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【 魔族と人と 】
暗闇の攻防戦 その4
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炎と石獣の領域に、幾つもの閃光が輝いた。
爆炎と土煙は溝を走り、立ち上る粉塵とキノコ雲が世界を黒く染めていく。
そしてその闇の中に生まれた光が、古い闇を吹き飛ばす。
連続して次々と投下される揺り籠の群れ――新たな爆撃が始まったのだ。
目標地点は腐肉喰らいの領域跡との境界線。そしてそこから続く、鉄花草の領域との境界線だ。
炎と石獣の領域に沿って、南部から東、そして北へと破壊する。
轟音と閃光が徐々に北上する様は、待機していた地上軍から見れば人外の技に等しい。
今は味方だが、いずれは――その気持ちを抱えつつも、この力は心強い。
最初に状態が確認出来たのは、南東部にある腐肉喰らいの領域跡境界線であった。
以前と同じように、破壊された境界部分には幾つもの坑道が口を開けている。
担当するのは、マリセルヌス王国軍の援軍24万人。
先ずは2万の軍が魔道の明かりを手に突入する。だが、入った途端に彼らは現れた。
天に吹き上がる炎。だがそれは爆撃によるものではない。人類軍に襲い掛かった石獣によるものだ。
「て、敵しゅ――!」
ゴロゴロと、沸き立つように現れた石獣が一斉に襲い来る。
壁から、床から、天井から――今まで見た事もない数の群れだ。
その様子を確認すると、司令官であるロイ王は全員の撤収を命じた。
「いいんか? あーいや、よろしいんですか? リッツェルネールが何か言ってくるかもしれませんよ」
現在、ロイ王は腐肉喰らいの領域跡、境界から2キロメートルの地点に陣を構えていた。
本陣は屋根の尖ったサーカステントのように見えるが、壁は無く金属杭が剥き出しだ。上から見たら、一片8メートルの四角形を2つ組み合わせた様に見える。
一応土色の迷彩仕様だが、周囲に突入準備を整えた6万の兵が待機している状態では効果は薄いだろう。
中には国王であるロイ・ハン・ケールオイオン、副官であるアスターゼン、それに地図製作の総指揮を任されているポレム、通信機を持った2名の通信兵が控える。
とはいえ、壁は無いため中というのも変だろう。その周辺には兵士達が右へ左へと準備に大忙しだ。
「リッツェルネールは現場の判断を尊重しとるよ。まあ、我々が正しく動いている内は……だがね」
ロイは鎧を纏わず、赤に青の二本線の入った軍服に左上腕を隠す形のマントのみ。武器も持っていない。
オレンジの髪はいつものように後ろで一本に束ねられており、少しにやけつつも冷静な顔つきからは、焦りは感じられなかった。
「それよりも内部に先行していた部隊の件ですが……その……」
ポレムは新規に空いた穴とマッピング済みの地図との照合を行う傍ら、突入部隊との交信も行っていた。
そして、その結果は既に出ていた。地図の照合も、内部の確認もだ。
「全滅――そうだろう? でなきゃ、あそこまでの歓迎は無かろう」
「は、はい……まだ確定とは言えません。アンテナが全て破壊されただけかもしれませんし、通信線も切断されている可能性はあります。ですが……」
「なあポレムさんよ、最後に届いた連絡からすると、石獣はランタンや通信機の魔道光なんかに反応しているそうだろ? 通信を受けられない。受けられないから返せないって可能性ってのがあるんじゃないのか?」
ハッキリと明言できないポレムに対し、アスターゼンとしては前向きな可能性を提示する。
生きてはいるが、通信を受けるわけにはいかない状態。その場合、あの暗闇の中で耐え忍んでいる友軍がいると考えられる。
「通信だけならそうですけどね……」
そう言いながらポレムは手にした大型の通信機を操作すると、それはすぐさまジジーという音と共に一枚の紙を吐き出した。
「……確認できた範囲の探知機のデータです」
それを受け取ったアスターゼンの顔が曇る。
紙に記されていたのは、数ヶ所に設置した大気探知機からのデータだ。前回の毒問題の後、
浮遊城から送られてきた物を持ち込んでいたのだった。
リッツェルネールがこんな物まで用意していた事にも驚いたが、記されている表記には絶望するしかない。
確認できる限り、全て致死域。それは、先行していたマリセルヌス王国軍16万人の全滅を意味していたのだから。
「また毒か……北域はどうなんだ?」
「これまでは確認できていません。毒の影響は南域だけですね」
ふむ……とアスターゼンの方を向くと、
「アスターゼン、お前はどう思う?」
「知らんよ、そんな事。それよりどうするよ――いや、どうします? このままじゃ突入出来やしねぇ。したとしても、奥は猛毒なんだろ? あー、でしょう? たまらねぇなこれは」
勿論正しい答えなどは期待していないロイ王だったが、実にあっさりと流される。
だがまあ、仕方ないだろう。こいつはそういう奴だ。
「こちらは毒があるせいで動けずだな。とりあえず司令殿にも連絡はしておこう。内容はそうだな……いいか。ポレム、お前が考えて送っておいてくれ」
露骨に嫌な顔をしながらも通信機に短い指を這わせるポレムを見ながら、ロイは様々な可能性を思案していた。
毒を吹き出す地形……鉱山では稀にある事だ。毒性の高い魔族……これも普通に有り得そうだ。
どちらにせよ、ここの方面からの侵入はかなり限定的なものになるだろう。
――さて、リッツェルネールはどうやってここを陥落させるのか……。
もしかしたら本気で攻略する気は無く、単にムーオスに対する牽制の意味合いだけかもしれない。
だがそれを知るものは、本人しかいないだろう。
爆炎と土煙は溝を走り、立ち上る粉塵とキノコ雲が世界を黒く染めていく。
そしてその闇の中に生まれた光が、古い闇を吹き飛ばす。
連続して次々と投下される揺り籠の群れ――新たな爆撃が始まったのだ。
目標地点は腐肉喰らいの領域跡との境界線。そしてそこから続く、鉄花草の領域との境界線だ。
炎と石獣の領域に沿って、南部から東、そして北へと破壊する。
轟音と閃光が徐々に北上する様は、待機していた地上軍から見れば人外の技に等しい。
今は味方だが、いずれは――その気持ちを抱えつつも、この力は心強い。
最初に状態が確認出来たのは、南東部にある腐肉喰らいの領域跡境界線であった。
以前と同じように、破壊された境界部分には幾つもの坑道が口を開けている。
担当するのは、マリセルヌス王国軍の援軍24万人。
先ずは2万の軍が魔道の明かりを手に突入する。だが、入った途端に彼らは現れた。
天に吹き上がる炎。だがそれは爆撃によるものではない。人類軍に襲い掛かった石獣によるものだ。
「て、敵しゅ――!」
ゴロゴロと、沸き立つように現れた石獣が一斉に襲い来る。
壁から、床から、天井から――今まで見た事もない数の群れだ。
その様子を確認すると、司令官であるロイ王は全員の撤収を命じた。
「いいんか? あーいや、よろしいんですか? リッツェルネールが何か言ってくるかもしれませんよ」
現在、ロイ王は腐肉喰らいの領域跡、境界から2キロメートルの地点に陣を構えていた。
本陣は屋根の尖ったサーカステントのように見えるが、壁は無く金属杭が剥き出しだ。上から見たら、一片8メートルの四角形を2つ組み合わせた様に見える。
一応土色の迷彩仕様だが、周囲に突入準備を整えた6万の兵が待機している状態では効果は薄いだろう。
中には国王であるロイ・ハン・ケールオイオン、副官であるアスターゼン、それに地図製作の総指揮を任されているポレム、通信機を持った2名の通信兵が控える。
とはいえ、壁は無いため中というのも変だろう。その周辺には兵士達が右へ左へと準備に大忙しだ。
「リッツェルネールは現場の判断を尊重しとるよ。まあ、我々が正しく動いている内は……だがね」
ロイは鎧を纏わず、赤に青の二本線の入った軍服に左上腕を隠す形のマントのみ。武器も持っていない。
オレンジの髪はいつものように後ろで一本に束ねられており、少しにやけつつも冷静な顔つきからは、焦りは感じられなかった。
「それよりも内部に先行していた部隊の件ですが……その……」
ポレムは新規に空いた穴とマッピング済みの地図との照合を行う傍ら、突入部隊との交信も行っていた。
そして、その結果は既に出ていた。地図の照合も、内部の確認もだ。
「全滅――そうだろう? でなきゃ、あそこまでの歓迎は無かろう」
「は、はい……まだ確定とは言えません。アンテナが全て破壊されただけかもしれませんし、通信線も切断されている可能性はあります。ですが……」
「なあポレムさんよ、最後に届いた連絡からすると、石獣はランタンや通信機の魔道光なんかに反応しているそうだろ? 通信を受けられない。受けられないから返せないって可能性ってのがあるんじゃないのか?」
ハッキリと明言できないポレムに対し、アスターゼンとしては前向きな可能性を提示する。
生きてはいるが、通信を受けるわけにはいかない状態。その場合、あの暗闇の中で耐え忍んでいる友軍がいると考えられる。
「通信だけならそうですけどね……」
そう言いながらポレムは手にした大型の通信機を操作すると、それはすぐさまジジーという音と共に一枚の紙を吐き出した。
「……確認できた範囲の探知機のデータです」
それを受け取ったアスターゼンの顔が曇る。
紙に記されていたのは、数ヶ所に設置した大気探知機からのデータだ。前回の毒問題の後、
浮遊城から送られてきた物を持ち込んでいたのだった。
リッツェルネールがこんな物まで用意していた事にも驚いたが、記されている表記には絶望するしかない。
確認できる限り、全て致死域。それは、先行していたマリセルヌス王国軍16万人の全滅を意味していたのだから。
「また毒か……北域はどうなんだ?」
「これまでは確認できていません。毒の影響は南域だけですね」
ふむ……とアスターゼンの方を向くと、
「アスターゼン、お前はどう思う?」
「知らんよ、そんな事。それよりどうするよ――いや、どうします? このままじゃ突入出来やしねぇ。したとしても、奥は猛毒なんだろ? あー、でしょう? たまらねぇなこれは」
勿論正しい答えなどは期待していないロイ王だったが、実にあっさりと流される。
だがまあ、仕方ないだろう。こいつはそういう奴だ。
「こちらは毒があるせいで動けずだな。とりあえず司令殿にも連絡はしておこう。内容はそうだな……いいか。ポレム、お前が考えて送っておいてくれ」
露骨に嫌な顔をしながらも通信機に短い指を這わせるポレムを見ながら、ロイは様々な可能性を思案していた。
毒を吹き出す地形……鉱山では稀にある事だ。毒性の高い魔族……これも普通に有り得そうだ。
どちらにせよ、ここの方面からの侵入はかなり限定的なものになるだろう。
――さて、リッツェルネールはどうやってここを陥落させるのか……。
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だがそれを知るものは、本人しかいないだろう。
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