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【 魔族と人と 】
帝国軍到着 後編
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「それで何事かね?」
「浮遊城から最重要指令です。炎と石獣の領域から針葉樹の森へと向かう、魔王と思われる反応あり。現在ムーオスの攻撃隊、商国の飛甲騎兵が向かっていますが地上戦力が足りません。ハルタール帝国も急行し、人類の悲願を果たせとの事です」
「気楽に言ってくれるが、魔王が現れたというのは僥倖だ。即時向かうとしよう。他は?」
「後衛及び予備軍が、魔障の領域で攻撃を受けました。相手は大型のワニ型魔族、それに人型蜥蜴です。ただそれ以外にも、白い霧自体が襲ってきたと報告が……」
「状況は?」
「……すでにほぼ壊滅です。一部は炎と石獣の領域の領域へと逃げ込みましたが、再度の突入は困難です」
自分たちが通過する間、これといった抵抗は無かった。だが、なぜ今になって?
魔王が現れたから活発化したのか? いや、違う。これは誘われたと見て良いだろう。
間違いなく、これで退路は断たれた。もはや進む以外に道は無い。
とは言え――、
「これが魔王の策だとしたら、少々お粗末だな。これではどちらにせよ、我等は魔王を討つために動くしかないではないか」
マリクカンドルフはマントを翻し――、
「工兵隊及び救護隊はここにて設営を続けよ! 我等はこれより、魔王討伐に赴く」
「「「オオオーーーー!」」」
将軍の言葉を受け、一斉に声を張る兵士達。その中には当然の様にラウリアも混ざって入るのだが――、
「お前は待機だ」
「ええ!? 何を言っているんですか、マリクカンドルフ様? あ、まさか魔族の攻撃で頭が!?」
「お前は工兵だろうが!」
キョロキョロするラウリアにそう宣言し、ハルタール帝国本隊は北上を開始した。
◇ ◇ ◇
「ムーオス自由帝国の重飛甲母艦から緊急電文だ! 炎と石獣の領域に強大な魔族反応! 測定不能!」
ケインブラが血相を変えて報告に来るが、リッツェルネールは落ち着いていた。
「それは当初確認視された大ムカデと同じものだね」
「あ、ああ、そうだ。大ムカデの姿が観測されている」
「そいつはまた――」
横で控えていたミックマインセは少し面白そうに、
「――ずいぶんと速い。これは予想していましたか?」
そう――リッツェルネールに尋ねてきた。まさに興味津々といった面持ちだ。
正直に言えば、リッツェルネールは相当に驚いていた。
決断が早すぎる。他の地点で何かあったのかを考えねばならぬほどに。
これでは包囲どころではない。相当に急がせなければ、ハルタール帝国軍は追いつく事も出来ないだろう。
魔王はなぜ、今この地を離れたのだろうか?
現在戦略的に優勢とはいえ、それはリッツェルネールの才覚があってこそだ。
不満が出ない程度に人間を減らし、同時に補充し、食料など必須物資を運び、尚且つ目に見える形での成果を出さねばならない。
まだまだ、人類側も綱渡りの状態だ。
にも拘わらず、このタイミングで魔王は領域を捨てた。
これは相当な戦略眼の持ち主である事を示しているが、同時に不自然な程に戦術を放棄している点が引っかかる。
間違いなく、こちらの事情に精通していなければ導き出せない答えだろう。
――やはり、僕の知らない情報網があるな……。
思ったのはそんな事。だが代わりに出た言葉は、
「いや……まだ魔王と関りがあると決まったわけでは無いよ。だが、あれは最需要攻撃対象の一つだ。ムーオスの攻撃隊は?」
「第428隊が22機、第555隊が24機だな。他は機体トラブルで参加できなかったのが……17機か。もう最小限の予備だけだ」
「派手に落としまくりましたからね。ここで使うんですか?」
「他にいつ使うんだい? ムーオスに伝達。巨大ムカデへの攻撃を要請。針葉樹の領域に入られると厄介だ。出来る限り、炎と石獣の領域で仕留めてもらう様に」
「了解した。おい通信士、ムーオス428と555に連絡だ。内容は……」
これでもう打てる手は全て打った。
魔障の領域で魔族が暴れだしたようだが、もう遅い。既に必要な数は突破した。
マリクカンドルフは不退転の覚悟を決めていたが、実はリッツェルネールは既に退路を確保している。揺り籠を落とし終えた重飛甲母艦隊だ。
状況次第では撤収もあり得るが、出来れば魔王の討伐には成功して欲しい所だと思う。
そして炎と石獣の領域は、今後は単純な消耗戦へと突入するだろうと予想された。
揺り籠による破壊は行えないが、急速再生も行えないと見られている。
後はただいつもの領域戦のように、人の血で地図を書き記すように進めればいい。
もし、今回出てきたのが大ムカデだけで、魔王はまだ中にいるとしたら?
むしろ、それが一番楽だ。今まで通りに進めれば、勝手に追い込まれてくれるのだから。
一つ懸念があるとすれば、再び噴火の可能性があると言う事だろうか。
揺り籠による攻撃では、何処にも溶岩道を発見することが出来なかった。
だが必ずどこかにはあるのだ。この領域を埋め尽くすほどの溶岩が。
そう考えると魔王が死んだ時の噴火には、どこか人工的な匂いもする……。
だがそれもやはり、時間稼ぎの域を出ない。
魔王がどれほど強大であっても、魔族がどれほどあがいても、絶対的な物量は覆らない。
ただでさえその状況であったのに、もう人類は場所を選ぶ権利も持っている。ムーオス自由帝国による、航空地図によるものだ。
魔族領全体の地図……一度手にしたこの優位は、もはや永久に覆らない。
今後は人間の有利な領域から、じっくりと展開していけばいい。
道のりが遠いだけで、決着までの道筋はもう通ってしまったのである。
――いや……或いは……。
リッツェルネールの頭を過ったのは、新たな領域の誕生だ。
壊して、壊して、壊して……ようやく人間の世界になったと思ったら、その根底からひっくり返される危険。
だが普通に考えれば、領域の修復より簡単とは思えない。
大体この浮遊城の下は、変わらず解除された領域跡地のままではないか。
もし、遊ばれているのなら?
意地悪く、最後の最後まで期待させた上で落とす事を考えているのなら?
だがそれは構わないだろう。今の人類には勝てなかった――その事実が残るだけだ。
百年後、千年後……その時に勝っていればいいのだから。
「浮遊城から最重要指令です。炎と石獣の領域から針葉樹の森へと向かう、魔王と思われる反応あり。現在ムーオスの攻撃隊、商国の飛甲騎兵が向かっていますが地上戦力が足りません。ハルタール帝国も急行し、人類の悲願を果たせとの事です」
「気楽に言ってくれるが、魔王が現れたというのは僥倖だ。即時向かうとしよう。他は?」
「後衛及び予備軍が、魔障の領域で攻撃を受けました。相手は大型のワニ型魔族、それに人型蜥蜴です。ただそれ以外にも、白い霧自体が襲ってきたと報告が……」
「状況は?」
「……すでにほぼ壊滅です。一部は炎と石獣の領域の領域へと逃げ込みましたが、再度の突入は困難です」
自分たちが通過する間、これといった抵抗は無かった。だが、なぜ今になって?
魔王が現れたから活発化したのか? いや、違う。これは誘われたと見て良いだろう。
間違いなく、これで退路は断たれた。もはや進む以外に道は無い。
とは言え――、
「これが魔王の策だとしたら、少々お粗末だな。これではどちらにせよ、我等は魔王を討つために動くしかないではないか」
マリクカンドルフはマントを翻し――、
「工兵隊及び救護隊はここにて設営を続けよ! 我等はこれより、魔王討伐に赴く」
「「「オオオーーーー!」」」
将軍の言葉を受け、一斉に声を張る兵士達。その中には当然の様にラウリアも混ざって入るのだが――、
「お前は待機だ」
「ええ!? 何を言っているんですか、マリクカンドルフ様? あ、まさか魔族の攻撃で頭が!?」
「お前は工兵だろうが!」
キョロキョロするラウリアにそう宣言し、ハルタール帝国本隊は北上を開始した。
◇ ◇ ◇
「ムーオス自由帝国の重飛甲母艦から緊急電文だ! 炎と石獣の領域に強大な魔族反応! 測定不能!」
ケインブラが血相を変えて報告に来るが、リッツェルネールは落ち着いていた。
「それは当初確認視された大ムカデと同じものだね」
「あ、ああ、そうだ。大ムカデの姿が観測されている」
「そいつはまた――」
横で控えていたミックマインセは少し面白そうに、
「――ずいぶんと速い。これは予想していましたか?」
そう――リッツェルネールに尋ねてきた。まさに興味津々といった面持ちだ。
正直に言えば、リッツェルネールは相当に驚いていた。
決断が早すぎる。他の地点で何かあったのかを考えねばならぬほどに。
これでは包囲どころではない。相当に急がせなければ、ハルタール帝国軍は追いつく事も出来ないだろう。
魔王はなぜ、今この地を離れたのだろうか?
現在戦略的に優勢とはいえ、それはリッツェルネールの才覚があってこそだ。
不満が出ない程度に人間を減らし、同時に補充し、食料など必須物資を運び、尚且つ目に見える形での成果を出さねばならない。
まだまだ、人類側も綱渡りの状態だ。
にも拘わらず、このタイミングで魔王は領域を捨てた。
これは相当な戦略眼の持ち主である事を示しているが、同時に不自然な程に戦術を放棄している点が引っかかる。
間違いなく、こちらの事情に精通していなければ導き出せない答えだろう。
――やはり、僕の知らない情報網があるな……。
思ったのはそんな事。だが代わりに出た言葉は、
「いや……まだ魔王と関りがあると決まったわけでは無いよ。だが、あれは最需要攻撃対象の一つだ。ムーオスの攻撃隊は?」
「第428隊が22機、第555隊が24機だな。他は機体トラブルで参加できなかったのが……17機か。もう最小限の予備だけだ」
「派手に落としまくりましたからね。ここで使うんですか?」
「他にいつ使うんだい? ムーオスに伝達。巨大ムカデへの攻撃を要請。針葉樹の領域に入られると厄介だ。出来る限り、炎と石獣の領域で仕留めてもらう様に」
「了解した。おい通信士、ムーオス428と555に連絡だ。内容は……」
これでもう打てる手は全て打った。
魔障の領域で魔族が暴れだしたようだが、もう遅い。既に必要な数は突破した。
マリクカンドルフは不退転の覚悟を決めていたが、実はリッツェルネールは既に退路を確保している。揺り籠を落とし終えた重飛甲母艦隊だ。
状況次第では撤収もあり得るが、出来れば魔王の討伐には成功して欲しい所だと思う。
そして炎と石獣の領域は、今後は単純な消耗戦へと突入するだろうと予想された。
揺り籠による破壊は行えないが、急速再生も行えないと見られている。
後はただいつもの領域戦のように、人の血で地図を書き記すように進めればいい。
もし、今回出てきたのが大ムカデだけで、魔王はまだ中にいるとしたら?
むしろ、それが一番楽だ。今まで通りに進めれば、勝手に追い込まれてくれるのだから。
一つ懸念があるとすれば、再び噴火の可能性があると言う事だろうか。
揺り籠による攻撃では、何処にも溶岩道を発見することが出来なかった。
だが必ずどこかにはあるのだ。この領域を埋め尽くすほどの溶岩が。
そう考えると魔王が死んだ時の噴火には、どこか人工的な匂いもする……。
だがそれもやはり、時間稼ぎの域を出ない。
魔王がどれほど強大であっても、魔族がどれほどあがいても、絶対的な物量は覆らない。
ただでさえその状況であったのに、もう人類は場所を選ぶ権利も持っている。ムーオス自由帝国による、航空地図によるものだ。
魔族領全体の地図……一度手にしたこの優位は、もはや永久に覆らない。
今後は人間の有利な領域から、じっくりと展開していけばいい。
道のりが遠いだけで、決着までの道筋はもう通ってしまったのである。
――いや……或いは……。
リッツェルネールの頭を過ったのは、新たな領域の誕生だ。
壊して、壊して、壊して……ようやく人間の世界になったと思ったら、その根底からひっくり返される危険。
だが普通に考えれば、領域の修復より簡単とは思えない。
大体この浮遊城の下は、変わらず解除された領域跡地のままではないか。
もし、遊ばれているのなら?
意地悪く、最後の最後まで期待させた上で落とす事を考えているのなら?
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