この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

文字の大きさ
上 下
278 / 425
【 魔族と人と 】

暗闇の攻防戦 その2

しおりを挟む
 体中がズキズキと痛み、少々眩暈めまいがする。
 だけど、今はのんびりと休んではいられない。

「領域の修復はどうだ?」

「問題ないかな。初期状態のピカピカだよ」

 エヴィアによる領域の修復。これは最初に思いついていた事だ。
 彼ら人類は、かつてのように迷路を進んで入り口を探すのではなく、爆撃で地表を穴だらけにしてショートカットして直接侵入してきた。
 それ自体は驚いたが、同時に好機であることも分かっていた。

 俺……というよりエヴィアには領域の修復能力がある。かつて鉄花草てっかそうの領域を直した時のように。
 それを使い、ショートカットの穴を無くす。そうする事で、中と外とは分断状態だ。当分援軍も出せないだろう。
 その状態で人類の光を奪い、侵入者を一掃する。
 作戦として悪くないと思うし、実際に目に見えて人類の数は減りつつある。
 ただこちらの体にも負担が大きい。そう何度も出来ない以上、ここで決めておきたい。

「後は石獣次第だな」

 死霊レイス首無し騎士デュラハンもいるのだが、こちらはまだ乳幼児だ。
 出来る事なら、戦いには参加させたくないところだった。




 ◇     ◇     ◇




 ――現状維持か……。

 真っ暗な闇の中、スパイセン王国の国王、クラキア・ゲルトカイムは静かにたたずんでいた。

 現状維持……その報告を受け取った通信兵は、報告中に落命した。
 壁から湧いて出たイソギンチャクのような形状の石獣に、背後からいきなり喰われたのだ。
 それはまさに、一瞬の出来事。いつもと変わらぬ緊張した面持ちで、電文を読み上げた兵士の顔が脳裏に焼き付いている。

 周りからは聞こえてくるのは鎧の音と騒めき、そして緊張が限界に達したかのような荒い呼吸音。
 最初の襲撃からここまで、まだそう時間も経っていない。
 突然の襲撃と暗闇、悲鳴、そして同胞の死。だが――

「静まれ!」

 クラキアの静かだが強い一喝と共に、声が届く範囲の兵の動きがピタリと止まる。
 訪れた静寂の闇。その中に、小さな音が響く。
 カリ――それはとても小さな音。誰かが動いていたら、決して聞こえなかっただろう。
 だがその音を合図とするかのように、クラキアの左手に銀の鎖が浮かび消える。
 同時にぼわっという音共に、近辺の壁に沿って、まるで蜜柑を入れる網の様な炎が突如として現れた。

 その赤い光に照らされたのは、イソギンチャクの姿をした石獣だった。
 大きさは1メートル20センチ程度。口元には、まだ先ほど喰われた通信の上半身が触手に捕まれ生えている。

 その姿がハッキリと見えるや否や、クラキアの体が矢のように跳ねた。
 同時に垂直に振り降ろされた右手のナタが、通信兵の死体ごと石獣を縦に裂く。
 ナタは中央より少し下で勢いを失い止まるが、その時には既にクラキアは横に回転していた。
 そして左右に一閃――一巻転してきた左手のナタが、最初のナタより上部を綺麗に切り飛ばす。

 時間にして、最初に姿が見えてから1秒も経っていない。電光石火の早業だった。
 下半身に残ったナタを引き抜くと、再び両手のナタで残った下半身をみじん切りにする。
 最初に斬り飛ばされた上半身も同様だ。配下の兵士達が、ハンマーや斧で粉砕する。
 石獣は粉々にしない限り、完全に息の根を止めたとは言えないからだ。

 ようやく動きを止めた欠片から目を放し、周囲の壁を覆う網状の炎を見る。
 まださほど時間は経っていないが、炎はまるで燃え尽きるように消えつつあった。

 ――おそらくだけど……そういう事ね。

 最初の襲撃を受けた時、石獣は先ず壁に設置された明かりランタンを攻撃した。
 そして辺りが真っ暗になると、次に通信兵を襲った。
 今まで倒してきた石獣とは違う。明らかに光に対して攻撃してきた事がうかがえる。
 だが今、壁で燃えている炎に反応して出てくる石獣はいない。
 ある意味当然か。炎に反応していたら、自分たちの炎にも反応してしまうからだ。

「魔王がいると、ただの魔族がまるで知性ある生き物の様に動く……報告通りですね」

「陛下、いかがなさいますか?」

 当初は混乱の中にあった兵士達も、炎の光を見て平静を取り戻していた。

「おそらく、坑道は何処も戦闘中……いえ、虐殺中ですね。火の使用を許可します。通信機は使えないでしょうから――貴方たち、走って伝達しなさい。可燃物を集めて松明を作り、身を守るようにと」

「了解いたしました!」

 命を受けた兵士達が、一斉に坑道の前後に走る。
 魔法で作られた炎は消えつつあり、再び恐怖の暗闇がやってくる。
 だが兜から覗く瞳の煌きには恐怖も焦りも感じられはしない。伝令として走った兵士達も同様だ。

 白き苔の領域ではエヴィアに散々にやられ、セプレニツィー平原ではスースィリアの猛襲に手も足も出なかった。
 だがそれは、スパイセン王国軍が弱平弱卒だからではない。むしろ、長年ククルスト・ゼビア率いるゼビア王国軍としのぎを削ってきた国だ。
 強卒強兵。むしろ、北方軍の中でも有数の戦闘国家。
 この状況であってもまだ、崩れなどはしなかったのである。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...