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【 魔族と人と 】
魔王出現 後編
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ラッフルシルド王国軍は、10万人の兵軍を率いてこの遠征に参加した。
全ては祖国の窮状を救うためだ。
この国は去年、ゼビア王国と共に主であるハルタール帝国に反旗を翻している。
だがその理由は、それぞれ違う。
ゼビア王国国王ククルスト・ゼビアは、これ以上魔族を殺すことを拒否した。
だがそれは人類に対する反逆だ。許されるわけがない。
結局、ゼビア王国はこの世から消滅した。
対して、ラッフルシルド王国の理由は貧しさ故だ。
魔族領遠征で疲弊し、しかも海まで失った。約束された食料は届かず、国民は飢え、更に再び魔族領侵攻を行う……もう付き合い切れなかった。仕方が無かったのだ。
だが反乱は失敗。最後の機会を得てここに来た。反逆の罪を雪ぐため、国家の為に死んで来いと……。
「ぬおおおおおお!」
迫り来る触手に対し、ツェミットのハンマーが唸りを上げて振り下ろされる。
だが、くにゃりと――まるでそれ自身が意志を持つかの様に華麗に躱すと、2又に別れて左右の兵士を貫き穿つ。
二人とも、初めて戦場を駆けた時からの付き合いだ。互いの家族も境遇も、全て知った仲間たちだ。
「貴様ぁ!」
貫いた触手の根元を、今度こそハンマーが捕らえる。
だが、それはガツンと大きな音を立てただけ。僅かも傷付けることは出来なかった。
むせかえるような血の匂い。倒れていく戦友たち。
本能で感じ取る、圧倒的な力の差。絶望が夜の帳の用に降りてくる。
だが負けるわけにはいかない。再び両手でハンマーを振り上げ――
ガッ! 坑道に響いたそれは、金属を穿つ音。
ツェミット王の黄金の鎧を、棘のような鋭い触手が貫いていた。
結局、一矢すらも報いる事ができなかった。だが薄れゆく意識の中、ツェミット王は満足していた。
きちんと魔族と戦って死ねた事に。
逃げることなく、泣き叫ぶ事無く、無様に命乞いもせず、堂々と死ぬことが出来た。
これで面目が立つ。祖国の同胞も救われる。ようやく、生という重圧から解放されるのだ。
思い通りにはならなかった人生。自由は無く、英雄にもなれなかった。
だがたとえ無力な存在であっても、自分は最後の最後まで、自分自身を貫けた。
「感謝……する…………」
ラッフルシルド王国国王、ツェミット・ハム・ラッフルシルドは、ラジエヴの触手に胸の中心を貫かれ息絶えた。
ラジエヴは、坑道に伸ばした触手の全てから感覚を得ていた。
自分が何人殺したかもわかるし、今残った人間達が何をし、何を考えているのかも。
それを理解した上で、僅かの感傷も無く虐殺に励んでいた。
ラジエヴは元々海に行った魔人だ。
だが魔王に海の魔人代表としての報告と確認を行う為、定期的に陸地に来る必要があった。
その為の足ではあったが、実際には殆どの時間を魔王の居城で過ごしている。
報告役も、実はとっくに他の魔人に押し付けた。
理由は簡単。海に戻る気が無くなったからであった。。
今頭部に付けている八角柱の石は、ラジエブお気に入りのファッションだ。
高さはおよそ2メートル。下には穴が開いており、そこからタコの足が伸びている。
魔王相和義輝に言わせれば、蛸壺と評すだろう。
その魔王には見分けがつかないが、実は日々微妙に形の違うものを被っている。
深いこだわりがあるのだ。
だがこのファッション故に、ラジエヴは海を捨てたのだった。
ラジエヴは、地上では十分に大きいと言える。
だが海の生き物は数十メートルどころか数百メートル級までおり、彼等からすればプランクトンの様なものだ。
魔人を攻撃しないのは全ての生き物に共通した事柄だが、それでもふらふらと大型生物の前を横切ると、彼等は本能で食べる。ぱっくりと。
勿論それで魔人が死ぬ事は無いが、石柱の被り物はボリボリと食われ砕け散る。
そう――ここに住居を移したのは、ただそれが嫌だったからに過ぎない。
魔人ラジエブに、エヴィアやゲルニッヒの様な人間への興味は全く無い。
そして今、自分の住処を破壊しようとする彼らに対する慈悲も無い。
ただ機械的に、湧き出る虫を潰すように始末していたのだった。
◇ ◇ ◇
一人の男が手にした小さな杖が、淡く黄色に光っている。
ラッフルシルド王国に伝わる、王位継承の証だ。
ラッフルシルド王国軍は10万人の軍団で魔族領へと侵攻。そして今、炎と石獣の領域攻略戦に参加し、壊滅した。
だが、それは10万人全ての死ではない。
とはいえ機械化部隊の規模にもよるが、軍隊には補給、設営、医療、整備、移動などを行うための非戦闘員を1割から2割、場合によっては3割程含む。
しかしラッフルシルド軍の場合、ほぼ全員が歩兵。ここに来るまでの移動も他国の浮遊式輸送板を間借りしたものだ。
その為、非戦闘員の比率は少なく、数は約8千人。僅かな数とはいえ、それだけは生き残ったのだ。
新たな王となった男の最初の仕事は、彼らを祖国へと帰還する許可を得る事だった。
全ては祖国の窮状を救うためだ。
この国は去年、ゼビア王国と共に主であるハルタール帝国に反旗を翻している。
だがその理由は、それぞれ違う。
ゼビア王国国王ククルスト・ゼビアは、これ以上魔族を殺すことを拒否した。
だがそれは人類に対する反逆だ。許されるわけがない。
結局、ゼビア王国はこの世から消滅した。
対して、ラッフルシルド王国の理由は貧しさ故だ。
魔族領遠征で疲弊し、しかも海まで失った。約束された食料は届かず、国民は飢え、更に再び魔族領侵攻を行う……もう付き合い切れなかった。仕方が無かったのだ。
だが反乱は失敗。最後の機会を得てここに来た。反逆の罪を雪ぐため、国家の為に死んで来いと……。
「ぬおおおおおお!」
迫り来る触手に対し、ツェミットのハンマーが唸りを上げて振り下ろされる。
だが、くにゃりと――まるでそれ自身が意志を持つかの様に華麗に躱すと、2又に別れて左右の兵士を貫き穿つ。
二人とも、初めて戦場を駆けた時からの付き合いだ。互いの家族も境遇も、全て知った仲間たちだ。
「貴様ぁ!」
貫いた触手の根元を、今度こそハンマーが捕らえる。
だが、それはガツンと大きな音を立てただけ。僅かも傷付けることは出来なかった。
むせかえるような血の匂い。倒れていく戦友たち。
本能で感じ取る、圧倒的な力の差。絶望が夜の帳の用に降りてくる。
だが負けるわけにはいかない。再び両手でハンマーを振り上げ――
ガッ! 坑道に響いたそれは、金属を穿つ音。
ツェミット王の黄金の鎧を、棘のような鋭い触手が貫いていた。
結局、一矢すらも報いる事ができなかった。だが薄れゆく意識の中、ツェミット王は満足していた。
きちんと魔族と戦って死ねた事に。
逃げることなく、泣き叫ぶ事無く、無様に命乞いもせず、堂々と死ぬことが出来た。
これで面目が立つ。祖国の同胞も救われる。ようやく、生という重圧から解放されるのだ。
思い通りにはならなかった人生。自由は無く、英雄にもなれなかった。
だがたとえ無力な存在であっても、自分は最後の最後まで、自分自身を貫けた。
「感謝……する…………」
ラッフルシルド王国国王、ツェミット・ハム・ラッフルシルドは、ラジエヴの触手に胸の中心を貫かれ息絶えた。
ラジエヴは、坑道に伸ばした触手の全てから感覚を得ていた。
自分が何人殺したかもわかるし、今残った人間達が何をし、何を考えているのかも。
それを理解した上で、僅かの感傷も無く虐殺に励んでいた。
ラジエヴは元々海に行った魔人だ。
だが魔王に海の魔人代表としての報告と確認を行う為、定期的に陸地に来る必要があった。
その為の足ではあったが、実際には殆どの時間を魔王の居城で過ごしている。
報告役も、実はとっくに他の魔人に押し付けた。
理由は簡単。海に戻る気が無くなったからであった。。
今頭部に付けている八角柱の石は、ラジエブお気に入りのファッションだ。
高さはおよそ2メートル。下には穴が開いており、そこからタコの足が伸びている。
魔王相和義輝に言わせれば、蛸壺と評すだろう。
その魔王には見分けがつかないが、実は日々微妙に形の違うものを被っている。
深いこだわりがあるのだ。
だがこのファッション故に、ラジエヴは海を捨てたのだった。
ラジエヴは、地上では十分に大きいと言える。
だが海の生き物は数十メートルどころか数百メートル級までおり、彼等からすればプランクトンの様なものだ。
魔人を攻撃しないのは全ての生き物に共通した事柄だが、それでもふらふらと大型生物の前を横切ると、彼等は本能で食べる。ぱっくりと。
勿論それで魔人が死ぬ事は無いが、石柱の被り物はボリボリと食われ砕け散る。
そう――ここに住居を移したのは、ただそれが嫌だったからに過ぎない。
魔人ラジエブに、エヴィアやゲルニッヒの様な人間への興味は全く無い。
そして今、自分の住処を破壊しようとする彼らに対する慈悲も無い。
ただ機械的に、湧き出る虫を潰すように始末していたのだった。
◇ ◇ ◇
一人の男が手にした小さな杖が、淡く黄色に光っている。
ラッフルシルド王国に伝わる、王位継承の証だ。
ラッフルシルド王国軍は10万人の軍団で魔族領へと侵攻。そして今、炎と石獣の領域攻略戦に参加し、壊滅した。
だが、それは10万人全ての死ではない。
とはいえ機械化部隊の規模にもよるが、軍隊には補給、設営、医療、整備、移動などを行うための非戦闘員を1割から2割、場合によっては3割程含む。
しかしラッフルシルド軍の場合、ほぼ全員が歩兵。ここに来るまでの移動も他国の浮遊式輸送板を間借りしたものだ。
その為、非戦闘員の比率は少なく、数は約8千人。僅かな数とはいえ、それだけは生き残ったのだ。
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