この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 魔族と人と 】

針葉樹の領域突入戦 後編

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「各騎状況報告! 敵を見たものはいるか!?」

「敵影視認できず!」
「こ、こちらも敵のすが――ゴバゴボ」
「お、おい! ダメだ、分からない! 敵不明!」

「全員冷静になりな! 来ることが分かってりゃ、なんて事はないよ!」

 叫びながら状況を確認するが、やはりラウにも敵の姿が見つけられない。
 魔法魔術は魔族の範疇はんちゅう。忘れていたわけでは無いが、知識と経験では雲泥の差があった。
 計器には全て水が入り、高度計や速度計など、何もかもが死んでいる。
 この障害物の多い森で、これはきつい。いきなり大きなハンデを負ってしまった。
 だが幸い、落ちたのは20騎程。範囲は広いとはいえ、空の全てを覆いつくすほどでは無いという事だ。

「各騎散開! 敵を見つけ出し、殺せ! それと後続のハルタール帝国に伝達、『危険極めて大。司令官の判断に委ねる』とね!」

 ラウ・ハウミールの指揮の元、飛甲騎兵隊が散開する。
 緑あふれる針葉樹の森。そこが今、血なまぐさい戦場となりつつあった。




 ◇     ◇     ◇




 マリクカンドルフ率いるハルタール帝国軍は、対毒装備を施した120万の軍で魔障の領域へと突入した。
 先行隊10万人。後続第一陣20万人。同第二陣20万人。
 その後、本隊40万、後衛20万、予備軍10万と続く。
 マリクカンドルフがいるのは、当然ながら本隊だ。

 ――さて、どれだけ突破できるものか……。

 リッツェルネールの立てた予想では、およそ7割は抜けられるだろうという計算だった。
 但し、信憑性は50パーセントほど。つまりは博打だ。そしてこの作戦は、拒否が自由という話であった。


 開戦の10日前の事を思い出す。
 これから部隊を布陣させ、駐屯のため様々な支度をしなければならないという時、急に浮遊城に呼び出されたのだ。

 そこは浮遊城上層の城郭部分、その2階にある会議室。
 金属壁に囲まれた広い部屋だ。本来なら百人は入れるだろうその部屋にも関わらず、マリクカンドルフはリッツェルネールと二人っきりで話すことになった。

「重要な作戦要綱は書面でと伝えてあったはずなのだがね。これが商国流というわけか?」

「辛辣ですね。ですがそのお気持ちも分かります」

 分かっているのに何でするかね……と苦情の一つも言いたいところだが、その様なくだらない事に時間をさけるほど暇人ではない。

「……それで、急な呼び出しとは何だね?」

「現状から大きな変化がない場合、ハルタールの主力部隊には魔障の領域を越えていただきたい。最低でも50万以上。出来れば100万人はお願いします」

 平然と言う彼が果たして正気であるのか、マリクカンドルフは本気で疑った。
 魔障の領域――そこは霧深き猛毒地帯。
 視界は無いに等しく、対毒兵装があっても長くはいられない。
 しかも情報によれば、方位計コンパスも機能しなかったという。
 過去スパイセン王国も攻略しようと様々な手を模索したが、結局手を出せなかった難所だ。
 難攻不落ぶりは、白き苔の領域や炎と石獣の領域にも劣らない。
 魔障の領域というシンプルな名も、他にどんな脅威があるのかすら判明していないからこの名前なのだ。

「これを……」

 だがそんな考えを無視して、リッツェルネールは何枚かの航空写真を提示する。

「ムーオス自由帝国のおかげで、詳細な地図自体は出来上がっています。突破するまでの距離は、最短で260キロメートル程です」

「あの猛毒の世界を6時間近く移動しろというのかね。大体、方位はどうするのだ。たとえ直線距離が判った処で、視界も方位計も役に立たないところで何をしろと言うのかね?」

「方位に関しては問題ありません。炎と石獣の領域に沿って行けば当該地域に出ます。勿論視界は悪いですが、その点はロープや旗、投光器サーチライトなど、使えるものは何でも使ってください」

 気楽に言ってくれるものだと思うが、既に作戦としては決定事項なのだろう。
 だが故に、あえて聞く。

「無謀すぎる。とてもではないが、承服は出来ない。一体、この無謀な突撃に何の意味があるのかね?」

「承服できないのであれば、拒否していただいて構いませんよ。危険度は十分に承知しておりますので。そもそも、予定が少しでも変わればこの作戦自体は行いません」

「それは随分と曖昧だな。君はもっと緻密な計算をする男だと思っていたが……」

 いやそれ以前に、拒否しても良い案件というのが少々引っかかる。
 確かにこの作戦におけるハルタール帝国の権限は強大だが、当の指揮官がそれを言うか?

「この作戦は、そもそも何のために行うのかね? それを知る権利はあると思うが」

 ほんの僅かだけリッツェルネールは考える仕草をするが――、

「要は、魔王を打倒する手立ての一つにすぎません。地形や戦力、魔王の今までの行動を考えた時、あの先に兵軍を展開する必要がある。それだけです。行ける戦力が無ければ仕方ありません。魔王打倒は、別の機会を探る事になります」

「それでは、我らが行かぬから魔王を取り逃がすと聞こえるのだがね」

「そう聞こえましたら申し訳ありません。ですが、本当に他意があるわけではないのです。これは幾つも用意している作戦の一端にすぎません。出来ないのでしたらやらないし、出来たとしても不必要なら実行はしません。そういった類の作戦案です」

 だが、余人を交えぬという事はその辺りにも配慮したという事だろう。
 仮にマリクカンドルフがここで拒否しても、それは誰に知られる事も無い。そして作戦自体も、ここで闇に葬られることになる。
 だが事は魔王打倒に関する。人類として、また魔王を倒すために来た者として、この話をただ流すことは出来なかった。

「先ずは、詳しく聞くとしよう……」
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