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【 魔族と人と 】
魔人ゲルニッヒ その2
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「ソノ武器では無理デスネ。モウ持ち主のいない武器が沢山あるデショウ。ソレと交換してはイカガ?」
視線だけで、右手で握っている斧を見る。
その先端はドロドロと溶け崩れており、白い霧がたっていた。
いやな汗が流れる。長年使い込んだ武器の僅かな重量差を把握できていない。
緊張か? いや、違う。霞む視界と、口に広がる鉄の味……これは毒だ。
「武器を変えるまで、待ってくれるって訳か。余裕だな」
「ヨユウ、そう、余裕デスネ。私の心は極めて平穏デスヨ。デスガ……貴方は違うようデスネ。」
抑揚のない不気味な言葉遣い。だが確かな言語だ。こいつは人間と同格か、それ以上の知能を表している。
そして感じる魔力……こちらもかなりの強さを感じる。だが、対処できない程ではない。
斬った感触からして、切断系の武器では効果が薄いだろう。全く、厄介なものが入り込んだものだと思う。
しかも間違いなく毒が蔓延している。最悪だ。
だが幸いなこともある。少なくとも、周囲にいるのはこいつだけ。単体だ。
しかも人間サイズ。そして効果は薄くとも、武器も通る。ならば……。
アスターゼンは近くのテントに入り込んだ。
後ろから攻撃される危険もある。速攻で、飛び込むように。
だが、魔族は攻撃しては来なかった。見た目通り鈍いのか? いや、今は良いだろう。
とにかく立てかけてあったハンマーを掴む。同時にテントの中を見渡すが、生きている人間の気配はない。
テントから出ると、先程の魔族は移動していた。だがまだ数メートルだ。足はさほど速くないと見える。
最初に使った斧は相当に溶け、もう柄の方までしか残っていない。あんな溶解液を浴びたらひとたまりも無いだろう。
「待たせたな!」
言いながらハンマーを振りかぶり、全力でダッシュし振り下ろす。後ろから躊躇なしに。
これは騎士の決闘ではない。そしてこういう時、無言で攻撃するよりも、声をかけた方が相手の動きが止まり当たりやすい。
そういった辺りの汚い戦闘は得意中の得意だ。そして予定通り、相手は興味ありそうにクルリと振り返るだけで避けはしなかった。
直撃するハンマー。響く高音と金属のような固いものを叩いた感触。それはアスターゼンが予定しないものだった。
もっと植物や肉的なものが潰れる感触と音がすると思ったのだ。
「マタマタ壊れてしまいマシタネ。マア、沢山あるデショウ? ドウゾドウゾ、新たな武器をご用意クダサイ」
目の前の魔族が言うようにハンマーはひび割れ、更にそこから体液でも入ったのだろうか、ドロリと溶け始めている。
鈍器ならと思ったが、こうも溶けては力が分散して意味が合い。
だがこれだけの力の差があるからだろうか? 目の前の魔族は本人の言うように余裕だ。
この油断が奴を殺す。この駐屯地には、まだ30万人近くがいるのだ。
「残念デスガ、既に10万人ほどは死にマシタ。エエ、今も減り続けてイマスネ、ヤルべき事があるのでしタラ、急いだ方が良いデショウ」
――こいつは……何を言っている? まさかな。
魔族へ向けて、ハンマーの柄を投げる。当てる為ではない。
そしてそれは、邪魔される事無くカランと音を立て転がった。
――やはりな。
コイツは強い、強いが故に人間を舐めすぎている。
確かに奴の言葉通り援軍は来ていないが、まだ手はありそうだ。
素早く背後に両手を回し、隠してあった投擲用の短剣を掴み投げる。
それは避けられることなく、綺麗に右腕と左太腿に突き刺さった。
だがやはり、これまでの武器同様に体液に当たりドロリと溶ける――だがそれがどうした? 関係ない。
すぐさま体液が沸騰し、真っ赤な蒸気が吹き出す。水分を沸騰させているのは、形ではなく成分だ。一度刺さってしまえば溶けたとしても効力は残る。
そして既にアスターゼンは前にダッシュしていた。
先程投げた柄だけになったハンマー。それを再び広い、金属バットの様にサイドスイングで頭部を狙い振り抜く――いや、振り抜こうとした。
だが何かがおかしい。当たる瞬間、全身に警鐘が鳴る。
咄嗟に柄を捨てバックジャンプし、再度様子をうかがう。
「オオ、素晴らシイ。実に素晴らシイ。ソレに気が付いたのは、貴方が初めてデス。お見事と称賛いたしマショウ。シカシ……意味はありマセンネ。攻撃を続けても良かったのデスヨ。ハハハ」
最初に奴を斬った斧は、柄の端まで溶け消えている。もう残りは僅かだ。
いや、そこがおかしい。金属が溶けて、なぜ容積がそこまで減る?
理解が及ばない。いや、思考が回らない……なんだ?
アスターゼン自身は気付いていない。今自分が、血の涙を流している事を。鼻や耳からもだ。
そして血管が浮き出て、ビクンビクンと脈動している事にも。
体に異常を感じて一歩退こうと考えるが、膝が震え、思うように動けない。
――毒!? もうここまで回ったのか!? げ、解毒を……。
「アア、ココデスネ。ハイ、大丈夫デスヨ」
一瞬で目の前に――いや、違う。意識が飛び飛びになっている。
左手を握った魔族が、そこにある解毒剤のスイッチを押す。
薬液が体に入る鈍い感覚。痛みは感じない……状態はそこまで悪いのか!?
「ソウデスネ、モウ長くはありマセン。シカシまだ少し、時間はありマスヨ」
――こいつは俺の心を読んでいる!?
朦朧とする意識の中、目の前に大豆の頭が迫る。武器――何か武器はないか。
そう考えた目の前に、突然金属の壁が現れた。
視線だけで、右手で握っている斧を見る。
その先端はドロドロと溶け崩れており、白い霧がたっていた。
いやな汗が流れる。長年使い込んだ武器の僅かな重量差を把握できていない。
緊張か? いや、違う。霞む視界と、口に広がる鉄の味……これは毒だ。
「武器を変えるまで、待ってくれるって訳か。余裕だな」
「ヨユウ、そう、余裕デスネ。私の心は極めて平穏デスヨ。デスガ……貴方は違うようデスネ。」
抑揚のない不気味な言葉遣い。だが確かな言語だ。こいつは人間と同格か、それ以上の知能を表している。
そして感じる魔力……こちらもかなりの強さを感じる。だが、対処できない程ではない。
斬った感触からして、切断系の武器では効果が薄いだろう。全く、厄介なものが入り込んだものだと思う。
しかも間違いなく毒が蔓延している。最悪だ。
だが幸いなこともある。少なくとも、周囲にいるのはこいつだけ。単体だ。
しかも人間サイズ。そして効果は薄くとも、武器も通る。ならば……。
アスターゼンは近くのテントに入り込んだ。
後ろから攻撃される危険もある。速攻で、飛び込むように。
だが、魔族は攻撃しては来なかった。見た目通り鈍いのか? いや、今は良いだろう。
とにかく立てかけてあったハンマーを掴む。同時にテントの中を見渡すが、生きている人間の気配はない。
テントから出ると、先程の魔族は移動していた。だがまだ数メートルだ。足はさほど速くないと見える。
最初に使った斧は相当に溶け、もう柄の方までしか残っていない。あんな溶解液を浴びたらひとたまりも無いだろう。
「待たせたな!」
言いながらハンマーを振りかぶり、全力でダッシュし振り下ろす。後ろから躊躇なしに。
これは騎士の決闘ではない。そしてこういう時、無言で攻撃するよりも、声をかけた方が相手の動きが止まり当たりやすい。
そういった辺りの汚い戦闘は得意中の得意だ。そして予定通り、相手は興味ありそうにクルリと振り返るだけで避けはしなかった。
直撃するハンマー。響く高音と金属のような固いものを叩いた感触。それはアスターゼンが予定しないものだった。
もっと植物や肉的なものが潰れる感触と音がすると思ったのだ。
「マタマタ壊れてしまいマシタネ。マア、沢山あるデショウ? ドウゾドウゾ、新たな武器をご用意クダサイ」
目の前の魔族が言うようにハンマーはひび割れ、更にそこから体液でも入ったのだろうか、ドロリと溶け始めている。
鈍器ならと思ったが、こうも溶けては力が分散して意味が合い。
だがこれだけの力の差があるからだろうか? 目の前の魔族は本人の言うように余裕だ。
この油断が奴を殺す。この駐屯地には、まだ30万人近くがいるのだ。
「残念デスガ、既に10万人ほどは死にマシタ。エエ、今も減り続けてイマスネ、ヤルべき事があるのでしタラ、急いだ方が良いデショウ」
――こいつは……何を言っている? まさかな。
魔族へ向けて、ハンマーの柄を投げる。当てる為ではない。
そしてそれは、邪魔される事無くカランと音を立て転がった。
――やはりな。
コイツは強い、強いが故に人間を舐めすぎている。
確かに奴の言葉通り援軍は来ていないが、まだ手はありそうだ。
素早く背後に両手を回し、隠してあった投擲用の短剣を掴み投げる。
それは避けられることなく、綺麗に右腕と左太腿に突き刺さった。
だがやはり、これまでの武器同様に体液に当たりドロリと溶ける――だがそれがどうした? 関係ない。
すぐさま体液が沸騰し、真っ赤な蒸気が吹き出す。水分を沸騰させているのは、形ではなく成分だ。一度刺さってしまえば溶けたとしても効力は残る。
そして既にアスターゼンは前にダッシュしていた。
先程投げた柄だけになったハンマー。それを再び広い、金属バットの様にサイドスイングで頭部を狙い振り抜く――いや、振り抜こうとした。
だが何かがおかしい。当たる瞬間、全身に警鐘が鳴る。
咄嗟に柄を捨てバックジャンプし、再度様子をうかがう。
「オオ、素晴らシイ。実に素晴らシイ。ソレに気が付いたのは、貴方が初めてデス。お見事と称賛いたしマショウ。シカシ……意味はありマセンネ。攻撃を続けても良かったのデスヨ。ハハハ」
最初に奴を斬った斧は、柄の端まで溶け消えている。もう残りは僅かだ。
いや、そこがおかしい。金属が溶けて、なぜ容積がそこまで減る?
理解が及ばない。いや、思考が回らない……なんだ?
アスターゼン自身は気付いていない。今自分が、血の涙を流している事を。鼻や耳からもだ。
そして血管が浮き出て、ビクンビクンと脈動している事にも。
体に異常を感じて一歩退こうと考えるが、膝が震え、思うように動けない。
――毒!? もうここまで回ったのか!? げ、解毒を……。
「アア、ココデスネ。ハイ、大丈夫デスヨ」
一瞬で目の前に――いや、違う。意識が飛び飛びになっている。
左手を握った魔族が、そこにある解毒剤のスイッチを押す。
薬液が体に入る鈍い感覚。痛みは感じない……状態はそこまで悪いのか!?
「ソウデスネ、モウ長くはありマセン。シカシまだ少し、時間はありマスヨ」
――こいつは俺の心を読んでいる!?
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