この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 魔族と人と 】

突入作戦 後編

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「城主様、ムーオスの重飛甲母艦から連絡です」

 通信士オペレーターのリンダがすました顔で資料を持ってくる。
 ちょっと前までは、まだガサツなところが抜けていなかったが、さすがに周囲の目がきついため態度を改めたのだ。
 因みに通信士オペレーター達の殆どは既婚者か未亡人であり、後者の数は今後更に増えるだろう。
 彼女らとしては、祖国の英雄にして商国ナンバーワンの彼を巡って秘かに火花を散らしていたのだ。

 だがそんな事は、当の本人には興味すら沸かない事である。
 それよりもと茶封筒に入った資料を確認し、一人納得したように頷いた。
 その資料は、上空の重飛甲母艦から撮影された写真と、巨大ムカデが炎と石獣の領域に入ったという報告書であったのだ。
 彼にとって、それは自身の予測が的中した公算が高い事を示していた。

「ミックマインセ、突入した部隊の様子は?」

「ラッフルシルド王国軍とマリセルヌス王国軍が侵入済みです。双方ともにまだ健在ですね」

 ミックマインセのその言葉には、少々感心した空気を含んでいた。
 何といっても、以前の攻略戦は酷いものだった。
 発見した魔王を打倒すべく次々と各国軍が投入され、まるで溶けるように消えていったものだ。
 だが今回は、以前に比べ安定して戦えている。
 それは危険な炎の竜巻による被害の無さが大きいが、装備によるところも大きい。




 ――坑道内。
 少しひんやりした暗闇を、白い光が定期的に淡く照らしている。一定距離ごとに配置された魔導のランタンによる明かりだ。
 その様子は、まるで現代の鉱山の様にも見える。
 更には通信機の波長を中継するためのアンテナが立ち、有線通信機のケーブルが床を走る。
 所々空いた揺り籠による大穴は工兵隊により固められ、更に一部にはコンクリート製の簡易屋根まで作られた。
 無分別に進むのではない。じっくりと時間をかけて、確実に陣地化が進められていたのだった。

 今は碧色の祝福に守られし栄光暦218年10月10日。
 戦いが始まってから、既に4日が経過している。
 だが、まだ坑道の全容はまるで把握出来ていない。全体からすれば数パーセント……いや、1%いったかすら怪しい。
 まだまだ最前線の兵士達の行く先には、遥かなる闇が広がっていたのだった。
 そして今、その漆黒の世界から一条の炎が吹き寄せる。

「クソッ! 誰か食われやがった!」
「防げ! 盾隊! うわあああああ!」

 前線を進んでいた数人が炎に巻かれ地面を転がる。
 一瞬見えたその姿は、頭が二つある蛇の石像だ。

 だが致命傷ではない。軍服などの可燃物は一切排し、耐火性の高い魔獣の革に全身鎧プレートメイル
 武器は盾と、それと変わらぬほどの幅がある斧を主体とする。
 武器も鎧も、石獣対策に特化したものだ。
 かつての戦いで、人類軍も学んでいる。ましてやここは、魔王が発見された最重要地点。戦う前から着々と準備は進んでいたのである。

「突撃! 怯むな!」
「砕け! 砕け! 砕け!」

 兵士達は武器と盾を構え、猛然と石獣に突撃していった。
 恐れず勇敢に、そして確実に敵を葬る兵士達。だがしかし、決して楽観視は出来なかった。


「アスターゼン将軍。第22から第34まで壊滅。予備部隊を投入していますが、現状では50番隊までの先行隊は壊滅です」

「やはり簡単にはいかないよな。まあいい、予定通り我等は進むだけだ。全滅したら、後続体が何とかしてくれるだろう」

 マリセルヌス王国軍突入部隊を率いるアスターゼン将軍は、ポレム隊が作った地図と部隊編成表を確認しながら指揮をしている最中だった。
 だがここまでの戦いで、既に戦死者は7万人を超える。かなりの損失だ。

 全軍が対火部隊とはいかない。いや、正しく言えば一割ほどだ。
 それも、これまでの戦いで殆どが戦死。後から来る補充兵は通常兵装の一般兵士だ。損害は目に見えて大きくなってる。

 石獣は土の中を移動する。まさに神出鬼没の殺戮者だ。
 補充兵は目的地に到着する前に坑道の至る所で大きな被害を出しており、一緒に突入している工兵や補給物資を運んでいる民間人まで含めたら、いったいどれほど死んでいるかは把握されていない。

 ジェルケンブール王国との戦争が無ければ、耐火装備はもっと充実していただろう。
 今更ながらに、愚かな戦いをさせられたものだと思う。
 それもこれも、リッツェルネールが玉座に座る為だと考えると怒りが倍増して仕方がない。

 だがそんな文句など一言も口にせず、ただ黙々と指示を行う。そこにいつもの明るい姿はなく、突撃隊の隊長として相応しい風格を醸している。

「そう言えば、ここ――132の737番坑道から先に行ったロベリコはどうした? もう定時連絡の時刻は過ぎているぞ」

 発見された坑道には、分岐点から分岐点の間にそれぞれナンバリングが施されていた。
 これも、かつての闇雲な突入からの反省点だった。
 そして、各坑道には必ず中継の通信士を配置している。先行した部隊の状態を逐一確認するためだ。
 こうして、蟻の巣の様な坑道でも各員が迷わず進軍出来ているのだが……。

「なあ、ポレムさんよ――」

 そう、右にいたはずのポレムに視線を動かす――が、ポレムは口から血を流し、白目を剥いて崩れ落ちていた。

 ――しまった!
 十分に注意していたはずだが、それでもまだ油断があったのか!?
 おそらく時間にして1秒か2秒。周りの兵士の多くも倒れつつある。皆、全身鎧フルプレートではない兵士。

 ――これは兜に付いていた対毒マスクの差だ!
 アスターゼンは咄嗟に判断し叫ぶ。

「撤収! 対毒兵装に切り替えろ!」

 言うが早いか、左手に仕込んだ回路を起動させた。
 手甲ガントレッドの内側には、対毒用の数種類の薬を打ち込むための機構が備わっている。
 ハイテク機器ではあるが、ただ注射針を差し込んで薬を注入するだけの機械。
 上手く血管に入らなかった薬によりすさまじい激痛が走るが、それでも死ぬよりはマシだろう。

 薬が効いたら生き残るだろう……そんな事を考えながらも、ポレムを担いで駆け出していた。
 彼女を掴んだのは本能のようなものだ。150センチを切る程度に小さな体だったことも幸いしただろう。
 だが以前の彼であれば、犠牲者など見捨てて走ったものだ。
 自分でも、随分と甘くなったものだと自嘲しながら坑道の出口へと向かったのだった。
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