この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

文字の大きさ
上 下
269 / 425
【 魔族と人と 】

第二次炎と石獣の領域戦

しおりを挟む
 碧色の祝福に守られし栄光暦218年10月6日。
 魔王相和義輝あいわよしきは、急ぎ炎と石獣の領域内にある魔王の居城へと戻っていた。

 玉座のあるホールはまばゆい光に包まれているが、今ここにユニカはいない。
 彼女は無限図書館で待機。明かりをつけたのは、相和義輝あいわよしき自身の力だ。
 彼女は付いて来たそうだったが、さすがに戦場は危険すぎる。
 図書館の精霊は人に一切害は無いというし、あそこは動物も入らない。
 今後の為にも、今はお留守番をしながら勉強を続けてもらおう。

 魔人エヴィア、スースィリア、テルティルト、ゲルニッヒ、ヨーヌと、身近な魔人は全員こちらだ。
 ユニカの元には、代わりに魔人ファランティアを派遣してもらう事になっている。
 ファランティアであれば、いざという時は彼女を連れて移動できるはずだ。


「何とか間に合ったなー。ひやひやものだったよ」

「前と違って、人間は領域を囲もうとはしていないかな。もっと余裕があったと思うよ」

 そうなのか。だが、余裕があるのは良い事だ。
 つか待て、以前は囲もうとしたの? アホなの?

 ここ炎と石獣の領域は、6ヶ所の領域に接している。正しく言えば、当時は5カ所だ。
 北面が亜人の住処。人間が、迷宮の森と亜人の領域と呼んでいる場所になる。
 ここから西へと進むと、火山帯にぶち当たる。
 ここが灼熱の翼竜ファイヤーワイバーンが生息している場所で、溶岩流れる灼熱地獄。首無し騎士デュラハン達の拠点でもあるな。
 こんな所に攻め込んだら、軽々と返り討ちにあうだろう。相当数の無駄死にが出たと思われる。

 東側は、今は鉄花草てっかそうの領域だ。当時は解除されていたが、今では一面の湿地となっている。
 そこから下った南面の東側が腐肉喰らいの領域跡地。西側が魔障の沼だ。
 領域跡地はただの荒れ地だが、魔障の沼は猛毒地域。そう簡単に突破できる場所でない。

 そして西側はいつもの針葉樹の森。
 ここから北へ行くと一周廻って火山帯、西に進めばホテル、南へ行けば白き苔の領域だ。
 ようは針葉樹の森からホテルまで続くライフラインを、火山帯、炎と石獣の領域、魔障の沼、白き苔の領域で守っているような形といえる。
 最初からそう考えて作ったというより、人間が対処出来ない領域が残った結果と言えるだろう。

 ズバリ言えば、囲むとか不可能だ。人間が攻めてくる線は、鉄花草てっかそうの領域と腐肉喰らいの領域跡地。そして、少し無理をして亜人の森を迂回して来るルートだろう。
 それ以外の場所は、足を踏み入れることも躊躇ためらわれる不毛の地。
 以前は知らなかったのかもしれないが、今はもう痛い目に合って分かっているはずだ。
 囲もうとしていないって事は、まあそう言う事だろう。

「人類軍の配置とかは分かるか?」

「こんな感じデシね」

 ヨーヌはそう言うと、ブワッと広がると同時に盛り上がる。まるで立体地図だ。
 黒いので少し見難いが、その点は仕方がない。
 出来上がった地図は、炎と石獣の領域を中心としたこの周辺図。
 以前、人間爆弾による攻撃の様子を教えてくれたのと同じ手法だ。

「この辺りに浮遊城がいるデシ」

 鉄花草てっかそうの領域から更に西に行った所の荒れ地がズームアップされる。
 そこに浮き上がるのは、かつて遠くから見た浮遊城ジャルプ・ケラッツァ。
 細部まで表現されているのはこだわりの証か。
 しかしよく見ると、下に黒い線が見える。さすがに体から切り離して浮かべる事は無理か。

「そしてこの辺りに、人間は布陣しているデシ」

 次にクローズアップされたのは、これまた予定通り鉄花草てっかそうの領域の淵ぎりぎりの外と、腐肉喰らいの領域跡地。
 ズームされると、これまた見事に人間の部隊が再現されている。
 全員が浮遊式輸送板に乗り込んで待機って所か。数が多すぎてさっぱり分からないが――

「総勢は3024572人デシ」

 自分の体で再現しているだけあって、随分と正確な数を提示して来る。
 まあ大体300万人。簡単に言うが、これは相当な数だ。

「領域内の様子はどうなっている?」

「石獣たちはいつもと同じかな。一部は外で日向ぼっこして、大部分は地下で寝ているよ」

 来る途中で挨拶した火の精霊――いや、正確に言うのなら炎の竜巻の精霊だろう。
 その様子に変化はなかった。いつも通りだ。
 かつて人類軍はここに攻め込み、数百万の死傷者を出したという。
 その中には囲もうとして失敗した数も含まれているのだろうが、多くはこの領域に突入した結果だ。
 それだけここの護りは盤石だ。大丈夫……人類が何を考えていようが、ここなら戦える。

 だが、それだけに分からない。
 布陣を見る限り、向こうだってここの怖さは知っている。
 なのになぜ攻めてきた?
 その理由、そして勝算は何処にあるのだろうか……。




 ◇     ◇     ◇




 浮遊城ジャルプ・ケラッツァ艦橋ブリッジ
 マリッカはふと、聞きそびれていた疑問を口にした。

「城主殿、本当に、ここに魔王が居るのですか?」

「居るんじゃない、来るんだよ。これからここを攻めるぞという姿勢を示せば、必ず魔王があの領域に入るという事さ」

 そう、かつて中に入った時に見た廊下や部屋。
 あの時沸いた最大の疑問。それは、あそこになぜ人間が生活するような様式の場所があったのか。
 そして同時に思った。魔王とは二足歩行の、人間に近い存在なのではないかと。
 その予想の正確さは分からない。だが確かに、あの領域に魔王はいたのだ。

 それからティランド連合王国軍やリアンヌの丘の戦闘記録を見た。
 そして、白磁の間で出会った魔王を名乗った男、アイワヨシキ。
 それらを総合して導き出された結果は2つ。

 あそこは魔王にとって、何か意味のある重要な場所であると言う事。
 そしてもう一つ。アイワヨシキを名乗る魔王は、人間が攻めれば必ず迎撃に出てくるという事だ。

 その2つが合わさった時、それはもはや予想というより確信であった。
 だが勿論、目論見が外れる可能性は十分にある。
 だがその場合でも、ここは元々魔王が発見された領域だ。ただそれだけでも、ここを攻略する理由としては十分だった。




 ◇     ◇     ◇




 同時刻、上空4千メートル。

「こちらムーオス自由帝国103航空隊。目的地上空に到着した。これより行動を開始する」

 遥か上空に現れた重飛甲母艦の大編隊。その数80機。
 それが一斉に、炎と石獣の領域目がけて揺り籠を投下した。

 勿論一度に全て同時投下ではない。そんな事をしたら、後続は乱気流に巻き込まれ魔力を送るどころではないからだ。
 とはいえ、この領域は広大だ。全長206キロメートル、最大幅107キロメートル。
 80機の重飛甲母艦は拡散し、広範囲に揺り籠を撒き散らす。

 絶え間なく輝く閃光。立体迷路のような溝を吹き抜ける粉塵。そして幾つも立ち昇るキノコ雲。
 領域に入らなければ、その音は聞こえない。
 だがそれでも、それを眺める人々は、自らが持った力に対して驚愕と恐怖を感じざるを得なかった。




 ◇     ◇     ◇




 突然、大ホールの明かりが明滅する。
 だが音も振動も無い。なんだろう、この機械もいよいよ古くなってきたと言う事だろうか。
 そんな事を考えるも、心に浮かんだ不安の影は拭えない。これは魔王としての本能なのだろうか。

「ヨーヌ!」

「今こんな感じデシ」

「ホホウ、コレハコレハ。人間の攻撃が始まったようデスネ」

 ヨーヌの体を使った立体地図。
 そこに表現された炎と石獣の領域には無数の穴が開き、中の坑道が剥き出しになっていた。

 言葉も出ない。まさか、こういった手に出るとは夢にも思っていなかったのだ。




 ◇     ◇     ◇




「第一波の攻撃は成功。地表の層が剥がれました」

「各部隊突入用意。だがまだ焦る事は無い。最初の攻撃は坑道と溶岩道の確認が主だ。調査隊レンジャーは予定通り突入させろ」

 ……4800人を空から落として、平然と確認の為だけだと言ってのける。
 だがそれで得られる情報は、かつて無為に突入させた時とは比較にもならない。
 通信士オペレーターや観測員からの情報を束ねるケインブラは、改めて彼の考えに感銘していた。

 今までの中央は、手ぬるすぎたのだ。いや、目的が違ったと言って良いだろう。
 自分達が支配する世界の維持こそが大前提で、本気で魔族の討伐などは考えていなかった。
 だから何千万人と殺しても、さしたる成果は得られなかったのだ。
 だがこれからは違う。魔族を滅ぼすため、効率よく人が死ぬのだ。
 彼ならば、本当にこの世から魔族を消し去るかもしれない。

 ――ならば……それならば全面的に協力しよう。この世から魔族を消し去るために、フォースノー商家の全てを賭けるぞ、リッツェルネール。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...