301 / 425
【 魔族と人と 】
魔王逃避行 その4
しおりを挟む
今どのへんだ? 全く分からないし、確認する余裕もない。
目の前は真っ暗。空も真っ暗。そして実際に目の前が霞む。疲労だ……。
「ほら魔王様、きびきび行きましょう!」
死霊のルリアの光のおかげで何とか進めるが、こいつ自分は飛んでるから気楽だなー。
こっちはもう足どころか全身の感覚が無くなってきているぞ。
……いや、違うな。肺と心臓だけははっきりと感じる。肺はヤスリで擦っているかのように痛く熱く、動悸の激しさは今にも心臓が破裂しそうだと錯覚する。
こんな起伏のある草地を、夜通し走る事になるとは誰が予測しただろうか。
多分だが、あの軍略家とかいうリッツェルネールでも分かるまい……。
だけど、走っている方角は大体わかる。これは魔王と領域の結びつきが強いからだろうか?
俺は今、北へ向かっている。目的地は火山帯……灼熱の翼竜が住む地だ。
あそこへ逃げ込めば、何とか一息つける……と思う。そう信じたい。
だが突然、世界が真っ白い光に包まれた。まるで急に昼間になったかのようだ。
だけど違う。その光の先に、暗闇が透けて見える。
今更考えるまでも無いな、これは投光器の光だ。
たまたま照らされたのではない。完全にこちらを捕らえ、追尾して来る。
――完全に補足されたな……。
すぐに暗闇を縫って、無数の矢が飛んできた。
木の幹に次々刺さる音は、まるでマシンガンの様だ。俺にも何発も当たる。
「この位なら問題無いけどー」
うん、テルティルトが頼もしい。
この戦いが終わったら、ケーキを腹いっぱい食べさせてやりたいな。
( 肩、腹を長い投擲槍が貫く。 )
( 「……だめじゃ……ないか…………」 )
( ゴバッと血を吐き出し、草の中にどさりと崩れ落ちた。 )
「ダメじゃないか!」
咄嗟に横に飛んで投擲槍を躱す。
アブねぇ! よく見りゃ幾つかの浮遊式輸送板には、大型の飛び道具が設置されている。
飛んできた投擲槍にも見覚えだ。あれは多分、飛甲騎兵に付いているのと同じようなものだろう。
「無敵だったら逃げる必要はないでしょー。あんまり凄いのは無理よー」
まあ確かにそうである。
しかしマズいな……死の予感は死んだ時しか分からない。
もしあれに足とか撃ち抜かれてしまったら、それでもう終わりだ。
何とか――そう考えた時、一瞬意識が暗くなる。
いや、違う! 死んだ――死ぬのだ、それも即死! やばい、死に方が分からないとどうしようもない。
止まればいいのか? 躱せばいいのか? 右? 左?
魔王の居城で魔力を使い過ぎた。これじゃ遠い未来は視えない。となれば、死ぬまで数秒程度だろう。考えている時間は無い!
半ば運に任せて、手近な大木の根元に飛び込んだ。
――と、その瞬間、頭上を巨大な浮遊式輸送板が通り過ぎていく。
やべえ! あれに跳ねられたのか!
だが何とか生きている。しかし、今はと注釈付きだ。
完全に足が止まってしまった。そして、様々な方向から当てられる眩しい光。
全周囲からのロックオン。ざくざくと蔓草を踏み荒らし迫りくる人間達。
ああ、詰んだかもしれない――そんな俺の探知範囲に、見知った命を感じ取る。
この感じは、ケルベムレンの街で出会った彼か。
俺はリアンヌの丘で、あの地にいた彼の家族を全員殺したらしい。
これもまた、何かの因縁だろうか……。
「テルティルト。いつか飛甲騎兵を墜とした魔法、あれ何回くらい使えるんだ?」
「100回くらい?」
「それは何とも頼もしいな……」
周囲に感じる多数の命。人間……おそらく、数万だ。
100回――全部必中必殺としても、1パーセントにも満たない。
「他に何か使えそうな魔法は無いか? それと武器を頼む」
左手の手首から、テルティルトの体が伸びる。それは次第に刀の形を取りつつあるが、相てはこちらの事なんて待ってはくれない。
もう目の前に、一人の兵士が大剣を振り上げ斬りかかってきている。
――間に合うか!?
完了を待ってはいられない。俺はそのまま、正面から襲って来た兵士を袈裟斬りにした。
――が、刃はガッ! という音と共に相手の肩当に喰い込み、途中で止まってしまう。
まずい! 俺マジで一般兵士よりダメだ。頭上に振り下ろされた相手の大剣をみっともなく転げて躱すと、なんとか再び逃げる。こいつらと戦ってなんていられない!
だがもう遅かったか。
目の前に大量に人間の顔が見える。暗闇に照らされた必死の形相の集団は、まるでパニックホラーの様だ。
だが彼らは重装甲の鎧を纏い、巨大な武器をその手に握る。一人一人が俺より強い、屈強な兵士達。
――ああ、終わったのか……。
そう思ったとたん、周囲を囲んでいた数十人の兵士が一斉にグシャリと潰れた。
それはもう、いきなり缶ジュースを握り潰したかの様だ。
後に残ったのは、潰れた武具と人間、それに大量の血だまりのみ。
「これで一発か?」
「そうよー」
成る程……まだちょっとは希望がありそうだ。
魔道言葉を唱え、潰れていない大剣を拾う。170センチほどの刃渡りに20センチほどの柄。更に刀身幅はおよそ30センチと、相変わらず化け物じみた武器だ。
昔だったら持ち上げるどころか動かすことすらできなかったが――うん、使えるな。
目の前は真っ暗。空も真っ暗。そして実際に目の前が霞む。疲労だ……。
「ほら魔王様、きびきび行きましょう!」
死霊のルリアの光のおかげで何とか進めるが、こいつ自分は飛んでるから気楽だなー。
こっちはもう足どころか全身の感覚が無くなってきているぞ。
……いや、違うな。肺と心臓だけははっきりと感じる。肺はヤスリで擦っているかのように痛く熱く、動悸の激しさは今にも心臓が破裂しそうだと錯覚する。
こんな起伏のある草地を、夜通し走る事になるとは誰が予測しただろうか。
多分だが、あの軍略家とかいうリッツェルネールでも分かるまい……。
だけど、走っている方角は大体わかる。これは魔王と領域の結びつきが強いからだろうか?
俺は今、北へ向かっている。目的地は火山帯……灼熱の翼竜が住む地だ。
あそこへ逃げ込めば、何とか一息つける……と思う。そう信じたい。
だが突然、世界が真っ白い光に包まれた。まるで急に昼間になったかのようだ。
だけど違う。その光の先に、暗闇が透けて見える。
今更考えるまでも無いな、これは投光器の光だ。
たまたま照らされたのではない。完全にこちらを捕らえ、追尾して来る。
――完全に補足されたな……。
すぐに暗闇を縫って、無数の矢が飛んできた。
木の幹に次々刺さる音は、まるでマシンガンの様だ。俺にも何発も当たる。
「この位なら問題無いけどー」
うん、テルティルトが頼もしい。
この戦いが終わったら、ケーキを腹いっぱい食べさせてやりたいな。
( 肩、腹を長い投擲槍が貫く。 )
( 「……だめじゃ……ないか…………」 )
( ゴバッと血を吐き出し、草の中にどさりと崩れ落ちた。 )
「ダメじゃないか!」
咄嗟に横に飛んで投擲槍を躱す。
アブねぇ! よく見りゃ幾つかの浮遊式輸送板には、大型の飛び道具が設置されている。
飛んできた投擲槍にも見覚えだ。あれは多分、飛甲騎兵に付いているのと同じようなものだろう。
「無敵だったら逃げる必要はないでしょー。あんまり凄いのは無理よー」
まあ確かにそうである。
しかしマズいな……死の予感は死んだ時しか分からない。
もしあれに足とか撃ち抜かれてしまったら、それでもう終わりだ。
何とか――そう考えた時、一瞬意識が暗くなる。
いや、違う! 死んだ――死ぬのだ、それも即死! やばい、死に方が分からないとどうしようもない。
止まればいいのか? 躱せばいいのか? 右? 左?
魔王の居城で魔力を使い過ぎた。これじゃ遠い未来は視えない。となれば、死ぬまで数秒程度だろう。考えている時間は無い!
半ば運に任せて、手近な大木の根元に飛び込んだ。
――と、その瞬間、頭上を巨大な浮遊式輸送板が通り過ぎていく。
やべえ! あれに跳ねられたのか!
だが何とか生きている。しかし、今はと注釈付きだ。
完全に足が止まってしまった。そして、様々な方向から当てられる眩しい光。
全周囲からのロックオン。ざくざくと蔓草を踏み荒らし迫りくる人間達。
ああ、詰んだかもしれない――そんな俺の探知範囲に、見知った命を感じ取る。
この感じは、ケルベムレンの街で出会った彼か。
俺はリアンヌの丘で、あの地にいた彼の家族を全員殺したらしい。
これもまた、何かの因縁だろうか……。
「テルティルト。いつか飛甲騎兵を墜とした魔法、あれ何回くらい使えるんだ?」
「100回くらい?」
「それは何とも頼もしいな……」
周囲に感じる多数の命。人間……おそらく、数万だ。
100回――全部必中必殺としても、1パーセントにも満たない。
「他に何か使えそうな魔法は無いか? それと武器を頼む」
左手の手首から、テルティルトの体が伸びる。それは次第に刀の形を取りつつあるが、相てはこちらの事なんて待ってはくれない。
もう目の前に、一人の兵士が大剣を振り上げ斬りかかってきている。
――間に合うか!?
完了を待ってはいられない。俺はそのまま、正面から襲って来た兵士を袈裟斬りにした。
――が、刃はガッ! という音と共に相手の肩当に喰い込み、途中で止まってしまう。
まずい! 俺マジで一般兵士よりダメだ。頭上に振り下ろされた相手の大剣をみっともなく転げて躱すと、なんとか再び逃げる。こいつらと戦ってなんていられない!
だがもう遅かったか。
目の前に大量に人間の顔が見える。暗闇に照らされた必死の形相の集団は、まるでパニックホラーの様だ。
だが彼らは重装甲の鎧を纏い、巨大な武器をその手に握る。一人一人が俺より強い、屈強な兵士達。
――ああ、終わったのか……。
そう思ったとたん、周囲を囲んでいた数十人の兵士が一斉にグシャリと潰れた。
それはもう、いきなり缶ジュースを握り潰したかの様だ。
後に残ったのは、潰れた武具と人間、それに大量の血だまりのみ。
「これで一発か?」
「そうよー」
成る程……まだちょっとは希望がありそうだ。
魔道言葉を唱え、潰れていない大剣を拾う。170センチほどの刃渡りに20センチほどの柄。更に刀身幅はおよそ30センチと、相変わらず化け物じみた武器だ。
昔だったら持ち上げるどころか動かすことすらできなかったが――うん、使えるな。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる