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【 魔族と人と 】
人類の反撃 前編
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暫く土の中を潜り逃げ延びた後は、地上を走っていたらしい。
らしいというのは、俺はずっとスースィリアの中に匿われていたからだ。
エヴィアに言われたし、自分でも分かっていた。
あの後、浮遊城から一斉に人間の気配が拡散した。まるでハチの巣を突いたかのようだ。
人間の哨戒部隊――いや、あの規模なら本格的な攻撃隊か。それが一斉に出撃したのだろう。
いつ彼らに発見されるか分からない逃亡劇。
後悔と緊張の中、体も心もボロボロになっていた。
「まおー、着いたのであるぞ」
スースィリアから吐き出された目の前には、趣味の悪い、見慣れた黄金の玉座が光を浴びて輝いている。
魔王の居城に戻って来たのだ。
だが、ドームの明かりが付いている……?
周囲は、朝方のような凛とした眩しさに包まれている。
死霊の淡い光では、こんなにも輝いたりはしない。だがそれを考えるよりも早く――、
「消えたのである―! 体が半分消えたのであるぞー!」
スースィリアが、まるで思い出したかのようにビッタンビッタン大暴れを開始した。
よく見れば、80メートル程あった体の半分、丁度40メートルほどが綺麗さっぱりなくなっている。
おそらく、潜る時に焼かれたのだ。
「すまない……本当にすまない……」
床を見つめ、拳を握り、声を絞り出す。
本当に、俺はいったい何をしていたのか。
なぜオスピアに、浮遊城の事をもっと詳しく聞かなかったのか。
たとえ会えなくても、少し時間が掛かったとしても、白き苔の領域に住む魔人ギュータムから浮遊城の情報を貰っておくべきだった。
既に、魔族は2つ墜としている――その情報から、一方的に油断していた。
魔人なら何とかなると思っていた。
現実は……違った。
「ま、まおー? 違うのであるぞ。大丈夫なのであるぞ。人間でいえば、髪を切られた程度なのである。ちょっと構って欲しかっただけなのであるぞ」
大暴れを止めて、わしょわしょと甘咀嚼をしてくるスースィリア。
「……すまない」
だが、俺にはそれしか言う事が出来なかった。
落ち着いて周りを見渡すと、倉庫の方からユニカがやって来るところだった。
やはり、ここに灯りを点けたのは彼女か。しかし以前よりも、ずいぶん明るく眩しい感じだ。
前回少し暗かったのは、やはり暫く使っていなかったからだろうか。
いつからあるのかは知らないが、ここも古そうだしな。
彼女はカラカラと木の台車を押し、その上には湯気を立てるスープにパンにソーセージ。
「事情は聴いているわ。とにかく、一度温かいものを食べて落ち着きなさい」
まるで諭すように優しくそう言うと、グイッと手を引っ張って問答無用で黄金の台座に座らされる。
以前のような張りつめた緊張感は無いが、この辺りの強引さは彼女の地か。
「その……」
「いいから」
ユニカの真剣な眼差しが、俺の口からこぼれそうな言葉を堰き止める。
ヨーツケールと彼女は仲が良かった。いや、彼女が一番信頼していた魔人がヨーツケールだったのではないだろうか。
彼女も辛いはずだ。だが、今はこうして俺を支えてくれる。感謝するしかない。
温かい食事と、久々の休息。
体の安息と共に、心も急速に冷静さを取り戻してゆく。
勿論それだけではないだろう。歴代魔王の言葉無き意志が告げている――嘆くのは終わりだと。
周りを見渡せば、この居城のホールにはエヴィア、スースィリア、そして服になっているテルティルト。
それにユニカと――ゲルニッヒが見える。コイツも来ていたのか。
後はルリアを始めとした数体の死霊と首無し騎士のシャルネーゼか。
皆、準備は万端な様だ。
では動き出そう。
完全に、一方的にやられてしまった。
だが、俺はこうして生きている。魔人達も残っている。まだ敗北した訳では無いのだ。
「よし――それでは……」
「アア、魔王よ。コチラから一つ報告がマリマス」
ゲルニッヒが、ツツーと前に出る。
「何かあったのか?」
「ハイ。白き苔の領域に棲んでいた魔人ギュータムが斃されマシタ。現在、南方からムーオス自由帝国の軍が着々と進行中でアリマス」
その報告は、反撃の糸口を掴もうとした俺を再び打ち倒すのに、十分な衝撃だった。
らしいというのは、俺はずっとスースィリアの中に匿われていたからだ。
エヴィアに言われたし、自分でも分かっていた。
あの後、浮遊城から一斉に人間の気配が拡散した。まるでハチの巣を突いたかのようだ。
人間の哨戒部隊――いや、あの規模なら本格的な攻撃隊か。それが一斉に出撃したのだろう。
いつ彼らに発見されるか分からない逃亡劇。
後悔と緊張の中、体も心もボロボロになっていた。
「まおー、着いたのであるぞ」
スースィリアから吐き出された目の前には、趣味の悪い、見慣れた黄金の玉座が光を浴びて輝いている。
魔王の居城に戻って来たのだ。
だが、ドームの明かりが付いている……?
周囲は、朝方のような凛とした眩しさに包まれている。
死霊の淡い光では、こんなにも輝いたりはしない。だがそれを考えるよりも早く――、
「消えたのである―! 体が半分消えたのであるぞー!」
スースィリアが、まるで思い出したかのようにビッタンビッタン大暴れを開始した。
よく見れば、80メートル程あった体の半分、丁度40メートルほどが綺麗さっぱりなくなっている。
おそらく、潜る時に焼かれたのだ。
「すまない……本当にすまない……」
床を見つめ、拳を握り、声を絞り出す。
本当に、俺はいったい何をしていたのか。
なぜオスピアに、浮遊城の事をもっと詳しく聞かなかったのか。
たとえ会えなくても、少し時間が掛かったとしても、白き苔の領域に住む魔人ギュータムから浮遊城の情報を貰っておくべきだった。
既に、魔族は2つ墜としている――その情報から、一方的に油断していた。
魔人なら何とかなると思っていた。
現実は……違った。
「ま、まおー? 違うのであるぞ。大丈夫なのであるぞ。人間でいえば、髪を切られた程度なのである。ちょっと構って欲しかっただけなのであるぞ」
大暴れを止めて、わしょわしょと甘咀嚼をしてくるスースィリア。
「……すまない」
だが、俺にはそれしか言う事が出来なかった。
落ち着いて周りを見渡すと、倉庫の方からユニカがやって来るところだった。
やはり、ここに灯りを点けたのは彼女か。しかし以前よりも、ずいぶん明るく眩しい感じだ。
前回少し暗かったのは、やはり暫く使っていなかったからだろうか。
いつからあるのかは知らないが、ここも古そうだしな。
彼女はカラカラと木の台車を押し、その上には湯気を立てるスープにパンにソーセージ。
「事情は聴いているわ。とにかく、一度温かいものを食べて落ち着きなさい」
まるで諭すように優しくそう言うと、グイッと手を引っ張って問答無用で黄金の台座に座らされる。
以前のような張りつめた緊張感は無いが、この辺りの強引さは彼女の地か。
「その……」
「いいから」
ユニカの真剣な眼差しが、俺の口からこぼれそうな言葉を堰き止める。
ヨーツケールと彼女は仲が良かった。いや、彼女が一番信頼していた魔人がヨーツケールだったのではないだろうか。
彼女も辛いはずだ。だが、今はこうして俺を支えてくれる。感謝するしかない。
温かい食事と、久々の休息。
体の安息と共に、心も急速に冷静さを取り戻してゆく。
勿論それだけではないだろう。歴代魔王の言葉無き意志が告げている――嘆くのは終わりだと。
周りを見渡せば、この居城のホールにはエヴィア、スースィリア、そして服になっているテルティルト。
それにユニカと――ゲルニッヒが見える。コイツも来ていたのか。
後はルリアを始めとした数体の死霊と首無し騎士のシャルネーゼか。
皆、準備は万端な様だ。
では動き出そう。
完全に、一方的にやられてしまった。
だが、俺はこうして生きている。魔人達も残っている。まだ敗北した訳では無いのだ。
「よし――それでは……」
「アア、魔王よ。コチラから一つ報告がマリマス」
ゲルニッヒが、ツツーと前に出る。
「何かあったのか?」
「ハイ。白き苔の領域に棲んでいた魔人ギュータムが斃されマシタ。現在、南方からムーオス自由帝国の軍が着々と進行中でアリマス」
その報告は、反撃の糸口を掴もうとした俺を再び打ち倒すのに、十分な衝撃だった。
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