245 / 425
【 魔族と人と 】
揺り籠 前編
しおりを挟む
重飛甲母艦の艦橋から降りた先は、下部格納庫となっている。
左右の端には飛甲騎兵がそれぞれ収納され、中央に1から6までのナンバリングがされた格納庫が並ぶ。
現在1と2は空いており、3から6にはそれぞれ大型の黒い物体が置かれている。
形状としては、飛甲騎兵に近い。
直系は2メートルを少し超える位だろうか。幅も同じほどで、長さは約13メートル。
相和義輝であれば、路線バスを少し細めて丸くしたような印象を持っただろう。
左右には、三角形の翼が取り付けられている。それは飛甲騎兵の近接武器である翼刃ではなく、揚力を生み出す翼だった。
先端が少し膨らんでおり、全体的な形状で見れば無人偵察機の様にも見えるだろう。
本来なら6カ所全てが埋まっているのだが、既に2発使用したため、残るは4発だ。
そう、この航空機の様な機械の単位は、騎や機ではなく発。
今その4発の大型搭乗物体の横には、それぞれ10人のムーオス人が整列している。
全員がカーキ色の軍服を纏う、紛れもない軍人だ。だが、鎧も武器も身につけてはいない。
持つ必要がないからだ。
“比翼の天馬の片翼” ルヴァンが彼らの前に立つと、全員が両の拳を胸の前で合わせる――ムーオス自由帝国の敬礼で迎える。
だだ、返礼するルヴァンの表情は晴れない。なぜこんな事を命令せねばならぬのか……その想い強く心を打つ。
だがしかし――、
「諸君らの魂に安らぎを! 汝らが血族に栄光を! 魔族には死を!」
「「「我等祖国の為に! 我等同胞の為に! 魔族には死を!」」」
ルヴァンの言葉に兵士達が答え、そのまま一斉に大型搭乗物体に乗り込んで行く。
彼らの足取りは軽い。晴れやかに、まるで休暇にでも出かけるかのようだ。誰一人、自らの運命を呪う者も、恨む者もいない。
皆、貧しい兵士達。どこで死ぬにしても……いや、どうせ必ず死ぬのなら『せめて価値ある死を』と、それに乗る。
それ故に、想う。このような兵器を作った一族など、末代まで永劫に呪われ続ければよいと。
それが初めて危険だと分かったのは、今からおおよそ260年ほど前。
魔道炉というものが発明されてから、おおよそ5千年が経過した頃だ。
それまで多少の問題はありつつも、危険だという認識は無かった。
だがある日、飛甲騎兵に搭載されていた魔道炉が、戦闘中に臨界に達した。
それだけならば……臨界だけであるのなら、よくある事だ。
だがその時、まさに同時ともいえるタイミングで、もう一騎の飛甲騎兵の衝角がその魔道炉を貫いた。
突然に空中で巻き起こった光の玉。人は当時、何が起こったのかさえ理解できなかった。
だがその後の研究により原因が突き止められるに至り、人類は魔道炉の改良に取り組む事になる。
より高性能に、より安全に扱う為に。
だが唯一ムーオス自由帝国だけが、逆の事を考えた。
「3番、魔導炉臨界!」
「3番格納庫、“揺り籠”投下!」
整備兵の合図とともに、10人の兵士が乗り込んだ金属の塊――揺り籠と呼称されたそれが投下される。
それに窓は無く、中では10人の人間が懸命に魔導炉に魔力を送る。
揚力を得る形の翼は飛ぶためのものではない。あくまで、落下中の姿勢を安定させるためのものだ。
魔力を過剰に注入された魔導炉は、一時的に臨界と呼ばれる状態になる。
だがそれはほんの一瞬。まるで穴が開いたかのように魔力は抜け出て、すぐさま臨界状態は収まる。
そうなった魔導炉は、しばらくは使い物にならない。まるで穴の開いたゴムチューブの様に、入れた端から魔力が漏れてしまう為だ。
だから魔導炉の臨界事故など、滅多に起こるものではない。
だが人為的に起こせたのなら?
魔力が抜ける量と新たに送り込む量を等しくし、臨界した瞬間の状態を維持できたなら?
きっとそれは、強力な兵器になるに違いない。
その為に、研究に次ぐ研究が繰り返された。
必要なのは、臨界しやすい魔導炉。そして、臨界を維持しやすい魔導炉だ。
世界が安全な魔導炉を開発する中、いかに危険な魔導炉を作るかを模索した。
それこそがオバロス血族であり、現当主ヘッケリオ・オバロスの代により、遂に完成したのだった。
グライダーより急角度で投下された揺り籠は、大地へと落下する。
先端は深々と地面へとめり込み、魔導炉は落下の衝撃を受け潰れ――世界は、真っ白な光に包まれた。
一瞬の静寂と眩い光。だがそれを認識するより早く、続けて巻き起こった轟音と爆風が大地を走る。
大気は乱気流を起こし、高度4千メートルを飛行する重飛甲母艦すらも軋ませる。
いや発生したのは乱気流だけではない。雷光を纏った真っ黒い粉塵は勢いよく天へと昇る。
それは彼らの高度すら超え、およそ9千メートルに漂う魔王の魔力にまで達していった。
その形状を一言で表すのであれば、『高々と巻き上がるキノコ雲』となるであろう。
爆炎は地上の全てを吹き飛ばし、そこにいた軍隊蟻も、兵士も、大地の苔も消え去った。
後に残るのは、真っ黒い――直系1キロメートル程の黒い穴。
通称“揺り籠”と呼ばれる、魔導炉爆弾の成果であった。
左右の端には飛甲騎兵がそれぞれ収納され、中央に1から6までのナンバリングがされた格納庫が並ぶ。
現在1と2は空いており、3から6にはそれぞれ大型の黒い物体が置かれている。
形状としては、飛甲騎兵に近い。
直系は2メートルを少し超える位だろうか。幅も同じほどで、長さは約13メートル。
相和義輝であれば、路線バスを少し細めて丸くしたような印象を持っただろう。
左右には、三角形の翼が取り付けられている。それは飛甲騎兵の近接武器である翼刃ではなく、揚力を生み出す翼だった。
先端が少し膨らんでおり、全体的な形状で見れば無人偵察機の様にも見えるだろう。
本来なら6カ所全てが埋まっているのだが、既に2発使用したため、残るは4発だ。
そう、この航空機の様な機械の単位は、騎や機ではなく発。
今その4発の大型搭乗物体の横には、それぞれ10人のムーオス人が整列している。
全員がカーキ色の軍服を纏う、紛れもない軍人だ。だが、鎧も武器も身につけてはいない。
持つ必要がないからだ。
“比翼の天馬の片翼” ルヴァンが彼らの前に立つと、全員が両の拳を胸の前で合わせる――ムーオス自由帝国の敬礼で迎える。
だだ、返礼するルヴァンの表情は晴れない。なぜこんな事を命令せねばならぬのか……その想い強く心を打つ。
だがしかし――、
「諸君らの魂に安らぎを! 汝らが血族に栄光を! 魔族には死を!」
「「「我等祖国の為に! 我等同胞の為に! 魔族には死を!」」」
ルヴァンの言葉に兵士達が答え、そのまま一斉に大型搭乗物体に乗り込んで行く。
彼らの足取りは軽い。晴れやかに、まるで休暇にでも出かけるかのようだ。誰一人、自らの運命を呪う者も、恨む者もいない。
皆、貧しい兵士達。どこで死ぬにしても……いや、どうせ必ず死ぬのなら『せめて価値ある死を』と、それに乗る。
それ故に、想う。このような兵器を作った一族など、末代まで永劫に呪われ続ければよいと。
それが初めて危険だと分かったのは、今からおおよそ260年ほど前。
魔道炉というものが発明されてから、おおよそ5千年が経過した頃だ。
それまで多少の問題はありつつも、危険だという認識は無かった。
だがある日、飛甲騎兵に搭載されていた魔道炉が、戦闘中に臨界に達した。
それだけならば……臨界だけであるのなら、よくある事だ。
だがその時、まさに同時ともいえるタイミングで、もう一騎の飛甲騎兵の衝角がその魔道炉を貫いた。
突然に空中で巻き起こった光の玉。人は当時、何が起こったのかさえ理解できなかった。
だがその後の研究により原因が突き止められるに至り、人類は魔道炉の改良に取り組む事になる。
より高性能に、より安全に扱う為に。
だが唯一ムーオス自由帝国だけが、逆の事を考えた。
「3番、魔導炉臨界!」
「3番格納庫、“揺り籠”投下!」
整備兵の合図とともに、10人の兵士が乗り込んだ金属の塊――揺り籠と呼称されたそれが投下される。
それに窓は無く、中では10人の人間が懸命に魔導炉に魔力を送る。
揚力を得る形の翼は飛ぶためのものではない。あくまで、落下中の姿勢を安定させるためのものだ。
魔力を過剰に注入された魔導炉は、一時的に臨界と呼ばれる状態になる。
だがそれはほんの一瞬。まるで穴が開いたかのように魔力は抜け出て、すぐさま臨界状態は収まる。
そうなった魔導炉は、しばらくは使い物にならない。まるで穴の開いたゴムチューブの様に、入れた端から魔力が漏れてしまう為だ。
だから魔導炉の臨界事故など、滅多に起こるものではない。
だが人為的に起こせたのなら?
魔力が抜ける量と新たに送り込む量を等しくし、臨界した瞬間の状態を維持できたなら?
きっとそれは、強力な兵器になるに違いない。
その為に、研究に次ぐ研究が繰り返された。
必要なのは、臨界しやすい魔導炉。そして、臨界を維持しやすい魔導炉だ。
世界が安全な魔導炉を開発する中、いかに危険な魔導炉を作るかを模索した。
それこそがオバロス血族であり、現当主ヘッケリオ・オバロスの代により、遂に完成したのだった。
グライダーより急角度で投下された揺り籠は、大地へと落下する。
先端は深々と地面へとめり込み、魔導炉は落下の衝撃を受け潰れ――世界は、真っ白な光に包まれた。
一瞬の静寂と眩い光。だがそれを認識するより早く、続けて巻き起こった轟音と爆風が大地を走る。
大気は乱気流を起こし、高度4千メートルを飛行する重飛甲母艦すらも軋ませる。
いや発生したのは乱気流だけではない。雷光を纏った真っ黒い粉塵は勢いよく天へと昇る。
それは彼らの高度すら超え、およそ9千メートルに漂う魔王の魔力にまで達していった。
その形状を一言で表すのであれば、『高々と巻き上がるキノコ雲』となるであろう。
爆炎は地上の全てを吹き飛ばし、そこにいた軍隊蟻も、兵士も、大地の苔も消え去った。
後に残るのは、真っ黒い――直系1キロメートル程の黒い穴。
通称“揺り籠”と呼ばれる、魔導炉爆弾の成果であった。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる