308 / 425
【 魔族と人と 】
魔人ゲルニッヒ その3
しおりを挟む
最初は、それが何なのか理解すら出来なかった。
だが見覚えはある。これは……装甲騎兵の外壁!?
「アスターゼン将軍!」
「お気を確かに!」
いつの間にか、周囲には兵士達が集まっている。
魔族は――見渡せば、先ほどの装甲騎兵が引き潰したらしい。
止まっている装甲騎兵の周囲には、兵士達が輪を作っていた。
装甲騎兵の大きさは全長11メートル。幅も4メートル程と大型だ。そんなものに轢かれたら、人型魔族などひとたまりもない。
だがアスターゼンは、奴が死んでいない事を確信していた。それはただの直感ではあったが、確信でもあった。
「早く……離れろ……来るぞ」
ギイィと、装甲騎兵のハッチが開く。
そこから出てきたのは、大豆頭の蠢く死体の様な魔族だ。
全体のラインは骨がないかの様にグニャグニャになっている。おそらく、骨は砕けたのだろう。そして体のあちこちから、激しく動く根のようなものが飛び出していた。
いったい何時どうやって中に入ったのか? 中にいた操縦士や動力士はどうなったのか?
だがそれは、今確認すべき事ではない。すぐさま囲んでいた兵士達が斬りかかる。
しかし剣も、斧も、槍も、確かに体は突き通すが魔族は倒れない。それどころか、やはり武器は溶け白い煙を上げている。
「ダメだ……そいつに……そいつに金属を使うな!」
「面白イ。ヤハリ貴方は気が付いていまシタネ。素晴らしい観察眼デス」
両手を広げるその姿。パクパクと開く口のような裂け目。
――こいつは……笑っているのだろうか?
ここに集まった兵士達は対毒装備に抗毒薬も投与済みだ。それでも兵士達の動きは次第に鈍くなり、よろめき、やがて糸の切れたブリキ人形のようにガシャンと音を立てて崩れ落ちる。
――俺もここまでだな……。
アスターゼンは、状況を見ながらそう判断した。
もう体はほとんど動かない。それに鎧が異常に重い。魔力を上手く練り出せなくなっている。
だが思考は無数の可能性を模索する。目の前の魔族を倒すため、ありとあらゆる手を考える。
最後まで諦めない思考錯誤は、ゲルニッヒの興味を強く引き付けた。
「成程、戦いを諦めないその考え、実に不思議デス。興味深イ。なぜデス? 周りは既に諦めてイマスヨ」
――そんな事は簡単な事だ……。
「ホホウ、なぜデス、教えてクダサイ。貴方はナゼ、ソレほどまでに戦うのデスカ?」
――それは……。
薄れゆく意識の中、覗き込んでいた魔族が吹き飛ばされた姿が見える。
――こいつが進む道を、少しでも楽にするためだ。
「生きているか!? アスターゼン!」
そこに立っていたのは、3メートルを超す紅蓮の重甲鎧を纏ったロイ・ハン・ケールオイオンだった。
「陛下! アスターゼン将軍の最後の言葉です。奴に金属武器は使用するな……と」
「……そうか」
見れば、つい今しがた魔族を殴った巨大棘付メイスの棘が、数本溶け白い煙を上げている。
――なるほどな……報告通りか。
来たばかりのロイだが、状況は偵察隊が確認し報告していた。アスターゼンの戦いも、最初から最後まで。
だが助けなかった。偵察隊の任務は、状況を正しく伝える事だ。
そしてまたアスターゼンも、それを望んでいたのだから。
「仇は取らせてもらおうとしよう」
モーター音が唸りを上げ、紅蓮の巨大がゲルニッヒに襲い掛かった。
――いや、死んじゃいないんだがな。
まるでもう死んだことになっているような雰囲気だ……そう感じ取ったアスターゼンが心の中でつぶやくが、そんな事は当然誰も聞いてなどいない。
彼は今、タンカに乗せられて後方へ移送中だった。
既に周囲は明るくなりつつある。果敢に戦うロイだが、魔族を吹き飛ばす度に武器は溶け、煙を上げる。
分かってはいても、なら代わりに何か用意できるかという話ではない。
例え効果は薄くても、これで戦うしかない。
送れて何体もの重甲鎧が集合する。そして、予備の巨大武器を積んだ浮遊式輸送板もまた続々と到着していた。
溶かされるなら、溶かされても良いだけの数を集めるだけだ。人間側の作戦は単純明解――圧倒的な物量。
それは誰の目にも正しく見えた。
ゲルニッヒの鈍い動きは、人間からすればカモだった。
殴り、叩き、斬り、突く。耐久性だけは異常に高いが、そこは持久戦だ。
毒に犯された人間は後退し、他の者と入れ替える。密閉性の高い重甲鎧ならば、その手間も少ない。
後は相手が死ぬまで殴り続けるだけだ。
「ダメだ……ロイ! 部隊を下げろ!」
ロイの通信機に、アスターゼンの力ない怒声が鳴る。
既に付近はかなり明るくなり、ロイも何回武器を変えたのか分からないほどだ。
現在は休憩に入り、配下達数人がハンマーで餅付きのように叩いている最中だった。
「生きていたか。だが今下げるのは得策とも思えんが……」
言いながらふと思う。アスターゼンの献策に今まで間違いはあっただろうかと。
……思い返せば間違いだらけだった。彼は参謀にはあまり向いていない。
だがこれは少し毛色が違う。戦術戦略に属すものではなく、もっと野生の勘的なものだ。
だが見覚えはある。これは……装甲騎兵の外壁!?
「アスターゼン将軍!」
「お気を確かに!」
いつの間にか、周囲には兵士達が集まっている。
魔族は――見渡せば、先ほどの装甲騎兵が引き潰したらしい。
止まっている装甲騎兵の周囲には、兵士達が輪を作っていた。
装甲騎兵の大きさは全長11メートル。幅も4メートル程と大型だ。そんなものに轢かれたら、人型魔族などひとたまりもない。
だがアスターゼンは、奴が死んでいない事を確信していた。それはただの直感ではあったが、確信でもあった。
「早く……離れろ……来るぞ」
ギイィと、装甲騎兵のハッチが開く。
そこから出てきたのは、大豆頭の蠢く死体の様な魔族だ。
全体のラインは骨がないかの様にグニャグニャになっている。おそらく、骨は砕けたのだろう。そして体のあちこちから、激しく動く根のようなものが飛び出していた。
いったい何時どうやって中に入ったのか? 中にいた操縦士や動力士はどうなったのか?
だがそれは、今確認すべき事ではない。すぐさま囲んでいた兵士達が斬りかかる。
しかし剣も、斧も、槍も、確かに体は突き通すが魔族は倒れない。それどころか、やはり武器は溶け白い煙を上げている。
「ダメだ……そいつに……そいつに金属を使うな!」
「面白イ。ヤハリ貴方は気が付いていまシタネ。素晴らしい観察眼デス」
両手を広げるその姿。パクパクと開く口のような裂け目。
――こいつは……笑っているのだろうか?
ここに集まった兵士達は対毒装備に抗毒薬も投与済みだ。それでも兵士達の動きは次第に鈍くなり、よろめき、やがて糸の切れたブリキ人形のようにガシャンと音を立てて崩れ落ちる。
――俺もここまでだな……。
アスターゼンは、状況を見ながらそう判断した。
もう体はほとんど動かない。それに鎧が異常に重い。魔力を上手く練り出せなくなっている。
だが思考は無数の可能性を模索する。目の前の魔族を倒すため、ありとあらゆる手を考える。
最後まで諦めない思考錯誤は、ゲルニッヒの興味を強く引き付けた。
「成程、戦いを諦めないその考え、実に不思議デス。興味深イ。なぜデス? 周りは既に諦めてイマスヨ」
――そんな事は簡単な事だ……。
「ホホウ、なぜデス、教えてクダサイ。貴方はナゼ、ソレほどまでに戦うのデスカ?」
――それは……。
薄れゆく意識の中、覗き込んでいた魔族が吹き飛ばされた姿が見える。
――こいつが進む道を、少しでも楽にするためだ。
「生きているか!? アスターゼン!」
そこに立っていたのは、3メートルを超す紅蓮の重甲鎧を纏ったロイ・ハン・ケールオイオンだった。
「陛下! アスターゼン将軍の最後の言葉です。奴に金属武器は使用するな……と」
「……そうか」
見れば、つい今しがた魔族を殴った巨大棘付メイスの棘が、数本溶け白い煙を上げている。
――なるほどな……報告通りか。
来たばかりのロイだが、状況は偵察隊が確認し報告していた。アスターゼンの戦いも、最初から最後まで。
だが助けなかった。偵察隊の任務は、状況を正しく伝える事だ。
そしてまたアスターゼンも、それを望んでいたのだから。
「仇は取らせてもらおうとしよう」
モーター音が唸りを上げ、紅蓮の巨大がゲルニッヒに襲い掛かった。
――いや、死んじゃいないんだがな。
まるでもう死んだことになっているような雰囲気だ……そう感じ取ったアスターゼンが心の中でつぶやくが、そんな事は当然誰も聞いてなどいない。
彼は今、タンカに乗せられて後方へ移送中だった。
既に周囲は明るくなりつつある。果敢に戦うロイだが、魔族を吹き飛ばす度に武器は溶け、煙を上げる。
分かってはいても、なら代わりに何か用意できるかという話ではない。
例え効果は薄くても、これで戦うしかない。
送れて何体もの重甲鎧が集合する。そして、予備の巨大武器を積んだ浮遊式輸送板もまた続々と到着していた。
溶かされるなら、溶かされても良いだけの数を集めるだけだ。人間側の作戦は単純明解――圧倒的な物量。
それは誰の目にも正しく見えた。
ゲルニッヒの鈍い動きは、人間からすればカモだった。
殴り、叩き、斬り、突く。耐久性だけは異常に高いが、そこは持久戦だ。
毒に犯された人間は後退し、他の者と入れ替える。密閉性の高い重甲鎧ならば、その手間も少ない。
後は相手が死ぬまで殴り続けるだけだ。
「ダメだ……ロイ! 部隊を下げろ!」
ロイの通信機に、アスターゼンの力ない怒声が鳴る。
既に付近はかなり明るくなり、ロイも何回武器を変えたのか分からないほどだ。
現在は休憩に入り、配下達数人がハンマーで餅付きのように叩いている最中だった。
「生きていたか。だが今下げるのは得策とも思えんが……」
言いながらふと思う。アスターゼンの献策に今まで間違いはあっただろうかと。
……思い返せば間違いだらけだった。彼は参謀にはあまり向いていない。
だがこれは少し毛色が違う。戦術戦略に属すものではなく、もっと野生の勘的なものだ。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる