この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 魔族と人と 】

白き光 前編

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 全ての支度を済ませてホテルの庭へ出ると、スースィリアとヨーツケールが待っている。
 移動はいつもの様にスースィリアの予定ではあるが――

「ヨーツケール、ちょっと相談がある」

「魔王よ、今考えた事はどちらも問題は無い。擬態の為の珊瑚虫は水路にいる。これはすぐにくっつく。同行も問題は無い」

 今更だが、こちらが言う前に言いたい事は理解している。
 同様に――

「ユニカ様の方は問題アリマセン。魔人ヨーヌ、魔人ラジエヴ、それに私がこの場に残ります」

 ゲルニッヒが、俺の考えを先取りして答えてくる。
 ラジエヴの姿は見ていないが、そういった取り決めになったのだろう。
 気ままにに空の旅を続けているアン・ラ・サムといい、白き苔の領域にいるギュータムといい、相変わらず魔王を避ける魔人は多いものだ。
 だがこれで、ホテルの方は問題無いだろう。
 しかし――、

「そういや、その間の食糧調達なんかはどうする予定なんだ?」

 基本的に、ヨーツケールがユニカを運び、彼女の指示の元で食材集めをするのが日常だ。
 そういった意味では、連れて行かない方がいのだろう。
 だが作戦的に、どうしてもヨーツケールの技が必要なのだ。

「ソノ件に関しては問題はありマセン。ユニカ様の指示を受け、我等が集めておりマスヨ。収穫デシタカ、やってみると中々に楽しいものデス」

 なるほど……テルティルトが自力で砂糖の実を集めたのと、似たような感じか。まあ、楽しみを見出すのは良い事だ。


「了解した。それじゃ、出発しよう」




 ◇     ◇     ◇




 碧色の祝福に守られし栄光暦218年8月19日。
 途中で少し巻貝と天険の領域に立ち寄りはしたが、おおむね順調に魔王達は進んでいた。
 一直線に行かず、多少北回りに移動したのは、一応は人間を警戒しての事だ。
 だが――

「妙だな……」

「人間と会わないって事かな? エヴィアもちょっと不思議な感じはあるよ」

「吾も探知できないのであるぞ。周囲に人間はいないのである」

「ヨーツケールは、あまり人間の常識は分からない。だが何もいないのなら問題は無いのではないのか?」

 いや――相手は人類の決戦兵器という。今まで出してこなかった虎の子だ。
 ならばそれを中心にして、周囲に軍が展開していると考えるべきだろう。それが、俺の考える常識だ。
 だがここまで人間は勿論、人間の兵器も見ていない。
 まだ見えないが、ここいらは壁にも近い位置。俺の記憶では、確かどっかの国が哨戒飛行とかをしていたはずだが……。

「ルリア―」

「はいはーい。お呼びとあればどこへでも―」

 ふわりと現れる死霊レイスのルリア。
 ユニカの事があってから暫く落ち込んでいたが、最近はいつもの調子を取り戻している。
 元気になるのは何よりだが、今日はスカートに深々とスリットを入れてやがる。
 こんな状況なのに、魔力を奪う気マンマンだ。
 しかし、今はそっちに気を取られてもいられない。

「周辺に人間は? それと、浮遊城の位置は本当にこのまま真っすぐで良いのか?」

「んー、大体50キロメートルくらい先にありますわ。生きていても分かるくらい、沢山の人間の気配もありますの」

 50キロメートル。相当な距離ではあるが、相手は一応浮遊物体だ。

「スースィリア、頭を低くして進んでくれ。一応、警戒しておかないとな」

「分かったのであるぞー」

 スースィリアの頭が地面すれすれまで低くなる。
 いつもの様に鎌首をもたげて歩くのではなく、ムカデ本来の移動方式だ。
 だが頭は振らない。まあ、そうなったら一瞬で弾き飛ばされるのだが……。

 死の予感はまだない。一応、死ぬ可能性は無いって事だ。
 だけど、警戒は怠らないようにしないとな。




 ◇     ◇     ◇




 ――その頃、浮遊城ジャルプ・ケラッツァの指令室には、警戒シグナルが高らかに鳴り響いていた。

「何事だ! 状況を報告せよ!」

 ケインブラ・フォースノーの怒声が響く。

「魔力計に強力な反応です!」

 赤い長髪を二本のおさげにし、左目に片眼鏡を付けた女性が叫ぶ。
 浮遊城指令室に配備されたオペレーターの一人だ。

「位置、西北西8度。距離51キロメートル」
「大型です。数2」
「魔紋照合……一体は蟹に類似」

 ほぼ同時に、周囲にいるオペレーター達からも報告が入る。
 全員が青い商国の軍服を着た女性であり、その前には丸い魔力計や複数のモニタが設置されている。
 その内の一つには、魔力探知から予想された魔王達の姿が、蜃気楼のように霞むシルエットで表示されていた。
 流石に人間サイズまではまだ探知できないが、ヨーツケールの蟹の鋏とスースィリアの巨体は映る。

 この城の頂上、そして四方の塔はいわゆるレーダー兼電波塔のようなものだ。
 地面の起伏にもよるが、おおよそ52キロメートルの探知範囲を誇る。
 それがたった今、接近する魔王達を捕らえたのだ。

「これはまた、随分と大物がかかったものだね」

 玉座に座るリッツェルネールに確証があったわけではない。
 だが魔王が魔族を率いて戦う以上は、何らかのリアクションがあるのではと思っていた程度だ。
 それがこんなに早く――まだ始まってすらいないうちに、魔神と呼称された魔族が出てくるとは思わなかった。

 ――蟹……そしてもう一つの巨大な影はムカデか白か。どちらにせよ、魔王が近くにいる可能性が高い。

浄化の光レイを使う。1、5、6番用意!」

「飛甲騎兵隊ではなく、いきなり切り札ですか?」

 背後に控えるマリッカから質問が入る。いや、どちらかと言えばツッコミと言った方が良い口調だ。

「ここで切らずして、どこで切るんだい。勿論もちろん、飛甲騎兵も使うけどね」

 振り向きもせずにそう答えるうちに、浮遊城四つ角の内、左前角と右前角の2つのドーム、そしてそこに挟まれた中央のドームがゆっくりと開く。

「浮遊城中心を対象に合わせろ。但し、進行方向・速度共に現状を維持」

「魔王の方に行かないで良いんですか?」

 同じく背後に控えるミックマインセだ。
 彼の考えでは、状況的に魔王に向けて全速突進した方が良いように思えた。

「魔王の目の広さも目的も不明だ。こちらから迂闊に近づく必要は無い。だが、仕掛け処はあるさ」

「右回頭良し。魔道炉出力良し」
浄化の光レイ、攻撃準備開始」

 浮遊城は魔王の方向に正面を向けつつ、今までと同じ軌道と速度で進行する。
 傍目には、少し左側に滑りながら移動しているようにも見える。
 元々、浮遊城はエンジンなどで推進力を得ているわけでは無い。
 移動はあくまで城下部に取り付けられた推進器によるもので、360度どの角度にでも進む事が出来る。

 一方、開いたドームの内に現れたのは、ドームをそのまま一回り小さくしたような白い球状物。
 だが外殻の金属と違い、それは僅かも光を反射しない。まるで素焼き陶器の様な質感だ。
 それが内側から、微かな光を灯しつつあった。

「ラウに伝達。出撃可能な飛甲騎兵は全騎発進準備。合わせて装甲騎兵隊も支度させろ。予備隊まで含めて全部だ」


 ――全部ですか……。

 マリッカは多少の疑問を感じたが、とりあえずは事の推移を見送ることにした。

 ――今この首を飛ばしても、事態は好転しないでしょうしね。
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