この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 魔族と人と 】

魔王逃避行 その4

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 今どのへんだ? 全く分からないし、確認する余裕もない。
 目の前は真っ暗。空も真っ暗。そして実際に目の前が霞む。疲労だ……。

「ほら魔王様、きびきび行きましょう!」

 死霊レイスのルリアの光のおかげで何とか進めるが、こいつ自分は飛んでるから気楽だなー。
 こっちはもう足どころか全身の感覚が無くなってきているぞ。
 ……いや、違うな。肺と心臓だけははっきりと感じる。肺はヤスリで擦っているかのように痛く熱く、動悸の激しさは今にも心臓が破裂しそうだと錯覚する。
 こんな起伏のある草地を、夜通し走る事になるとは誰が予測しただろうか。
 多分だが、あの軍略家とかいうリッツェルネールでも分かるまい……。

 だけど、走っている方角は大体わかる。これは魔王と領域の結びつきが強いからだろうか?
 俺は今、北へ向かっている。目的地は火山帯……灼熱の翼竜ファイヤーワイバーンが住む地だ。
 あそこへ逃げ込めば、何とか一息つける……と思う。そう信じたい。

 だが突然、世界が真っ白い光に包まれた。まるで急に昼間になったかのようだ。
 だけど違う。その光の先に、暗闇が透けて見える。
 今更考えるまでも無いな、これは投光器サーチライトの光だ。
 たまたま照らされたのではない。完全にこちらを捕らえ、追尾して来る。

 ――完全に補足されたな……。

 すぐに暗闇を縫って、無数の矢が飛んできた。
 木の幹に次々刺さる音は、まるでマシンガンの様だ。俺にも何発も当たる。

「この位なら問題無いけどー」

 うん、テルティルトが頼もしい。
 この戦いが終わったら、ケーキを腹いっぱい食べさせてやりたいな。

( 肩、腹を長い投擲槍ジャベリンが貫く。 )
( 「……だめじゃ……ないか…………」 )
( ゴバッと血を吐き出し、草の中にどさりと崩れ落ちた。 )

「ダメじゃないか!」

 咄嗟に横に飛んで投擲槍ジャベリンかわす。
 アブねぇ! よく見りゃ幾つかの浮遊式輸送板には、大型の飛び道具が設置されている。
 飛んできた投擲槍ジャベリンにも見覚えだ。あれは多分、飛甲騎兵に付いているのと同じようなものだろう。

「無敵だったら逃げる必要はないでしょー。あんまり凄いのは無理よー」

 まあ確かにそうである。
 しかしマズいな……死の予感は死んだ時しか分からない。
 もしあれに足とか撃ち抜かれてしまったら、それでもう終わりだ。
 何とか――そう考えた時、一瞬意識が暗くなる。

 いや、違う! 死んだ――死ぬのだ、それも即死! やばい、死に方が分からないとどうしようもない。
 止まればいいのか? かわせばいいのか? 右? 左?
 魔王の居城で魔力を使い過ぎた。これじゃ遠い未来は視えない。となれば、死ぬまで数秒程度だろう。考えている時間は無い!
 半ば運に任せて、手近な大木の根元に飛び込んだ。

 ――と、その瞬間、頭上を巨大な浮遊式輸送板が通り過ぎていく。
 やべえ! あれに跳ねられたのか!
 だが何とか生きている。しかし、今はと注釈付きだ。
 完全に足が止まってしまった。そして、様々な方向から当てられる眩しい光。
 全周囲からのロックオン。ざくざくと蔓草つるくさを踏み荒らし迫りくる人間達。

 ああ、詰んだかもしれない――そんな俺の探知範囲に、見知った命を感じ取る。
 この感じは、ケルベムレンの街で出会った彼か。
 俺はリアンヌの丘で、あの地にいた彼の家族を全員殺したらしい。
 これもまた、何かの因縁だろうか……。

「テルティルト。いつか飛甲騎兵を墜とした魔法、あれ何回くらい使えるんだ?」

「100回くらい?」

「それは何とも頼もしいな……」

 周囲に感じる多数の命。人間……おそらく、数万だ。
 100回――全部必中必殺としても、1パーセントにも満たない。

「他に何か使えそうな魔法は無いか? それと武器を頼む」

 左手の手首から、テルティルトの体が伸びる。それは次第に刀の形を取りつつあるが、相てはこちらの事なんて待ってはくれない。
 もう目の前に、一人の兵士が大剣を振り上げ斬りかかってきている。

 ――間に合うか!?

 完了を待ってはいられない。俺はそのまま、正面から襲って来た兵士を袈裟斬りにした。

 ――が、刃はガッ! という音と共に相手の肩当ショルダープレートに喰い込み、途中で止まってしまう。
 まずい! 俺マジで一般兵士よりダメだ。頭上に振り下ろされた相手の大剣をみっともなく転げてかわすと、なんとか再び逃げる。こいつらと戦ってなんていられない!

 だがもう遅かったか。
 目の前に大量に人間の顔が見える。暗闇に照らされた必死の形相の集団は、まるでパニックホラーの様だ。
 だが彼らは重装甲の鎧を纏い、巨大な武器をその手に握る。一人一人が俺より強い、屈強な兵士達。

 ――ああ、終わったのか……。

 そう思ったとたん、周囲を囲んでいた数十人の兵士が一斉にグシャリと潰れた。
 それはもう、いきなり缶ジュースを握り潰したかの様だ。
 後に残ったのは、潰れた武具と人間、それに大量の血だまりのみ。

「これで一発か?」

「そうよー」

 成る程……まだちょっとは希望がありそうだ。
 魔道言葉を唱え、潰れていない大剣を拾う。170センチほどの刃渡りに20センチほどの柄。更に刀身幅はおよそ30センチと、相変わらず化け物じみた武器だ。
 昔だったら持ち上げるどころか動かすことすらできなかったが――うん、使えるな。
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