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【 魔族と人と 】
再び火山帯へ 前編
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――翌日。
つ、疲れた。疲労で体を動かすのがだるい。
昨日、ぶっ倒れるまで魔力を吸われた俺は、そのままホテルの自室に寝かされたらしい。
もうすっかり見慣れた天井には、1歳半から2歳ほどの幼児の死霊が漂っている。
サキュバスに離乳食を与えた時に、食べれば食べただけ育つといわれた事がある。
当時はそんなもんかなーとか思っていたが、確かにその通りだった。
いずれは、元のサイズまで成長するのだろう。
それにしても、死霊は俺から見ればハッキリクッキリだが、人間が見ると白いボロボロの服を纏った人っぽいシルエットとしか見えないらしい。
何となく助かった気がする……漂う死霊が履いているのがパンツなのかオムツなのかを考えながら、そう感じていた。
下から漂って来る朝食の良い香りに釣られて食堂へ行くと、丁度ユニカが厨房で調理中だった。
「今作っているから待ってて」
ちらりと振り返るユニカの顔には少し微笑みが見て取れる。
かつてここでやりあった事など、もう過去の話なのだ。
「あ、起きたかな」
食堂ではエヴィアがピーナッツの様な実をポリポリと食べている最中だ。
これから食事前だというのに、本当によく食べる。
「魔王、あたしも食べる」
服になっているテルティルトから催促されて、俺もエヴィアの隣に座る。
何の事は無い様な平穏な日常。だがこうしている今も、人類は着々と侵攻を行っている……。
微睡ながらそんな事を考えていると、ふとエヴィアが体内にメモをしまう様子が見えた。
大方、俺が起きてきた事をメモしていたのだろう。
「そういや、あれからずっとメモ取ってるよな。ちょっと見せてくれないか?」
しばらくじっとこちらを見つめていたエヴィアだが、懐から赤い表紙のメモ帳を取り出し渡してきた。
これは確か、初めて持っていたメモ帳か。
さっきのは緑の表紙だったから、あれから何冊描いたのやら。
まあ、どれどれ……。
――魔王メモ。ここに、魔王相和義輝の記録を残す。今後の魔人、そして魔王達にとっての大切な資料であり、その行動が規範とならんことを欲す。
へえ……のんきな口調と違い、文章は意外とかっちりとした感じで書くんだな。
――碧色の祝福に守られし栄光暦218年4月9日。
東経68度95分13秒46。
北緯75度63分89秒49。
人間領補給基地内。
魔王相和義輝は、目の前にあるおっぱいに夢中だった。
その巨大な双丘は彼の心を鷲掴みにし、もうその邪な心を手放そうとしない。
ああ、おっぱい。揉みたいおっぱい。触りたいおっぱい。
魔王の心に、いやらしく色欲に塗れた意識が芽生えるのを感じる。
渦巻く羞恥。高まる性欲。魔王の心の活火山は、今まさに下半身から暴発する寸前であった。
ビリッ!
思わずメモを真っ二つに裂くと、体は暖炉に向けて猛ダッシュ。
カチカチカチカチ! 人間これ程に早く手を動かせるかという勢いで火打石を打ち鳴らし――
「ふーふーふーふー!」
全力で木くずに火をつける。
ぽっと小さな炎がともると同時にメモを投下。
それはあっという間に燃え広がり、メラメラと白い炭へと変化していった。
――は!
いや危ない危ない。思わず本能的に行動してしまったぞ。
なんて危険なものを書き残していやがった!
だがこれで安心だ。危険物はこの世から消え去った。
しかしいや待て!?
エヴィアの方をちらりと見るが、特に気に留めているような様子は無い。なぜ素直に破棄させた?
そういえば、字を書くことも覚えろとユニカに言われて書き始めたと言っていたような気がする。
おそらくではあるが、書くこと自体が重要で、書いた中身はそれほど重要では無かったと言う事なのだろう。
「支度が出来たわよ」
そう言いながらユニカと屍喰らいが朝食を持ってきたため、この思考はここで打ち切りとなった。
「それでユニカ、その支度はなんだい?」
朝食が終わった後、俺は出発の支度を整えていた。
その間にもなんか声は聞こえていたのだが、いざ出発しようと庭に出ると、スースィリアの体のあちこちに木箱や樽が括りつけられている。
よくよく見れば、それぞれに醤油、味噌、小麦、部屋着、布団毛布など、色々と文字が書いてある。まるで引っ越し準備の様だ。
「当然、あたしも行くのよ。まさかここに、一人で残れなんて言わないわよね?」
いや、実際にそのつもりであった。
これから行く場所が安全とは言えない。なら、彼女はここに置いて行った方が良い。
そう考えるのが妥当だろう。
だが確かに、ここに残るのは彼女一人だ。
エヴィア、スースイリア、それにテルティルトの力と知識は必須だし、他の魔人は出払ってる。
一応不死者は残るが、死霊の声はキャーとかヒャーとかの悲鳴にしか聞こえないそうだし、屍喰らいや蠢く死体もまた呻き声だけだ。ちょっと寂しい点は否めない。
いやそれ以前に、本当にここは安全か?
以前ならそう考えたろうし、彼女を力強く説得できたかもしれない。
だがヒドラとの一件以来、その考えは揺らいでいた。
この世界は危険に満ちている。
誰に何の悪意も無く、しかも魔人が傍についていた。なのにあっさりと死ぬのだ、魔王が。
ただの人間であるユニカが安全だなどと、誰が言えるのだろう。
「ねえ、連れて行って!」
そんな心の隙に、ユニカの言葉がグイグイと入ってくる。
仕方ない――。
「分かった。だけど、ちゃんと周りの言う事を聞くんだぞ。勝手に何処かへ行ったり、変なものを触るんじゃないぞ?」
「そんな事分かっているわよ!」
ちょっとぷんすかした感じのユニカ。
まあ、百歳超えてるしなー。実際、俺よりずっとしっかりとはしているのだろう。
「じゃあ、出発しよう。目的地は無限図書館。ゲルニッヒやヨーヌが集めてきた情報を無駄にしないためにも、俺達は俺達で、きっちり調べないとな」
つ、疲れた。疲労で体を動かすのがだるい。
昨日、ぶっ倒れるまで魔力を吸われた俺は、そのままホテルの自室に寝かされたらしい。
もうすっかり見慣れた天井には、1歳半から2歳ほどの幼児の死霊が漂っている。
サキュバスに離乳食を与えた時に、食べれば食べただけ育つといわれた事がある。
当時はそんなもんかなーとか思っていたが、確かにその通りだった。
いずれは、元のサイズまで成長するのだろう。
それにしても、死霊は俺から見ればハッキリクッキリだが、人間が見ると白いボロボロの服を纏った人っぽいシルエットとしか見えないらしい。
何となく助かった気がする……漂う死霊が履いているのがパンツなのかオムツなのかを考えながら、そう感じていた。
下から漂って来る朝食の良い香りに釣られて食堂へ行くと、丁度ユニカが厨房で調理中だった。
「今作っているから待ってて」
ちらりと振り返るユニカの顔には少し微笑みが見て取れる。
かつてここでやりあった事など、もう過去の話なのだ。
「あ、起きたかな」
食堂ではエヴィアがピーナッツの様な実をポリポリと食べている最中だ。
これから食事前だというのに、本当によく食べる。
「魔王、あたしも食べる」
服になっているテルティルトから催促されて、俺もエヴィアの隣に座る。
何の事は無い様な平穏な日常。だがこうしている今も、人類は着々と侵攻を行っている……。
微睡ながらそんな事を考えていると、ふとエヴィアが体内にメモをしまう様子が見えた。
大方、俺が起きてきた事をメモしていたのだろう。
「そういや、あれからずっとメモ取ってるよな。ちょっと見せてくれないか?」
しばらくじっとこちらを見つめていたエヴィアだが、懐から赤い表紙のメモ帳を取り出し渡してきた。
これは確か、初めて持っていたメモ帳か。
さっきのは緑の表紙だったから、あれから何冊描いたのやら。
まあ、どれどれ……。
――魔王メモ。ここに、魔王相和義輝の記録を残す。今後の魔人、そして魔王達にとっての大切な資料であり、その行動が規範とならんことを欲す。
へえ……のんきな口調と違い、文章は意外とかっちりとした感じで書くんだな。
――碧色の祝福に守られし栄光暦218年4月9日。
東経68度95分13秒46。
北緯75度63分89秒49。
人間領補給基地内。
魔王相和義輝は、目の前にあるおっぱいに夢中だった。
その巨大な双丘は彼の心を鷲掴みにし、もうその邪な心を手放そうとしない。
ああ、おっぱい。揉みたいおっぱい。触りたいおっぱい。
魔王の心に、いやらしく色欲に塗れた意識が芽生えるのを感じる。
渦巻く羞恥。高まる性欲。魔王の心の活火山は、今まさに下半身から暴発する寸前であった。
ビリッ!
思わずメモを真っ二つに裂くと、体は暖炉に向けて猛ダッシュ。
カチカチカチカチ! 人間これ程に早く手を動かせるかという勢いで火打石を打ち鳴らし――
「ふーふーふーふー!」
全力で木くずに火をつける。
ぽっと小さな炎がともると同時にメモを投下。
それはあっという間に燃え広がり、メラメラと白い炭へと変化していった。
――は!
いや危ない危ない。思わず本能的に行動してしまったぞ。
なんて危険なものを書き残していやがった!
だがこれで安心だ。危険物はこの世から消え去った。
しかしいや待て!?
エヴィアの方をちらりと見るが、特に気に留めているような様子は無い。なぜ素直に破棄させた?
そういえば、字を書くことも覚えろとユニカに言われて書き始めたと言っていたような気がする。
おそらくではあるが、書くこと自体が重要で、書いた中身はそれほど重要では無かったと言う事なのだろう。
「支度が出来たわよ」
そう言いながらユニカと屍喰らいが朝食を持ってきたため、この思考はここで打ち切りとなった。
「それでユニカ、その支度はなんだい?」
朝食が終わった後、俺は出発の支度を整えていた。
その間にもなんか声は聞こえていたのだが、いざ出発しようと庭に出ると、スースィリアの体のあちこちに木箱や樽が括りつけられている。
よくよく見れば、それぞれに醤油、味噌、小麦、部屋着、布団毛布など、色々と文字が書いてある。まるで引っ越し準備の様だ。
「当然、あたしも行くのよ。まさかここに、一人で残れなんて言わないわよね?」
いや、実際にそのつもりであった。
これから行く場所が安全とは言えない。なら、彼女はここに置いて行った方が良い。
そう考えるのが妥当だろう。
だが確かに、ここに残るのは彼女一人だ。
エヴィア、スースイリア、それにテルティルトの力と知識は必須だし、他の魔人は出払ってる。
一応不死者は残るが、死霊の声はキャーとかヒャーとかの悲鳴にしか聞こえないそうだし、屍喰らいや蠢く死体もまた呻き声だけだ。ちょっと寂しい点は否めない。
いやそれ以前に、本当にここは安全か?
以前ならそう考えたろうし、彼女を力強く説得できたかもしれない。
だがヒドラとの一件以来、その考えは揺らいでいた。
この世界は危険に満ちている。
誰に何の悪意も無く、しかも魔人が傍についていた。なのにあっさりと死ぬのだ、魔王が。
ただの人間であるユニカが安全だなどと、誰が言えるのだろう。
「ねえ、連れて行って!」
そんな心の隙に、ユニカの言葉がグイグイと入ってくる。
仕方ない――。
「分かった。だけど、ちゃんと周りの言う事を聞くんだぞ。勝手に何処かへ行ったり、変なものを触るんじゃないぞ?」
「そんな事分かっているわよ!」
ちょっとぷんすかした感じのユニカ。
まあ、百歳超えてるしなー。実際、俺よりずっとしっかりとはしているのだろう。
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