この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 魔族と人と 】

白き光 後編

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「うーん、まだ見えてこないな。あとどのくらいの距離なんだろう?」

「あと40キロ程ですわよ」

 遠くを見る様な仕草をしながらルリアが教えてくれる。
 実際見えているのだろうか? まあその辺りは不明だが、俺の視力だと全く見えないな。
 まあかなりでかい城とは言え、40キロ先のものが見えたら驚きだ。

「向こうの様子に変わりはないか?」

「それも変わりませんわ。大体西北西に、そうですねー……時速30キロくらいでしょうか」

 向こうはまだ、こちらに気が付いていないか。
 まだ相手の武装も戦力も謎だ。戦いは避けてはおきたいが……。

「シャルネーゼはいるか?」

「勿論、控えているぞ」

 一応、首無し騎士デュラハン5千に死霊レイスが2千。それと肉体を失っている不死者アンデッドがそれなりと、そこそこの戦力は用意してある。
 これで墜とせるとは到底思えないが、万が一の備えだ。
 それにしても、やっぱり少し変だな……周囲に部隊を展開していないのもそうだが、空に飛甲騎兵とやらが見えない。
 俺だったら、哨戒機くらいは飛ばしていてもおかしくはないのだが……。




 ◇     ◇     ◇




「目標反応、依然接近中。距離35キロメートルです」

「有効射程まで残り2.5キロですか。ただ地形を考えると……」

 ミックマインセが地図を表示する。
 起伏など殆ど無い荒れ地だが、それでも細かく見ればぼこぼこだ。小さな丘は各所に点在している。

「そうだな……28キロ地点で仕掛ける。浄化の光レイの準備は?」

「1番準備良し」
「5番準備良し」
「6番準備良し」
「全機完全に起動中。いつでもいけます」

「よし、進路そのまま。浄化の光レイ発射体制に入れ!」

 リッツェルネールとしては、これは賭けであった。
 これまでのデータから、大型魔族がこちらを目指して来ていることは明白だ。
 しかし、そのまま有効射程まで近づいてくるとは限らない。途中で方位を変え、どこかへ行ってしまうかもしれないのだ。
 だがもしこちらが反応し進路を変えたら、彼らは即座に姿を消してしまうかもしれない。

 考えた末、一人の男を思い出す。白磁の間ですれ違った魔王。
 もしあの中に彼がいるなら、どういった反応を示すだろうか?
 それを分析する材料は、2回の戦闘記録と、あの一瞬と言って良い程度の間のみ。
 情報はあまりにも少ない。だがその不足は、今までの人生経験で補った。

 間違いなく、魔王も一緒にいる。その目的は、浮遊城を見に来たのだろう。
 だがあくまで見に来ただけ。彼は細心の注意を払い、無謀な戦いはしないはずだ。
 進路を魔王に変えた時点で、または飛甲騎兵を出撃させた時点で、彼は危険を察知し消える。
 そして二度と、浮遊城の前にのこのこと姿を現すことはないだろう。

 ……そう考え、賭けた。
 魔王が、自ら死地へと足を踏み入れる事に。




 ◇     ◇     ◇




「もうそろそろ30キロ程ですわ、魔王様」

 30キロか……まだまだ遠い。相手は浮いている巨大城とはいえ、この距離では豆粒サイズなんてものじゃない。
 少なくとも、10キロ程度にまでは近づかないとは判別すらできないだろう。

 しかし、こちらが見えると言う事は逆もまたしかり。

「スースィリアは、そろそろ潜っていてくれ。ヨーツケール、擬態を頼む」

「分かったのであるぞー。気を付けるのである」

「魔王よ、問題ない」

 指示を受け、スースィリアはもぞもぞと土の中に潜り始める。地面は相当に硬いが、まるで泥の中に潜っていくかのようにスムーズだ。

 そしてヨーツケールの方は、これまた完璧な擬態を開始する。
 たった今まで目の前にいたにも関わらず、もうどこがどうなっているのか分からない。
 影すら見えない、完全な透明だ。だが実際には透明なわけではなく、周囲に擬態しているだけ。

「これなら見つからないだろう。では行こう」

 エヴィアに手を引いてもらいながらヨーツケールの下に潜り込むと、そのままゆっくり動き出す。
 これで大丈夫だとは思う。
 万が一見つかった場合……確か人間の使う遠距離兵器は、攻城兵器のような巨大な槍や飛甲騎兵なんかが使う投射槍ジャベリン、それに矢だ。
 どれも俺には効くが、スースィリアやヨーツケールには効果が無い。
 万が一の事があっても、大丈夫だ……。




 ◇     ◇     ◇




「目標、予定地点到達まで推定500メートル」

 オペレーターの報告を受け、リッツェルネールは立ち上がる。

 ――これは……いきなり事の趨勢すうせいが決まるかもしれないな。

 そうも思うが、高揚もしなければ落胆もしない。

 ――全ては結果が出てから……その時、僕の心に何が去来するのか。達成感か……それとも…………。

「目標、予定地点まで推定200メートル」

「目標到達と同時に5番5度で斉射。続いて10秒後に1番、更に10秒後に6番斉射。角度は8度だ」

 指示を出しながら、こぶしを握ったまま右手を水平に前に出す。
 それは、無意識のうちに行っていた行動だった。

「目標28キロメートル地点に到達!」

 指を広げ――叫ぶ。

「撃て!」

 リッツェルネールの視界が、音もなく純白の輝きに包まれた。
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