この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 魔族と人と 】

再生と破壊 中編

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「あ、あれは!」
「見ろ! 領域が!」
「神よ……」

 明るい中で始まったそれは、誰の目にも見て取れた。

「始まったか……」

 領域の復元。今この場にいる人類が、かつて誰も見たことの無い現象が開始されたのだ。
 それは有る意味幻想的だが、人類軍にとっては悪夢にも等しい。
 まるで大地そのものが一つの生物のようにズルズルとうごめき、破壊された部分を埋めていく。
 それは遠くから見れば、まるで破壊の逆再生。近くで見れば、巨大な大地がうねりながら生えてくる超現象だった。

 ――直接自分の目で見たかったな……。

 報告を受けたリッツェルネールは、玉座に座りながら一つ溜息をついた。
 こんな身分でなければ、絶対に見物に行っただろう。だがもう、直接見る機会は永久に無い。
 いや、そうでなければいけないのだ。

「ムーオス自由帝国に、再度大規模爆撃の申請を。速度、頻度、法則、領域再生に関する全ての情報を収集する。これは今後の魔族領攻略に必須のデータだ。各員、奮闘せよ。諸君らの死は、決して無駄にはならないと約束しよう!」

 領域の修復が完了した直後、再びムーオス自由帝国重飛甲母艦による揺り籠投下作戦が開始された。

 再び天から降り注ぐ揺り籠の群れ。
 1発につき10人の命。それが1回の作戦で、数百発が消費されていく。
 そして投下地点の坑道には、まだ多くの友軍がいた。
 彼らは領域の再生により道を塞がれ、進退きわまった兵士達だ。
 だがそんな彼らを、眩い閃光が包む。

 直視できない程の閃光に、立ち昇る無数のキノコ雲。地上は真っ黒な粉塵に覆われ、その様子はまるで地獄そのものだ。
 空から落とされる命、地上で消え去る命。人の命で作った破壊は留まる事を知らず、見る物を畏怖させた。

 だがリッツェルネールもまた、無意味な死を望んでいるわけではない。
 死は絶対に避けられない。だからこそ、それを最大限無駄にしない事が彼の使命であったのだから。

 第二次炎と石獣の領域戦が始まって、3回目の大規模投下。
 だが1回目、2回目のデータを元に行われた今回の攻撃は、以前より遥かに精度が上がっている。
 全体地図を元に、何処にどれだけ落とせばどの道が繋がるか、きちんと把握しての攻撃だ。
 ごく短期間の間に、まるで巨大な蟻塚のような内部を記憶し作戦を立案する。
 間違いなく、今それが出来るのは彼だけであっただろう。




 ◇     ◇     ◇




 再びの爆撃と、再侵入。その様子を感じ取った相和義輝あいわよしきは、自分の甘さを痛感するしかなかった。

「参ったな……」

 領域を修復した直後、それもまだ友軍が近くにいるのに爆撃を敢行するとは思わなかった。
 いや、本当なら予想しなければいけなかったのだ。相手は人間の命を爆弾にして落とすような連中なのだから。
 ただ不幸中の幸いか、今回は石獣の被害は少ない。下げたばかりだったのが幸いした。
 とはいえ……。

「もう一度やり直しだ。エヴィア、頼む」

「ダメかな。もう魔王の体は限界が近いよ。本当なら、連続してやるような事じゃないよ」

 初めて会った時のような無表情。しかしこれは、それだけ真剣って事なんだろう。
 確かに、領域の修復なんて普通はホイホイやるものじゃないだろう。だが――。

「正確な数を知りたい。あと何回出来そうだ?」

 沈黙したままじーっと見つめていたエヴィアだったが……。

「2回が限度かな。でもそうすると、魔王は1か月くらいは動けなくなるよ」

 今この状況でそうなったら、もう後が無い。それにこれは1か0かの話じゃないだろう。
 今と2回目の間。次の1回は、1か月動けなくなる程ではないが、それなりに負担が掛かるという事か。

「エヴィア、全域ではなく、ピンポイントでの修復は可能か?」

「出来るかな……それなら次の一回をやってもしばらくは動けるよ。でもそれでも、負担が大きいことには変わりはないよ」

「……構わない、やってくれ」

 後続に控える60万の兵士。全てを防げないにしろ、タダで入れてやるわけにはいかないのだ。
 魔王魔力拡散機に魔力を送りながら、一部だけを重点的に直す。
 最低限、領域の境界線だけでも塞がなければならない。




 ◇     ◇     ◇




「城主殿、再び領域の修復が始まったようですよ」

「ああ、その様だね」

 リッツェルネールはミックマインセから渡された資料を確認するが、そこには全域ではなく、一部の穴のみが修復されていく様子が写されていた。
 主な箇所は領域の境界線。そしてそれ以外にも数か所不自然な修復箇所が見られる……。

 ――……全域の修復ではないのか。それにこの修復箇所……罠と見るか必死と見るか……いや、そもそもそんなに細かく選択できないのかもしれない。

「どう考えます?」

「そうだね……」

 正しくは分かるまい。だが、魔王が意味も無く中途半端な修復で終えるとも思い難い。

「……単純に考えるなら、修復は3回が限界。それも限定的な範囲のみだ。勿論、回数でなく規模である可能性もある。面積、質量、全て計算させてくれ」

 どちらにせよ、しばらくは修復を行えないと考えていい。
 いや、作戦を変えてきた……? 全域を修復するのではなく、より効率よく細かな修復を何度も行うように……。
 だとしたら持久戦だろうか? 揺り籠の数は足りるだろうか?
 どちらにせよ、情報の蓄積が必要だ。

「ムーオス自由帝国に再度の大規模攻撃を要請。それと、飛甲騎兵隊発進準備。ああ、あともう一つ……」

 言いかけて、考える。
 流れの中で決めていた事だ。だが、本当に今このタイミングで正しいのか。
 考えても結論は出ない。これは少々、ギャンブル性が高い作戦だからだ。
 だが、見える範囲だけをやっていても勝算は無い。人知の及ばぬ域を超える――それを人知によって成さねばならない。
 その先にこそ、今まで人類が到達できなかった本当の勝利があるのだから。

「もう一つ、ハルタール帝国軍に伝達。精鋭部隊は予定通り魔障の領域を強行突破し、奥に確認された針葉樹の領域へ進軍せよとね」

 これで上手くすれば詰みだ。だが、ハルタール帝国軍を動かす以上、確実性を高める必要がある。

「ラッフルシルド王国の民兵が8千ほど残っていたね。それとスパイセン王国も3万人程民兵がいたはずだ。彼らを炎と石獣の領域へ突入させろ」

「……彼らの装備では、全員死にますよ」

「構わない。突入だ」

 リッツェルネールは軍略家として、類まれな才能を持っている。
 それは人間の死に対して、一切頓着とんちゃくしない事だ。
 人の命など、目的へ向かうために消費するカードの一枚にすぎない。無論、自分自身の命でさえも……。
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