貴方にとって辛い世界。貴方と同じ人間全てが貴方の死を望んでイマス。ソレデモ?』

「全てじゃないだろ。ユニカがいる。それにお前たち魔人や、ルリアたち精霊……俺にはたくさんの仲間がいる」

『貴方は解放されたのデスヨ。望まぬ世界、望まぬ生き方、望まぬ命。我らがソレを押し付けマシタ。シカシ今、全の役目を全うし自由となったのデス、ナノニ、本当にマダ生きてくれるのデスカ? コノ世界デ?』

「そんな事を考えていたのか。お前たちは変に考えすぎだ」

『ナゼこの世界に留まるのデスカ? 貴方にとって、ソレに何の意味があるというのデスカ?』

「御託はもういい。来い、ゲルニッヒ!」




 ◇     ◇     ◇




 ゲルニッヒは、走り出していた。細い根のような足で。
 もうこんな場所に用はない。魔王が呼んでいるのだ。
 歴代の魔王達の殆どが、死と共にあの雲に飲まれて消えた。戻って来るものも多少はいたが、その後すぐに耐えきれなくなって消えていった。
 だが正しく接続されていたそれは、魔王として残り続ける。次の魔王を呼ぶくらいの間は十分に。

 しかし今回は違う。魔王があの意識に飲み込まれた時、それは終わりを意味する。
 空にあった魔力は完全に霧散し、世界中へと溶け込んでいくだろう。
 そうなれば、この世界の生き物にどのような影響が出るか……もう考えるまでもない。
 特に近い存在である人間に与える影響は計り知れないだろう。間違いなく理性は消え、全てを殺し続けるだけの存在になり果てる。

 そうなった時、魔人達は責任を果たさねばならない。この世界を作った事、この世界をこうしてしまった責任を。
 それは、魔人達自身の手でこの世界に幕を引くと言う事だ。全てを終わらせるの為に。
 多くの魔人達は、もうその覚悟を決めていた。
 この世界を維持する為に新たな魔王を召喚する事。最古の友の仲間である人間の暴走を止められない事。破壊されていく世界。もうそれらに疲れ切っていたのだ。

 だが同時にそれは、永久に消えない後悔の記憶となるだろう。
 どんなに時間が経っても、どんなに分裂や融合を繰り返しても、魔人達の魂に永遠に刻まれる傷。

 そしてついに、その日が来てしまった。
 魔王は死に、同時に人類滅亡へのカウントダウンが始まった――そう思った。
 だが魔王は、この世界に残る事を選んだ。
 全ての人類と敵対し、戦い殺し合い、殺され、それでもまだ生きるという。まだ我らと共にいるのだという。
 先ほどの人間の言葉を思い出す。

「アア、魔王よ。私も貴方から聞きたい事が沢山アリマス。貴方に伝えるべき知識もまた、尽きる事はありマセン。ソレがあなたの願いであるのナラ、我等もマタ、常に貴方と共にありまショウ」

 ゲルニッヒは駆ける。魔王の元へ。
 目にも止まらぬほどの高速で、炎と石獣の領域へと入って行ったのだった。
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