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【 魔族と人と 】

突入作戦 前編

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 黄金色こがねいろの鎧を纏った一団が乗る浮遊式輸送板が、鉄花草てっかそうの領域を疾走する。

「各員突入! 味方の攻撃で吹き飛ばされるなよ!」

 途中で吠える草食動物など見向きもしない。目標は眼前に空いた巨大な穴。揺り籠により破壊された外殻の下に広がる坑道だ。

 それは人類側の予想よりも、遥かにくっきりと残っていた。
 当初の予想では8割方は衝撃で崩れ、埋没すると見られていた。その修復の様子から内部を予測する予定だったのだ。
 だが領域は思ったよりも頑丈だった。爆心地は燃え溶け粉塵となって飛散したが、爆風程度では坑道は崩れなかった。
 結果として、溶け拭き飛んだ部分はキノコ雲として空へと昇り、残った坑道は無防備な穴を人類の前に晒していたのだ。

「行け行け! ここが我らの死に場所だ!」

 全身を黄金色の全身鎧フルプレートで包んだラッフルシルド王国国王、ツェミット・ハム・ラッフルシルドの檄が飛び、兵士達は次々と穴へと飛び込んだ。
 ここから先は作戦も何もない。その血をもって地図を広げる、ただの領域戦だ。
 だがその地図こそが、今後の人類の命運を分ける。

 だが、地上の立体迷路を通らなければ安全などという事はない。
 確かに炎の竜巻は無視できる。だが地下には、恐るべき獣たちが待ち構えているのだ。

 兵士達が飛び込んだ穴から、次々と真っ赤な光が明滅する。
 この領域の地下は音が通らない。だから悲鳴は聞こえて来ない。
 だが真っ赤に炸裂する炎は、いずれかの兵士が食われた証。

「行くぞおー!」

 だが怯みは無い。坑道がきちんと残った事、それは人類にとっては予想外の好機なのでである。
 ツェミット王もまた、自ら武器を取り漆黒の穴へと身を投じたのだった。





 同刻――南方、腐肉喰らいの領域跡地からも、人類軍は突き進む。
 こちらはティランド連合王国所属、全員が深紅の兵装をまとったマリセルヌス王国軍50万人。
 少数のラッフルシルド王国軍と違い、こちらは堂々たる大軍だ。
 だが最初に侵入するのは本隊ではなく――

「それじゃ、行ってきますわ。くれぐれも、サボらんでくださいよ」
「これより出陣して参ります。ケールオイオン王国残存の民の事、よろしくお願いいたします」

 副官であるアスターゼン、それにポレム・ハン・ケールオイオン率いる突撃隊10万人が先行する。
 アスターゼンは魚類を思わせるシャープで艶やかな真紅の全身鎧フルプレートを纏い、兜の額には大きな三日月飾りが光る。
 武器はカルター王が使うような、巨大な両刃の大斧だ。
 こちらは突撃隊の最前線。石獣の中に切り込む係である。

 対してポレムの兵装は、まるでローブの様な鎖帷子に金ダライをひっくり返したような幅広の兜。
 武器は小型の鉈一本と、見た目の貧相さもあって実に心もとない。
 だが、それに何一つ問題は無い。
 彼女が背中に担ぐ通信機と、右目に装着した方眼鏡。これこそが本命の装備。
 彼女が率いる部隊の役割は、あくまで地図を完成させることにあるのだった。




 ◇     ◇     ◇




 魔王の大ホールにある2つの扉。
 1つは魔王の私室であり、もう一つは倉庫だ。
 それ以外にも坑道の穴自体はそこら中にある。壁は勿論、天井にもだ。
 だが魔王は今、倉庫へと移動していた。

 倉庫に設置された柱――魔王魔力拡散機に、微弱な魔力を送る。
 これの使い方も大分理解してきた。
 ここで使うと、無数の穴を廻ってからレールの上をグイグイと走っているような感覚に包まれる。
 使う領域によって感覚はまちまちだ。これは、俺は放った魔力の動きを感知しているという事なのだろう。
 実際に今の俺は、これで領域全体の様子を把握していた。

 ――東から入ってきた集団はおよそ8万。南東からの集団は10万人程か……多いな。

 地表では炎の竜巻の精霊が元気に走り回りながら、爆弾を器用に避けている。
 だが人類軍は、竜巻の近くに行こうとはしない。かなり手前に空いた幾つもの穴にある坑道から侵入中だ。
 これでは精霊は手出しが出来ない。

 一方で、外でのんびりしていた石獣は一斉に地下に潜った。
 そして現在、その一部は怒りの矛先を人類軍に向け存分に発揮中だ。
 感情があまり無いように見えて、やはり巣を攻撃されると相当に怒る。
 ホント、以前踏んだ時に噛まれなくて良かった。
 だが――

「北側は優勢だけど、南の方は少しきついか……」


 戦いが開始されて3日目。碧色の祝福に守られし栄光暦218年10月9日。
 人間対石獣の戦いは、圧倒的に石獣が優勢だった。
 何せ元々強いのに、坑道は彼らのテリトリーだ。炎一吹きで数十人の兵士が息絶える。
 それに狭いため囲むことも出来ない。戦力比は石獣1に対して数百といったところか。
 だが所々押されている。おそらく、相当な猛者がいるのだ。

「私が行ってきマショウ」

 まだ何も言っていないのに、小さいままのゲルニッヒがそう提案してきた。
 珍しい……行ってくれと頼んだら、間違いなく行ってくれただろう。だが自分から進言して来るのは意外だった。

「ナニ、単に色々と実験したいだけデス。コレもマタ、私の興味を非常に刺激していますノデ」

 そういうと、さっさと坑道の奥へと消えてしまった。
 多少の不安もあるが、ゲルニッヒであれば何とかなると思う。
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