この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 魔族と人と 】

魔王vsマリクカンドルフ 前編

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 チャリ……チャリリリリリ……。

 鎖を引きずる音が、森に響く。それと、重く響く足音もだ。
 微かな明かりに照らされて、4メートル級パワードスーツの輪郭が見える。
 死霊レイスの光だけじゃない。夜が次第に明けてきているのだ。

 ――絶対にマズイな……。

「どうしたね、魔王。ティランド連合王国を相手にした時は、随分と饒舌じょうぜつだったと聞くがね」

 スピーカーから発せられたようなその声と同時に、風を切って鎖の束が振り下ろされる。

 ――冗談じゃねぇぞ!

 間一髪でかわすが、これ当たったらマズくね?
 長く太い柄に、7本の鎖が取り付けられている。
 なんとなく武器っぽくない形状だが、巨大なパワードスーツが振り回すとなると話が変わる。
 さっきまで俺が持っていた大剣は、アレを受けた時にもう半ば砕かれていた。
 更に鎖が絡まり、引っ張られた時にバラバラに砕け散った。
 もし生身で受けていたら、おそららく同じ運命を辿っただろう。

 ――テルティルト、武器!

「分かってるー。今形成中」

 だが向こうは待ってはくれない。再び空気を切り裂き、鎖が振り下ろされる。
 当たれば間違いなく即死級。だが幸い、思ったよりは遅い。
 いや早いのだが、図体がでかい分オーバーアクションなのだ。
 これなら避けるのも――

( 鎖をかわそうとした瞬間、全身に衝撃が走る。 )
( 盾だ! どうやって!? だが考える間もなく、背後の木に激突する。 )
( 呼吸と動きが止まる。何とかしないと……そう顔を上げた瞬間、目に映ったのは槍を突き立てる兵士の姿だった。 )

 どうやって――いや、考えるのは避けてからだ。
 盾で思い切り叩かれた事は確実だ。だが相手の重心は、右手に持った鎖の鞭にある。
 しかしやられるのは確実。ここで理論とか考えても仕方が無い。
 いっそ鎖の下にジャンプしてすり抜けるか?

( ジャンプしてすり抜けた! と思った瞬間だった。 )
( 背中に衝撃を受ける。鎖の鞭を振りながら、肘打ちをしてきたのだ。 )
( ゴキっと嫌な音がする。間違いなく、腰の骨を砕かれた! )
( 下半身に全く感覚が無い。焦る俺をあざ笑うかのように、鎖の鞭が振り下ろされた。 )

 ――左しかねぇ!
 全力で左にダイブ。そのまま受け身を取って転がった。
 視界に映ったのは、右手の鞭を振り下ろしながら、ほぼ同時に後ろにあった左足で一歩進み、左手の盾で殴りかかってきたのだ。
 出来ないわけでは無いが、あまりにも不自然な動き。

 ウラーザムザザの博物館コレクションルームに似たようなものがあった。
 確か両手は完全に機械動力の偽物だし、足も膝から下は機械だ。
 人間の形をしていたから失念していたよ。あれは鎧じゃなくて機械マシンだったな。
 見た目通り、人間の動きしか出来ないと思ったら大間違いだ。
 そしてその特殊な動作を、完全に使いこなしている。
 まあ当たり前か。彼も何十年……いや、何百年と戦い続けているのだろうからな。

「どうしたね。魔王とはこんな物かな? それともやはり、偽物かね? この程度の相手にあのケーバッハが後れを取ったとは、到底思えないのだがね」

 モーターの唸りを上げ、マリクカンドルフは一度態勢を立て直す。
 成る程、機械とはいえ人間型だ。重心が崩れたら、一度直さなきゃいけない処は同じか。
 だがしかし、どうするか……いや、考えるまでもないな。
 一度強者で余裕のある魔王を演じてしまったのだ。今更違いますごめんなさいが許されるわけもない。

「君があまりにも性急だったのでね。少し面食らってしまったよ、ニンゲン。もう少し、礼儀と慎みを覚えたらどうかね?」

 少し腰を落とし、右手でくいっと眼鏡を上げるようなポーズ。
 いやこれって強者のポーズだったか?
 大体眼鏡なんざ掛けちゃいない。まだ少し軽くパニクっている自覚があるな。
 それに俺がやると、少しオネエっぽくなる気もする。だが今更だ、仕方がない。
 とにかく、余裕を見せなければいけないんだ。

 そんな魔王相和義輝あいわよしきの様子を見て、マリクカンドルフは彼が人間であるとすぐに分かった。
 頭頂から足先まで、その全身を赤黒い昆虫のような甲殻が覆っている。それだけ見れば、どことなく魔族にも見えるだろう。
 だがその動き、重心、感触。長く魔族とも人間とも戦ってきた彼の目には、外骨格を透けて人間の骨格が推測できる。
 そして彼から見て、目の前の人間は精一杯の虚勢を張っている様に見えた。

 なぜ――どうして――様々な思いが巡るが、彼がしたことはいたってシンプルだった。

「声紋照合、急げ」

 小声で通信機に連絡を送る。
 そう、彼は魔王の声が欲しかったのだ。それは、ここにどれくらいの戦力を集めれば良いかの大事な目安となる。
 だがまあ――
 頭上でぐるりと鎖の束を回し、魔王目がけて振り下ろす。
 ここで殺してしまえば、もう余計な手間もいらなくなるのだ。
 だがその瞬間、脳裏に何かを感じた。それは長く戦いの中で身についた、”勘”といえるような曖昧な感覚だった。




 パワードスーツは、確かに右足を前に出し武器を振り下ろした――にも関わらず、その右足を軸にバックジャンプ。
 やはり機械ならではか。そして同時に、切り札の一つがすぐさまバレたという事だ。
 マリクカンドルフの周囲に現れた影。それは攻撃した一瞬だけ姿を現すが、すぐさま陽炎のように消える。首無し騎士デュラハンの軍団だった。
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