この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

文字の大きさ
上 下
287 / 425
【 魔族と人と 】

ゲルニッヒの提案 後編

しおりを挟む
 ――え!? と思う間もなく空気が一変する。
 言われた事を理解するどころではない。いきなり猛獣の檻に放り込まれたような雰囲気だ。
 それ程に周囲の空気が、重く険悪なものへと一変した。

 その空気は、魔王が察するほどに激しく行われた魔人達の抗議によるものだった。
 それぞれ意味合いは微妙に違うが、魔王の行動に魔人が口を出すことは厳禁だ。
 しかも、それを他の魔人に相談せずに独断で行った事は禁忌といっても良い。

「黙りナサイ。これは魔王の命に係わる事デスヨ」

 そんな魔人達による無言の抗議を、ゲルニッヒは一蹴する。
 送れてぎこちなく両手が上がる様は、まるで蠢く死体ゾンビか、はたまた壊れた人形か……。

「魔王ヨ、貴方は気が付いてイル。違いマスカ? 貴方の考える今後の展開、それはもう詰んでいマスネ?」

 ――確かにその通りだ。ハッキリと言おう、もう負けている。
 それが10日後か、それとも一か月後か、それは分からない。もしかしたら、1年以上かかるかもしれない。
 だが人類軍は多大な犠牲を出しつも、必ずや地図を完成させここに雪崩れ込んでくる。
 もしくは位置を特定され、集中爆撃によって消滅するかのどちらかだ。
 もうそれは、遅かれ早かれの話でしかない。止める手段がないのだから、確定事項と言えるだろう。

 彼等は予想よりも強かった。そして早かった。
 もうどれだけ抵抗しても、進行を止めることは出来ないだろう。
 いや、一進一退の攻防にはなるだろうが、その一進ごとに地図製作が進んでしまうのだ。
 ここに退は無い。

 そしてこちらが攻める手段を持たない限り、その行動を止めることは出来ない。
 外の本体には手が出せないのだ。
 向こうは常に包囲分の兵力を残し、後はじわじわ補充してじわじわ攻めて来る。
 不死者アンデッド首無し騎士デュラハン、それに魔人達……今考えている抵抗手段も、結局は時間稼ぎ以上のことは出来やしない。

 人間側に明確な負けを突きつけない限り、戦いは終わらないとオスピアは言っていた。
 だが既に、この地で勝つ可能性は失われている。
 しかも本命はムーオスとかいう南の国の方なのだ。ここで戦いを続けて、いったい何になるのか……。

「ゲルニッヒ、聞かせてくれ。どうするべきだと思う?」

「ハハハ、それを考えるのは魔王、貴方の仕事デス」

 ……この野郎。

「デスガ、貴方が今やられたくない事。ソレを防ぐ手段はアリマス」

 今俺がやられたくない事……それは――、
 だがそれを口にするよりも早く、ゲルニッヒの一喝が響く。

「不平不満は言葉に出しナサイ! 魔王の前では会話する取り決め、お忘れデスカ?」

 どうやら、魔人達との無言のやり取りが続いていたらしい。

「魔王に知識を与える事、それは問題ありません。ですけれど、言葉という形では不完全です。正しく全てを伝えることは出来ず、結果として、我等が魔王の行動を導くことになります」

「それが問題だったから、魔王を無限図書館に送ったかな。あくまで魔王の行動を決めるのは魔王本人だよ。勝手に召喚しておいて生き方まで魔人が縛ったら、それこそ魔王に失礼だよ。魔王は生きたいように生きて、やりたいように自由にしていて欲しいかな。魔人の役目は、それを補佐する事だけだよ」

「吾は何でも良いのであるぞー。魔王が安全なのなら、海へ運んでも構わないのであるぞー」

「デシ」

 この話の内容だと、やはり先ほど急に緊張感に包まれたのはゲルニッヒの言葉が理由か。
 俺に何かをしろと言う事。たしか以前にも、テルティルトがやっちゃいけない事だといっていた。

 勉強不足が悔やまれる……。
 もっと知識を身に着けていれば、ゲルニッヒが他の魔人と対立する事は無かっただろう。
 浮遊城の事ばかり考えて、ここで戦う事になると考えてすらいなかった。
 もし次があるのなら、より精進しないといけない。だけど今は――、

「ゲルニッヒ。俺が今されたくない事、それはこの領域の地図を作られる事だ。一度作った領域の形は変えられない。だから、一度攻略されてしまったら終わりなんだ。何とかなるか?」

「ハイ、ドウトデモ。デスガ、その為には魔王、貴方はここにいてはいけマセン」

「それはどういう意味だ?」

「溶岩を出すかな。外を溶岩で埋め尽くせば、地上に空いた穴から坑道にも流れ込むよ」

「なるほど、そういう事か……」

 一度は考えたとこだが、結局地上しか対処できない。しかも穴が開いた今では、何処にどう流れ込むのか分からない。
 だからこれは無理だと思ったが……そうか、逆にわざと埋めてしまうのか。
 確かにそれは、俺がいなければ出来る。もっと柔軟に考えるべきだった。

 だが領域はいずれは修復される。領域の穴は修復できないようにコンクリートなどで固められているが、それは溶岩が洗い流せばすぐに直ってしまうだろう。
 その後再び爆撃されたら? 今度は石獣しかいない。状況は今よりも悪化する事になる。
 それにそもそも、領域を覆い地下に流れ込んでくる溶岩を相手に石獣はどうするんだ?

「2つ聞きたい。先ず石獣はどうなる?」

「溶岩が外を覆うと、地の底に潜って生活するかな。別に外に出なくても石獣はへっちゃらだよ。地面の中に潜れるから、坑道に溶岩が流れても気にしないかなー。でも人間が近くに来たら攻撃するね。溶岩がある限り、人間は領域解除は行わないと思うよ」

「溶岩は止めない限り循環するデシ。時間は稼げると思うデシよ」

 石獣の生育環境は何とか守られるって事か……。
 それに外を溶岩が流れっぱなしなら、もう爆撃は出来ない。
 穴を開けても中へと流れ込むだけだ。侵入出来なければ全く意味がない。
 うん、俺ここに来ないで、溶岩出しといてってお願いしておけばよかったんじゃね?
 だがまあ、それは結果論だ。揺り籠とやらを使ってくるとは思わんかったし、そもそも戦いもせずにこの魔王の居城を俺が捨てたかといえば……無いな。
 結局、負けなければ分からなかったのだ。勝てなかったという事を……。

「もうひとつ目だ。ゲルニッヒ、なぜ他の魔人の反対があるのに、俺に提案した?」

「ソノ方が楽しいからデスヨ、魔王」

 仰々しく礼をするが、根っこで操ったぎこちない動きなだけにホラー感がすごい。
 だがまあ、それは良いだろう。

「了解した。それでどうするんだ?」

「私ダケだと手が足りマセンネ。エヴィア、ヨーヌと手分けをして溶岩を出しマショウ。私はその後、少々掃除をして追いかけマス。スースィリアとテルティルトは、魔王を連れて外へ出てクダサイ。ドコへ向かうカハ、魔王にお任せしマスヨ」

「分かった。そうしよう」

 結局、ここでは勝てなかった。本当に何処でなら勝てるというのか……。
 だが状況ははっきりしている以上、これ以上傷が開く前に撤収するのは悪くはない。対処が出来るのならば尚更だ。
 今は耐えるしかない。今は……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...