この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 魔族と人と 】

再生と破壊 前編

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 暗闇の中、音もなく一つの赤い光が落ちて行く。
 それは床に落ちたのだろうか、火の粉を撒き散らしながら数回転がり動かなくなる。
 その場にいれば、カランカランという乾いた音を聞いただろう。
 落とされたのは松明だ。そして今、その炎に照らし出される影に動くものは無い。

 ――よし……。

 杭を打ち、ロープでゆっくりと降りる。
 ここはティランド連合王国が戦っていた大坑道だろうか……慎重に周囲を確認しながら、スパイセン王国国王、クラキア・ゲルトカイムはかつての死闘の跡地に降り立った。

 味方の攻撃はどうなったのだろうか?
 体内時間を確認すると、今はもう昼過ぎだ。
 10月13日早朝から開始されて頃を考えると、時間的にはとっくに揺り籠の投下は終わっている頃だろう。

 再突入したであろう友軍と合流したいところだが、通信機は使えないし、松明以外の明りも持ち合わせてはいない。
 地図も無いが、留まったとて味方が来る保証は無い。
 仕方なく彷徨さまよった挙句、こんな場所に来てしまったという訳だ。

 ――持ち場からこんなに離れてしまうなんて……指揮官失格ね。

 とはいえ、今彼女が指揮すべき兵は誰もいない。
 何とか見つけた友軍も、足の先だの指が数本だといったもの。あとは吐き出され潰れた武器や鎧が多数。もう皆、喰われてしまったのだろう。
 それにしても――

「ティランド連合王国の速さなら、もう先行部隊が来てても良いはずだけど……」

 おそらく、石獣はまだまだ多数残っている。
 そして、今も奴らは人工の光に集まっているのだろう。そうであれば、再突入は難しいのではないだろうか?
 だとしたら……それは逆に好機かもしれない。
 明かりさえ使わなければ、奴等は散発的にしか襲ってこない。しかも今は入り口付近に集まっている。
 ならばこの機に、魔王の元へと行けるかもしれない。

 ようやく地面に降り立ち、松明を拾う。
 そして周りを照らしながら考える――どちらへ行こうかと。
 真っ直ぐ進んできた結果、着いたのは天井の穴だった。引き返しても仕方ないため無理矢理進んだが、ここから先が分からない。
 方位磁石は持っていたが、ぐるぐる回るばかりで使い物にならなかった為に捨てた。

「生き残りでもいればいのですけど……」

 そう思いながらも、とりあえず進む。
 前にせよ後ろにせよ、進むしかないのだ。
 周囲にあるのは重甲鎧ギガントアーマーの残骸ばかり。ティランド連合王国の主力部隊だ。
 かなりの激戦だったのだろう、鎧は全て破壊され、生きている人間はいない。
 そんな中、小高く山のようなシルエットが松明の光を受けて揺らめいている。

「あれは……」

 それは連合王国軍将軍、アルダシル・ハイン・ノヴェルド・ティランドの重甲鎧ギガントアーマーだった。
 両腕と右足を失い、全身傷だらけ。相当焼かれたのであろう、塗装は剥げて下地の金属が剥き出しだ。

「奮闘したのですね……座標は分かりませんが、貴方の死は確認しました。もし友軍と合流する事が出来ましたら、最後まで戦って死んだと伝えましょう」

「いや、待ってくれよ。一応な、死んじゃいないんだわさ」

 ガコっと何かが外れる音と共に、胸板が外される。
 ロックを外したというより、無理矢理引っぺがしたといった感じだ。

「あら、意外ですね。もしかして寝てたんですの?」

 呆れたクラキアだが、その様子は少し嬉しそうだ。
 やはり、いつ襲われるかも分からない暗闇を一人で進むのは心細かったのだ。

「ああ、寝てた。味方が来るまで体力と魔力を温存しようと思ってね」

 出てきたアルダシルは、赤紫の全身鎧プレートメイル。フルプレートではなく、上腕と腿は鎖帷子と少し軽量だ。
 頭部は飾りのない丸兜で、あまり見栄えはよくない。だがこれは、狭い重甲鎧ギガントアーマーに乗る以上、仕方のないところだ。

 軽く言葉を交わしながら今まで装着していた重甲鎧ギガントアーマーの背後に回る。
 だが――、

「ちっ、ダメか」

 背中に背負っていた剣は、両方とも砕けて失われていた。
 仕方なく、足元にあった誰かの大斧を拾う。柄の長さは150センチ、刃渡りも1メートル50センチ程の両刃斧だ。

「そちらの|重甲鎧《ギガントアーマーに設置されている通信機は使えないの?」

「無理だね。動力士がやられた時に、その辺りも壊されちまったよ。そちらも友軍無しかい。お互い、指揮官だけが生き残るとは恥っ晒しもいいところだな」

「ええ。だからこれから魔王退治に行くところなのだけれど、貴方はどうするの?」

「そいつは良いや」

 斧を肩に担ぎ、悠然と歩きだす。

「あたしも今、魔王を倒したくって仕方が無かったのさ」

 その様子を見て、クラキアはふと思う。

「その一本だけでいいの?」

「ああ、他にまともなのが無いからね」

 人間の使う金属は、魔力が込められていないときは実に脆い。
 あちこちに散乱する武器のほぼ全てが、潰され、砕け、使い物にはならなかった。
 手にした一本も、よく見れば刃は欠け柄も途中から折れている。

「まあアンタが死んだら、そのナタは使わせてもらうよ」

「どうぞご自由に」

 こうしてクラキアとアルダシルは合流し、坑道の奥へと消えていった。




 ◇     ◇     ◇



「――おー。魔王―、起きるかなー」

 エヴィアの声と揺さぶりで、目が覚める。
 そうだ、石獣への指示を頼んでから、食事をして寝てしまったのだ。
 今の状況は――慌てて柱に魔力を送ろうとするが、エヴィアに止められる。

「先ずは、こちらの様子を見せておくデシ」

 そう言って、魔人ヨーヌが立体的な形を取る。
 領域の境界線。場所は鉄花草てっかそうの領域部分か。

「既に12万人ほどの兵士が侵入し、外にも10万を越える部隊が待機中デシ」

 ――……かなり入られてしまったか。今度は慎重に、もっと少数の数で来ると思っていただけに予想外だ。

 俺の予想では、しばらく十万を超えるような数は入れてこないと思っていた。全く同じことの繰り返しで、大量の犠牲者が出るだけだからだ。いくら何でも、こちらの石獣の数を把握されている事は無いだろう。
 そうなれば、多くて5万か6万。その位の数で地図を作りながらゆっくりと侵攻してくると思っていた。
 それを魔人と精霊でじわじわ削っていくのが、俺の作戦だったのだ。

「それと更に奥に――」

 そう言うと、影で出来た立体図がツツツと動く。
 地形が流れている方向から見ると、南西部分か。そこには、浮遊式輸送板に乗って移動している数十万の兵士の姿があった。

「大軍が移動中デシ。人間の言葉では、後詰ごずめというらしいデシね」

「今の時間は?」

「昼を結構すぎたかな。本当はもう少し寝かしてあげたかったけど、これは伝えるべきだとヨーヌが判断したよ」

「それは助かった。ありがとう」

 だがどうする? この様子で雲霞うんかの如く入ってこられたらお手上げだ。
 石獣の体力にも限度がある。

「そういえばふと思ったんだが、溶岩はどうなっているんだ? というか、前はどうやって出したんだ?」

 前に攻められた時、決着は溶岩だったと聞いている。地上と地下ではだいぶ違うのであまり考えていなかったが、もしかしたら必要になるかもしれない。

「溶岩は基本地下の深い所を流れているかな。土地全体を温めるためにあるよ。外に出す時は、地下にある蓋を外すんだよ」

「蓋は全部で12か所あるデシ。つまりは12か所で溶岩を噴出させられるデシね」

「なるほど……地下への影響はどうなんだ?」

「通常であれば、ここに溶岩が流れる事は無いデシ。きちんと計算して作られているデシ」

「でも今は想定外の穴だらけかな。溶岩を出すと、何処にどう流れるか予想もつかないよ」

 穴だらけなら人類軍を巻き込めるが、この天井から溶岩が降ってくる可能性もあるって事か。
 そして穴が無い状況で流しても、中に入っている連中にはどうにもならない……。

 ――何が正解なんだろう?

 だが一人考えても、結局分かるはずもない。
 ならとにかく、今は今出来る対処をしなくちゃならない。

「エヴィア、領域を修復する。これ以上、連中の消耗戦に付き合う訳にはいかない」

「あまり連続すると、魔王の体がもたないかな」

「まおー……」

 エヴィアとスースィリアの心配も分かる。だが今は他に、俺に出来る事は無いのだ。

「大丈夫だ。本当に無理となったら、その時は止めてくれ」
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