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【 魔族と人と 】
新たな領域を 後編
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正しく機能している領域を巻き込んでしまうと、どんな問題が出るか分からない。
これはかなり洗練されたデリケートなシステムだし、巻き込んだ分だけ生息位置を奪ってしまうしな。
「決まったかな?」
――ああ、炎と石獣の領域に近い形だが、それなりに俺の特色は出せているだろ?
「発想は悪くないのであるぞー」
「じゃあ始めるかな。始まると、魔王のどっかが抜けてくるようになるよ。魔王はそこから意識を離して欲しいよ。逆に意識を近づけたらダメかな」
――これはやって見ないと分からんな……一応、理論を聞いておこうか。
「集中している部分は、普段魔王が魔王であるための大事な意識かな。そこから外れるほど、魔王にとってどうでも良い物事って事だよ」
つまり消えても大したことが無い部分ってわけか……。
だが、普段は意識しないがふと思い出す遠い記憶。そんなものも、今の俺を構成する大事な要素だ。消さずに済む分にはそうしたいけど、こればっかりは仕方がない。
――じゃあ、始めてくれ。
そう考えると同時に、意識の端に穴が開く。
何だろう……まるで真っ暗い中で、自分が吸い込まれていくような……。
「魔王! 離れて!」
エヴィアの叫びを受け、ハッとなる。そうだ、あそこに興味を向けちゃだめだ。
離れる……遠ざかる……とにかく意識を、その穴から逃がす。
実に奇妙な感覚だ。次第に感覚は上へ上へと泳いでいる様になり、暗闇は下へ下へと沈んでいくように感じる。
そうか……集中するほどに、考えるほどに、その為に必要な意識や記憶は集まってくる。そこから外れた、今の俺に必要でないものが消えてゆくのか。
しかし何処まで行けばいいのだろう……その果ては無く、ずっとずっと先まで意識の海を泳ぎ続ける。
そしてやがて、足元が真っ赤に裂けた。
「うわっ!」
地震!? 痛いほどに地面、いや、足元のスースィリアが揺れる。
始めた時は地面に立っていた気がするから、おそらく空の俺が暗闇の中でもがいてた時に乗せられたのだろう。
沸き起こる激しい揺れ、高鳴る地響き。大地は裂け、溶岩が吹き上がる。
静かだった荒れ地は一瞬にして、大変動の場と化した。
「成功したのであるぞ。まおー、名前は分かるであるか? 自分が何者か、解るであるか?」
「ああ、相和義輝、魔王だ。大丈夫だよ、スースィリア。それにエヴィアも」
感覚的には始める前と何も変わらない。今の俺を構成する要素は削れなかったって事だ。
多分消えたのは、無意識に存在する意識程度だろう。記憶も少しは持って行かれたとは思うが、これは確かめようがない。考えても仕方がないな。
それよりも目の前の現実の方が大変だ。
「この地震や溶岩はいつ収まるんだ?」
「10日もあれば安定すると思うかな。果報は寝て待てって誰かが言ったよ」
「そうもいかないけどな。取り敢えず、一度ホテルに戻るけど、その前にここから南に行って貰えるか?」
「腐肉喰らいの領域と、魔障の沼と、白き苔の領域であるな」
「ああ、それらも見ておきたい。特に、白き苔の領域はこれから攻めて来られるそうだからな」
「では、出発するのであーる」
背後に出来つつある領域は、長さ330キロメートル。幅40キロメートル。
最大高度は5千メートル級の山脈に囲まれた大火山帯。
生き物のいないこの世界に、人間は何という名を付けるのだろうか……いやまて!
何か気配を感じる。出来つつあるこの世界に渦巻く、何かの意志。
この感覚は初めてじゃない。いや、いつも感じていると言って良い。この世界に来て以来、俺にとってとても馴染み深い存在――精霊!?
溶岩の中に交じる、真っ赤に焼けた球形の岩。いや、見た目上はただの岩だが、あれは精霊だ。精霊が宿っているといった方が良いのだろうか。
炎と石獣の領域にいる炎の精霊や、火山帯の首なし騎士らと違い、固形にくっついているのは珍しい。
それに何より――
「まおー」「まおー」「まおー」
「まおー」「まおー」「まおー」
数がかなり多い上に、フレンドリー……いや違うな。これはなんか俺の一部的な感じだ。
物凄く強い繋がりを感じる。
「魔王から削れた意識の集合体かな。領域を作る時、必ず副産物で出来るんだよ。生命とはちょっと違う? 魔力の集合体的なものだよ」
なるほどね。これに関しては説明をしてもらわなくても理解できた。目の前にいる溶岩の精霊は、俺の無意識で出来た分身だ。
魔王魔力拡散機を使わなくても、自然に魔力が繋がっている事も分かる。
おそらくあの機械は、同じ魔王でも微妙に違う魔力を調節する機械なのだろう。
そしてそれぞれの領域にいる精霊たちは、そこを作る時に切り離された、その時の魔王の無意識に左右された存在か。
まあ丸っこくて普通に可愛くて、しかも戦えそうな精霊で良かった。溶岩の土地って事が幸いしたんだろう。
力具合や特性も分かる……うん、相当に強い。こいつらは人間にとって、相当厄介な存在になりそうだ。
領域の生成は、予定よりも順調にできた。
何処かを失っているといっても、まだ実感も影響もない。
なんとなく、希望が湧いてきた気がするな。
これはかなり洗練されたデリケートなシステムだし、巻き込んだ分だけ生息位置を奪ってしまうしな。
「決まったかな?」
――ああ、炎と石獣の領域に近い形だが、それなりに俺の特色は出せているだろ?
「発想は悪くないのであるぞー」
「じゃあ始めるかな。始まると、魔王のどっかが抜けてくるようになるよ。魔王はそこから意識を離して欲しいよ。逆に意識を近づけたらダメかな」
――これはやって見ないと分からんな……一応、理論を聞いておこうか。
「集中している部分は、普段魔王が魔王であるための大事な意識かな。そこから外れるほど、魔王にとってどうでも良い物事って事だよ」
つまり消えても大したことが無い部分ってわけか……。
だが、普段は意識しないがふと思い出す遠い記憶。そんなものも、今の俺を構成する大事な要素だ。消さずに済む分にはそうしたいけど、こればっかりは仕方がない。
――じゃあ、始めてくれ。
そう考えると同時に、意識の端に穴が開く。
何だろう……まるで真っ暗い中で、自分が吸い込まれていくような……。
「魔王! 離れて!」
エヴィアの叫びを受け、ハッとなる。そうだ、あそこに興味を向けちゃだめだ。
離れる……遠ざかる……とにかく意識を、その穴から逃がす。
実に奇妙な感覚だ。次第に感覚は上へ上へと泳いでいる様になり、暗闇は下へ下へと沈んでいくように感じる。
そうか……集中するほどに、考えるほどに、その為に必要な意識や記憶は集まってくる。そこから外れた、今の俺に必要でないものが消えてゆくのか。
しかし何処まで行けばいいのだろう……その果ては無く、ずっとずっと先まで意識の海を泳ぎ続ける。
そしてやがて、足元が真っ赤に裂けた。
「うわっ!」
地震!? 痛いほどに地面、いや、足元のスースィリアが揺れる。
始めた時は地面に立っていた気がするから、おそらく空の俺が暗闇の中でもがいてた時に乗せられたのだろう。
沸き起こる激しい揺れ、高鳴る地響き。大地は裂け、溶岩が吹き上がる。
静かだった荒れ地は一瞬にして、大変動の場と化した。
「成功したのであるぞ。まおー、名前は分かるであるか? 自分が何者か、解るであるか?」
「ああ、相和義輝、魔王だ。大丈夫だよ、スースィリア。それにエヴィアも」
感覚的には始める前と何も変わらない。今の俺を構成する要素は削れなかったって事だ。
多分消えたのは、無意識に存在する意識程度だろう。記憶も少しは持って行かれたとは思うが、これは確かめようがない。考えても仕方がないな。
それよりも目の前の現実の方が大変だ。
「この地震や溶岩はいつ収まるんだ?」
「10日もあれば安定すると思うかな。果報は寝て待てって誰かが言ったよ」
「そうもいかないけどな。取り敢えず、一度ホテルに戻るけど、その前にここから南に行って貰えるか?」
「腐肉喰らいの領域と、魔障の沼と、白き苔の領域であるな」
「ああ、それらも見ておきたい。特に、白き苔の領域はこれから攻めて来られるそうだからな」
「では、出発するのであーる」
背後に出来つつある領域は、長さ330キロメートル。幅40キロメートル。
最大高度は5千メートル級の山脈に囲まれた大火山帯。
生き物のいないこの世界に、人間は何という名を付けるのだろうか……いやまて!
何か気配を感じる。出来つつあるこの世界に渦巻く、何かの意志。
この感覚は初めてじゃない。いや、いつも感じていると言って良い。この世界に来て以来、俺にとってとても馴染み深い存在――精霊!?
溶岩の中に交じる、真っ赤に焼けた球形の岩。いや、見た目上はただの岩だが、あれは精霊だ。精霊が宿っているといった方が良いのだろうか。
炎と石獣の領域にいる炎の精霊や、火山帯の首なし騎士らと違い、固形にくっついているのは珍しい。
それに何より――
「まおー」「まおー」「まおー」
「まおー」「まおー」「まおー」
数がかなり多い上に、フレンドリー……いや違うな。これはなんか俺の一部的な感じだ。
物凄く強い繋がりを感じる。
「魔王から削れた意識の集合体かな。領域を作る時、必ず副産物で出来るんだよ。生命とはちょっと違う? 魔力の集合体的なものだよ」
なるほどね。これに関しては説明をしてもらわなくても理解できた。目の前にいる溶岩の精霊は、俺の無意識で出来た分身だ。
魔王魔力拡散機を使わなくても、自然に魔力が繋がっている事も分かる。
おそらくあの機械は、同じ魔王でも微妙に違う魔力を調節する機械なのだろう。
そしてそれぞれの領域にいる精霊たちは、そこを作る時に切り離された、その時の魔王の無意識に左右された存在か。
まあ丸っこくて普通に可愛くて、しかも戦えそうな精霊で良かった。溶岩の土地って事が幸いしたんだろう。
力具合や特性も分かる……うん、相当に強い。こいつらは人間にとって、相当厄介な存在になりそうだ。
領域の生成は、予定よりも順調にできた。
何処かを失っているといっても、まだ実感も影響もない。
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