この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 魔族と人と 】

魔人ゲルニッヒ その3

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 最初は、それが何なのか理解すら出来なかった。
 だが見覚えはある。これは……装甲騎兵の外壁!?

「アスターゼン将軍!」
「お気を確かに!」

 いつの間にか、周囲には兵士達が集まっている。
 魔族は――見渡せば、先ほどの装甲騎兵が引き潰したらしい。
 止まっている装甲騎兵の周囲には、兵士達が輪を作っていた。

 装甲騎兵の大きさは全長11メートル。幅も4メートル程と大型だ。そんなものに轢かれたら、人型魔族などひとたまりもない。
 だがアスターゼンは、奴が死んでいない事を確信していた。それはただの直感ではあったが、確信でもあった。

「早く……離れろ……来るぞ」

 ギイィと、装甲騎兵のハッチが開く。
 そこから出てきたのは、大豆頭の蠢く死体ゾンビの様な魔族だ。
 全体のラインは骨がないかの様にグニャグニャになっている。おそらく、骨は砕けたのだろう。そして体のあちこちから、激しく動く根のようなものが飛び出していた。

 いったい何時どうやって中に入ったのか? 中にいた操縦士や動力士はどうなったのか?
 だがそれは、今確認すべき事ではない。すぐさま囲んでいた兵士達が斬りかかる。
 しかし剣も、斧も、槍も、確かに体は突き通すが魔族は倒れない。それどころか、やはり武器は溶け白い煙を上げている。

「ダメだ……そいつに……そいつに金属を使うな!」

「面白イ。ヤハリ貴方は気が付いていまシタネ。素晴らしい観察眼デス」

 両手を広げるその姿。パクパクと開く口のような裂け目。

 ――こいつは……笑っているのだろうか?

 ここに集まった兵士達は対毒装備に抗毒薬も投与済みだ。それでも兵士達の動きは次第に鈍くなり、よろめき、やがて糸の切れたブリキ人形のようにガシャンと音を立てて崩れ落ちる。

 ――俺もここまでだな……。

 アスターゼンは、状況を見ながらそう判断した。
 もう体はほとんど動かない。それに鎧が異常に重い。魔力を上手く練り出せなくなっている。
 だが思考は無数の可能性を模索する。目の前の魔族を倒すため、ありとあらゆる手を考える。
 最後まで諦めない思考錯誤は、ゲルニッヒの興味を強く引き付けた。

「成程、戦いを諦めないその考え、実に不思議デス。興味深イ。なぜデス? 周りは既に諦めてイマスヨ」

 ――そんな事は簡単な事だ……。

「ホホウ、なぜデス、教えてクダサイ。貴方はナゼ、ソレほどまでに戦うのデスカ?」 

 ――それは……。

 薄れゆく意識の中、覗き込んでいた魔族が吹き飛ばされた姿が見える。

 ――こいつが進む道を、少しでも楽にするためだ。

「生きているか!? アスターゼン!」

 そこに立っていたのは、3メートルを超す紅蓮の重甲鎧ギガントアーマーを纏ったロイ・ハン・ケールオイオンだった。




「陛下! アスターゼン将軍の最後の言葉です。奴に金属武器は使用するな……と」

「……そうか」

 見れば、つい今しがた魔族を殴った巨大棘付メイスモーニングスターの棘が、数本溶け白い煙を上げている。

 ――なるほどな……報告通りか。

 来たばかりのロイだが、状況は偵察隊が確認し報告していた。アスターゼンの戦いも、最初から最後まで。
 だが助けなかった。偵察隊の任務は、状況を正しく伝える事だ。
 そしてまたアスターゼンも、それを望んでいたのだから。

「仇は取らせてもらおうとしよう」

 モーター音が唸りを上げ、紅蓮の巨大がゲルニッヒに襲い掛かった。




 ――いや、死んじゃいないんだがな。
 まるでもう死んだことになっているような雰囲気だ……そう感じ取ったアスターゼンが心の中でつぶやくが、そんな事は当然誰も聞いてなどいない。
 彼は今、タンカに乗せられて後方へ移送中だった。

 既に周囲は明るくなりつつある。果敢に戦うロイだが、魔族を吹き飛ばす度に武器は溶け、煙を上げる。
 分かってはいても、なら代わりに何か用意できるかという話ではない。
 例え効果は薄くても、これで戦うしかない。

 送れて何体もの重甲鎧ギガントアーマーが集合する。そして、予備の巨大武器を積んだ浮遊式輸送板もまた続々と到着していた。
 溶かされるなら、溶かされても良いだけの数を集めるだけだ。人間側の作戦は単純明解――圧倒的な物量。
 それは誰の目にも正しく見えた。

 ゲルニッヒの鈍い動きは、人間からすればカモだった。
 殴り、叩き、斬り、突く。耐久性だけは異常に高いが、そこは持久戦だ。
 毒に犯された人間は後退し、他の者と入れ替える。密閉性の高い重甲鎧ギガントアーマーならば、その手間も少ない。
 後は相手が死ぬまで殴り続けるだけだ。

「ダメだ……ロイ! 部隊を下げろ!」

 ロイの通信機に、アスターゼンの力ない怒声が鳴る。
 既に付近はかなり明るくなり、ロイも何回武器を変えたのか分からないほどだ。
 現在は休憩に入り、配下達数人がハンマーで餅付きのように叩いている最中だった。

「生きていたか。だが今下げるのは得策とも思えんが……」

 言いながらふと思う。アスターゼンの献策に今まで間違いはあっただろうかと。

 ……思い返せば間違いだらけだった。彼は参謀にはあまり向いていない。
 だがこれは少し毛色が違う。戦術戦略に属すものではなく、もっと野生の勘的なものだ。
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