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【 魔族と人と 】
開戦会議 後編
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周囲が様子を伺う中、スパイセン王国国王、クラキアの質問は続いていた。
「予定表には、侵攻先も駐屯予定地も、それどころか出撃日時すら決まっていない。完全に白紙ではないですか。ムーオス自由帝国の結果が出るまで、我らは魔族領にすら入らないと言う事ですか?」
「魔族領には入りますよ。但し、皆さんはまだ入らないというだけです」
「では、誰が入るというのだ?」
リッツェルネールの事務的な質問に対し、彼女の隣にいた男が疑問を呈する。
193センチの長身に、猫科の動物を思わせるシャープでしなやかな体つき。
薄青色の髪は短く刈り揃え、感情が読み取れない特徴的な糸目からは値踏みするような感情が見える。
ラッフルシルド王国国王、ツェミット・ハム・ラッフルシルドだ。
内乱で敗北した事により、国家は解体の危機にあった。
だが最後の機会として、恩情によりこの遠征軍に参加を許されていたのだった。
その様な立場の為、現在はクラキア王の補佐として配属されている。
同じ内乱の敗戦国だが、立場の違いは互いの国王による外交力の差だろう。
王が生存し、早々に降伏したスパイセン王国と違い、ラッフルシルドは先代の戦死後、混乱の最中にあった。
結局、マリクカンドルフが首都を攻め落とす寸前まで降伏の機会すら得られず、今も薄氷一枚の上にとどまっているような状態だ。
本音を言えば、早々に魔族領に入ってさっさと死んでしまいたい。そう考えていた。
「浮遊城ジャルプ・ケラッツァ単独で侵入を行います」
だが、そんな焦りにも似た感傷を抱いていたツェミットの――いや、全ての人間の間に動揺が走る。
確かに浮遊城は強力だ。だが、魔族相手に絶対はない。現にムーオス自由帝国は、過去2つの浮遊城を白き苔の領域で失っているのだ。
色めき立つ中、中肉中背、褐色の肌に長い黒髪の男が立ち上がる。
今回ティランド連合王国軍総大将を務める、リンバート・ハイン・ノヴェルド、ティランドだ。
「それで万が一の事があったらどうするつもりだ!」
その心配は当然だと、周囲の者も納得した表情を浮かべている。
当然だろう。今回彼が浮遊城を任されているとはいえ、あれは人類の宝だ。彼個人のおもちゃなどではない。
だからこそ、リッツェルネールもその反応は分かっていた。
いや、正しくは、誰が最初に発言するか――それを知っておきたかったのだと言って良いだろう。
そしてそれは、彼の予想通りの結果であった。
――やはり発言力を持つのはティランド連合王国か……。
人類の……それも戦闘に関する事となれば、かの国が重要な地位を占める。
それは魔族、そして人間との戦争に敗北し、補佐的な立場での参加である今回も変わらない。
敵である時は辛い相手だが、やはり友軍であるならば心強い。
いずれ何らかの形で恩を売り、和解しておきたいと思うが、今現在では無理だろう。
「過去の失敗は使い方の問題です。そもそも、我々はどこまで浮遊城を使えるのでしょう? ハッキリと言えば、何も知らないに等しい。初めてその力を知り、慄き、そこで止まってしまっている。虎の子として温存し、知らぬゆえに扱えず、結果としてムーオスは2つも失った。だから開戦まで、少し慣らしをする必要があるのです」
「浮遊城の護衛は我々が管轄いたします。どうぞ、皆様方がご不安にならぬよう、誠心誠意努めさせていただきます」
リッツェルネールの言葉に続き、そう発言したのは商国人だ。
背は159センチと僅かに160に届かないが、横幅は常時よりずっと太い。
飛甲騎兵の軍服に身を包み、青や首などから覗く褐色の肌と豊かな脂肪が人目を惹く。
髪は鮮やかな赤色を編んで団子にしており、これは今流行りのファッションだ。真紅の瞳の下には、流行りの紫のアイシャドーが光る。
飛甲騎兵乗りという過酷な職責にあっても、おしゃれには気を使う性格だ。
現在、飛甲騎兵隊を率いるラウ・ハルミール。
白き苔の領域で、カザラット・アーウィン隊長の死後以来、ずっと飛甲騎兵隊の隊長を務めてきた。
対ゼビア王国戦にも参戦しており、その実力は他国も認めるところである。
それに、大中の商家ではない、名も知られていないような小商家の出自である事も異才の証明である。
商国も、他国に倣い実力主義だ。そうでなければ、この世界を行き抜くことは出来ない。
だが一方で、商国独自の決め事もある。それは商家の縦の繋がりを重視するというものだ。
同格と認められる場合、より階位の高い家の者が指揮を執る。
ある意味貴族政に近いが、区分けは三段階、それもトップ十家は別格なのでそれよりも緩い。
だがそれでも、最下級の商家が総指揮を執ると言う事は、彼女に並ぶ者がいないという事だ。
つまりは彼女こそが、世界有数の飛行騎兵隊の中で、最も実力が高いと言う事になる。その名声からくる言葉は、決して軽くは無い。
それに、浮遊城にコンセシール商国の飛甲騎兵が護衛に付くのなら、確かに地上部隊など却って足を引っ張るだけだろう。
「良いではありませんか。ムーオスの結果が出るまで、私達は自由。ですが、今後の支障になるから戦闘は避けて待機。そうですわよね」
新たな発言者の姿に、一同が色めき立つ。男性だけではなく、女性までもがそうだった。
サイアナ・ライアナ。“かつての美の化身”とも謳われるナルナウフ教団の司祭。
年始までは自力で動けないほどの脂肪に包まれ、高潔な美の塊であった。だが今ではその身は引き締まり、まるで棒のように細い。
だがそれでも、ここにいる誰もが美を感じていた。
この世界に人間は、魔力を戦いでも日常生活で使う。そしてその強さこそが魅力――美しさのとなる。そしてその美しさは、概ね体積に比例するのが一派的だ。
だがどうであろうか、今の彼女からは、近くに居るだけで感じられるほどに魔力が溢れている。
それは魔族が放つ極彩色の魔力ではない。限りなく白に近い、乳白色の煌めき。
今やもう、彼女の姿形は関係ない。議会場にいる全員の目に、その姿は聖母として映っていた。
「予定表には、侵攻先も駐屯予定地も、それどころか出撃日時すら決まっていない。完全に白紙ではないですか。ムーオス自由帝国の結果が出るまで、我らは魔族領にすら入らないと言う事ですか?」
「魔族領には入りますよ。但し、皆さんはまだ入らないというだけです」
「では、誰が入るというのだ?」
リッツェルネールの事務的な質問に対し、彼女の隣にいた男が疑問を呈する。
193センチの長身に、猫科の動物を思わせるシャープでしなやかな体つき。
薄青色の髪は短く刈り揃え、感情が読み取れない特徴的な糸目からは値踏みするような感情が見える。
ラッフルシルド王国国王、ツェミット・ハム・ラッフルシルドだ。
内乱で敗北した事により、国家は解体の危機にあった。
だが最後の機会として、恩情によりこの遠征軍に参加を許されていたのだった。
その様な立場の為、現在はクラキア王の補佐として配属されている。
同じ内乱の敗戦国だが、立場の違いは互いの国王による外交力の差だろう。
王が生存し、早々に降伏したスパイセン王国と違い、ラッフルシルドは先代の戦死後、混乱の最中にあった。
結局、マリクカンドルフが首都を攻め落とす寸前まで降伏の機会すら得られず、今も薄氷一枚の上にとどまっているような状態だ。
本音を言えば、早々に魔族領に入ってさっさと死んでしまいたい。そう考えていた。
「浮遊城ジャルプ・ケラッツァ単独で侵入を行います」
だが、そんな焦りにも似た感傷を抱いていたツェミットの――いや、全ての人間の間に動揺が走る。
確かに浮遊城は強力だ。だが、魔族相手に絶対はない。現にムーオス自由帝国は、過去2つの浮遊城を白き苔の領域で失っているのだ。
色めき立つ中、中肉中背、褐色の肌に長い黒髪の男が立ち上がる。
今回ティランド連合王国軍総大将を務める、リンバート・ハイン・ノヴェルド、ティランドだ。
「それで万が一の事があったらどうするつもりだ!」
その心配は当然だと、周囲の者も納得した表情を浮かべている。
当然だろう。今回彼が浮遊城を任されているとはいえ、あれは人類の宝だ。彼個人のおもちゃなどではない。
だからこそ、リッツェルネールもその反応は分かっていた。
いや、正しくは、誰が最初に発言するか――それを知っておきたかったのだと言って良いだろう。
そしてそれは、彼の予想通りの結果であった。
――やはり発言力を持つのはティランド連合王国か……。
人類の……それも戦闘に関する事となれば、かの国が重要な地位を占める。
それは魔族、そして人間との戦争に敗北し、補佐的な立場での参加である今回も変わらない。
敵である時は辛い相手だが、やはり友軍であるならば心強い。
いずれ何らかの形で恩を売り、和解しておきたいと思うが、今現在では無理だろう。
「過去の失敗は使い方の問題です。そもそも、我々はどこまで浮遊城を使えるのでしょう? ハッキリと言えば、何も知らないに等しい。初めてその力を知り、慄き、そこで止まってしまっている。虎の子として温存し、知らぬゆえに扱えず、結果としてムーオスは2つも失った。だから開戦まで、少し慣らしをする必要があるのです」
「浮遊城の護衛は我々が管轄いたします。どうぞ、皆様方がご不安にならぬよう、誠心誠意努めさせていただきます」
リッツェルネールの言葉に続き、そう発言したのは商国人だ。
背は159センチと僅かに160に届かないが、横幅は常時よりずっと太い。
飛甲騎兵の軍服に身を包み、青や首などから覗く褐色の肌と豊かな脂肪が人目を惹く。
髪は鮮やかな赤色を編んで団子にしており、これは今流行りのファッションだ。真紅の瞳の下には、流行りの紫のアイシャドーが光る。
飛甲騎兵乗りという過酷な職責にあっても、おしゃれには気を使う性格だ。
現在、飛甲騎兵隊を率いるラウ・ハルミール。
白き苔の領域で、カザラット・アーウィン隊長の死後以来、ずっと飛甲騎兵隊の隊長を務めてきた。
対ゼビア王国戦にも参戦しており、その実力は他国も認めるところである。
それに、大中の商家ではない、名も知られていないような小商家の出自である事も異才の証明である。
商国も、他国に倣い実力主義だ。そうでなければ、この世界を行き抜くことは出来ない。
だが一方で、商国独自の決め事もある。それは商家の縦の繋がりを重視するというものだ。
同格と認められる場合、より階位の高い家の者が指揮を執る。
ある意味貴族政に近いが、区分けは三段階、それもトップ十家は別格なのでそれよりも緩い。
だがそれでも、最下級の商家が総指揮を執ると言う事は、彼女に並ぶ者がいないという事だ。
つまりは彼女こそが、世界有数の飛行騎兵隊の中で、最も実力が高いと言う事になる。その名声からくる言葉は、決して軽くは無い。
それに、浮遊城にコンセシール商国の飛甲騎兵が護衛に付くのなら、確かに地上部隊など却って足を引っ張るだけだろう。
「良いではありませんか。ムーオスの結果が出るまで、私達は自由。ですが、今後の支障になるから戦闘は避けて待機。そうですわよね」
新たな発言者の姿に、一同が色めき立つ。男性だけではなく、女性までもがそうだった。
サイアナ・ライアナ。“かつての美の化身”とも謳われるナルナウフ教団の司祭。
年始までは自力で動けないほどの脂肪に包まれ、高潔な美の塊であった。だが今ではその身は引き締まり、まるで棒のように細い。
だがそれでも、ここにいる誰もが美を感じていた。
この世界に人間は、魔力を戦いでも日常生活で使う。そしてその強さこそが魅力――美しさのとなる。そしてその美しさは、概ね体積に比例するのが一派的だ。
だがどうであろうか、今の彼女からは、近くに居るだけで感じられるほどに魔力が溢れている。
それは魔族が放つ極彩色の魔力ではない。限りなく白に近い、乳白色の煌めき。
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