この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 魔族と人と 】

暗闇の攻防戦 その1

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 相和義輝《あいわよしき》の想定通り、坑道には定期的な間隔で明かりランタンが設置されている。
 これは人類にとって生命線だ。この明かりと、これまで作成した地図。それを基に、着々と侵攻を行っているのだから。
 それに要所に構えた休憩所、救護所、通信施設など、全ての中継施設は休むことなく明るく照らされている。
 この暗闇の世界では、明かりが無ければ何一つ機能しない。
 だが突然その光が消える。それは一瞬にしてほぼ同時。

「なんだ!?」
「今、変な音がしなかったか?」

 突然の暗闇に慌てつつも、通信兵が通信機に取り付けられた明かりライトを起動させる。
 しかしその瞬間に光は消え、同時にボキボキという音が響く。
 ほんの一瞬だけ照らされたモノが何なのかを理解する前に、辺りは炎に包まれた。

「うわああああああ!」
「石獣だ! 石獣の群れが!」

 漆黒に包まれた坑道は、明かりが無ければ何も見えない。
 だが今この世界にある光は、石獣が吐いた炎によるものだけだ。他の明かりは全て最初に襲撃されていたのだから。
 既に人類は知っている。石獣は土の中を、水のように移動する事を。
 その恐怖は尋常ではない。しかもここは、音すらも近くでなければ聞こえない世界。何処から襲われるか想像もつかない。

 暗闇に向けて声をかける。だが誰も答えない。さっきまで一緒にいた隊の仲間は?
 緊急用の火を灯す。そこに照らされたのは、惨殺された味方の姿。
 悲鳴を上げる間もなく、突如右足に激痛が走る。
 そこに居たのは小さな、1メートルにも満たないトカゲの石獣。そして喰われたのは自分の右足首だ。
 その血まみれの口から炎がチラつく。自分の肉を燃料とした……火炎。

 坑道の各所で起こる阿鼻叫喚の叫び。だがそれも、角を曲がれば聞こえはしない。
 それはもはや戦闘と呼べるようなものではなかった。暗闇の中、一方的に巻き起こる殺戮の嵐。
 ここは既に、石獣の餌場と化していたのだった。




 そして一方、後方部隊が別の異常に気付く。

「おい、ここは繋がっていたはずだろ!? 何で塞がっているんだ」
「こちら領域境界。侵入するための穴が見つからない」

 作った地図が役にたたない。そして、出入り口も見つからない。
 またある兵士は、突如迫って来た壁に押し潰され土の中へと消えていった。

 微かな光すら入らない漆黒の暗闇の中、スパイセン王国国王クラキア・ゲルトカイム、それにティランド連合王国軍、”四本腕”アルダシル・ハイン・ノヴェルド、ティランドは、それぞれ入ってくる通信を元に状況を正確に予想していた。

 そしてそれは、浮遊城にいるリッツェルネールにも届けられていた。
 既に浮遊城の玉座の間艦橋は、蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。

「航空写真はどうなっている?」

 玉座に座るリッツェルネール、それに傍らに控えるケインブラとミックマインセの元に、通信士オペレーター達があたふたと電文や写真を抱えて持ってくる。 どれも現地や重飛甲母艦からのものだ。

「やはり上空からの写真では、暗くて分からないか」

 航空写真は使い物にならない。もっと高度を落として照明を使えといってもダメだろう。
 大元の命令系統はムーオス自由帝国所属であり、指揮系統もあちらが上位だ。危険な指示には従わないだろう。

「こちらが地上の調査隊レンジャーからの写真です」

 そうミックマインセが差し出したのは、爆撃で開けた領域境界、地上部分の写真だ。
 それは本来であればぽっかりと穴が開き、その周辺は木板とコンクリートで固めてあるはずだった。
 だが今そこに映っているのは、前と変わらぬ壁により区切られた溝のような入り口だ。

「各部隊からの報告によると、領域が元に戻っているとある。可能性の話ではない、確定だ事項だ」

 そうケインブラが報告する。こちらは各侵入部隊からの報告をまとめたものだ。
 それによると、各所に空いた爆撃の穴により繋がっていた部分が、全て塞がっているとなっている。
 ショートカット出来ていたルートが無くなったわけである。場合によっては、出口のない袋小路になった部分もあるだろう。

「各隊の侵攻状況は?」

「侵入したのは、スパイセン王国軍16万人、ティランド連合王国軍20万人ですね。南はマリセルヌス王国軍16万といった所でしょうか。外にいるのはスパイセン王国軍6万、ティランド連合王国軍20万、マリセルヌス王国軍が24万人といったところですね。大体何処も、半分くらいは侵入済みです」

 ミックマインセは、各隊の進捗状況を確認しながら報告する。
 かつての領域戦と違い、今回は死んで来いと無分別に送り込んだわけではない。
 各隊は整然と慎重に侵入し、内部を基地化しつつ侵攻している。
 その為、全軍が一気に突入したわけではなく、小分けにされて突入していた。
 元々ラッフルシルド王国軍の後方に待機していたスパイセンの動きは早く、逆に一度下がったマリセルヌス王国軍は多くが外で置き去りにされた形だ。

 報告を聞きながら、リッツェルネールはこの好機チャンスを歓迎していた。
 これは、今後の為に知りたかった情報の中でも最重要案件の一つ。それをこんなに早く知ることが出来るとは予想外だった。
 しかし、今は時間が悪い……。

「坑道内部の部隊は独自判断で行動するように。それと外部の部隊は、一度領域境界から退避させてくれ。明日早朝と同時に重飛甲母艦による揺り籠の投下を申請する。それまでは基本現状維持だ」

 その情報とは、領域の復元だ。魔王は今、それを行っている。間違いないだろう。
 だがそれは、どの位の規模で行える? 頻度は?
 それを知る事は、今後の作戦判断への大きな指針となる。
 その為であれば、現在坑道にいる将兵の命など安いものだ。

「ムーオスは後どのくらい出来るかな?」

「そうだな……揺り籠の数で言うなら、残りは1万5千発を切ったあたりか」
「補給には戻せませんし、今ある数で打ち止めでしょう。これ以上はさすがに支援しないと思いますしね」

 ケインブラとミックマインセから言われた情報を、頭の中で整合する。
 現在使用可能な戦力。今起きている現実。想定される魔王の力……。
 様々な計算が頭を廻り、無数の想定と結果が積み重なる。

 そんな様子を少し離れた所から観察していたマリッカは、『この人、悪い事考えていそうだな—』と思っていた。
 その正確さは別として、マリッカは人の思考の変化に鋭い。
 これは魔力の波長を正確に感じ取れるからであり、さすがは先代魔王の娘といって良いだろう。
 ただ、あくまで正確さは別である……のだが、この時は確かに当たっていた。
 作戦――それは云わば、大いなる嫌がらせだ。相手が嫌で嫌でたまらない事を行うのが戦術なのであるのだから。
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