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【 魔族と人と 】
繋がれる想い 後編
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リッツェルネールは先入観で物事を決めることはない。だが予想は立てる。
相和義輝に直接会い、過去の戦闘データも全て洗った。
その上で、魔王の力の範囲を予想はしていた。
だが相手は魔族だ。人間の予想など、軽々と超えてくるだろう。そう考え、様々なケースでの最悪も想定していた。
だが――それでも甘かったと言うしかない。
天地創造、それは神――それも創造伸のみが行える御業だと神話には記されている。
勿論、そんなものを信じるほど宗教に傾倒はしていない。だが実際に行うには、それに匹敵する力が必要な事もまた、理解の範疇だ。
――魔王……彼は、創造神にも匹敵する力を持つと言う事なのか。
大地を作り替える。しかも数百キロメートルにも渡って。
これが意味するところは、軍略家である彼にとっては痛いほどに分かる。
そして、今の自分には対処不可能な事も。
たとえ何万、何千万……いや、億を超える軍隊を集めても、天地創造の前では無力だ。
割れた大地は地表を飲み込み、吹き上がる溶岩、隆起する山は全てを吹き飛ばすだろう。
それを、どのくらいの速さで完遂するのか。
一瞬ともいえる様な時間なら論外だ。もはや人類に抗う術はない。
もし1か月かかるとしたら……その予兆があるのなら、移動は可能だ。だが今度は、頻度が問題になる。
今回はあの一か所だけ。だが、それで終わりという保証などはない。
もしあれが余興程度であるのなら? 一日に幾つもの領域を作り出せるとしたら?
そうであるのならば、人類に勝ち目はない。創造伸に匹敵する存在に、戦いを挑む事自体が無謀なのだ。
ならば諦めるのか? 全てを――?
「浮遊城をアイオネアの門へ移動させる。この情報は、至急中央へ送ってくれ。魔族領へ侵入予定の軍は全て作戦停止。もう入ってしまった部隊も全軍壁の内側に帰投だ」
「それが命令ならば、そうしよう。だが、それでどうするのだ」
そう言うケインブラの焦りは分かる。
南方の様見とはいえ、浮遊城を含めた各軍は着々と侵攻作戦の準備に取り掛かっている。
既に一部の軍は魔族領入りし、訓練や補給路造りに勤しんでいる最中だ。
突然の撤回命令は各部隊を混乱させるだけでなく、出した側に大きな不信感を与える結果となるだろう。
だがそれでも、やらねばならない。
「魔王の技かは分からない。だけど、相手に天地創造の技があるのは明らかになった。今はそれだけで十分だよ。これ以上のリスク管理は、流石に中央の仕事さ」
数百キロにも及ぶ大変革。壁なんかに防げるとは思わない。
相手が更なる領域の創造を可能とするのなら、いずれは人間の住む世界にも影響が及ぶだろう。
これ以上やるのなら、人類最高の支配者達できちんと決めるべきだ。
ギャンブルの責任を取るつもりはない――そう、リッツェルネールは結論付けたのだった。
◇ ◇ ◇
碧色の祝福に守られし栄光暦218年8月27日深夜。
珍しく、ホテルへの到着は夜となった。
いつもは時間を調節して、大体昼から夕方到着の日程だ。
微妙に遅れている……やはり、スースィリアの体半分が吹き飛ばされた影響だろうか。少し心配になり、フワフワクッションになっている大きな頭をさする。
「スースイリアは大丈夫かな。もうじきホテルが見えてくるよ」
「あ、ああ――」
微妙に感じた言葉の違和感。
そうだ、今はユニカが後ろにいる。魔人達も出払っており、ホテルは久々に無人の状態なのだ。
誰もいるわけがない……だから明かりを点ける者もいない。見えてくるはずは無いのだが……。
しかし――ふわりと小さな光の玉が、俺の体の横を通り過ぎて行く。
――蛍……?
やがて進むにつれ、光の粒は次第に多くなっていく。
――この光は……!?
心が逸る。早くホテルに着きたいと焦る。その気持ちに応えたのだろう、スースィリアの歩みも早くなる。
そしてホテルに到着した時、その庭には光の粒が、眩しいほどに集まっていた。
一つ一つは小さな光。だが、これ程に集まるとはっきりと分かる。
それは何処か寂しくも温かい、淡い緑の儚げな光。
薄緑に浮かび上がるホテルは何処か幻想的で、絡まった蔦も周囲の光によく調和し、神秘的な情景を照らし出す。
その光景は、初めて見た時の不気味さなど吹き飛ぶほどに美しかった。
無意識のうちに地面に降り立ち、ホテルの庭へ走る。
周りに集まってくる光たち。ああ、解る。これは不死者の光だ。
まおー、まおー、まおー。
言葉ではなく、心が直接伝わってくる。
まだ小さな、弱々しい光たち。
「精霊はいつも一定の数が保たれるよ。魔王はとっくに知っていると思ってたかな」
いつの間にか、エヴィアが隣に立っている。
いやそれは覚えているが――え!? 精霊?
「なんですか、その顔は? 魔王様は、わたくし達を何だと思っていたのです?」
ふわりと隣に死霊のルリアが現れる。
ああ、そうだよな。この世界には、魔王と人間と魔人、それに魔王に従う者、魔人に従う者、そしてどちらにも従わない小さな生き物、その6種類しかいないんだよな。
考えてみれば、ルリアたち死霊も首なし騎士や塩の精霊やなんかと同じ精霊の一種なんだ。
なんで不死者は別種なんて思い込んでいたのだろう。これがゲーム脳ってやつか。
まおー、まおー、まおー。
「ああ、分かっているよ」
優しく、光の粒たちを両手で抱え込む。
「今日は好きなだけ、魔力を吸っていいぞ」
背後でルリアがエヴィアに取り押さえられる気配を感じながら、俺は不死者の粒たちに魔力を分け与えたのだった。
相和義輝に直接会い、過去の戦闘データも全て洗った。
その上で、魔王の力の範囲を予想はしていた。
だが相手は魔族だ。人間の予想など、軽々と超えてくるだろう。そう考え、様々なケースでの最悪も想定していた。
だが――それでも甘かったと言うしかない。
天地創造、それは神――それも創造伸のみが行える御業だと神話には記されている。
勿論、そんなものを信じるほど宗教に傾倒はしていない。だが実際に行うには、それに匹敵する力が必要な事もまた、理解の範疇だ。
――魔王……彼は、創造神にも匹敵する力を持つと言う事なのか。
大地を作り替える。しかも数百キロメートルにも渡って。
これが意味するところは、軍略家である彼にとっては痛いほどに分かる。
そして、今の自分には対処不可能な事も。
たとえ何万、何千万……いや、億を超える軍隊を集めても、天地創造の前では無力だ。
割れた大地は地表を飲み込み、吹き上がる溶岩、隆起する山は全てを吹き飛ばすだろう。
それを、どのくらいの速さで完遂するのか。
一瞬ともいえる様な時間なら論外だ。もはや人類に抗う術はない。
もし1か月かかるとしたら……その予兆があるのなら、移動は可能だ。だが今度は、頻度が問題になる。
今回はあの一か所だけ。だが、それで終わりという保証などはない。
もしあれが余興程度であるのなら? 一日に幾つもの領域を作り出せるとしたら?
そうであるのならば、人類に勝ち目はない。創造伸に匹敵する存在に、戦いを挑む事自体が無謀なのだ。
ならば諦めるのか? 全てを――?
「浮遊城をアイオネアの門へ移動させる。この情報は、至急中央へ送ってくれ。魔族領へ侵入予定の軍は全て作戦停止。もう入ってしまった部隊も全軍壁の内側に帰投だ」
「それが命令ならば、そうしよう。だが、それでどうするのだ」
そう言うケインブラの焦りは分かる。
南方の様見とはいえ、浮遊城を含めた各軍は着々と侵攻作戦の準備に取り掛かっている。
既に一部の軍は魔族領入りし、訓練や補給路造りに勤しんでいる最中だ。
突然の撤回命令は各部隊を混乱させるだけでなく、出した側に大きな不信感を与える結果となるだろう。
だがそれでも、やらねばならない。
「魔王の技かは分からない。だけど、相手に天地創造の技があるのは明らかになった。今はそれだけで十分だよ。これ以上のリスク管理は、流石に中央の仕事さ」
数百キロにも及ぶ大変革。壁なんかに防げるとは思わない。
相手が更なる領域の創造を可能とするのなら、いずれは人間の住む世界にも影響が及ぶだろう。
これ以上やるのなら、人類最高の支配者達できちんと決めるべきだ。
ギャンブルの責任を取るつもりはない――そう、リッツェルネールは結論付けたのだった。
◇ ◇ ◇
碧色の祝福に守られし栄光暦218年8月27日深夜。
珍しく、ホテルへの到着は夜となった。
いつもは時間を調節して、大体昼から夕方到着の日程だ。
微妙に遅れている……やはり、スースィリアの体半分が吹き飛ばされた影響だろうか。少し心配になり、フワフワクッションになっている大きな頭をさする。
「スースイリアは大丈夫かな。もうじきホテルが見えてくるよ」
「あ、ああ――」
微妙に感じた言葉の違和感。
そうだ、今はユニカが後ろにいる。魔人達も出払っており、ホテルは久々に無人の状態なのだ。
誰もいるわけがない……だから明かりを点ける者もいない。見えてくるはずは無いのだが……。
しかし――ふわりと小さな光の玉が、俺の体の横を通り過ぎて行く。
――蛍……?
やがて進むにつれ、光の粒は次第に多くなっていく。
――この光は……!?
心が逸る。早くホテルに着きたいと焦る。その気持ちに応えたのだろう、スースィリアの歩みも早くなる。
そしてホテルに到着した時、その庭には光の粒が、眩しいほどに集まっていた。
一つ一つは小さな光。だが、これ程に集まるとはっきりと分かる。
それは何処か寂しくも温かい、淡い緑の儚げな光。
薄緑に浮かび上がるホテルは何処か幻想的で、絡まった蔦も周囲の光によく調和し、神秘的な情景を照らし出す。
その光景は、初めて見た時の不気味さなど吹き飛ぶほどに美しかった。
無意識のうちに地面に降り立ち、ホテルの庭へ走る。
周りに集まってくる光たち。ああ、解る。これは不死者の光だ。
まおー、まおー、まおー。
言葉ではなく、心が直接伝わってくる。
まだ小さな、弱々しい光たち。
「精霊はいつも一定の数が保たれるよ。魔王はとっくに知っていると思ってたかな」
いつの間にか、エヴィアが隣に立っている。
いやそれは覚えているが――え!? 精霊?
「なんですか、その顔は? 魔王様は、わたくし達を何だと思っていたのです?」
ふわりと隣に死霊のルリアが現れる。
ああ、そうだよな。この世界には、魔王と人間と魔人、それに魔王に従う者、魔人に従う者、そしてどちらにも従わない小さな生き物、その6種類しかいないんだよな。
考えてみれば、ルリアたち死霊も首なし騎士や塩の精霊やなんかと同じ精霊の一種なんだ。
なんで不死者は別種なんて思い込んでいたのだろう。これがゲーム脳ってやつか。
まおー、まおー、まおー。
「ああ、分かっているよ」
優しく、光の粒たちを両手で抱え込む。
「今日は好きなだけ、魔力を吸っていいぞ」
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