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【 魔族と人と 】
魔人の死 前編
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意識を空に向け下界を見下ろすと、一か所に山盛りの人間の生命を感じる。
あれが浮遊城だろう。しかし遠い……まだ30キロ近くある。
意識を更に広範囲にしても、周辺に人間の命は感じない。
まあ、あまり広げると個人は小さすぎて感知できないので、もしかしたら小数チームなんかは居るかもしれない。
だが、要するに居てもそんなもんだ。
俺の考えだと、真ん中に重要な施設――今回は浮遊城か。アレを据えて、その周囲を固めているものだと思っていた。
だが現実には、浮遊城は単体でプラプラと行動している。
よほどの自信があるのか? それとも、まだこちらから攻撃されないと油断しているのか?
後者であるのなら完全に失敗したかもしれない。
今この時こそが、千載一遇の好機だったのではないだろうか?
竜や翼竜を率いて来れば、もしかしたらここでいきなり決着も有り得たのではないだろうか?
だが魔王相和義輝がそんなことを考えていた時、魔人達は気づく。
遠くで光った輝き。それは強い光であったが、30キロ近くも離れていれば人間には見えない。
だがしかし――
「魔王!」
え!?
一瞬、ヨーツケールの声が聞こえた気がした。
その瞬間、右側からジュッと嫌な音がハッキリと聞こえる。
だがそれを意識するよりも早く、世界は真っ白く光り、そして灼熱の大気に包まれた。
「うわああぁぁぁぁぁ!」
あまりの異常事態に、本能で叫んでいた。
時間にすれば、ほんの瞬きをする程度。その間に巨大な光は、サーチライトのように右から左へと俺達を薙いでいった。
辺りの大地は焼かれ、溶け、膨張し破裂した空気が強風を巻き起こす。
巻き起こる風で吹き飛ばされそうになるが、テルティルトから延びた爪が、ガッチリと大地を噛み固定する。
だがそれよりも、目の前にあるもの――ヨーツケール。
珊瑚質の外殻は全て消滅し、内側の金属質の体はドロドロに溶けている。
そして黒かったその体が、まるで化学反応を起こしたかのように一瞬で真っ白く変わる。
「ヨーツケール?」
声を掛けた瞬間、視界が真っ黒い闇に閉ざされた。
だがその刹那の間に、エヴィアがヨーツケールの体に右腕を突っ込む姿が映る。
――これは――スースィリアか!?
以前にも感じたことがある感触。狭くて暗くて生暖かい、スースィリアの食道の辺りだ。
「スースィリア、何が起きた!? ヨーツケールは?」
「ヨーツケールは死んだのである」
――簡潔な言葉。なのに理解が出来ない。
いや、心が理解を拒む。
「ちょ、ちょっと待てよ。そんな――」
――魔人は嘘を言わない。
「待ってくれ、まだ何もしていないんだ! 浮遊城とやらを見て、それで、これから対策を考えて……」
――魔人は不確実な事も言わない。
急速に状況を理解し、焦りと震えが消えていく。
ああ、分かっている。スースィリアが死んだと言ったのだから、間違いなく死んだのだ。
たけど、こんな一瞬で、こんなにあっさりと……。
俺はまだ、本当に何もしていない。
何かをするために考える。考えるための材料を得る。まだその段階だ。
それが……それがこんな所で…………。
スースィリアは何も言わない。きっと、俺を責める気は無いのだろう。
だけど、責めてくれた方が嬉しかったかもしれない。
死の予感はしない、だから安全だ?
俺は右腕を切り飛ばされても、まだそんな馬鹿な考えでいたのか。
死なないなら安全――この世界は、そんなに甘くはない。
仲間が命を懸けて……それこそ命を犠牲にしてくれたから死ななかった。だから視えなかった。
その可能性に、なぜ及ばなかったのか。
再び、スースィリアの体越しでも解る程の閃光が輝き、周囲が過熱する。
「スースィリア!」
「大丈夫かな。半分くらい消えちゃったけど、もう土の中に潜り込んだよ」
後ろから、もそもそとエヴィアが俺の懐に潜り込んでくる。
暗くてよく見えないのでペタペタと触るが、幸いどこも傷んだ様子は無い。
先ずは、一つだけ安心だ。
「あれはいったい何なんだ?」
「人間の兵器かな。エヴィアも初めて見るよ。でもウラーザムザザなら何か知っているかもしれないよ」
魔人ウラーザムザザは、今月頭に北極へオキアミを食べに行ってしまった。
戻りは来年1月の頭だ。
「くそっ! ルリア!」
呼んで気付く。ああ、ここはダメだ。
だが――、
「お呼びで……しょうか……」
狭い中をもぞもぞと、淡く緑色に光るルリアがやって来る。
口から潜り込んできたのだろう。だがこれは意外過ぎる状況だ。
魔人は死霊に触ることが出来る。つまり、スースィリアの体は通過できない。
そして、エヴィアに触られただけで気絶してしまうくらい、接触を嫌がる性質だ。
だから来れないと思ったのだが、ここまで頑張ってくれることに頭が下がる。
だが同時に不安が心を支配する。
「状況を確認したい。死霊は周辺警戒を。首無し騎士達は、一度撤収させてくれ」
「それなのですが……死霊はなんとか100人くらい残りましたが、首無し騎士多分……5人位しか残ってはいないかと……」
――あの光は、不死者や精霊まで消すのかよ!
完全に……完璧に失敗した。ぐうの音も出ない程の完敗――いや戦ってすらいない。
ただ愚かな俺が、一方的に打ちのめされただけだ。
「まおー……」
「ああ、大丈夫だ」
歴代魔王の意識のおかげで、心は急速に冷静さを取り戻している。
今は大丈夫だ。
「ホテルに……いや、魔王の居城に帰還する。そこで、色々と確認したい」
「分かったのであるぞー。大丈夫、スースィリアが付いているのである」
あれが浮遊城だろう。しかし遠い……まだ30キロ近くある。
意識を更に広範囲にしても、周辺に人間の命は感じない。
まあ、あまり広げると個人は小さすぎて感知できないので、もしかしたら小数チームなんかは居るかもしれない。
だが、要するに居てもそんなもんだ。
俺の考えだと、真ん中に重要な施設――今回は浮遊城か。アレを据えて、その周囲を固めているものだと思っていた。
だが現実には、浮遊城は単体でプラプラと行動している。
よほどの自信があるのか? それとも、まだこちらから攻撃されないと油断しているのか?
後者であるのなら完全に失敗したかもしれない。
今この時こそが、千載一遇の好機だったのではないだろうか?
竜や翼竜を率いて来れば、もしかしたらここでいきなり決着も有り得たのではないだろうか?
だが魔王相和義輝がそんなことを考えていた時、魔人達は気づく。
遠くで光った輝き。それは強い光であったが、30キロ近くも離れていれば人間には見えない。
だがしかし――
「魔王!」
え!?
一瞬、ヨーツケールの声が聞こえた気がした。
その瞬間、右側からジュッと嫌な音がハッキリと聞こえる。
だがそれを意識するよりも早く、世界は真っ白く光り、そして灼熱の大気に包まれた。
「うわああぁぁぁぁぁ!」
あまりの異常事態に、本能で叫んでいた。
時間にすれば、ほんの瞬きをする程度。その間に巨大な光は、サーチライトのように右から左へと俺達を薙いでいった。
辺りの大地は焼かれ、溶け、膨張し破裂した空気が強風を巻き起こす。
巻き起こる風で吹き飛ばされそうになるが、テルティルトから延びた爪が、ガッチリと大地を噛み固定する。
だがそれよりも、目の前にあるもの――ヨーツケール。
珊瑚質の外殻は全て消滅し、内側の金属質の体はドロドロに溶けている。
そして黒かったその体が、まるで化学反応を起こしたかのように一瞬で真っ白く変わる。
「ヨーツケール?」
声を掛けた瞬間、視界が真っ黒い闇に閉ざされた。
だがその刹那の間に、エヴィアがヨーツケールの体に右腕を突っ込む姿が映る。
――これは――スースィリアか!?
以前にも感じたことがある感触。狭くて暗くて生暖かい、スースィリアの食道の辺りだ。
「スースィリア、何が起きた!? ヨーツケールは?」
「ヨーツケールは死んだのである」
――簡潔な言葉。なのに理解が出来ない。
いや、心が理解を拒む。
「ちょ、ちょっと待てよ。そんな――」
――魔人は嘘を言わない。
「待ってくれ、まだ何もしていないんだ! 浮遊城とやらを見て、それで、これから対策を考えて……」
――魔人は不確実な事も言わない。
急速に状況を理解し、焦りと震えが消えていく。
ああ、分かっている。スースィリアが死んだと言ったのだから、間違いなく死んだのだ。
たけど、こんな一瞬で、こんなにあっさりと……。
俺はまだ、本当に何もしていない。
何かをするために考える。考えるための材料を得る。まだその段階だ。
それが……それがこんな所で…………。
スースィリアは何も言わない。きっと、俺を責める気は無いのだろう。
だけど、責めてくれた方が嬉しかったかもしれない。
死の予感はしない、だから安全だ?
俺は右腕を切り飛ばされても、まだそんな馬鹿な考えでいたのか。
死なないなら安全――この世界は、そんなに甘くはない。
仲間が命を懸けて……それこそ命を犠牲にしてくれたから死ななかった。だから視えなかった。
その可能性に、なぜ及ばなかったのか。
再び、スースィリアの体越しでも解る程の閃光が輝き、周囲が過熱する。
「スースィリア!」
「大丈夫かな。半分くらい消えちゃったけど、もう土の中に潜り込んだよ」
後ろから、もそもそとエヴィアが俺の懐に潜り込んでくる。
暗くてよく見えないのでペタペタと触るが、幸いどこも傷んだ様子は無い。
先ずは、一つだけ安心だ。
「あれはいったい何なんだ?」
「人間の兵器かな。エヴィアも初めて見るよ。でもウラーザムザザなら何か知っているかもしれないよ」
魔人ウラーザムザザは、今月頭に北極へオキアミを食べに行ってしまった。
戻りは来年1月の頭だ。
「くそっ! ルリア!」
呼んで気付く。ああ、ここはダメだ。
だが――、
「お呼びで……しょうか……」
狭い中をもぞもぞと、淡く緑色に光るルリアがやって来る。
口から潜り込んできたのだろう。だがこれは意外過ぎる状況だ。
魔人は死霊に触ることが出来る。つまり、スースィリアの体は通過できない。
そして、エヴィアに触られただけで気絶してしまうくらい、接触を嫌がる性質だ。
だから来れないと思ったのだが、ここまで頑張ってくれることに頭が下がる。
だが同時に不安が心を支配する。
「状況を確認したい。死霊は周辺警戒を。首無し騎士達は、一度撤収させてくれ」
「それなのですが……死霊はなんとか100人くらい残りましたが、首無し騎士多分……5人位しか残ってはいないかと……」
――あの光は、不死者や精霊まで消すのかよ!
完全に……完璧に失敗した。ぐうの音も出ない程の完敗――いや戦ってすらいない。
ただ愚かな俺が、一方的に打ちのめされただけだ。
「まおー……」
「ああ、大丈夫だ」
歴代魔王の意識のおかげで、心は急速に冷静さを取り戻している。
今は大丈夫だ。
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