この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 魔族と人と 】

中央の決定 前編

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 碧色の祝福に守られし栄光暦218年9月22日。
 中央都市郊外にある、完全警備地区。
 黒に近い鈍色にびいろの1階建てドーム建築の前に、リッツェルネールは立っていた。
 同行してきたのはマリッカ護衛武官だが、この建物に一緒に入る事は出来ない。

 中に入ったリッツェルネールを待っていたのは、完全武装をした兵士の一団だ。
 過去この部屋に、商国の人間が入った事は無い。四大国ほどではないが、それなりに大きな国の王が幾度か入室を許されたくらいだろうか。
 その為、リッツェルネールは各国王族が持つような身分証を持ち合わせてはいない。
 持っているのは精々、偽造可能なレベルのプレートくらいなものだろうか。

 だが、兵士達は素直に道を開ける。今更彼の顔を知らない者はいない……そんな曖昧あいまいな理由ではない。もし魔族が化けていても、何とかなるだけの防衛機構セキュリティがあるからだ。
 開いた肉の壁の奥にあるのは、シェルター級の分厚い金属扉だった。

 ――仰々しいものだな……。

 これはあくまで、儀式なのだろう――リッツェルネールはそう考えた。
 移動や滞在など、襲撃できる場所は何処にでもある。
 わざわざこの場所だけを、特別厳重にする意味はない。

 中は一直線の廊下。だが、ポケットに入れている魔力感知器セキュリティセンサーが軽く振動する。
 何度も検査をされているのだ。

 ――本当に物々しい……。

 これだけの警戒をするのが、ひそひそ話をするだけとはね……そう考えるが、頭を振って思い直す。
 今までの自分は、こんな場所に来る身分ではなかった。それは将来的にも同じだったはずだ。
 その為、考えてこなかった。この場所に敷かれた警備の厳重さへの違和感を。
 この世には、必要な無駄と不必要な無駄がある。これは明らかな前者だ。

 ――何か意味があるな……。

 だが思考を巡らしたところで、何も分かりはしない。どちらにせよ情報が少なすぎるし、この通路はそんなに長いわけでもないのだ。

 豪華な樫の扉に到着すると、無言で開き中へと入っていった。




 ◇     ◇     ◇




 雨降る岩石地帯。
 無限図書館があり、また翠玉竜エメラルドドラゴンの住処でもある。
 他の領域同様、ここにも豊かな生態系が存在する。
 魔人スースィリアは今、岩の裂け目に大量に潜む1メートル程度の芋虫をせっせと捕食していた。
 体の後ろ半分を失った今の状態だと、どうしても移動に無理が出る。戦闘ともなれば尚更だ。
 その為、修復のための栄養補給にいそしんでいたのであった。
 既に欠損部分の8割がたは戻り、移動にはすっかり支障は無い。
 そんなスースィリアの触角が、上空から接近する物体を探知する。

 ――ココニモ、アラワレタ。

 そして素早く地面に潜る。
 上空4000メートルを、尾の無いカブトガニの様な円形の飛行物体が通過する。
 ムーオス自由帝国の重飛甲母艦。そして護衛の飛甲母艦2機だ。
 この雨による視界の悪さでは、地面の穴までは見つからない。

 一方でスースィリアからすれば、あれらを落とすという選択肢はない。
 手段的にも、意味合い的にもだ。
 ティランド連合王国やスパイセン王国に大打撃を与えた雷の魔法。あれは、重飛甲母艦には通用しない。
 重飛甲母艦は勿論、飛甲騎兵などの飛行機械には落雷対策が完備されているからだ。
 全てのエネルギーを集約出来れば熱量だけでもいけそうだが、スースィリアはそこまで器用に魔法を扱えない。

 そもそもが、威力は桁違いだが1発こっきりの打ちっぱなし。
 もし落とすことが可能だとしても、それは魔人ギュータムと同じ道を辿るだけだ。
 近くに無限図書館がある以上、そのような真似は出来ない。
 結局のところ、今は潜んでやり過ごすしかないのだ。
 だがそうしている間にも、人類は着々と魔族領の地図を完成させつつあった。




 ◇     ◇     ◇




 リッツェルネールが入った部屋は、思っていたよりもずっと狭い場所だった。
 精々、古民家の居間程度だろう。
 中央に置かれた四角いテーブルの四方には四つの椅子が配置され、その内3つは既に埋まっていた。
 隅の方にはもう一つ小さなテーブルと椅子が置かれ、そこにもまた一人、紺の燕尾服を着た小柄な男が座っている。
 その手元にあるのは紙束とペンだ。

 ――そう言えば聞いた事があるな……この部屋には一人の書記が配置されていると。いつからこの部屋で暮らし、いったいどれほどの機密文書を書き残したのか……。

 多少興味を引くが、主役3人はそんな暢気のんきな空気は発していない。
 一人はティランド連合王国の国王、カルター・ハイン・ノヴェルド・ティランド。
 もう一人はハルタール帝国の女帝、オスピア・アイラ・バドキネフ・ハルタール。
 最後の一人は、ジェルケンブール王国の国王、クライカ・アーベル・リックバールト・ジェルケンブール。
 全員が当代きっての曲者揃いだ。ここからは、気を引き締めねばならないだろう。

「お待たせしてしまったようで申し訳ありません」

 そう言いながら、空いている席に座る。
 それを合図とするかのように、カルタ―足を組み替えると――、

「これで全員揃ったって訳だ。それじゃあ話を始めるか」

 まるで井戸端会議でも始める様に話を切り出した。

「先ずは――」

 そう言いながらクライカ王が資料の写真をテーブルに並べながら――、

「――新たに出現した領域。この問題に関して我々は決めなければならない訳です」

「決めるも決めないも無いであろう。我等は既に始めておる。舌の根も乾かぬうちに”はい止めます”などと、民衆が許すまい」

 オスピアはそうは言うが、止めて良いならすぐにでも終わらせたいところだ。
 だがそうはいかない。なぜなら――、

「俺もその意見に賛成だ。大体だな、今更止めた所でその先はどうするよ。食料の備蓄は減る一方だ。俺たち人間同士で食料を奪って殺し合うか、それとも魔族領で人間を減らすか、結局どちらかの道かねえんだからな」

 カルターとしても、その問題さえクリアできればさっさと止めたい……いや、そもそも今始める事には元々反対の立場だ。
 だが情勢が許さない。食料の枯渇という明確な終わりが見えている今、様子を見るために時を置く事を、民衆の焦りが許さないのだ。

「我等ジェルケンブール王国は、中央の定めた魔族領侵攻を支持しましょう。今更撤収は有り得ません……ええ、有り得ませんとも」

 ジェルケンブール王国は、最初から今の時期の魔族領侵攻には反対だ。
 魔王の反撃で海を失った今、これ以上刺激して領内の魔族領から魔族が溢れたら一大事だ。それこそ、国家存亡の危機である。
 だが条約違反をした今、領土は増えたが発言力は無いに等しい。そんな状況で、民衆と反対の意見など出せるはずもない。
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