この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 魔族と人と 】

揺り籠 前編

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 重飛甲母艦の艦橋から降りた先は、下部格納庫となっている。
 左右の端には飛甲騎兵がそれぞれ収納され、中央に1から6までのナンバリングがされた格納庫が並ぶ。

 現在1と2は空いており、3から6にはそれぞれ大型の黒い物体が置かれている。
 形状としては、飛甲騎兵に近い。
 直系は2メートルを少し超える位だろうか。幅も同じほどで、長さは約13メートル。
 相和義輝あいわよしきであれば、路線バスを少し細めて丸くしたような印象を持っただろう。
 左右には、三角形の翼デルタ翼が取り付けられている。それは飛甲騎兵の近接武器である翼刃ではなく、揚力を生み出す翼だった。
 先端が少し膨らんでおり、全体的な形状フォルムで見れば無人偵察機の様にも見えるだろう。

 本来なら6カ所全てが埋まっているのだが、既に2発使用したため、残るは4発だ。
 そう、この航空機の様な機械の単位は、騎や機ではなく発。
 今その4発の大型搭乗物体の横には、それぞれ10人のムーオス人が整列している。
 全員がカーキ色の軍服を纏う、紛れもない軍人だ。だが、鎧も武器も身につけてはいない。
 持つ必要がないからだ。

 “比翼の天馬の片翼” ルヴァンが彼らの前に立つと、全員が両の拳を胸の前で合わせる――ムーオス自由帝国の敬礼で迎える。
 だだ、返礼するルヴァンの表情は晴れない。なぜこんな事を命令せねばならぬのか……その想い強く心を打つ。
 だがしかし――、

「諸君らの魂に安らぎを! 汝らが血族に栄光を! 魔族には死を!」

「「「我等祖国の為に! 我等同胞の為に! 魔族には死を!」」」

 ルヴァンの言葉に兵士達が答え、そのまま一斉に大型搭乗物体に乗り込んで行く。
 彼らの足取りは軽い。晴れやかに、まるで休暇にでも出かけるかのようだ。誰一人、自らの運命を呪う者も、恨む者もいない。
 皆、貧しい兵士達。どこで死ぬにしても……いや、どうせ必ず死ぬのなら『せめて価値ある死を』と、それに乗る。
 それ故に、想う。このような兵器を作った一族など、末代まで永劫に呪われ続ければよいと。




 それが初めて危険だと分かったのは、今からおおよそ260年ほど前。
 魔道炉というものが発明されてから、おおよそ5千年が経過した頃だ。
 それまで多少の問題はありつつも、危険だという認識は無かった。

 だがある日、飛甲騎兵に搭載されていた魔道炉が、戦闘中に臨界に達した。
 それだけならば……臨界だけであるのなら、よくある事だ。
 だがその時、まさに同時ともいえるタイミングで、もう一騎の飛甲騎兵の衝角がその魔道炉を貫いた。
 突然に空中で巻き起こった光の玉。人は当時、何が起こったのかさえ理解できなかった。

 だがその後の研究により原因が突き止められるに至り、人類は魔道炉の改良に取り組む事になる。
 より高性能に、より安全に扱う為に。
 だが唯一ムーオス自由帝国だけが、逆の事を考えた。




「3番、魔導炉臨界!」
「3番格納庫ハンガー、“揺り籠”投下!」

 整備兵の合図とともに、10人の兵士が乗り込んだ金属の塊――揺り籠と呼称されたそれが投下される。
 それに窓は無く、中では10人の人間が懸命に魔導炉に魔力を送る。
 揚力を得る形の翼は飛ぶためのものではない。あくまで、落下中の姿勢を安定させるためのものだ。

 魔力を過剰に注入された魔導炉は、一時的に臨界と呼ばれる状態になる。
 だがそれはほんの一瞬。まるで穴が開いたかのように魔力は抜け出て、すぐさま臨界状態は収まる。
 そうなった魔導炉は、しばらくは使い物にならない。まるで穴の開いたゴムチューブの様に、入れた端から魔力が漏れてしまう為だ。
 だから魔導炉の臨界事故など、滅多に起こるものではない。

 だが人為的に起こせたのなら?
 魔力が抜ける量と新たに送り込む量を等しくし、臨界した瞬間の状態を維持できたなら?
 きっとそれは、強力な兵器になるに違いない。

 その為に、研究に次ぐ研究が繰り返された。
 必要なのは、臨界しやすい魔導炉。そして、臨界を維持しやすい魔導炉だ。
 世界が安全な魔導炉を開発する中、いかに危険な魔導炉を作るかを模索した。
 それこそがオバロス血族であり、現当主ヘッケリオ・オバロスの代により、遂に完成したのだった。




 グライダーより急角度で投下された揺り籠は、大地へと落下する。
 先端は深々と地面へとめり込み、魔導炉は落下の衝撃を受け潰れ――世界は、真っ白な光に包まれた。

 一瞬の静寂と眩い光。だがそれを認識するより早く、続けて巻き起こった轟音と爆風が大地を走る。
 大気は乱気流を起こし、高度4千メートルを飛行する重飛甲母艦すらもきしませる。
 いや発生したのは乱気流だけではない。雷光を纏った真っ黒い粉塵は勢いよく天へと昇る。
 それは彼らの高度すら超え、およそ9千メートルに漂う魔王の魔力にまで達していった。
 その形状を一言で表すのであれば、『高々と巻き上がるキノコ雲』となるであろう。

 爆炎は地上の全てを吹き飛ばし、そこにいた軍隊蟻も、兵士も、大地の苔も消え去った。
 後に残るのは、真っ黒い――直系1キロメートル程の黒い穴。
 通称“揺り籠”と呼ばれる、魔導炉爆弾の成果であった。
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