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【 魔族と人と 】
暗闇の攻防戦 その3
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坑道全域に渡り設置した魔力による明かりが破壊され、外に空いた穴も塞がれた。
こうして世界の全てが闇に包まれたが、一か所煌々たる明かりを輝かせている場所があった。
この坑道の横幅は20メートル、高さも同様だ。そして比較的直線で、数百メートルはある下り道。
その中心に立つのは”四本腕”の異名を持つアルダシル将軍と、その配下重甲鎧隊。
輝く光は、その重甲鎧から発せられているものだ。
特にアルダシルの大型重甲鎧は、両肩の投光器から眩しい程の光を放っている。
当然そこには、足の踏み場もないほどに石獣が集まっていた。
奥から、背後から、足元から、天井から……ありとあらゆるところから、ゾロゾロと。
大きさも拳大から大型まで、形も普通の蜘蛛、或いは一角のヤギ、また或いは双頭の虎であったりと様々だ。
既にどれほどの数が集まっているのかは検討もつかない。そして、これからどれほど増えるのかも。
「気合を入れな! 正念場だよ!」
モーターの唸りを上げながら、両手に持ったそれぞれの長柄両刃斧が石獣を粉砕する。
砕かれ舞い上がる石獣。だが、彼らは一撃で倒せるほど甘くも弱くもない。
多少の損害など構わず彼らは攻撃を続ける。いやそれどころか、時間を与えれば周囲に散る他の石獣の破片すら糾合して再生してしまう。
それが足の踏み場もないほど――しかもまだまだ増加中だ。
だが、光を消すことは出来ない。
「踏ん張りな! 放置なんてしたら、あの一匹一匹が同胞数百人を殺すんだよ! 気張れ!」
「「「オオオー!」」」
石獣たちは、光に向けて集まって来ている。それも炎の様な自然の光ではない、人工光だ。
それは最初の襲撃の時点で分かっていた。故に、ここで明かりを消すことなど許されない。
このティランド連合王国アルダシル隊こそが、この領域に突入した中で最大の戦力なのだから。
◇ ◇ ◇
碧色の祝福に守られし栄光暦218年10月13日の夜が明ける。
とはいえ、この油絵の具の空に覆われた世界では太陽の眩い日差しとはいかない。
微かに、ゆっくりと、空に極彩色の色が浮かぶ。
その中に幾つもの点が見える。
それは空に浮かぶ、重飛甲母艦の編隊だった。
一方、坑道の中は相変わらず漆黒の世界に包まれている。
光は無く、音も微か。自分たちの位置も、今の時間も分かりはしない。
通信機を使えば、明かりは勿論、地図も時間も確認できる。孤立した友軍との連携や、外の状況も把握できるだろう。だが使えない。
僅かでも明かりをつけると、すぐさま石獣が襲ってくるからだ。
なら使わなければ安全か?
いや……動いていても、じっとしていても、奴ら石獣は襲ってくる。
そして襲われる場所は予測不能。細い坑道に負傷者を集め、前後を見張っていた――にも関わらず、中の負傷者がいつの間にか喰われていたなどという例もある。
どうせ同じなら明かりを使って対抗しようと考えた一団は、1時間もしないうちに消えた。
対処不能な数がいきなり押し寄せたためだった。
生き残りは小集団を形成し、感じられるのは互いのぬくもりだけだ。それも、いつ自分達が襲われるのか分からない。
侵入した兵士達は、どの国も精鋭と言って良い部隊である。だがこの恐怖は、彼らの精神を大いに削っていた。
だが、それでもまだ戦える。まだ全滅はしていない。
一部の兵は許可され、あるいは自己判断で火を使い、急場を凌いでいた。
数は少なくなっても、人類の戦いは続いていたのだった。
――時間だな……。
そんな暗闇の中、目を閉じ佇んでいたクラキアは現在の時間を正確に把握していた。
道具に頼っているわけでは無い。体内時計だ。
既に武器と鎧の維持で魔力は手一杯。休息も取っておらず、もう余剰の魔力も無い。
だがこれだけの悪条件にも関わらず、彼女はこれまでに2体の石獣を葬っていた。
しかしそれも、ほぼ限界が近い。
「生存者がいたら聞け。そして伝えよ。あと僅かで揺り籠による攻撃が行われる。各員、補給を済ませておけ」
……だが、その言葉に応えるものは誰もいなかった。
◇ ◇ ◇
アルダシルが突入した巨大坑道には、まだ光が残っていた。
それは暗闇を走る一本の光。彼女が操る重甲鎧の右肩から照らされている光だ。
左肩は完全に破損し、もはや動かない。
暗闇に照らし出されるのは、無数の砕けた岩石。潰れた死体、鎧、武器、そして破壊された重甲鎧の残骸たち。
全員が最後の最後まで奮闘した。一匹でも多く引き付けるために。そして僅かでも時を稼ぐために。
彼女らの奮闘は、魔王にとって大きな誤算だった。
石獣を倒し続ける様子を感じ取り、スースィリアを派遣すべきか悩んだほどだ。
だが結局、その決断は出来なかった。スースィリアは魔王の手札の中でも最大級に近い。それ故に、ここで使って良いかどうかの判断がつかなかった為だ。
結果として多くの石獣がこの場に集中し、予想外に人間が生き残ってしまったのだった。
だがその奮闘も、そろそろ限界が近い。
重甲鎧の片腕は失われ、明かりをつけっ放しだった為、動力士の魔力も尽きかけている。しかも周囲に動く味方はいない。交代要員はおろか、援軍すらもういないのだ。
何度も吹き付けられた炎のせいで、間接モーターの動きも悪い。
背中に搭載されていた予備兵装も使い切ってしまった。
――ピピッ、ピピッ、ピピッ。
そんな絶望的な中、重甲鎧の首元に設置されたタイマーが小さな音を立てる。
「ああ、やっとかい……それじゃ、後は任せたよ」
アルダシルの重甲鎧は、周囲から吹き付けられた炎の中に沈んでいった。
こうして世界の全てが闇に包まれたが、一か所煌々たる明かりを輝かせている場所があった。
この坑道の横幅は20メートル、高さも同様だ。そして比較的直線で、数百メートルはある下り道。
その中心に立つのは”四本腕”の異名を持つアルダシル将軍と、その配下重甲鎧隊。
輝く光は、その重甲鎧から発せられているものだ。
特にアルダシルの大型重甲鎧は、両肩の投光器から眩しい程の光を放っている。
当然そこには、足の踏み場もないほどに石獣が集まっていた。
奥から、背後から、足元から、天井から……ありとあらゆるところから、ゾロゾロと。
大きさも拳大から大型まで、形も普通の蜘蛛、或いは一角のヤギ、また或いは双頭の虎であったりと様々だ。
既にどれほどの数が集まっているのかは検討もつかない。そして、これからどれほど増えるのかも。
「気合を入れな! 正念場だよ!」
モーターの唸りを上げながら、両手に持ったそれぞれの長柄両刃斧が石獣を粉砕する。
砕かれ舞い上がる石獣。だが、彼らは一撃で倒せるほど甘くも弱くもない。
多少の損害など構わず彼らは攻撃を続ける。いやそれどころか、時間を与えれば周囲に散る他の石獣の破片すら糾合して再生してしまう。
それが足の踏み場もないほど――しかもまだまだ増加中だ。
だが、光を消すことは出来ない。
「踏ん張りな! 放置なんてしたら、あの一匹一匹が同胞数百人を殺すんだよ! 気張れ!」
「「「オオオー!」」」
石獣たちは、光に向けて集まって来ている。それも炎の様な自然の光ではない、人工光だ。
それは最初の襲撃の時点で分かっていた。故に、ここで明かりを消すことなど許されない。
このティランド連合王国アルダシル隊こそが、この領域に突入した中で最大の戦力なのだから。
◇ ◇ ◇
碧色の祝福に守られし栄光暦218年10月13日の夜が明ける。
とはいえ、この油絵の具の空に覆われた世界では太陽の眩い日差しとはいかない。
微かに、ゆっくりと、空に極彩色の色が浮かぶ。
その中に幾つもの点が見える。
それは空に浮かぶ、重飛甲母艦の編隊だった。
一方、坑道の中は相変わらず漆黒の世界に包まれている。
光は無く、音も微か。自分たちの位置も、今の時間も分かりはしない。
通信機を使えば、明かりは勿論、地図も時間も確認できる。孤立した友軍との連携や、外の状況も把握できるだろう。だが使えない。
僅かでも明かりをつけると、すぐさま石獣が襲ってくるからだ。
なら使わなければ安全か?
いや……動いていても、じっとしていても、奴ら石獣は襲ってくる。
そして襲われる場所は予測不能。細い坑道に負傷者を集め、前後を見張っていた――にも関わらず、中の負傷者がいつの間にか喰われていたなどという例もある。
どうせ同じなら明かりを使って対抗しようと考えた一団は、1時間もしないうちに消えた。
対処不能な数がいきなり押し寄せたためだった。
生き残りは小集団を形成し、感じられるのは互いのぬくもりだけだ。それも、いつ自分達が襲われるのか分からない。
侵入した兵士達は、どの国も精鋭と言って良い部隊である。だがこの恐怖は、彼らの精神を大いに削っていた。
だが、それでもまだ戦える。まだ全滅はしていない。
一部の兵は許可され、あるいは自己判断で火を使い、急場を凌いでいた。
数は少なくなっても、人類の戦いは続いていたのだった。
――時間だな……。
そんな暗闇の中、目を閉じ佇んでいたクラキアは現在の時間を正確に把握していた。
道具に頼っているわけでは無い。体内時計だ。
既に武器と鎧の維持で魔力は手一杯。休息も取っておらず、もう余剰の魔力も無い。
だがこれだけの悪条件にも関わらず、彼女はこれまでに2体の石獣を葬っていた。
しかしそれも、ほぼ限界が近い。
「生存者がいたら聞け。そして伝えよ。あと僅かで揺り籠による攻撃が行われる。各員、補給を済ませておけ」
……だが、その言葉に応えるものは誰もいなかった。
◇ ◇ ◇
アルダシルが突入した巨大坑道には、まだ光が残っていた。
それは暗闇を走る一本の光。彼女が操る重甲鎧の右肩から照らされている光だ。
左肩は完全に破損し、もはや動かない。
暗闇に照らし出されるのは、無数の砕けた岩石。潰れた死体、鎧、武器、そして破壊された重甲鎧の残骸たち。
全員が最後の最後まで奮闘した。一匹でも多く引き付けるために。そして僅かでも時を稼ぐために。
彼女らの奮闘は、魔王にとって大きな誤算だった。
石獣を倒し続ける様子を感じ取り、スースィリアを派遣すべきか悩んだほどだ。
だが結局、その決断は出来なかった。スースィリアは魔王の手札の中でも最大級に近い。それ故に、ここで使って良いかどうかの判断がつかなかった為だ。
結果として多くの石獣がこの場に集中し、予想外に人間が生き残ってしまったのだった。
だがその奮闘も、そろそろ限界が近い。
重甲鎧の片腕は失われ、明かりをつけっ放しだった為、動力士の魔力も尽きかけている。しかも周囲に動く味方はいない。交代要員はおろか、援軍すらもういないのだ。
何度も吹き付けられた炎のせいで、間接モーターの動きも悪い。
背中に搭載されていた予備兵装も使い切ってしまった。
――ピピッ、ピピッ、ピピッ。
そんな絶望的な中、重甲鎧の首元に設置されたタイマーが小さな音を立てる。
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