この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 魔族と人と 】

魔力の勉強

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 昼食も終わった昼下がり。ホテル幸せの白い庭の一室に、相和義輝あいわよしき、エヴィアとゲルニッヒ、テルティルトの三体の魔人、それにユニカが集まっていた。
 ここは魔王相和義輝あいわよしきが普段暮らす部屋。
 かつてユニカは決して近づこうともしなかったが、ここ最近では毎日のように入ってくるようになった。
 魔人達は、ここに魔王と彼女の巣を作るべきではないか――そうも協議しているが、今はもっと他にやるべき事があって集まっていたのだった。

 ――頭の中で歌を唄う。

 相和義輝あいわよしきの左手首に微かな銀の鎖が浮かび――消える。
 同時に部屋の天井が明るくなり、ベッドの下からは暖かな暖気が流れてきた。

「やった! 成功だ!」

「おめでとうかな。これでやっと、人間に一歩近づいたね」

 いや、元々人間だし。それに、その意識は失っちゃまずい。
 なんで? と言われると答えは無いが、多分俺は、人のままでいなければいけないんだ。俺が俺であるために……。

「でもちょっとまだ遅いし、魔力も薄いわね。もう少し短縮して。あと何か所か間違えていると思うわ」

 ユニカからはダメ出しが入るが、叱られているというより改善点を教わっている感じだ。
 確かに、やってみると結構短縮できるし、多少間違えてもオッケーだ。意外とアバウトだと驚いたが、要は脳が正しく記憶しているかが問題なのだろう。
 それを覚えるまではユニカも結構厳しかったが、今は感謝しかない。

「それはこれからやっている内に覚えるさ。だけど、これで俺も魔道言葉の初歩はマスターか。長かったなー。ウエルカム灯りと暖房」

 今まで夜はろうそくの灯りしかなかったが、これからは文明の明かりに照らされる。夜更かしだってオッケーだ。暖房はまだ早いが、動く事さえ判れば十分。壊れていなくて本当に良かった。
 しかしようやく……。

「これで無限図書館やお前の研究室にも行けるんだよな」

「ハイ、その通り。デスガまあ、ユニカ様がご一緒すれば良いだけなのデスガネ」

 ゲルニッヒのツッコミが痛い。
 確かに、今まで行けなかった場所もユニカがいれば大丈夫……ではあるのだが、やっぱり先に覚えたかったんだよ!
 これは俺の意地のようなものでもあるが、それ以上に危険度の問題だ。
 なんだかんだでユニカは普通の人間で、俺のように死を予感できるわけではない。
 特別な理由が無い限り、出来る限りホテルに引き籠っていてもらいたいのだ。

 今日は確か8月の10日。人類の魔族領侵攻が始まるのが、確か23日だ。
 後13日後……とはいえ、この日になったらいきなり戦争突入ってわけじゃない。
 魔族領と人間世界を繋ぐ七つの門、そこから侵入が始まるって事なのだろう。
 いっそ門で出迎えてやろうかとも思ったが、どのくらいの規模や戦力かも分からないのにそれは出来ない。
 こちらから門を越えての先制攻撃も考えたが、それをするにはもう時期が遅い。戦端を開く日取りが早くなるだけだ。

 まあそんなわけで、先ずは無限図書館とやらへ行って何か役に立つものを――そう考えていた俺の前に、いつの間にか一つの影が落ちている。
 見ればわかる。魔人ヨーヌだ。

「久しぶりだな、ヨーヌ。何かあったのか?」

「人間の浮遊城が侵入したデシ。南方ももうじき侵入するデシね」

 早いな……つか南方も? も?

「ちょい待ち! 浮遊城は全部で幾つだっけ? 確か7つの門にそれぞれあって……」

「他は、四大国と呼ばれる国がそれぞれ保有してイマス。東から侵入シタのは、アイオネアの門を守護していたジャルプ・ケラッツァ城デス。代わりに、今この門にはハルタール帝国のラヴル・ナヴァル城が配備されてイマス」

「南方から侵入しつつある城は、ムーオス自由帝国が最近完成させたエスチネル城デシ」

 参ったね……人類最強の決戦兵器とやらを、二つも同時に投入して来るのか。
 だが――

「確か南の国は、これまでの戦いで2つ失っているんだよな?」

「両方とも、ギュータムが墜としたかな。結構昔の話だよ」

 ギュータム……白き苔の領域に棲む魔人か。まだ会えていないが、そいつがいるなら今のところは大丈夫か。
 ムーオスって国も、まさか簡単に3つ目を差し出す真似はしないだろう。
 出してはきたが、あくまで象徴的な物……そう考えて良いのではないだろうか。

 いや、いいのか? 良いわけがない気がしてきた。
 考えるべきだ。2つも落とされているのに、再び出してきた理由をだ。
 だが分かるわけがない。俺はかつて遠目に見ただけで、近くにすら行ってないのだから。

「ユニカは、浮遊城に関してどのくらい知ってるんだ?」

「うーんと、人類最強の決戦兵器。門を守護する我らの誇り。英知の結晶。エリートコース……かしら?」

「エリートコースってのは何だ?」

「浮遊城の乗組員は、全員特殊職って事よ」

 さらりと特殊職よって言われても、じゃあ普通職って何? と思ってしまう。

「特殊職とは、人類の為に全てから切り離された存在デス。血族から外され、独自の存在になるわけデス」

「今一つ意味が分からないので、噛み砕いて頼む」

「常識過ぎて、逆に説明が難しいわね……」

 ユニカはしばらく考え込んでいたが――

「要約すると、人類最高級の魔力保持者が選ばれて、浮遊城の乗員になるの。一度なったら、死ぬまで永久にそのままよ。血族からも外されて、完全に浮遊城の一部になるの。だから世界最高の魔力と練度を持つエリートってわけ」

 まあ凄いんだろうって事は分かった。
 その城が作られてから何年かは分からないが、何十年、何百年と、ひたすらその運用だけを行ってきた熟練兵エキスパート達か……。

 だがやはり、それだけではワカラン。

「取り敢えず、実際この目で見るとしよう。エヴィア、支度をしてくれ。それとテルティルト、そろそろ行くぞ」

「え!?」

 いや、え!? じゃねーよ。
 多少は小さくなったとはいえ、こいつはまだ丸々とした球形で部屋に転がっている。
 中には砂糖の実がぎっしりだ。
「新鮮さが大切」と言って、なかなか出そうとしない。そのせいで、服にも鎧にもなれない状態が続いている。
 いい加減に、何とかしないと色々とやばい。

「これから少し危ない道を渡るからな。テルティルトに来てもらわないと困るんだよ」

「えー、今回はパス。頑張ってきてね」

「お前は魔王と砂糖とどっちが大切なんだ」

「……砂糖?」

「ゲルニッヒ! こいつを絞れ! 最後の一滴まで搾り尽くしてやれ!」

「マア、魔王の指示ですから」

 そう言って、4本の手を広げてテルティルトに迫るゲルニッヒ。

「シャー!」

 対抗してカチカチと歯を鳴らすテルティルト。
 一体どうしてくれようかとも思うが、魔人の我が儘わがままはどうにもならないと思い知っている。
 仕方がない、今回は置いて行くか。

「いえ、トノツコの実はヨーヌが保管しておくデシ。テルティルトは魔王と共に行くデシ」

 予想外の所から助け舟が! つか砂糖の実ってトノツコの実って言うんだ。まあすぐ忘れるだろうけど。

 しぶしぶと……いや、尺取虫の表情は分からないのだが、本当に嫌そうに魔人ヨーヌに実を受け渡す。
 その全身からは、1個でもなくしたら殺す――そんなオーラを発していた。
 受け取ったヨーヌの容積が変わらないのがまた不気味だ。あの体は、一体どうなっているのやらだな。
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