この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 それぞれの未来 】

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 碧色の祝福に守られし栄光暦218年4月40日。
 コンセシールが十家会議を行った翌日の朝、魔王はホテル幸せの白い庭に到着した。
 行きに比べると、帰りはかなりのハードスケジュールだ。移動だけでへとへとになる。
 だが、休むためにホテルに戻ったわけではない。

「ヨーツケール……」

 ホテルの庭では、魔人ヨーツケールが倒れていた。
 崩れ落ちた様に転がり、微動だにしない。一瞬、死んでしまっているのかと思ったほどだ。
 力なく横たわるハサミでてみるが、ピクリとも動かない。

「ヨーツケールはショックが大きすぎて動けないかな。ゲルニッヒは中で待っているよ」

「そうか……」

 よく見れば、反対側の鋏で何かを抱きかかえている。
 見た事の無い、木琴だ。
 それをどこからか持って来たのか、それとも誰かが作ったのかは分からない。
 だが、それが誰の為であったのかは、俺にだって痛い程に分かる。

 入り口には、初めて来た時のようにルリアが立っている。違いといえば、全てが黒のメイド服に着替え、頭を深々と下げている所だろう。
 俺は深呼吸をして覚悟を決めると、皆に促されるままにホテルへと入って行った。


 2階に用意されたユニカの部屋。
 今まで何度もチャレンジし、何度も追い返され、結局一度も足を踏み入れることが出来なかった一室。
 いつも彼女が使っていた机には、糸をっている最中の糸車。それにホテルにあったのだろうか、古い編み物の本、動植物図鑑、何冊ものメモ帳などが置かれている。
 ユニカが生きていた証。彼女がこの世にあったという残滓ざんし
 彼女がホテルに来て以来、いったいどんな生活をしていたのか。
 俺は今まで、そんな事すらも知らなかった……。

 ベッドには、俺の部屋にも無い暖かそうな羽毛布団と、これまた見た事も無いふかふかの毛布。
 相当に、大切にされていたのだ。

 しかし、椅子にもベッドにも――部屋の何処にも彼女の遺体が無い。
 待っていたのは、ゲルニッヒただ一人。
 だがいつもと姿が違う。円錐形だった胴体は、まるで人間が入っているかのように膨らんでいた。

「どういう事だ、ゲルニッヒ」

「私がユニカ様を見つけた時、そこは貴方が氷結の地と呼んでいる場所デシタ」

 ……そんな所に入り込んでしまったのか。
 ユニカがこうなった原因、死因ではなくそもそもの要因。色々考えたが、それはもう予想はついている。
 魔人は殺すまい。魔族も同様だ。ならば事故だろう。
 ただ普通の事故であれば、やはり魔人が助けるはずだ。だがそれは出来なかった――何らかの事情で、ユニカと魔人が離れたのだ。
 そして離れた理由も、予想が付いていた。

「それで……どうしたんだ」

「ハイ。最初に見つけたのは死霊レイスデシタ。人の死に敏感な不死者アンデッドの特性によるものデスネ」

「つまり、その時点で間に合わなかったんだな」

「その通りデス。デスガ、場所がとても寒い場所デシタ。そして見つけたのが早かったノデ、アマリ壊れてはいませんデシタ。エエ、とても良い保存状態デス」

 今一つゲルニッヒの意図が判らなかったが、要は安置していてくれたと言う事か。
 そういえば、俺の切断された右腕をエヴィアが保管した事があったな。
 あの時は数日が経過していたのに、血がしたたり、まるでたった今斬られたかのように新鮮だった。彼らには、そういった保存能力があるのだろう。

 確かに、戻るまでに大分時間が経ってしまった。俺としても、腐敗したユニカに合うのはちょっと辛かったところだ。感謝しないとな。
 そう考えながら、ふと思う。あの時確か、大事な話をした気がするが……。

「じゃあ、会わせてくれ」

「その点なのですが、会ってどうするのデスカ?」

 ……少し意外な質問だ。
 それに今まで気が付かなかったが、ゲルニッヒの様子がいつもと違う。微妙におかしい……。
 いや、その原因はすぐに分かる。いつもの大仰おおぎょうな動きが無いのだ。
 四本の手は完全に体に張り付き、大豆の頭も微動だにしない。不自然な膨らみだけに気を
 取られ、そんな事も気が付かなかったとは。

「どういう事だ、ゲルニッヒ」

「質問の通りです、魔王よ。ユニカ様は死にました。中のお子もです。既にタダの肉であり、ソレは貴方が普段食べている物と何も変わりマセン。貴方がココに来るまでの様子は受け取りマシタ。ソコまで必死になって、見る必要性があるのデスカ?」

 そう言われれば、少し困ってしまう。移動中も考えてはいたのだ――対面してどうするのかと。
 あえて言うのであれば、現実を受け入れる為であろうか。
 ユニカは死んでしまった。俺の子も一緒にだ。その事実を認め、受け入れ、先に進むために遺体と会う。

 だが、そうしなければ受け入れられないのか?
 そんな事は無い。俺はもう、覚悟を決めてここに来た。
 これは、会ってどうするかとかの話ではない。区切りでもけじめでもない、そう……言葉にするのであれば――
 それを口にしようとした途端、ふとした疑問が浮かんでくる。

「ゲルニッヒ……そう思ったのなら、どうしてユニカ達を保存した。これは俺の指示じゃない、お前の考えだな」

「ソノ通りデス。状態を確認した所、魔王の判断を仰ぐ必要があると判断致しマシタ。」

「判断……?」

 口の中が乾く。いつものゲルニッヒとは違い、何か異様な雰囲気を漂わせているせいか。
 それとも、俺が一つの予想を立ててしまったからか。
 頭の中に浮かんだ疑問。それを確認するために、俺は言葉を続ける。

「なあ、ゲルニッヒ。お前は以前、死んだ人間は決して生き返らないと言っていたな」

「ハイ、間違いありマセン。人間は壊れたら死ぬのデス。それを動かシテモ、壊れているのですカラ、すぐにまた死んでしまうデショウ。ソレに、死ぬと更に壊れて行く……生き物とは、はかなもろい存在デス。壊れた部分を何かで補えば再び動く可能性はありマスガ、ソレはもう元の人間とは言えマセン」

「……ああ、以前に聞いた通りだな」

「デスガ、今回は幸いデス。ホボ、同じといえる予備の部品が多数存在シマス。コレなら修理が可能デス。元の人間と同じ……ソウ、呼んでいいほどにデス」

 ――ああ、これは神の救済であり、また悪魔の選択だ。

「モチロン、部品取りした方はどうしようもアリマセン。修復不可能デス」

 ――二人には、まだ生きる道が残されている。だがどちらかの道を、俺の選択が断つのだ。

「サテ、魔王よ。貴方はドチラを残すのデスカ?」
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