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【 魔族と人と 】
人類軍侵攻 前編
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碧色の祝福に守られし栄光暦218年10月1日。
無限図書館でひたすら勉強中の魔王の下に、魔人ゲルニッヒと魔人ヨーヌが現れた。
「おかえり、ゲルニッ……ヒ?」
いや、名前に変化がないのは見ればわかるのだが……。
「ご心配ナク、魔王ヨ。少々手間取ってしまっただけデスヨ、ハハハ」
ゲルニッヒの大豆頭はそのままで、下もまた形だけは前と同じ逆三角錐に四本腕。
だが大きさが違う。大豆の頭とほぼ同じ、2頭身だ。大分小さくなってしまっている。
おそらく――いや、間違いなく戦闘があったのだろう。無事戻ってきてくれて良かった。
「ヨーヌもおかえり」
「こちらはまあ、魔王が知りたがっているだろう事は調べたデシ。其方は大丈夫デシ?」
「ああ、浮遊城に関しての対策は色々と考えたよ。多分だけど、南の方は何とかなるはずだ」
無限図書館には、壁が出来る前の物に関しての資料は殆ど揃っていた。
特に前回攻撃してきた浮遊城、ジャルプ・ケラッツァに関しては、設計図から試験運用のデータまで満載だ。
何故俺達が発見されたのか、攻撃はどのくらいの威力でどこまで届くのか、そういった事まで詳細に調査できた。
最初からここで浮遊城の情報を確認していたら、状況は全く違ったものになっていただろう。
だが探査範囲に有効射程……当時の俺が何処まで信じたかは謎だ。
あれは実際に身を持って体験しない限り、そう易々とは信じられなかっただろう。
実際の所、ジャルプ・ケラッツァ城に関しての対処法はまだ思いつかない。
一方、南から侵攻してきたムーオスとかいう国の浮遊城は全く資料が無い。
壁が出来てから徐々に情報は減り、重要な事はほとんど入ってこなくなっていた。
人間世界に行った時は余りにザルだったので拍子抜けしたが、実際にはかなりの効力があったのだ。
侮った事は反省しなくてはいけない。
だが基本は同じだろう。
ならば対処は可能だ。ジャルプ・ケラッツァ城と違い、こちらは明確な弱点を秘めているのだからな。
そんなわけで俺は、反撃の第一目標をこの南から来た浮遊城に定めていた――のだが、
「残念デスガ魔王、人間の侵攻が始まりました。現在、北方から東方までの3つの門から着々と侵入中です」
やっぱり入って来たか……本当に後手後手だ。
だけど、ここで頭を抱えていても仕方が無い。
「詳しく教えてくれ」
俺の言葉と共に、エヴィアがいつの間にか地図を用意して机の上に広げてくれる。魔族領の地図だ。
壁が作られてから、おそらく先代の魔王が作ったのだろう。
しかし改めて見ると、もう本当に領域は少ない。
何としてでも、これ以上の破壊は食い止めたいところだ。
「コチラの――」
そしてゲルニッヒが、指さしながら説明を開始した。
「アルシースの門からは、相変わらず侵入はありマセン。マア妥当デスネ」
魔族領の西側は海だ。そして北西から東へ周り、そのまま南、そして南西へと湾曲したコの字型に壁がある。
北西をスタート地点とした場合、最初にある門がアルシースの門だ。
「そこは今までも攻略されていないんだよな? 何か人間にとって、都合の悪いものでもあるのか?」
「かつての魔王は高濃度放射能汚染地域と呼びマシタネ。人間には大変危険な地域のヨウデス」
……いや、俺そこへ行かなくて良かったわ。
しかし――、
「何でそんな場所を作ったんだ? つかそんな所に生き物はいるのか?」
「エエ、勿論イマスヨ。多くの生き物にとって害があっテモ、逆にそこに適応した生き物もいるわけデス」
――成る程ね。だがまあ、話が脱線してしまったな。
アルシースの門からぐるりとケイ・ラグルの門、ノヴェスコーンの門、と続き、中央にかつて潜ったアイオネアの門がある。
「侵攻してきたのは、実質この3門からだな」
そこから下の3つの門は、南の帝国の領内だ。
こちらは既に侵攻が始まっているが、目立った動きは爆撃位なものだ。
すぐさま大軍が攻めて来るような様子はない。
「彼らは途中で駐屯地を作るようなことはせず、直進上に進んでいるようデシ」
――どこか目的地があるのか?
正直言って、嫌な予感しかしない。
意識を空へと向かわせると、見下ろす世界には無数の命が感じられる。
その内、1つの種類で構成された大型生物の群れ――人間が、確かに今も動き続けている。
それもかなりの数だ。百万や二百万じゃない。もっと多い、数百万の軍勢だ。
目的は何処だろうか? リアンヌの丘はもう集合場所としては使えないはずだ。
ならどこに行く? 彼らの侵攻から想定される位置。そこは――いや、だが……。
「おそらく魔王の推測通りデシ。人間は、炎と石獣の領域を攻略するつもりの様デシ」
マジか……。
確か以前攻め込んで、数百万人死んだハズじゃなかったか?
とても正気の沙汰とは思えないが、おそらく俺の頭では思いつかないようなことを考えているはずだろう。
「俺も炎と石獣の領域へ行く。人類軍を迎撃するぞ」
地形的に考えれば、圧倒的に有利。一方的にこちらの土俵だ。
ここで勝てなければ、それこそ他の何処で勝てるのかって話である。
どうせいつかは戦う以上、これ以上の場所は無い。
「竜や翼竜、それに一つ目巨人や亜人達にも連絡してくれ。場合によっては総力戦も有り得る」
戦うなら、おそらく南から来るムーオスの浮遊城が最初だと思っていた。
またもや予想外の行動を取られた点は失態だが、防衛側が後手に回ってしまうのは仕方が無い。
今度こそ勝って、万全の態勢で南の迎撃に入りたいものだ。
無限図書館でひたすら勉強中の魔王の下に、魔人ゲルニッヒと魔人ヨーヌが現れた。
「おかえり、ゲルニッ……ヒ?」
いや、名前に変化がないのは見ればわかるのだが……。
「ご心配ナク、魔王ヨ。少々手間取ってしまっただけデスヨ、ハハハ」
ゲルニッヒの大豆頭はそのままで、下もまた形だけは前と同じ逆三角錐に四本腕。
だが大きさが違う。大豆の頭とほぼ同じ、2頭身だ。大分小さくなってしまっている。
おそらく――いや、間違いなく戦闘があったのだろう。無事戻ってきてくれて良かった。
「ヨーヌもおかえり」
「こちらはまあ、魔王が知りたがっているだろう事は調べたデシ。其方は大丈夫デシ?」
「ああ、浮遊城に関しての対策は色々と考えたよ。多分だけど、南の方は何とかなるはずだ」
無限図書館には、壁が出来る前の物に関しての資料は殆ど揃っていた。
特に前回攻撃してきた浮遊城、ジャルプ・ケラッツァに関しては、設計図から試験運用のデータまで満載だ。
何故俺達が発見されたのか、攻撃はどのくらいの威力でどこまで届くのか、そういった事まで詳細に調査できた。
最初からここで浮遊城の情報を確認していたら、状況は全く違ったものになっていただろう。
だが探査範囲に有効射程……当時の俺が何処まで信じたかは謎だ。
あれは実際に身を持って体験しない限り、そう易々とは信じられなかっただろう。
実際の所、ジャルプ・ケラッツァ城に関しての対処法はまだ思いつかない。
一方、南から侵攻してきたムーオスとかいう国の浮遊城は全く資料が無い。
壁が出来てから徐々に情報は減り、重要な事はほとんど入ってこなくなっていた。
人間世界に行った時は余りにザルだったので拍子抜けしたが、実際にはかなりの効力があったのだ。
侮った事は反省しなくてはいけない。
だが基本は同じだろう。
ならば対処は可能だ。ジャルプ・ケラッツァ城と違い、こちらは明確な弱点を秘めているのだからな。
そんなわけで俺は、反撃の第一目標をこの南から来た浮遊城に定めていた――のだが、
「残念デスガ魔王、人間の侵攻が始まりました。現在、北方から東方までの3つの門から着々と侵入中です」
やっぱり入って来たか……本当に後手後手だ。
だけど、ここで頭を抱えていても仕方が無い。
「詳しく教えてくれ」
俺の言葉と共に、エヴィアがいつの間にか地図を用意して机の上に広げてくれる。魔族領の地図だ。
壁が作られてから、おそらく先代の魔王が作ったのだろう。
しかし改めて見ると、もう本当に領域は少ない。
何としてでも、これ以上の破壊は食い止めたいところだ。
「コチラの――」
そしてゲルニッヒが、指さしながら説明を開始した。
「アルシースの門からは、相変わらず侵入はありマセン。マア妥当デスネ」
魔族領の西側は海だ。そして北西から東へ周り、そのまま南、そして南西へと湾曲したコの字型に壁がある。
北西をスタート地点とした場合、最初にある門がアルシースの門だ。
「そこは今までも攻略されていないんだよな? 何か人間にとって、都合の悪いものでもあるのか?」
「かつての魔王は高濃度放射能汚染地域と呼びマシタネ。人間には大変危険な地域のヨウデス」
……いや、俺そこへ行かなくて良かったわ。
しかし――、
「何でそんな場所を作ったんだ? つかそんな所に生き物はいるのか?」
「エエ、勿論イマスヨ。多くの生き物にとって害があっテモ、逆にそこに適応した生き物もいるわけデス」
――成る程ね。だがまあ、話が脱線してしまったな。
アルシースの門からぐるりとケイ・ラグルの門、ノヴェスコーンの門、と続き、中央にかつて潜ったアイオネアの門がある。
「侵攻してきたのは、実質この3門からだな」
そこから下の3つの門は、南の帝国の領内だ。
こちらは既に侵攻が始まっているが、目立った動きは爆撃位なものだ。
すぐさま大軍が攻めて来るような様子はない。
「彼らは途中で駐屯地を作るようなことはせず、直進上に進んでいるようデシ」
――どこか目的地があるのか?
正直言って、嫌な予感しかしない。
意識を空へと向かわせると、見下ろす世界には無数の命が感じられる。
その内、1つの種類で構成された大型生物の群れ――人間が、確かに今も動き続けている。
それもかなりの数だ。百万や二百万じゃない。もっと多い、数百万の軍勢だ。
目的は何処だろうか? リアンヌの丘はもう集合場所としては使えないはずだ。
ならどこに行く? 彼らの侵攻から想定される位置。そこは――いや、だが……。
「おそらく魔王の推測通りデシ。人間は、炎と石獣の領域を攻略するつもりの様デシ」
マジか……。
確か以前攻め込んで、数百万人死んだハズじゃなかったか?
とても正気の沙汰とは思えないが、おそらく俺の頭では思いつかないようなことを考えているはずだろう。
「俺も炎と石獣の領域へ行く。人類軍を迎撃するぞ」
地形的に考えれば、圧倒的に有利。一方的にこちらの土俵だ。
ここで勝てなければ、それこそ他の何処で勝てるのかって話である。
どうせいつかは戦う以上、これ以上の場所は無い。
「竜や翼竜、それに一つ目巨人や亜人達にも連絡してくれ。場合によっては総力戦も有り得る」
戦うなら、おそらく南から来るムーオスの浮遊城が最初だと思っていた。
またもや予想外の行動を取られた点は失態だが、防衛側が後手に回ってしまうのは仕方が無い。
今度こそ勝って、万全の態勢で南の迎撃に入りたいものだ。
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